AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 31, 2001, Vol.293


水素生成経路を照らし出す(Lighting a Route to Hydrogen Production)

原理的には、外部からは何も加えずに、太陽光の存在下において水素含有溶媒から H2 への変換を触媒する小分子を創ることは可能であろう。Heyduk と Nocera (p.1639; McCusker による展望記事を参照のこと) は、純ハロゲン化水素酸(水 が存在しない濃縮 HCl のような HX) 中に溶解された2ロジウム化合物は、H2 を光生成 することができることを示している。触媒サイクルとして、紫外光(UV)は、C0 リガン ドを取り去り、HX が2電子ステップで結合して、種々の原子価の混合物である Rh 0 -RhII種を生み出す。二つのこれらの分子は反応して、付 加的な HX を添加し、そして、H2 を解放する。結局は、UV光は、 X- を取り除き、触媒を再生成する。このシステムは、なおH2O から H2 を光生成するという目的には達していないが、ハロゲンの除去の ような重要なステップが2電子過程により触媒されうることを示している。(Wt)

銀河系面プラズマの発生源(Source of Galactic Plane Plasma)

銀河系平面から放射される硬X線分布は線状構造を形成している。硬X線はケイ素、イオウ 、鉄などのイオンから発生しているが、これらプラズマの原因は謎である。Ebisawa(海老 沢)たち(p. 1633)は、銀河系平面の一部について、Chandra X線観測衛星を用い、高空間 分解能のX線探査を微弱なレベルまで行い、36ヵ所の新しいX線源を発見した。これらX線 源の大多数は系外銀河と思われ、銀河系内の点状天体の集合が広がったプラズマに見える 説は否定された。著者たちは、このような超高温で高密度のプラズマを形成する理論的モ デルと矛盾しない超新星の残余物が発生源である可能性を示唆している。(Na,Nk))

浮き上がるReykanes海嶺(Buoyant Reykanes Ridge)

アイスランドは、ホットスポットプルームと、緩やかに引き伸ばされている中央海嶺の 頂上に位置している。これらの2つのマグマ系の相互作用は、プルーム‐海嶺相互作用 を調べるための自然の実験場を提供してくれる。Gahertyたち(p.1645)は、アイスラン ドのちょうど南(そしてホットスポットプルームの真中)にある、Reykanes中央海嶺に沿 った、横向きに偏向されたLove波に対する垂直に偏向されたRayleigh波の進行時間の差 を調べた。その結果、プルームによって作られた海嶺に沿って、Love波はRayleigh波よ りもゆっくりと進む。 この差は、海嶺に沿って、プルームによって作られた垂直流の延長領域のためと説明さ れる。Reykanes海嶺に沿った浮力(buoyancy)とマグマ活動(magmatism)は、ホットスポ ットプルームの結果から生じていると言える。(TO,An)

大小のあらゆるパターン(All Patterns Great and Small)

化学反応と分子拡散の相互作用によって、分子それ自体より遥に長いスケールで反応面 が形成されている。Sachsたち(p.1635;Jaegerによる展望記事参照)は、白金表面(111) における水素の酸化反応に対して、原子スケールで反応面の可視化を行った。走査型ト ンネル顕微鏡を用いて、OHを拡散させる根底となる自己触媒プロセスは数十ナノメート ルの大きさのパターン形成に影響することが明きらかになった。単純な反応-拡散モデ ルでは、その結果を定量的に説明できないこと、そして表面化学種間でのもっと複雑な 相互作用を考慮する必要があることを、モデル研究は示している。(KU)

草の成長(The Grass That Grows)

地質学的過去において、大気中のCO2が樹木類のC3植物と牧草 類のC4植物の相対的な量に決定的な影響をもたらしているということが提 案されている。このような二つのタイプの植物は、異なる光合成経路の利用によって区 別され、両者は高いCO2濃度と低いCO2濃度において異なる応答 をしている。Huangたち(p.1647;Kerrによるニュース解説参照)は、メソアメリカの二つ の湖からの堆積物掘削コアを比較検討することにより、この提案の普辺性を調べている 。彼らは、過去2万5千年に渡って水分変動がC4種の拡大と収縮に大きな影 響を与えたこと、そしてメソアメリカにおける二つの場所が乾燥という気候条件に依存 して異なった応答をしたことを見い出した。このような結果から、単にCO2 濃度のみに基づいたC4植物の歴史編集が重要な変数を見過していたことを 示している。(KU)

一ひねりされた情報(Information with a Twist)

DNAマイクロアレイは、情報をもたらすとてつもない力を示してくれる。蛍光性タンパ ク質発現に基づいて区分けすることで、Furlongたちは、よく知られた発生段階、よく 知られた変異状態にあるショウジョウバエ胚のDNAマイクロアレイ解析を行なうのにじ ゅうぶんなほどの生物学的材料を手に入れた(p. 1629)。中胚葉発生という特定の観点 から、そのデータは、Twist(ねじれ)と呼ばれる特に重要な転写制御因子によって調 整されているらしい正常な中胚葉発生の際にオン・オフされる何百もの遺伝子に関する 情報をもたらしてくれる。Twistを欠く胚とTwistを過剰に発現する胚とを、正常な胚の 発現プロファイルと比較して、解析すると、一緒に制御される遺伝子のグループだけで なく、個々の遺伝子の機能に関する洞察が得られるのである。(KF)

ユビキチンによる転写の刺激(Ubiquitin Stimulation of Transcription)

単純疱疹ウイルス転写制御因子VP16は、その転写活性化能力について長い間研究されて きた。転写活性化能力をもつ他のものと同様、VP16はそれ自身を分解する情報を出す領 域と重なる転写活性化領域をもっている。転写とタンパク分解の間には仕組み上の関連 があるのだろうか? Salghettiたちは、酵母では、ユビキチンリガーゼのMet30サブユ ニットがユビキチン-プロテアソーム経路に必要とされるだけでなく、VP16による転写 の活性化にも必要となる、ということを示している(p. 1651)。転写の活性化のプロセ スは、人工的にVP16をユビキチン化することで、タンパク分解と区別された。 ユビキチンは、プロテアソームを補充することにより、タンパク分解における役割とは 別に、この付加的な役割を果たしている可能性がある。(KF,Tn)

残像と錯覚(Afterimages and Illusions)

視覚経路のどの段階で、錯覚をともなう残像が割り込むのであろう? Shimojo たちは 、この種の残像を、光受容器の像消失によって網膜において生じると考えられている伝 統的な残像から区別しようと試みた(p. 1677)。彼らは、錯覚をともなう残像と、実際 の刺激によるそれとの間にはっきりした違いがあることを見出し、前者は網膜における ものではなくむしろ皮質性のものである、と結論づけている。(KF)

 流体の恒常性保持(Maintaining Fluid Homeostasis)

ナトリウム利尿性ペプチド(Natriuretic peptide)は、体液の平衡を制御しているホル モンであり、血管機能や血圧と特に関連している。このペプチドファミリーは、細胞表 面受容体ファミリー(NPR-A, -B および -C)によって認識される。Heたち(p. 1657)は NPR-Cがナトリウム利尿性ペプチドCと結合するときと、そうでないときの細胞外部分の 結晶構造を決定した。このペプチドの1つの分子が受容体の二量体に結合しており、結 合することによってモノマー間の隙間を閉じているように見える。(Ej,hE)

細胞外情報伝達経路(Extracellular Signaling Pathways)

ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、Wnt, Fgf、および、ヘッジホッグタンパク質 の細胞外信号伝達にとって重要な仲介物である。Dhootたち(p. 1663)は、体節中や神経 管中のSonicヘッジホッグ(Shh)信号伝達を担っている保存性のサルファターゼ (conserved sulfatases), QSulf1ファミリーを同定した。しかし、Qsulf1がShhの信号 伝達経路に直接機能するわけではない。むしろ、HSPGはトリの筋形成中にWnt情報伝達 を仲介する。この研究によって、HSPGが細胞の運命決定を司る出来事と関連づけられ 、また、信号調節因子としてサルファターゼ酵素を同定した。(Ej,hE)

血管の強化(Strengthening Blood Vessels)

組織に障害が起きると、凝固カスケードが行動を開始し、損傷を受けた組織を修復する 。マウスの胚において凝固因子が除かれると、妊娠途中で死亡し、広範な出血が見られ る。これは、血小板機能欠損の結果なのか、血管の欠陥のせいなのかは不明であった。 Griffinたち(p. 1666,およびCarmelietによる展望記事参照)は、セリンプロテアーゼ凝 固因子であるトロンビンに結合し、トロンビンによって切断される、Gタンパク質共役 型受容体のPar1の役割を調べることにより、この疑問点に取り組んだ。Par1は、内皮因 子であり、血管の正常発達や統合のために必要であることが示された。(Ej,hE,Tn)

心臓発生の甘い見方(Sweet View of Heart Development)

心臓弁は正常な心臓機能にとって不可欠である。脊椎動物の心臓が発生する過程におい て、房室性弁の形成には、心房と心室の境界の心筋細胞と内心膜細胞との間の、複雑で あるがよく分かってない信号伝達相互作用が関与する。WalshとStainier (p. 1670)は 、ゼブラフィッシュの変異体であるjekyllと呼ばれる魚を分析し、この過程の分子論的 な考察をした。jekyllは、心臓弁の形成開始に重度の欠損をもつ。この変異遺伝子は 、ヒアルロン酸やプロテオグリカン(proteoglycan)の産生に必須のUDP-グルコース脱水 素酵素(UGDH)をコードする。 UGDHが無い場合には、心房と心室を区別する、弁形成領 域を標識付けするイベントを混乱させるらしい。(Ej,hE,Tn)

糖尿病者のためのアスピリン(Aspirin for Diabetics)

インシュリン作用に抵抗する細胞は、2型糖尿病の顕著な特色である。1876年という早 い時期にも、アスピリンの高用量が糖尿病患者の血液中のグルコース濃度の減少に役立 つという報告が出始めた。この減少は、標的細胞におけるインシュリン作用の増強を意 味するのかもしれない。Yuanたち(p 1673)はようやく、この効果を説明できる機構を提 案できるようになった。著者の研究は、高用量のアスピリンは、前炎症性サイトカイン の作用を仲介するタンパク質リン酸化酵素IKKβを抑制することを示している。さらに 、IKKβをコードする対立遺伝子のひとつを失ったヘテロ接合のマウスは、高脂肪の食 餌を食べさせた時、インシュリン抵抗性に対して防衛された。このように、IKKβは 、インシュリン抵抗性を改善するために設計される治療的薬剤の標的として有力である かもしれない。(An,Tn)

柔軟なバイオセンサ(A Flexible Biosensor)

Bensonたち(p 1641)は、分子認識のイベントを測定しやすい電気化学的信号に変換する 可変の方法を開発した。その方法は、細菌のペリプラズム(周辺質)結合タンパク質ス ーパーファミリにおいて、分子認識を合図する大きなヒンジ屈曲の動作を利用する。こ のタンパク質を、修飾した電極表面に結合し、ルテニウム複合体でタグ付けする。リガ ンドが結合すると、複合体と表面の間の距離とそれに伴う電気化学的応答が変化する 。検出器として、亜鉛を結合できるように修飾したタンパク質およびマルトース結合タ ンパク質が利用された。この方法を広い範囲の分析物に拡大することができ、医学や環 境のセンサーの開発のためにも利用できるであろう。(An,Tn)

アセチル化と核移行(Acetylation and Nuclear Transport)

転写因子NF-κBは、免疫応答および炎症反応における遺伝子発現を調節し、そして細胞 のアポトーシスに対する感受性を調節するように機能する。したがって、複数段階の制 御が、NF-κBの活性および核の内外でのその移動を調節するための存在するということ を見出すことは、驚くべきことではない。NF-κBは通常、その阻害性タンパク質(IκB )との相互作用を介して、細胞質中に不活性型として維持される。NF-κBを活性化する シグナルは、IκBの分解および活性なNF-κBの核への移行を引き起こす。今回Chenたち (p. 1653)は、IκBによるこの制御に対して、別の段階の制御が重ね合わせられるこ とを示す。彼らは、NF-κBサブユニットであるRelAがアセチル化されると、NF-κBとI κBとの相互作用が乱されることを示す。核において、ヒストンの脱アセチル化酵素3( HDAC3)によるRelAタンパク質の脱アセチル化により、IκBとのその再結合が引き起こ され、そして核の外への移行が結果として引き起こされる。このように、ヒストンの脱 アセチル化を介して転写も制御するHDAC3は、NF-κB複合体の活性および細胞の局在の 両方に影響を与える。(NF)

遺伝子重複と進化(Gene Duplication and Evolution)

2つのコメントが、進化の時間にわたりいくつかの真核細胞種について、遺伝子重複の" 出生率"および半減期を評価したLynchとConeryによる研究(報告、2000年11月10日、p. 1151)について検討している。LongとThorntonは、この研究において用いられた重複- 遺伝子-対年齢についての基準、サイレント変異の部位に対する置換部位(S)は、"代 用となるものとして適したもの"ではない可能性があり、半減期の計算が、遺伝子重複 の一定な長期的な速度という"テストされていない隠された仮定条件"に基づき、そして 統計的データの解析から、LynchとConeryの解釈に対する代替案が示唆されると、議論 している。Zhangたちは、この研究の結論は、"彼らのデータが・・・多くの冗長な記録 を含んでいたという事実により損なわれる"と主張し、そしていくつかのその他の争点 をあげている。LynchとConeryは、Sを彼らが使用することについて抗弁し、長期的な速 度の一定性についての仮説が、"明確に述べられて"おり、そして"我々の出生率の見積 もりとは関連性がなかった"とのべ、そしてLongとThorntonにより提起された統計的な 疑問に反論する。彼らはまた、"Zhangたちにより提起された懸念を考慮する、・・・い くつかの再解析を提示する"。これらのコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/293/5535/1551a にて見ることができる。(NF)
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