AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 3, 2000, Vol.290


超新星からのバースト(Bursts from Supernovae)

γ線バーストは、数秒から数分間続く高エネルギーの閃光であり、その後は、より長波長 で放射されるX線から電波までの領域の長時間にわたるアフターグローが伴う。Piro た ち(p.955)と Amati たち(p.953)は、それぞれ、Chandra X-ray Observatory を用いて GRB990123 の、また、BeppoSAX 衛星を用いて GRB991216 のアフターグローのX線放射を 研究した。このX線放射は、バースト後数十時間で減衰している( Schilling のニュース 解説を参照のこと)。X線スペクトルは、そのGRBが鉄の豊富な高濃度の局所領域の媒体を イオン化したことを示唆している。これらの観測は、GRBの先駆体が超新星であるという ことに有利である。確かと思われるこれらの先駆体は、天文学者がどこででも見るこれら の毎日のように生じる高エネルギーのフラッシュの少なくともあるものの原因に関する長 く続く謎を解決するのに有用である。(Wt)

光放射電界効果トランジスター(Light-Emitting Field-Effect Transistors)

両極性(バイポーラ)トランジスターは、ゲート電極に印加されたバイアスにより、電 子チャネルモードあるいは正孔チャネルモードのどちらかで作動する。Schon たち (p.963)は、単結晶α-sexithiophene から作られたそのようなトランジスターに対して は、注意深くゲートに印加されるバイアスと、ソースとドレイン間のバイアスとを制御 することにより、チャネル中央部近くの電子と正孔の濃度が等しくなるように調整する ことができることを示している。電子と正孔はこの領域で再結合し、ほぼコヒーレント な光を放射する。ここで導入されたこの単純な構造は、集積オプトエレクトロニクスに 対して有望であろう。(Wt)
[訳註]Science June 7, 1996 に
「限界を突いて( Pushing the limits)」という題で、 有機電界効果トランジスター材料であるα-sexithiopheneの移動度についての記事が掲載された。

4原子反応に取り組む(Tackling Four-Atom Reactions))

化学反応の基礎研究では通常、最も単純な一つの原子が二価分子との反応に焦点が当て られている。そのような取り扱いに成功した基礎の上で、D. H. Zhangたち(p. 961、表 紙も参照)とStrazisarたち(p.958)が示すように、振動、および回転自由度のより大き い、より複雑な4価反応についての研究が行われている。双方の研究共に水と原子水素 の反応に関わっている(Schatzの展望参照)。Zhangたちは高度のアブイニシオ計算を行 い、水の一つの水素原子が交換される、交換反応における理論と実験値の高い一致性を 達成した。対照的に、彼らは分子水素と水酸化ラジカルを生成する除去反応では重大な 不一致を発見した。Strazisarたちは、実験的に逆反応を研究し、生成物に析出される エネルギーは特定の振動モードに選択的に局在することを示している。このようなモ ード特異性反応動力学のパターンは、反応に関する最新のアブイニシオ計算において予 測されていた。(Na)

コメと人間(Of Rice and Men)

塩素と臭素に関連する触媒反応は極地における成層圏のオゾン損失の重要な経路であり 、ハロゲン化物は対流圏と中緯度地区の成層圏化学作用に重大なインパクトを与える 。モントリオール協定により、人為的なハロゲンガスの生産が減少するにつれ、生命活 動によるものや他の自然界の大気ハロゲン発生源が相対的に重要になる。Redekerたち は(p.966)、水田からのハロゲン化メチル放出を測定することから、この広大な未知の 領域に踏み込んでいる。次のステップはこれらのデータを用いて、世界規模の流量を予 測することである。これらの結果は、異なる酵素経路で塩化メチルとヨウ化メチルが合 成されることを示唆している。(Na,Tk)

小さいが立上がっている(Small but Taking a Stand)

二足移動は、約2億4000万年前の三畳紀初期に祖竜の中に現れたと考えられてきた。この グループは恐竜の元となった。そして捕食性恐竜の多くは二足移動する。祖竜よりも 5000万年以上前に現れた初期の爬虫類は、緩慢でのろい四肢動物であったと考えられてい る。Bermanたち(p.969;Stokstadによるニュース記事参照)は、二足ですばやく走り草食性 である、約2億9000万年前の年代の小さな(0.5メートル)爬虫類について述べている。系統 発生分析から、この動物は準爬虫類(parareptilia)であり、後の二足祖竜や恐竜とは異な るグループに属することが判明した。(TO)

真核生物の系統発生学(Eukaryote Phylogeny)

真核生物の系統発生学に関する我々の知見は、その多くを形態学とリボソームRNAの小さ なサブユニット(SSU rRNA)からのRNA配列データに基づいている。リボソームデータの 説明では、真核生物は単一の「爆発的な」発散で界に分岐した事を示唆しており、結果と してそれらの分類群間の関係を評価することが困難となる。Baldaufたち(p.972)は 、完全に異なった一連の分子配列を用いる新たな解析を提供している。彼らは4つのタン パク質からの配列を用いて界-レベルでの系統発生の関係を再構築し、そして--SSU rRNAのデータとは対照的に--真核生物界の初期進化の分岐という悩ましい課題を解く新た なる可能性を明きらかにしている。(KU)

ダムだけが邪魔な訳ではない(Dams Aren't the Only Obstacle)

個体数の動態的モデリングは、生物保全計画策定に利用できる強力な手段である 。Kareivaたち(p.977)は、個体数の動態的解析手法を、北アメリカ北西部のコロンビア川 流域におけるチヌーク・サーモン(chinook salmon)の将来についての悩ましい問題に適用 した。ダムは過去30年間にサケの数を大きく減退させる原因となっていた。そして上流に 移動するサケを運ぶというという介入管理活動によって部分的にしか改善の効果がなかっ た。彼らは、論争されているような、計画中のスネーク(Snake)川からダム除去を除去す るだけでは、絶滅に向かっているサケの数の減衰を止めることに十分ではないことを示し た。ダムを除去したとしても、若年サケが、特に流れの中や河口そして海岸近くの海洋で 生活する時期において、サケの死亡率に影響するような他の要因を理解し打ち消す努力が なされた場合のみ、管理手段として効果的であろう。(TO)

DNAなしのタンパク質輸送(Protein Transport Sans DNA)

IV型分泌システムは、アグロバクテリウムとその宿主植物細胞を含む多様な病原体と宿 主の相互作用に機能する。核タンパク質複合体を輸送することが知られているが、感染 の過程に重要であるアクセサリタンパク質が宿主細胞に入ることが同じ輸送システムに よるかが不明であった。Vergunstたち(p 979)は、輸送は、核酸の存在に依存しないこ とを示している。ハイブリッドVir-Creタンパク質の分析によれば、輸送がVirタンパク 質の部分によって指示されることを示した。Virに融合したCreリコンビナーゼタンパク 質の機能によって、成功した伝達が検出されたが、核酸が全く共輸送されなかった。ア グロバクテリウム感染の機構を明かにしたこと以外、この方法は、タンパク質をコグネ イト核酸なしで真核生物の細胞に一過性に導入する選択可能なシステムを提供している 。(An)

タンパク質が詰まったDNA(Protein-Packed DNA)

枯草菌のような桿体形細菌が胞子を形成すると、発生中の胞子それぞれが無傷の染色体 を受け取らないといけない。Bathたち(p 995)は、DNAがどのように胞子に移動されるか を研究し、SpoIIIEというタンパク質がDNAポンプのように作用することを発見した。こ のポンプは、複製した染色体の一方を胞子に活動的に移動する。多数の細菌が相同的タ ンパク質をもつので、このようなDNAモータが遍在することが明らかになるかも知れな い。(An,Tn)

退化を内蔵して(Built-In Obsolescence)

病原体リステリア菌(Listeria monocytogenes)が宿主細胞に侵入るするさいに、毒素分 子を用いて空胞膜を溶かし、サイトゾルに入り込んでそこで増殖する。しかしながら 、同じ毒素分子、Listeriolysinが細胞原形質膜をも溶かし、その微生物の安全な生態 的地位を破壊してしまう。DecaturとPortnoy(p.992;Pennisi によるニュース解説参 照)は、毒素が原形質膜を溶解する時間の前にサイトゾル中で急速なる分解をもたらす ような配列をListeriolysin分子がどのようにして含んでいるかを記述している 。(KU)

遺伝子のオンとオフ(Turning Genes On and Off)

遺伝子からのRNAの産生(すなわち転写)の制御は、細胞に関する多くのプロセスにおける 主要な制御ポイントである。この制御は遺伝子プロモータ、すなわち数々のタンパク質因 子に対する結合部位を有する短いDNA配列、の影響を受ける。遺伝子から作られるRNAの開 始部位を決めるには、コア・プロモータがあればよい。タンパク質をコードする遺伝子の コア・プロモータの要素には、TATAボックスとイニシエータ、さらには最近発見されたダ ウンストリーム・プロモータ要素(DPE)がある。Wileyたちは、DPEを含むプロモータから の転写の活性化に必要な因子を1つ分離した(p. 982)。驚いたことに、この因子は、従来 、TATAボックスを含むプロモータを抑圧する能力があると説明できる観察結果から、一般 的リプレッサであると特徴付けられていたNC2であることが明らかになった。なお、NC2の 活性化機能と抑圧機能とは、分離可能である。(KF)

Baxに関する事実(The Facts on Bax)

多くの抗癌剤は、アポトーシスを引き起こすことで腫瘍細胞を殺すわけだが、治療戦略 における改善は、そのようになる分子的機構を明確に理解できるかどうかにかかってい る。薬物で誘導されるアポトーシスにおけるBAXタンパク質の役割を解明するため 、Zhangたちは、洗練された遺伝的アプローチによって機能性のBAX遺伝子を欠いた、ヒ ト結腸直腸癌細胞の派生形を作り出した(p. 961)。BAXを欠く細胞は化学療法薬、5-フ ルオロウラシルに対する部分的アポトーシス性の応答を保っていたが、現在発癌予防の ために臨床利用されている薬剤である非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)によって引き起 こされるアポトーシスに対しては、完全に耐性があった。NSAIDへの細胞応答に際して のBAXのはっきりした必要性は、将来の発癌予防戦略にとって重要な意味をもつ可能性 がある。というのも、癌細胞がこの種の薬剤に対して容易に耐性を発達させることがあ りうるからである。(KF)

ニューロンを傷つける過激な方法(A Radical Way to Damage Neurons)

細胞のタンパク質や脂質や核酸成分を傷つける反応性酸素や窒素ラジカルは、パーキン ソン病(PD)のような神経変性疾患と関係するニューロンの破壊に関与していると思われ ている。しかし、脳のニューロンの細胞成分の酸化性傷害の証拠を得るのは難しかった 。Giassonたち(p. 985)は希にある家族性PD型の変異として知られているタンパク質の α-synuclein の構造解析を行うことを決定した。このタンパク質はPDやその他多くの 神経変性疾病に伴うレビ小体(Lewy body)と呼ばれるインクルージョン(封入体)の主 成分である。彼らは、α-synyclein中のニトロ化されたチロシン残基に対する抗体を作 り、免疫組織化学を利用して、PD、アルツハイマー病、レビ小体痴呆患者のすべての死 後の脳組織レビ小体がニトロ化α-synucleinを含んでいることを示した。著者たちは 、α-synucleinへのニトロ化傷害(反応性酸素と窒素との相互作用が原因で)がタンパ ク質の凝集とレビ小体中の析出を促進し、その結果、ニューロンを破壊し病気を促進さ せていると提唱している。(Ej,hE)
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