AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 10, 2000, Vol.290


マグネシウム物質(Magnesium Matters)

海洋から沈殿する最も豊富な無機物はCaCO3の形態であり、あられ石、或いは 方解石のいずれかである。この無機物中へのMg2+イオンのわずかの取り込み によって生物無機化プロセスが制御されているらしく、経験的に過去の海洋温度を推測す るために用いられている。しかしながら、成長中の結晶へのMg2+の取り込み に関する物理学的基礎は不明瞭であった。Davisたち(p.1134)は原子間力顕微鏡を用い て、結晶表面の成長ステップにそったMg2+の取り込みが方解石の溶解度を変 えることにより方解石の結晶成長をどのように制御しているかについて述べている 。(KU)

より環境に好ましいエステル化の経路(A Greener Route to Esters)

環境に良いいわゆるグリーン化学の目標は、過剰な試薬を用いることを避けることである 。たとえば、アルコールとカルボン酸の縮合は、通常、エステル交換のような副反応を避 けるために一つの試薬を過剰にすることが必要である。Ishihara たち(p.1140) は、ハフ ニウム(IV)塩を触媒として用いることにより、等モル量のアルコールと酸とから直接に 、典型的には95%以上の収率でエステルを縮合させることができると報告している。これ らの触媒は、また、ジカルボン酸とジオールのポリエステル化にも用いることができ 。(Wt)

熱帯の調子に合わせてダンスする?(Dancing to a Tropical Tune?)

太平洋の熱帯や亜熱帯における海面温度は、10年あるいは数10年単位のスケールで変化す るが、周期性、強度、そしてそれらの変動の分布を評価することができるほど十分長期な 記録がない。Linsleyたち(p.1145,Cane とEvansによる展望記事参照)は、南太平洋のクッ ク島から温度の代用となるサンゴ中のSr/Caについて271年の期間にわたる記録を作成した 。0.75°Cより大きな10年単位の海面温度は、18世紀初頭から9回起こった。これらシフト は、北太平洋における同様の変動と関係しており、両半球が熱帯地方によってコントロ ールされたことを示唆している。(TO)

シンクを満たす(A Filling Sink)

中緯度以上の北部(特に北アメリカ)における地上の炭素蓄積源については未だに議論が争 われている。Caspersenたち(p.1148)は、合衆国の5つの州の森林資源調査一覧(forest inventories)からのデータを使い、過去15年の間にバイオマスの蓄積の割合が増加してい ないことを示した。大気中CO2の増加が原因となって増加した成長は、観測さ れた蓄積量のほんの2%に過ぎない。その残りは、初期外乱(earlierdisturbances)以後の 森林再成長による蓄積の結果である。従って、土地利用の経過は、これらの森林における 炭素蓄積の支配する重要な要因である。管理されていない森林の炭素蓄積は、人口統計的 な要因から減衰すると予想される。さらに、大気中のCO2が増加しても、炭素 が封鎖蓄積される量が大きく増加することにはならないと予想される。(TO)

短いホットスポット(Short Hot Spots)

ハワイやアイスランドなどにあるような数多くのホットスポットプルームは、コアとマン トル境界の熱的異常が起源だ、と考えられていた。KingとRitsemaは(p.1137)、南米とア フリカのホットスポットは上部マントルが起源で、大陸塊の端における小規模な対流によ って起きている可能性を示唆している。彼らのモデルでは、上部マントルで作られたプル ームが大陸塊の端の火山活動を誘発することを示している。そのように、いくつかのホッ トスポットは短く、地殻から上部マントルへ届いているに過ぎないようだ。(Na,Yo)

月と太陽系における大量の窒素(Lunar and Solar Nitrogen Abundances)

窒素は、地球の大気で最も大量に存在する成分であるが、太陽系に広く分布する成分でも ある。しかしながら、太陽の15N/14N比率について分かっていな いため、15N/14N同位体比率を用いても、太陽系星雲の多様な成 分の形成時期や混合比率などについてはあまり分かっていない。Hashizumaたちは (p.1142、Beckerによる展望も参照)、月の土壌内の15N/14N比率 を深さ別に測定し、最上層の土壌粒(深さ数十nmまで)に含まれる窒素成分は太陽風により 生成された、と結論づけた。従って、このデータは太陽の 15N/14N比率の値を表している。著者たちは又、重水素とケイ素 の豊富な層のチタン鉄鉱粒を測定し、異なる窒素比率を得た。これは、恒星間窒素成分に よるものである可能性がある。(Na)

ヨーロッパ人の起源(European Origins)

Y染色体の非組換え部分(NRY)は、人類の先史時代を含めた歴史において、移住、遺伝子 流動、あるいは、交雑の事象を評価するための詳細情報を持った座位である。NRYと関係 づけられる多型性の調査において、Seminoたち(p. 1155; Gibbonsによるニュース記事参 照)は、現代ヨーロッパ人男性の遺伝子プールの95%以上は、わずか10の父系の先祖に割 り当てられることを見出している。 彼らのデータから、ヨーロッパ遺伝子プールにおけ る現代の多様性を作り上げている多様な移住の詳細な様子が描け、またヨーロッパ遺伝子 プールの約80%は二つの石器時代における移住を起源とし、残りは新石器時代における移 住を起源としていたことを示している。(hk,Hn)

スペーサーが特異化のツボ(Spacing Makes the Difference)

発生時には、共通の前駆体細胞から分化して多様な特異的組織や器官を産生する。このと き、詳細な計画に従って、どの遺伝子スイッチが入るか、あるいは、切るかが実行され 、その結果、各細胞型が生じる。脳下垂体中のいくつかの細胞型は、POU領域転写制御因 子であるPit-1を発現する。Scully たち(p. 1127;およびMarxによるニュース解説も参照) はこれらの中で、somatotropesとlactotropesの2つの細胞型が成長ホルモンとプロラク チン遺伝子をそれぞれ活性化させるのにPit-1 がどのような制御の役割を演じているのか について調べた。Pit-1が成長ホルモン遺伝子の発現を抑制しているか、あるいは、活性 化しているかは、二連のPOU領域間に2塩基対のスペーサが存在するかどうかに依存して いる。さらに詳細な機構分析の結果、Pit-1はコンプレッサーのN-CoRと相互作用して lactotropes中の成長ホルモンを抑制していることが明らかになった。脳下垂体中の Pit-1と共に観察されるアロステリック効果が、細胞型を特異化する制御メカニズムを代 表しているのであろう。(Ej,hE,Hn)

遺伝子の誕生と死(Birth and Death of Genes)

進化の間、どうやって遺伝子の重複が保存されたり、失われたり、変化したりするのだろ うか。LynchとConery(p. 1151; Pennisiの記事参照)は、異なる真核生物の種の核酸配列 の比較分析を用い、5億年間に、典型的な真核生物ゲノムにおける全ての遺伝子が少なく とも1回複製する程、新しい重複の誕生率が十分高いことを発見した。しかし、重複遺伝 子の半減期は比較的短く、数百万年間だけ、である。重複遺伝子に対する選択的強制が時 間につれ、増える。著者は、新しい種の生成にとって、遺伝子重複が重要であることを推 定している。(An)

RNA分解のためのヘリカーゼ(A Helicase for RNA Degradation)

ほとんどの真核生物において、導入遺伝子の誤発現あるいは細胞への二本鎖RNA挿入は 、配列特異的遺伝子サイレンシングを生じるが、それぞれは、翻訳後遺伝子サイレンシン グ(PTGS)とRNA仲介干渉(RNAi)と呼ばれている。この現象の根底にある分子機構に関して は、あまりよく理解されてないが、PTGSとRNAi作用について提案されているモデルの多数 がRNAヘリカーゼを含む。Wu-Scharfたち(p 1159;Baulcombeによる展望記事参照)は、単細 胞の緑藻類コナミドリムシにおいて導入遺伝子サイレンシングの損失の遺伝子スクリーン を行ない、推定上のRNAヘリカーゼを単離した。推定上RNAヘリカーゼは、PTGS機構の一部 分であるか、あるいは、異常なRNA分子のサーベイランスに関与しているかということで ある。(An)

免疫に要するコスト(No Immunity to Costs)

免疫応答を活性化させることの損得について、2つの報告が主題としている(Readと Allenの展望記事も参照)。MoretとSchmid-Hempel (p.1166)は、昆虫に於ける自然免疫応 答のコストを測定するモデルを作り上げた。可溶性リポ多糖と滅菌ミクロラテックスビ ーズ粒子に対する免疫応答をするように刺激された飢餓状態のマルハナバチ (bumblebees)は、残る資源をすべて免疫応答のために費やす結果、すぐに死ぬ。食物の豊 富な野生の個体では、ほとんどのマルハナバチは感染しているが、正常な行動・活動を示 す。このことは代償のメカニズムが効果的に免疫応答のコストに引き合わせていることを 示唆している。乱交雑性行動は、性行為感染症の可能性を明らかに増加させるリスクをも たらす。普通は、このリスクを回避するように行動様式を順応させるのであるが、免疫系 によって順応している霊長類の種が存在するとNunnたち(p.1168)の研究が示唆している 。捕獲された霊長類の数種について、免疫防御の媒介役である白血球(WBC)数についてテ ストされた。著者たちによれば、WBC数とグループサイズのような社会的因子との相関関 係は無いが、多数の交尾相手を持つメスの白血球数は顕著に増加していた。このスケール でのヒト(解放状態)のWBC数は低かった。 (Ej,hE)

記憶の堅持(Firming Up Memories)

数多くの証拠により、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体は記憶形成に関与して いる。しかしながら、初期学習の後、数日、或いは数週間要する記憶固定のプロセスにお けるその受容体の役割は明らかでなかった。Shimizuたち(p.1170)は、海馬のCA1ニュ ーロンにおいてNMDA受容体の機能を任意の時に選択的に除去しうる動物を生み出した。二 つの確立した記憶作業の学習により、記憶固定のためには無傷のNMDA受容体を必要とした 。学習の後にNMDA受容体機能をオン・オフするまでの時間を変えることにより、彼らは記 憶検索に関する影響を除外することが出来た。記憶固定には、初期学習が生じた後NMDA受 容体の活性化を必要としているようである。(KU)

ナノ構造アレイにおける磁気輸送(Magnetotransport in Nanostructure Arrays)

不揮発性のコンピュータ用メモリを高密度化するための一方法は、ナノスケールのスピン 依存性トンネル接合を作ることである。Black たち(p.1131) は、約100nmの間隔のリソグ ラフィーによってパターニングした金属接合間に、直径10nmの強磁性コバルトのナノ結晶 の超格子を自己組織化により形成した。低温では、接合における電流-電圧特性はアレイ をを通過する単一電子のトンネル効果を反映している。そして、観測された磁気抵抗効果 は、理論的に予言された最大値に近い。(Wt)

黄色を生み出す(Yielding Yellow)

キンギョソウなど、ある種の装飾性の花の、あでやかな黄色い色素の産生を導く代謝性経 路には、もう1つの秘密があることがこのたび明らかになった。それは、黄色オーロン合 成の役目を担う酵素をもっているということである。Nakayamaたちは、その酵素、アウレ ウシジン(aureusidin)合成酵素を同定し、それが植物ポリフェノール酸化酵素のファミリ に属すものであることを見出した(p. 1163)。この結果は、この今までわけのわかってい なかった酵素のファミリに1つの生理学的機能があることを実証するものである。(KF)

閃光-遅延効果:差分-潜時であり後験ではない(Flash-Lag Effect: Differential Latency, Not Postdiction)

EaglemanとSejnowskiは、閃光-遅延(flash-lag)効果として知られる視覚的錯覚の研究に おいて、彼らの実験結果がその現象に関する"後験"(予兆の反対、Postdiction)仮説を 支持したこと、またこの同じデータは閃光-遅延効果に関するもう1つの説明である差分- 潜時(differential-latency)仮説とは整合しないと示唆している(3月17日号の報告 p.2036)。Patelたちは、コメントを寄せて、その実験は実際には仮説の検証になっていな いし、EaglemanとSejnowskiのデータはまさしく差分-潜時(differential-latency)仮説と 整合している、と論じている。彼らはまた、EaglemanとSejnowskiのpostdictiveモデルで は、ある種の環境下では、「連続的な運動中の物体と閃光を受けた物体との間の知覚され た誤配列が、閃光-遅延から閃光優勢に変化する、ということを示した」他の実験の結果 を説明できないと主張している。EaglemanとSejnowskiは、「Patelたちによる結果は 、」以前の技術コメントで自分たちが提案した「拡張"後験"の枠組みと整合している」と 応じている。全文は以下を参照のこと。(KF):
www.sciencemag.org/cgi/content/full/290/5494/1051a
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