AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 10, 1999, Vol.285


移植した蝸牛の皮質応答 (Cortical Responses of Cochlear Implants)

大人における難聴の治療には蝸牛移植が有効である。先天的な、 或いは言葉を話す前に聴覚障害になった患者に対して、通常こ のような治療を幼少のころにするともっと効果的である。この ことは、治療の成功には皮質の可塑性が決定的な役割を果たし ていることを示している。先天性の聴覚障害を持つ白い小猫に 蝸牛移植をしてその聴覚皮質に刺激を与え、そしてその挙動と 生理学的応答を解析することにより、Klinkeたち (p. 1729;Rauscheckerによる展望参照)は、感覚情報と成長 中の聴覚皮質における自己形成との間の微妙な相互作用に関し て研究した。彼らの研究によると、蝸牛移植した小猫の感覚神 経に人為的な電気的刺激を与えるとかなり正常な皮質応答をす ることが定量的に実証された。(KU)

オゾンをしっかり掴む(Getting a Grip on Ozone)

異なる緯度や高度での大気中のオゾン濃度の変化は、人工衛星 や気球そして地上から継続的に観察されている。異なる測定器 や手法間での相互補正は、垂直方向のオゾンの信頼性のある傾 向を得るために重要である。Randelたち(p.168)は、1979年 から1998年にかけての既に公表されたデータを再評価した結 果をレビューしたが、それによると上層成層圏と下層成層圏の 両方でオゾンの減少が見られた。上層成層圏の結果は,大気中 への人工的な塩素放出に因るオゾン損失のモデル計算と一致す る。動的プロセスを考慮する必要があるため、下層成層圏の解 釈を難しいものにしている。McKenzieたち(p.1709;Brownに よるニュース記事参照)は、ニュージーランドのローダー (Lauder)において長期間のオゾン減少が、最近数10年間にお ける紫外線の照射強度の大幅な増加をまさしく引き起こしたこ とを示した。(TO,Nk)

電子を数えることで電気容量を較正する (Calibrating Capacitance by Counting Electrons)

度量衡学における重要な目標は、物理的原器を基礎的な量子的 特性からなる測定に置き換えることである---それゆえ、メー トル原器の棒は、クリプトンからの放射の特定波長の倍数によっ て置き換えられた。Keller たち (p.1706) は、電気容量をどの ようにしたら、計数可能な個数の電子に基づく電気容量という 視点からの標準化ができるかを示している。単一電子トランジス タでできている電子ポンプを用いて、あるコンデンサ上に多量で はあるが、しかし既知の数の電子を蓄積する:その結果の電圧降 下により、電気容量を測ることができる。(Wt)

フェルミオンの量子縮退へ向けて (Toward Fermionic Quantum Degeneracy)

超流動ヘリウムや超伝導物質と異なり、ボーズ-アインシュタイ ン凝縮状態の原子の冷たい蒸気を用いることにより、弱い相互作 用下にある粒子に対するこのマクロスコピックな量子状態の研究 が可能であった。強い相互作用は、また、フェルミオンに対して の類似の研究を困難にしている。量子縮退下のフェルミオンの状 態を研究するために、粒子のドブロイ波長が粒子-粒子間の間隔と 同じ程度となるように、冷たい条件が必要となる。そして、各量 子状態が一つだけ占有されているように、弱く相互作用している 粒子群が必要である。DeMarco と Jin (p.1703; Voss による解 説も参照のこと)は、7 x 10^5 のカリウム40 原子からなる2ス ピン成分のフェルミオンガスを蒸発による冷却によって、ちょう ど数百ナノケルビンまで冷やすことにより、フェルミガスにおけ る量子縮退開始の実験的証拠を与えている。(Wt)

スターダストの回顧録(Stardust Memoirs)

成層圏で集められた惑星間塵粒子 (IDP: interplanetary dust particle)を詳細に研究し、頑火輝石、 苦土カンラン石と、金属と硫化物が埋め込まれたガラスにより構成 されていることが分かった。Bradleyたちは(p. 1716と表紙参照)、 強力なシンクロトロン光源を用いてこれらのマイクロメートルサイ ズ以下のIDPの赤外スペクトルの測定に成功した。これらのIDPの スペクトルの中のある特徴はハレー彗星とヘールボップ彗星や晩期 型ハービックAe/Be星、ある分子雲や若い原始星天体の赤外スペク トルと一致している。このようなスペクトルの類似性により、太陽 系物質(IDPにより代表される)と太陽系外物質(彗星や他の天体で見 出されるような星周塵や星間塵に代表される)の関連性が強く認識さ れ、我々の太陽系が他の恒星からの物質でいかに汚染されていたか を調べる方法を提供する。(Na,Nk,Tk)

ハイブリッド型ナノデバイスを目指して (Toward Hybrid Nanodevices)

ナノデバイスの製造には、異なるデバイス要素間の明確に定義づけ られた結晶性界面を形成するという製造上の重大な課題が立ちふさ がっている。Zhangたちは(p.1719)、ナノサイズのヘテロ構造を、 拡散制御による固体間反応により炭化ケイ素の微小な棒又は粒子と 単層カーボンナノチューブ間の接合領域を高度にコントロールして 界面構造上に製造出来ることを示している。この手法はいくつかの 遷移金属の炭化物においても実証されている。接合部はカーボンナ ノチューブが形成出来る最小の界面である。(Na,KU)

保護者を散らす(Distracting the Guardian)

ゲノムの保護者であるp53癌抑制遺伝子の不活性化の場合がほとん ど好ましくないイベントとしてみられており、腫瘍内のp53機能の 治療的な復活が多くの研究の課題である。しかし、癌においてp53 がもうひとつの役割をはたす、つまり通常の放射線療法や化学療法 に付随する有毒な副作用に原因として関与している。Komarovたち (p1733;Ferberによる記事参照)は、pifithrin-a (PFT-a)という 小分子のp53抑制剤を同定し、多種の癌治療薬や放射線療法によって 誘発されたp53仲介アポトーシスから細胞を保護できることを示して いる。PTF-aの腹腔内注射は、致死量のγ線照射で治療されたマウス の生存を改善した。(An)

遠くまで及ぶ菌類(Far-Reaching Fungus)

生態学的コミュニティにおける多様性を制御する因子の究明が意外な 事がわかることがある。トールフェスキュ(tall fescue=トボシガラ 属の牧草)という米国東北部の浸潤性の草を用いる単純な4年間の実験 において、ClayとHolah(p 1742)は、フェスキュにおける宿主特異的 な相利共生性の内部寄生菌の菌類が存在するか、あるいは存在しない かが実験したコニュニティ内の種の多様性に深く影響することを示し ている。内部寄生菌の存在は、その草に優位の競合能力を与え、多様 性を押さえて、コミュニティの方向を持続的に変化させる。(An)

忠実な翻訳(Faithful Translations)

プルーフリディング酵素は、複製中のDNA配列の忠実度を維持するこ とを助けるが、これは部分的には、不適合塩基が生じた際に水素結合 性が弱くなることを認識することで行なわれる。リボソームは、メッ センジャーRNA(mRNA)をポリペプチドに翻訳する際にも同様の機能 を果たしているらしい。Yoshizawaたちは、このリボソームに代償性 の変異をおこすことで、RNAの二重らせんにおける本来の塩基対形成 の認識を検証した(p. 1722)。彼らが見出したのは、16Sリボソーム RNAにおける二つのアデノシン塩基が、適切なコドン-アンチコドン (mRNA-転写RNA)の相互作用が確立されたことを認識する通路を作る こと、それに続いて、それが、新しく生まれたアミノ酸鎖に適切なア ミノ酸が連結するようにすること、であった。これらの塩基は、 mRNAのリボースのヒドロキシル基のうちの二つと水素結合を形成す る。本来の水素結合ドナーをアクセプターへと変えることによって、 必要な相互作用と生存力を失わせる。(KF)

性と変異と適応性(Sex, Mutations, and Fitness)

性による繁殖を行なっている種と無性の種のそれぞれが、どのように 自発性の遺伝子変異を扱っているか、利用しているか、が二つの報告 の主題となっている。Daviesたちは、有害な変異の割合と影響を推定 する二つの手法を組み合わせることで、結果に大きな矛盾があること を示している(p. 1748)。変異の影響を適応度で測定する標準的な変異 -蓄積実験は、DNAにおける有害な変異の実際の割合をかなり過小評価 することになる。変異誘発物質に曝された線虫の実験によると、DNA レベルでの有害な変異のおよそ96%が、その生物体の適応度に認めうる 影響を与えないのである。かくて、有害な変異にも、少なくとも二つの クラスがありそうだということになる。大きな影響を与えるものと、小 さな影響しか与えないものと。この結果は、有性の集団の方が無性のも のより、ゲノムの有害な変異の割合の高さに耐えやすいという能力に よって性は進化し維持されるという考え方に支持を与えるものである。 RNAウイルスは、もともと変異の割合が高く、潜在的に大規模な集団を なしうるため、無性集団における適応性進化について調査するための優 れたツールである。水疱性口内炎ウイルスの実験集団において、 Mirallesたちは、いくつかの競合する変異(クローン干渉として知られ る現象)のうち最善のものを有利な変異が代表するさまを示し、そうし た変異の割合を数量化した(p. 1745)。彼らの結果は、無性生物におけ る進化の理解のみならず、ウイルスの薬剤抵抗性とウイルスの根絶プロ グラムのダイナミクスについても有益な知見を含んでいる。(KF)

タイムレスが消失して(Out of Timeless)

周期的な概日性サイクルは光でリセットされ、短期パルスはクロック (体内時計)を数時間も進めたり遅らせたりするメカニズムを持って いる。ショウジョウバエにおいて、光刺激の後にタイムレス (timeless)と呼ばれている体内時計の成分の1つであるタンパク質の 量に急激な減少が起き、クロックがリセットされる。Naidooたち (p.1737)は、このタイムレスタンパク質の減少は、タンパク質がユビ キチンで識別された後、万能のタンパク質破壊細胞小器官であるプロ テアソーム(proteasome)で分解されていることを示した。さらに面白 いことに、第3齢の幼虫から取った培地では、このタイムレスの分解は、 プロテアソーム活性の阻害剤によって特異的に阻止されている。また、 チロシンのリン酸化が先行して、分解が生じているように見える。 (Ej,hE)

小さくても強力(Small but Mighty)

細胞表面の受容体に分子が結合することによって、どうやって細胞内 の生化学を変えられるのか? リガンドが結合したとき受容体タンパ ク質がどのように動くかを正確にテストするため、Ottemann たち (p. 1751; Gerstein とChothiaによる展望記事も参照)はアスパラギ ン酸受容体の色々な場所に戦略的にスピンラベルを付けた。アスパラ ギン酸結合の後、これらの標識の相対的動きから、受容体の膜貫通ラ セン体の1つは、まるでピストンのように約1オングストローム別の 膜貫通ラセン体に対して相対的に動き、細胞内の出来事に影響を与え ていることが明らかになった。このわずかな動きが、受容体の回転、 会合、切り取り、シーソー的動きのような、他の類似メカニズムを支 配しているように見える。(Ej,hE)

マントル内の極低音速塊(Extreme Slowness in the Mantle)

地球マントルの速度モデルは、マントルの構造や組成と関係する地震 波速度の大きな変化の問題を解決してきた。しかし,小規模でより集 中した地震波分析から、これらの全体的なモデルと比較して小規模 (数100km)の速度異常(velocity anomalies)が発見された。 TibuleacとHerrin(p.1711)は、北アメリカにおける2つの地震波計 測配列(Seismic Array)を用いて、カリブ海下の下層マントルにおけ る小規模な速度異常をイメージ化した。この偏差は極めて大きい。な ぜなら標準モデルからの偏差として以前に測定されたものは最高で約 10〜30%遅いだけだったのに対して、今回求められた圧縮波の速度は 64%も遅かったからである。極端に遅い地域は、プレートがもぐりこ んだスラブ(subducted slab)、あるいは地殻とマントルの混合に関係 しているのであろう。(TO,Nk)

神経筋接合部を鍛える (Training the Neuromuscular Junction)

長期増強(LTP)は,恐らく神経系において最もよく研究されている可塑性 の現象である。様々な標本で、そして神経筋接合部を除く数多くの色々 なシナプスに関して記述されている。WanとPoo(p. 1725)は培養中の 未成熟な神経筋において、その運動ニューロンに活動電位を短期間与え た後どのようにしてシナプスの強さが増すのかを調べた。この増強には 素量的放出確率を増したり、シナプス後細胞のカルシウムの濃度上昇に 依存しており、そして発生の初期にインパルス伝達が行われ、神経筋接 合部の機能的な成熟を促進させるという付加的な機構を示すものであろ う。(KU)
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