AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 17, 1999, Vol.285


植物の侵入を監視(Monitoring Plant Break-Ins)

真菌性病原体は、角質とよばれる丈夫な植物の外皮を直接破壊して 侵入することができる。以前の研究によれば、付着器 (appresorium)とよばれる特殊な感染構造の内部での圧力(膨圧) が、貫入菌糸(penetration peg)と呼ばれる構造体を角質内部に押 し込むらしいことが分かっていた。Bechingerたち(p. 1896;およ び Talbotによる展望記事参照)は、この圧力を定量化するために光 学的画像化手法を使った。植物細胞表面の変形量は光学的波導路を 用いて計測され、貫入菌糸と同じくらいの直径のガラス毛細管に よって圧力が更正された。付着器による5メガパスカルの圧力によっ て植物細胞表面に17μN(マイクロニュートン)の力を発生した。 (Ej,hE)

マグマの上昇と下降(The Rise and Fall of Magma)

モンセラ(Montserrat;西インド諸島東部 Leeward 諸島の火山島) スフリエールヒル火山で近年噴火した期間において、地表変形や地 震活動の観測から3時間から3日の時間間隔で地震の静穏期を中断す る形で発生する群発地震と共に、山頂の膨張と収縮の振動が示され た。Wylieたち(p.1883)は,単純化した火道(かどう;conduit)に おける圧力、揮発物質の分離消失量、そしてマグマ流量の変化の様 子をモデル化した。すなわち、表面に近いマグマから揮発成分が抜 けると粘性が高くなり、マグマの動きが変化する。そのモデルでは、 火道下部にマグマが加わると弾性的に変形することのできる弾力の ある壁が存在している。このモデルを用いることで、彼等はモンセ ラでの観測に適合する、単純化した火道の中で振動流れを生成させ ることができた。彼等のモデルは、既知のあるいは予測された火道 内でのマグマからの脱ガス量に依存しており、そして不安定な珪質 マグマの噴火を記述できるよう、一般化することができ、その結果 将来の噴火の危険性を評価する可能性を与える。(TO,Fj)

エウロパ表面の曲がったひび割れ(Curved Cracks on Europa)

VoyagerやGalileo宇宙船が撮った木星の第2衛星エウロパの氷表面 の画像は、広く分散した一連の繋がった弓状(サイクロイド)の地形 特徴が示されており、これまでどのように造られたか謎とされてき た。Hoppaたち(p.1899)は、サイクロイド状の特徴は潮汐力が引き 起こしたひび割れの伝播によって形成されたというモデルを展開し た。エウロパの潮汐力は時間や方向で変わるため、ひび割れはカーブ する。そして短い期間(約3時間)に、潮汐力が低下し氷を破砕できな くなった時にひび割れは伝播を停止するのであろう。そして高い潮汐 力が戻ると,新たなカーブしたひび割れが形成を始める。このサイク ルの反復は最終的に一連のつながった弓状地形特徴を造る。このモデ ルは、エウロパの氷層の厚みが1km以下であることが必要であり、さ らに氷表面を破壊する十分な潮汐力を生み出す衛星全体を覆う液体層 (エウロパの海洋と推定される)が氷層下になければならないとしてい る。(TO)

鉄の中に書き込まれた細菌の歴史 (Writing Bacterial Histories in Iron)

細菌が鉄を鉱物に変えていく過程は、特徴的な同位体比率を持った鉄 の同位体種を形成する可能性がある。二つの報告では、このような分 別によって、鉄を還元する微生物の分布や、あるいは、細菌の生きて いた古代環境の温度の記録を構成するのに、どのように役に立ちうる かを論じている。帯状の鉄の層のような堆積岩は、その鉄含有鉱物中 における鉄の同位体組成がわずかに変化している。この変化は、火成 岩では見られないものである。Beard たち(p.1889) は、フェリハイ ドライト(ferrihydrite)上で鉄を還元する細菌(Shewanella algae) を増殖させるという、実験室中でのコントロール実験を行なった。彼 等は、フェリハイドライト(ferrihydrite)上に形成された溶液中で、 より軽い鉄の同位体方向にわずかに変化していることを見出した。こ の変化は、その細菌がない場合には、彼等のコントロール実験では観 察されなかったものである。彼等は、ある堆積岩中での鉄の同位体変 化は、微生物に関連しており、その岩石の記録のすべてをたどること により、これらの微生物の発生を追跡することに用いられると示唆し ている。走磁性細菌によるマグネタイト(Fe3O4 )が細胞内に形成されると、小さな単一磁区の長い鎖という特 徴的な形態となる。Mandernack たち(p.1892) は、4℃ から 35℃ の温度範囲に保たれた実験室におけるコントロール実験にて、二つの 異なる系統の細菌株によって生成されたマグネタイト中の酸素と鉄の 分別パターンを研究した。彼等は、鉄の同位体の分別は見出すことは できなかったが、酸素の同位体はマグネタイトと水の間で温度依存の 分別が見出された。酸素同位体と温度との相関は、細菌がずっと以前 に消滅した後、環境の温度を決定するのに有用であろう。(Wt)

青色レーザーがまもなく出現(Blue Lasers Warming Up)

高密度の光ディスクを記録・再生したいという要望が高まっており、 青色光を発振する半導体の開発が極めて重要となっている。面発光レ ーザー(VCSE:verticalcavity surface‐emitting laser)は数多 くのデバイスを含むアレイ中でもパターン化が容易であるという付随 的利点も持っており、並行処理が可能である。たくさんの応用に用い られるには、現在必要とされている極低温ではなく、それより高い操 作温度に上げなければならない。レーザ空洞の設計、特にミラーの成 長に注意してSomeyaたち(p. 1905)は、 VCSELが室温発振すること を示している。(KU)

カーボン膜(Carbon Membranes)

窒素や酸素といった低分子はナノポーラスの無機膜を用いて分離する ことが出来る。しかし、ごく小さなひび割れがあってもこの材料は使 い物にならなくなる。ShiflettとFoley(p. 1902)は、超音波法で形 成された前駆体膜の厚さを注意深く制御することによって、ナノポー ラスなカーボンのモレキュラシーブ(分子ふるい)が出来ることを示 している。そのカーボン膜は高い選択性をもつに充分な厚さを持ち、 しかしながら、応力による破局的なひび割れが発生しないほど薄く、 可塑性を示す。空気をこの膜に一回通すだけで100%の濃縮酸素を作 ることが出来た。(KU)

正しい信号を送る(Sending the right Signal)

動物は、しばしば化学的信号(フェロモン)を用いて相手をひきつける が、ある種では、恋愛中のパートナーの排卵などの求愛反応を誘発す るために用いている。雄のアメリカサンショウウオはアゴの下の特別 な腺の中でフェロモンを生産している。Rollmannたちは(p. 1907)、 このサンショウウオのフェロモンを精製しクローン化し、求愛の最中 にそのフェロモンを雌のサンショウウオの鼻孔に入れると、雌の受容 性が影響を受けることを示した。このサンショウウオ類の受容性因子 はインターロイキン-6と同属である。そのことは、この受容性が高ま ることは、雌にある特異な神経学的応答が誘発されたことを示唆して いる。(Na)

湿度を保つ(Staying Moist)

土壌節足動物(もっとも大量に棲息する陸性生物形態の一種)は、彼ら の水のバランスから見て水性と陸性の中間形態と考えられている。特 に、彼らの皮膚の高い透過性のため水のストレスに対する生理学的順 応を受けない、すなわち、日照りに際し、単に土の深いところに移動 するだけだ、と考えられていた。BayleyとHolmstrupは(p.1909)、 それとは逆に、一般的な土壌節足動物は、低湿度に応答してその体液 の浸透圧を高め、周囲の空気から水分を吸収する能力を高めているこ とを示している。この知見から、陸生節足動物の日照りと乾燥に対す る生理学的順応に対する再評価する必要がある。(Na)

うつろう注意(Wandering Attention)

我々は周囲を見回すとき、視野内の、ある注視点から次の注視点へと ジャンプしながら、目を絶えず動かしている(断続性視点運動)。ど のようにして中枢神経系は視覚情報を取り込み、視点を動かす神経系 の命令に変換するのであろうか? Moore (p.1914)はサルの視覚野 のV4領域におけるニューロンの信号記録を示した。これらの細胞は、 適当な方位の刺激に反応するだけでなく、刺激に対して、ある長さの 遅延の後、視点の断続性視点運動の直前に一群の活性反応が現れる。 更に、断続性視点運動が効果的に刺激方向の情報に先導されるとき、 断続性視点運動直前活性が試行される。すなわち、断続性視点運動の 標的方向に注視点が向いたとき、この直前断続性視点運動が生じる。 換言すれば、視覚による認識に関与しているニューロンが、対象物 の特徴に注視する運動にも関与していることが推察される。(Ej,hE)

全てはファミリ内(All in the Family)

腫瘍サプレッサータンパク質APCの変異が転写制御因子Tcf4を不適 当に活性化することが腸の上皮細胞を癌細胞に形質転換させる遺伝子 を活性化する。Rooseたち(p1923)は、この転写制御因子ファミリの もうひとつメンバーであるTcf1をコードする遺伝子がTcf4の直接な 標的であることを示している。Tcf1は、細胞形質転換へのTcf4の影 響と拮抗することによって、Tcf4のフィードバックリプレッサとし て作用する。このように、Tcf1がAPCと協力し、腫瘍形成を抑制す る。(An)

複数の脅威(Multiple Threat)

細菌性の病原体は、標的細胞に病原性の因子を注入できる。Orthた ち(p 1920)は、YopJタンパク質というエルシニア偽結核症の病原性 の因子が分裂促進因子活性化タンパク質リン酸化酵素(MAPK)スーパ ーファミリのいくつかのメンバーに結合し、MAPKのリン酸化と活性 化を防ぐことができることを判定している。この結合は、情報伝達経 路の特異的な遮断をもたらした。この遮断がなければ、サイトカイン 合成とアポトーシスを導くが、これらはいずれも細菌感染に対する宿 主防御に関与する。YopJと関連しているタンパク質は、植物と動物の 病原体である多数の細菌において観察される。(An)

構造が問題なのだ(Conformation Matters)

抗トロンビンはセリンプロテアーゼ阻害剤のセルピンファミリーに属 しており、血液凝固カスケード内で機能する。カルボキシ末端が切断 すると抗トロンビンのコンフォメーションが変化するが、O'Reillyた ち(p. 1926; およびCarrellによる展望記事)は、この変化がタンパク 質の新しい生物活性をもたらしていることを示した。切断された抗ト ロンビンは強力な抗血管形成性と抗腫瘍性活性をマウスモデルで示す。 この発見によって、血餅形成と血管形成は一連制御されており、すで に臨床利用されている抗トロンビンは、ガンのような血管形成-依存 性の病気の治療にも新たな応用先を見つけるかもしれない。(Ej,hE)

ホルモンと血圧(Hormones and Blood Pressure)

血液中のエストロゲン値が高く保たれている限り、女性は男性に比べ て循環器系病気やアテローム性動脈硬化症になりにくい。Valverdeた ち(p. 1929; およびSilberbergと Maglebyによる展望記事)は、エス トロゲンが直接maxi-Kチャネルのサブユニットに結合する可能性が あることを示した。これらのカルシウム-制御されたカリウムチャネル は血管平滑筋細胞の中心となる制御子であり、動脈を狭窄して血圧を 上昇させる。この急性エストロゲン効果はゲノムの活性や、他の細胞 内情報の発生を必要としない。(Ej,hE)

どんな風にしてシナプスが強靱になっていくのか? (How Synapses Grow Stronger)

脳細胞の間をつなぐ小さなシナプスは、普通の状態より効率的に働く ようにさせることが出来る。このようなシナプス能力の再生が可能な ことが学習能力の下地となっている。神経学者たちがこの強化能力の メカニズムについて理解しようとするとき、多くの場合、海馬 (CA1錐体細胞)内の特定細胞のシナプスに着目してきた。このとき、 長期増強 (LTP)と呼ばれている増強機能がどのようにして作用してき たかが十年以上も議論の対象になってきた。しかし遂に、Malenka と Nicoll (p. 1870)が議論しているように、証拠が確かなモデルとして 捉えられつつある。LTPは、同時発生するシナプス前、シナプス後の 脱分極によってトリガーをかけられ、これがNMDA受容体を活性化し、 以前はサイレントであった神経伝達物質のグルタミン酸のAMPA受容 体を補充することで、この状態が保持される。(Ej,hE)

退氷は段階を追って(Deglaciation, Step by Step)

The Eemianという名前で知られる直前の間氷期の気候は、現在の間 氷期the Holocene(完新世)の気候について類推する材料を与えて くれるかもしれない。いくつかの記録、とくにグリーンランドの氷の 掘削コアから得られる記録からは、Eemian期の気候がきわめて変動 しやすかったことが示唆されるが、詳細な記録を得ることは難しく、 氷の掘削コアの記録は信頼できない可能性もある。Frogleyたちは、 このたび、ギリシアの湖から得られたEemian期の気候記録を提示し ている(p.1886)。およそ100年の分解能での、炭素および酸素同位 体、また花粉量データからは、Eemian期の始めと終りとでは気候は 小さな変化を繰り返し、順次変化していったことがわかる。(KF)

ショウジョウバエにおけるTollと免疫 (Toll and Immunity in Drosophila)

ショウジョウバエでは、Toll情報伝達経路が抗真菌性の宿主防御を調 整している。この免疫応答においては、リガンドSpaetzle (Spz)が Toll受容体に結合すると、抗菌性ペプチドdrosomycinが上向きに調 整される。Levashinaたちは、このたび、セリンプロテアーゼ阻害剤 であるserpinファミリの一メンバであるSpn43Acを、Tollカスケー ドに加えた(p. 1917)。Spn43Acが除去されると、Spzは連続的に開 裂され、これによってToll情報伝達の構成的活性化に到る。 Spn43Acは、ネガティブにTollを調整しているのである。細菌に感染 すると、グラム陰性細菌性細胞膜のリポ多糖(LPS)成分が宿主細胞に よって感知され、これがToll経路を含む免疫応答の引き金となるので ある。Tollは、哺乳類におけるLPSに対するパターン認識受容体とし て働くと報告されてきた。Spn43AcはショウジョウバエのTollの上流 に位置しているので、Tollがそのパターン認識信号であるとは思われ ない。ショウジョウバエにおける実際のパターン認識信号はいまだ未 知のままである。(KF)

一緒に作用する(Working Together)

長期促進(LTF)などの、シナプス強度の長期変化の、ある部位での誘導 は、別の部位での可塑性の変化を誘発することがある。Sherffと Carewは、ウミウシの仲間であるアメフラシにおいて、一つの部位で LTFを創出するには通常不十分な神経伝達物質セロトニンのパルスが、 まず最初に尾部感覚性ニューロンの細胞本体に適用され、その15分後 に尾部運動性ニューロンに隣接する遠位シプナスに適用された場合に、 LTF創出を誘発することを示している(p. 1911)。LTFのこのような同 時発生的形成が誘発されうるこの短い時間ウインドウが示唆するのは、 離れた場所における相互作用には閾値以下の影響があるということで ある。(KF)
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