AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 19, 1999, Vol.283


ガリウム砒素のための絶縁体(An Insulator for Gallium Arsenide)

ガリウム砒素(GaAs)は、シリコン(Si)と比較して、より高い電荷キャリア移動度や、 高温での駆動を可能とする広い直接バンドギャップなどを含めて、オプトエレクトロ ニクスにおいてはいくつかの優れた特性を有している。しかしながら、GaAs上に形成 するデバイスは、GaAs上に欠陥のない絶縁体となる酸化物バリアを製作するときの悪 名高き困難さゆえ、Siで同じ機能を果たすように作られたデバイスよりも一般的には 用いられてはいない。Hong たち(p.1897) は、分子ビームエピタキシーによって、ガ ドリニウム上に形成した薄い(〜15オングストローム)酸化物をGaAs上に成長させるこ とに成功したと述べている。この酸化物は、界面の状態密度が低く、その界面を通し ての漏洩電流が小さく、表面のストレスに対して安定である。(Wt)

必要なのは工程部品の削減 (Less Assembly Required)

ラップトップコンピューターで馴染みの液晶ディスプレ−は、しばしば最も高価な 部品であるが、それは多岐に渡る製造工程に起因している。Vorflusevと Kumar(p.1903)は、ポリマー液晶混合物に紫外線照射し相分離系の液晶フィルムをつ くることによって、工程の幾つかが省略できることを示している。特に,液晶の配向 には、通常は(上下)2枚の配向膜が必要なのに対し1枚ですむ。更に、得られたセルは 従来のセルより表示状態が100倍も速くスィツチングし、そしてその光学的応答にお いて階調性を示している。(KU)

若い心を作る(Forming Young Minds)

視覚野のように脳におけるニューロン間の適切な結合形成は、生まれつきのもの (隣同士が分子的に定められたもの)とその後の環境に基づくもの(誕生後に入ってき た視覚インプット)との混合によって影響されるが、どういう結合が脳の領域間で起 きているのだろうか?Pausたち(p.1908)は、4歳から17歳迄の111人の子供達のサンプ ルからの構造磁気共鳴画像データを示しており、内在する繊維管中に白質密度の増加 として認められる年齢相関の変化を記述している。fronto-tempolal(訳註:頭骨にお ける眼球の上にある位置を示す)経路の成熟度は脳の右半球より左半球(言語を支配す る)でかなり大きくなっていた。言語に関する脳の領域の成熟度と一致する結果であ る。(KU)

ペプチドが花のパターンを形成(Peptides Pattern Flowers)

花の花弁パターンおよび花クラスターの花パターンが、苗条の成長点の発生によって 決定されている。シロイヌナズナという植物において、受容体様分子をコードする CLAVATA1遺伝子とCLAVATA3遺伝子がいずれも成長点の発生時に発現するが、これらは 異なる細胞層において発現する。Fletcherたち(p 1911;Barinagaによる記事参照) は、CLAVATA3が小さなタンパク質をコードするが、そのタンパク質が細胞間のメッセ ンジャーとして働き、隣接する細胞におけるCLAVATA1タンパク質へ情報を伝達してい るらしいことを示している。このように、ペプチドシグナルは、成長点から由来する 組織のパターン形成に重要であるのかもしれない。(An)

MHCの模倣(MHC Mimic)

分子が主要組織適合複合体(MHC)クラスIタンパク質らしいと認めるために、どの程度 の類似度が必要であろうか。Sanchezたち(p 1914)は、脂肪細胞における脂肪分解を 刺激するタンパク質ZAGの結晶構造を分析した。配列の類似度がわずか3〜4割程度で あり、クラスI軽鎖β2ミクログロブリンあるいはペプチドに結合できないのに、ZAG は、リガンド結合のためのポケットに至るまで同様な一般三次構造をもつ。この発見 は、塩基構造の柔軟性を示し、祖先タンパク質の機能と進化について疑問を呈する。 (An)

動物になる(Becoming an Animal)

原生動物類から動物にいたる進化の過程では、いくつかの根本的な変化があった。多 細胞性構造の形成や、放射状対称性から両側性対称性への移行、そして消化のための 空洞の発達などである。Ruiz-Trilloたちは、分子解析を用いて、ある奇妙に原始的 なワームの、そのファミリ系統樹に占める位置を明らかにした(p. 1919; また、表紙 およびPennisiによるニュース記事も参照のこと)。従来は扁形動物目に属する二次的 に単純化した扁形ワームと考えられていたAcoela群のワームが、このたびは、両側性 対称性生物の進化の最初期の段階を示すものであるということがわかったのである。 (KF)

プリオン状態を切り換え(Switching Prion States)

ヒトのプリオンタンパク質は、神経変性障害に関係し、αらせん体に富む非病的可溶 性高次構造として現れ、βシートに富む病的原繊維性高次構造としても現れる。 Jacksonたち(p 1935)は、可溶性ヒトのプリオンタンパク質がαらせん体に富む高次 構造からβシートに富む高次構造へ切り換えられる試験管内条件を同定した。溶液状 態においても「病的」な高次構造を保持すると言うことは、この重要なタンパク質の 病理学と生化学の理解のために、重要であるかもしれない。(An)

樹状突起と神経突起のダイナミクス(Dendrite and Neurite Dynamics)

ニューロンが発達する過程では、その神経突起の一つが延びて軸索となり、それ以外 のものは樹状突起となる。BradkeとDottiは、集まったアクチンのレベルが低い成長 コーンを有する神経突起がいちばん軸索になりやすいこと、また、一つの樹状突起中 のアクチン細胞骨格だけを局所的に分解すると軸索の形成が誘導されること、を見い 出した(p. 1931)。そして、それに続く電気的な活動によって、他の樹状突起の形態 や位置関係は変化することになる。Maletic-Savaticたちは、2光子走査イメージング を用いて、高頻度シナプス刺激を短期間与えた後で、シナプス後ニューロンが新しい 糸状仮足を成長させ始めることを示す証拠を提示している(p. 1923;また、Smithによ る展望記事参照のこと)。この出芽は、高い頻度での刺激を必要とするものであり、 N-メチル-D-アスパラギン酸受容体をブロックすることで相殺することができる。N- メチル-D-アスパラギン酸受容体が、この刺激に対する反応を、活性依存のニューロ ンの発達と機能の可塑性に結び付けるものだからである。(KF)

ホールをホールド(固定)する(Hold the Holes)

初期の有機材料発光素子は寿命が非常に低いという問題があった。結果的に、透明 な、インジウムと酸化錫接触面(そこで正電荷キャリア又はホールが導入される)の電 流注入を変更する手法が多数発見され、(数千時間の)長寿命が達成された。Azizたち は、いくつもの構造の発光素子をテストし、これらのアプローチはホール伝達の割合 を制限することが出来るため、電界発光性のAIQ3分子(トリス(8-キシリン水酸基)ア ルミニウム)が(急速に劣化する)不安定な陽イオンを形成しないことを示した。(Na)

微小フラスコの中の化学(Chemistry in Microflasks)

動力学研究は少量の分子を分離したり、急速に混合する手法の恩恵を受けるだろう。 Chiuたちは、両方の目的を持つ1から5μの直径のバイオミメティックな容器を用い た。気胞が光学的なトラップに捉えられ、電気穿孔法又は電気融合によりその内容が 混合される。これらの反応はレーザ蛍光顕微鏡を用いて追随することが出来る。(Na)

ハエと眼と信頼性(Flies, Eyes, and Reliability)

信頼できる行動は信頼できるニューロン出力に依存し、ニューロンの信頼性はある種 の感覚性入力に対する反応の可変性に依存するという。WarzechaとEgelhaafは、正確 に定義されたハエの視覚系の神経細胞、H1ニューロンの記録を提示している(p. 1927)。その放出(discharge)の分散は、刺激のダイナミクスがどのようなものである かに関わらず、スパイク数の平均値に比例しなかったが、ニューロン応答の分散は異 なった刺激のダイナミクスに対しても同じようなものであった。こうした結果は、H1 ニューロンは定常な刺激の後でだけ大きな応答可変性を示し、動的な刺激はより再現 性の高い出力を与える、という従来の知見に疑問を投げかけるものである。(KF)

北米の炭素シンク(North American Carbon Sink)

S. Fanたちは、「大気および海洋の二酸化炭素のデータとモデル」を用いて、「地球 上の二酸化炭素の取り込み(uptake)の空間分布」を見積もった(10月16日号の報告、 p. 442)。彼らは、北米こそ、大きな「炭素シンク」を有する「もっともよく閉じこ められた大陸である」と結論づけている。E. A. HollandとS. Brownは、「森林炭素 取り込みの直接推定」からすると、Fanたちの報告はシンクの規模に関して過剰に見 積もっている可能性がある、とコメントしている。C. S. PotterとS. A. Klooster も、この問題を「フォワード・モデリング」シミュレーションによって予測された 「新たに得られた地球上の炭素流率」を用いて検討し、「北米には一過性の炭素シン クしかない」という結論に到っている。Fanたちは、最近の炭素取り込みの研究結果 の間の「相互比較」を行なうことで応答している。彼らは、自分たちの報告とは違っ て、彼らのコメントは「特異的な事例によって地球上の炭素取り込みを見積もってい る」と主張している。(さまざまな)推定の間の違いは、真剣に取り組むべき研究の テーマであり、大気の、また生態学的な、観察のネットワークが成長することによっ て解決される可能性がある。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/283/5409/1815aで見ることができる。(KF)

地殻の沈み込むスラブ(A Sinking Slab of Crust?)

地球上のトモグラフィー(断層撮影)モデルは、マントル内に速度異常な部分が 存在し、それがプレートの沈み込むスラブの残留物であることを明らかにした。 KaneshimaとHelffrich(p. 1888)は、短周期の人工地震波を使い、西 太平洋のマリアナと伊豆小笠原の沈み込み帯(subduction zones)の真下にある低層マ ントルにおいて、ある小規模で低速度層の画像を作成した。著者たちは、この小さ く、以前は検知されなかった傾斜層(dipping layer)[約500km×300kmの広がりがある が,8kmしか厚さがない]は、海洋地殻の変形されていない(Undeformed)断片であるこ と、そしてそれは古インドネシア沈み込み帯に沿って、1億7000万年前に沈み込んだ ことを示唆した。この解釈は、マントルの混合は弱すぎたので、この小さく孤立した スラブの残留物を破壊することができなかったことを示している。(TO,Nk)

外部太陽系におけるカオス(Chaos in the Outer Solar System)

以前の数値シミュレーションは、外部太陽系の天体の軌道はカオス的である可能性を 示していた。しかしながら、カオスを産み出すメカニズムは決定されてはおらず、シ ミュレーションで得られたカオスは数値的な誤差によるものである可能性もあった。 Murray と Holman (p.1877) は、その問題の解析解を導き、数値計算により、外部太 陽系におけるカオスは、木星、土星、天王星の軌道間の相互作用、あるいは、木星、 天王星、海王星間の相互作用によって引き起こされる可能性があることを示してい る。シミュレーションで得られたカオス領域は非常に狭く、木星型惑星が現在カオス 領域にある可能性はおよそ20%である。(Wt)

分子の鎖(Molecular Chains)

双極性分子は、双極子同士の相互作用が支配的であれば鎖状に整列することが期待さ れる。しかし、ファンデアーワールス力のような他の力は、より小さくまとまった構 造を作りやすい。Nauta と Miller (p. 1895)は、強い双極性を有するシアン化水素 分子が、超流動液体ヘリウム滴中に存在するとき自己集合化し、最大8分子までの直 線状の鎖が形成されることを示した。気相においては、このような分子はよりコンパ クトな周期的構造のクラスターを形成することが知られている。超流動ヘリウム"溶 媒"との弱い相互作用で相対的構造が大きく変わったとは考えにくい。それよりも、 双極子同士の相互作用に強く影響を受けた集合メカニズムが働くことで、全体的には エネルギー最小とはならない構造ができている。(Ej,hE)

より深部のマントル境界?(A Deeper Mantle Boundary?)

地球化学のデータによれば、深さ660kmにおける地震波の速度変化によって特徴付け られる上部対流系と下部対流系の境界によって、マントルは層状になっていることが 示唆されてきた。しかし、最近の地球物理の観測によれば、沈み込んだ海洋地殻はこ の境界面にまで入り込み、更に深部にまで伸びていることが示されているように見え る(Kerrによるニュース記事参照)。Van der Hilst と Krason (p. 1885)は、最近 のトモグラフィーモデルを使って、マントルの地震波構造の変化は、ずっと深い 1600kmで生じているらしいことを示している。Kelloggたち(p. 1881)は、一連のモデ ルによる結果を示して、この深さがマントルの対流境界ではないか、と論じている。 (Ej,hE)

電子の心臓(An Electron Heart)

デバイス中に電子を流すためには、通常、電位差をかける。Switkesたち(p. 1905; およびAltshuler と Glazman による展望記事)は、このような従来の電位差によって 電流を作る方法を放棄し、介在する量子ドットを非対称に、かつ、周期的に変形する ことによって、2つの電子容器の間で電子が加速するメカニズムについて報告してい る。この系では、電子流は量子化されてはいないが、変形の大きさと周期に依存す る。(Ej,hE)
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