AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 26, 1999, Vol.283


圧力によるポリマーの位相幾何学 (Pressuring Polymer Topology)

高度に規則的なデンドリマーやより不規則な極度に枝分かれした ポリマーのように、高度に枝分かれしたポリマーの合成には、し ばしば多くの合成ステップや特殊な試薬モノマーが必要となり、 結果としてこのような潜在的に興味深い物質が高価となってしま う。Guanたち(p.2059)は、パラジウム-ジイミン触媒を用いて 単純なエチレン分子から極端に枝分かれしたポリマーを合成出来 る事を示している。高いエチレン圧力のもとでは、幾つかの枝分 かれを持つ直線状のポリエチレンが出来るが、低い圧力のもとで は触媒が成長する鎖にそって”散歩し”おびただしい数の付加的 な分岐点を造る。(KU)

堆積物を揺らす(Shaking Sediments)

巨大な地震が引き起こす地表の動きを予測することは、建造物の 工学において重要なことである。ロサンジェルス盆地のような沖 積土で満たされた地域では、堆積物によって引き起こされる非線 型な増幅のために、特にモデル化することが困難であった。例え ば、1994年のノースリッジ地震では、大きなゆれが2回あった。 このような非線型な応答は内因的な物性の影響 (an intrinsic material effect)であるとは限らない。 O'Connell(p. 2045;Frankelによるカバー記事と展望記事を参 照)は、速度の任意の変動に加えて、土壌側(soil site)からのあ る線形応答を含んでいる、3次元有限差分モデルを見出した。そ のモデルは、明白な非線型さとノースリッジ地震で観測された 地面の動きを再現することができた。彼は、地震学者たちに対し て、1次元の層状の速度構造の使用は避けるべきであること、さ らに彼等のモデルにおける非線型の土壌応答を含めることも避け るべきことと警告する。これは、こうした近似は不正確な地面の 動きの予測を導いてしまうからである。(TO)

正しく我々の方向に狙いをつけて(Aimed Right at Us)

ガンマ線バーストは、観測されていないの星の爆発に付随すると 考えられている、短期間の高エネルギーフォトンの放射(数秒か ら数分までの)である。ほんの最近、天文学者たちは、X線衛星 BeppoSAX やコンプトンガンマ線天文台のような道具を用いて、 これらのバーストの位置を正確に示し、そして、さまざまな波長 で数日から数ヶ月にわたる可視光領域におけるそれらの残光減衰 を観測した。これら3つの報告によると、最近の明るいガンマ線 バーストである GRB 990123 の急激な減衰は、我々太陽系の方 向へのビーム状の放射と矛盾しないことを示している。これは、 等方的放射とは全く異ったものである(Schilling による解説記事 を参照のこと)。バースト後およそ8.5時間の北京における観測 から始まり、2月18日のスペインでの観測までを終えて、 Castro-Tirado たち (p.2069) は、残光からの放射強度の減衰は 我々に直接的に向けられたコリメートされたジェットによる可能 性があると結論づけている。Hjorth たち (p.2073) は、Canary 諸島にある北欧光学望遠鏡(the Nordic Optical Telescope NOT) を用いて、残光から、直線偏光の上限値として上限2.3%の測定 結果を得ている。これは、ジェットからの放射と両立している。 Andersen たち (p.2075) は、NOT を用いて残光の可視光スペク トルを得ており、これはまた、ジェットと矛盾することはない。そ れらは、地球からバーストまでの距離として、赤方偏移の上限とし て2.05という値を与えている。コリメートされたジェットはこ れらの観測の唯一の説明ではないが、このような大きな宇宙論的距 離における非常な高エネルギー源に関する困難に対してもっともら しい解を与えている。(Wt)

北極でオゾンが減っていく(Attenuating Arctic Ozone)

南極や北極の極地成層圏における春季のオゾン損失は、成層圏に到 達するクロロフルオロカーボン(CFCs)からのハロゲンの増加が主な 原因であるとされてきた。CFCsの全世界的な排出規制は効果を見せ 始め、その結果オゾン破壊の減少が期待されている。しかし、オゾ ン破壊の別の悪役が見つけられた。それは、エアロゾル粒子沈降(脱 窒素作用)による気相から活性窒素が除去されることで、潜在的にオ ゾン損失を増大させる。Waibelたち(P.2064)は、この損失は北極 地方で特に顕著となることを示した。そこでは、ハロゲンの減少に も関らず、将来成層圏の寒冷化が脱窒素作用とそしてオゾン損失と を促進させる可能性がある。(TO,Tk)

氷に閉じ込められて(Trapped in Ice)

ガリレオ探査機が行った、木星の衛星エウロパの凍った表面のスペ クトル調査で、二酸化イオウと含水化鉱物の存在が明らかになった。 Carlsonたちは(p.2062)、従来同定出来ていなかったエウロパのス ペクトルの中にある赤外部分のピークを調べ、実験室内で水の氷の なかに過酸化水素を入れて測定したスペクトルのピークと一致する ことを確認した。彼らは、この(0.13%の)過酸化水素の痕跡は、木 星磁気圏より引き起こされるエウロパ表面への強力なプラズマ照射 により作られたものと推測している。(Na,Nk)

心臓での役割(A Heartfelt Role)

トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)による情報伝達は、細胞 増殖と分化を制御する保存された経路である。TBRIとTBRIIという 2つのTGF-β受容体がこの情報伝達経路において機能している。 TGF-βがTBRIに結合し、引き続きTBRIがTBRIIをリン酸化するが、 その後Smad転写制御因子を活性化する。TBRIIIという3つ目の受容 体が同定されたが、認識できる情報伝達領域がないため、TGF-β情 報伝達における役割が不明であった。Brownたち(p 2080)は、外植 したニワトリ房室クッションを用い、心臓発生中のTBRIIIの役割を 研究し、TBRIIIが上皮-間充織のトランスフォーメーション(形質転 換)と間充織の細胞遊走に必要であることを発見した。TBRI-TBRII の情報伝達におけるTBRIII作用の機構が提案されている。 (An)

再編成と侵入(Breaking and Entry)

ネズミチフス菌が宿主細胞に接触すると、特別の分泌システムを用い、 いくつかの細菌エフェクタータンパク質を宿主に転位置する。このタ ンパク質は、何とかして、細菌の取り込みを促進するためのアクチン 細胞骨格と細胞膜における再編成を起こす。Zhouたち(p 2092)は、 この転位置したタンパク質のひとつであるSipAが、アクチンフィラメ ントを安定化することによって機能するアクチン結合タンパク質であ ることを示している。この安定化活性が、細菌侵入に関与する宿主細 胞膜構造の空間的制限という結果になる。(An)

転移RNAの標的(Transfer RNA Target)

抗生物質による治療のひとつの一般的な副作用は、普通に気にならな い腸管内菌叢の妨害による下痢である。コリシンは細菌タンパク質で あり、ストレス状態で分泌され、様々な経路によって他の大腸菌系統 を殺す。Ogawaたち(p 2097)は、コリシンE5がタンパク質合成を抑 制する機構を記述している。リボゾームRNAを切断すると見られる他 のコリシンEファミリのメンバーと異なって、E5は、アンチコドンの ゆるぎ位置に修飾塩基queuineをもつ転移RNA(TyrとHisとAsnと AspのtRNA)を加水分解するようである。(An)

活動中の酵素(Enzymes in Action)

生化学的経路のネットワークを通しての信号伝達のような複雑な細胞 生物学的プロセスの理解には、制御タンパク質の局所的な活性が測定 できると更に促進されるであろう。Ngたち(p,2085)は生細胞、或い は固定細胞中でプロテインキナーゼC(PKC)の局所的酵素活性の測定が 可能な方法に関して記述している。自己燐酸化の部位がPKC上で同定 され、そして活性酵素のマーカーとして用いられた。この部位への特 異的抗体、及びPKCに対する他の単クローン抗体を蛍光物質で標識化 し、これらの接近する状態が蛍光共鳴エネルギー移動をモニターする ことによって測定された。このプロトコールにより、生細胞や固定細 胞中でPKCの活性を画像化することが可能となった。(KU)

細胞骨格のダイナミクス(Cytoskeletal Dynamics)

細胞の形態の変化と細胞の運動は、アクチン細胞骨格の再造形によっ て仲介される。小さいGTP加水分解酵素 (GTPase: guanosine triphosphatase)RacおよびCdc42が、プロテ インキナーゼPAK(p21活性化プロテインキナーゼ)による刺激を介し て、アクチン細胞骨格を制御するのである。Sandersたちは、PAK1 がそれからミオシンキナーゼ(MLCK)をリン酸化し、その酵素の活性を 減少させることを明らかにした(p. 2083; また、Burridgeによる展望 記事参照のこと)。この引き続いてのミオシン軽鎖のリン酸化の減少は、 明らかにミオシンIIとアクチンの相互作用の減少を招き、Racによって 引き起こされた細胞伝播に寄与することになる。こうした結果は、 MLCKのリン酸化の減少をもたらす小さいGTP加水分解酵素Rhoと逆の 効果を持つことの説明の助けになるものである。(KF)

要となる種の崩壊(Keystone Collapse)

「要となる種」、すなわちコミュニティないし生態系の構造と機能を 制御する種の典型的な例が、北西太平洋の海岸でムール貝を捕食して いる海のヒトデ、Pisaster ochraceusである。この捕食者が存在す るところには、藻類や無脊椎動物が豊かに集まるが、これがいないと ころでは、潮間帯は、ムール貝だけがいるような場所になる。 Sanfordは、このたび、ほんの少しの温度変化がこの種に対して大き な効果を発揮することを明らかにした(p. 2095)。エル・ニーニョと 関連した冷たい水がわき出してくる期間のフィールド調査と実験室実 験の双方において、約摂氏3度の水温の低下により、ヒトデの捕食が 劇的な影響を蒙ったのである。(KF)

マンガンの磁力の持つ複雑な側面 (Mixed Picture for Manganite Magnetism)

陽性にドーピングされた(ホールドーピング)マンガン・ペロブスカイ トは、強い磁気抵抗効果(磁界にさらされると抵抗値が変化するもの) のために関心を集めている。しかしながら、異常といえる絶縁性の強 磁性状態や低温における磁力相の複雑さなど、これらの材料のいくつ もの実験的なふるまいは長い間謎となっていた。Moreoたちは (p. 2034)、強力な電子間の相関関係は、その材料の平均の値より、 より強力なドーピングレベルを持っているクラスターと、弱いドーピ ングレベルをもっているクラスターの微小な相の分離を引き起こすと いう理論計算結果を提示している。電荷の相互作用がこの効果を制限 するので、マクロな単位での相の分離は行われない。(Na)

大洋の海流(Ocean Currents)

地球の海洋循環は、部分的には、表面海水の冷却や塩分増加を反映し ている。この水は深い部分の水となるために沈んでいく。低密度の表 面海水と高密度の深い部分の海水の境界は、pycnocline(密度の勾配) として知られている。この境界の全体的位置の制御にはさまざまなプ ロセスが関係しており、それらが海洋循環に潜在的に影響を与えてい るのである。Gnanadesikanは、このpycnoclineの構造の制御に関す る理論を開発するにあたって、南洋におけるプロセス、とりわけ風が 海洋循環において決定的な役割を果たしていることを示している (p. 2077)。(KF)

βカテニンの制御(Controlling β-catenin)

βカテニンタンパク質は、発生時の転写制御に機能するが、βカテニ ンの活性制御を乱す変異は、ヒトのある種のガン細胞中にしばしば見 られる。酵母の2-ハイブリッドスクリーニングにおいて、Seeling たち(p. 2089)は、プロティンフォスファターゼ2A(PP2A) (B56)の 調節サブユニットがAPCタンパク質と会合していることを見つけた。 APCタンパク質は、βカテニンを細胞質に閉じこめてこれを分解させ ることによってβカテニンが機能することを阻止する複合体の一成分 である。哺乳類細胞中のB56の過剰発現によってβカテニンの量が押 さえられ、また、βカテニン依存性の転写が阻止された。PP2Aのサ ブユニットが哺乳類細胞中のβカテニンを含む複合体と会合している らしいという他の証拠を考慮すると、この結果は、PP2Aがβカテニ ンの制御に寄与しているらしいことを示唆している。(Ej,hE)

色々な空間的スケールに適用可能な種の量の表現方法 (Species Abundance Across Spatial Scales)

W. E. Kunin (Reports, 4 Sept., p. 1513) は、しばしば利用されて いる地図上の格子中の点で表現される「点分布地図」手法を改良し て、種の存在量を表す、スケールに依存しない計測手法を開発した。 従来、点分布地図では、格子の大きさによって精度が変わっていたが、 彼は、モデルをパラメータ表現するスケールより細かいスケールでも 種の量が正確に見積もれることを発見した。J. C. Finlaysonは、彼の 「南イベリア半島の鳥」の研究データを使い、Kuninの線形外挿法を 利用して、「疎および中規模の量から精密な量を推測する能力をテス トした」。Finlaysonの結論は、Kunin法は「より分類学的に応用性 があり、多用な鳥の地理的データを利用する可能性をもっているよう に思える」と言うものである。このコメントの全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/283/5410/1979aを 参照。(Ej,hE)

機密を保つ(Keeping Secrets)

暗号の機密は、これの復号鍵が秘密にされている限り保護されている。 量子鍵配信方法は、最初、従来のような鍵の機密保持の面倒さを取り 除く方法と思われていた。なぜなら、量子信号を盗み取ろうとすると、 信号そのものを変えてしまい、この変化が検出可能であるからである が、後に、この検出不可能な盗聴が可能であることがわかった。Lo と Chau (p. 2050)は、もし量子コンピュータが使えるなら、無条件 の機密保持の体系が原理的には構築可能であることを示した。逆説的 に見えるかもしれないが、ノイズのある量子体系からノイズのない量 子体系に、そして、ノイズのない量子体系からノイズのない古典的体 系へと証明が展開・演繹され、古典的確率論で扱うことができる結果、 量子鍵の元を配信することに盗聴者が関与していたとしても、鍵の機 密性を任意に設定できることを示された。(Ej,hE)

薄くスライスされた金属(Metals Sliced Thin)

最近まで、電子やホールのような電荷キャリアが二次元状態に閉じ込 められると、結果として物質は絶縁体になるであろうという考えが受 け入れられてきたが、高品質の二次元(2D)系に関する実験により、 予想外の金属的振る舞いが明らかとなってきた。Papadakis たち (p.2056) は、高品質のガリウム砒素の2Dホール系におけるスピン 分裂(スピン縮退のリフティング)の広がりを制御して、抵抗値の温度 依存性と電荷キャリアのスピン分裂との間の関係を見出した。これら の結果は、低次元系でのこの金属的振る舞いの記述を目指すいかなる 理論をも制限するのに役立つであろう。(Wt)
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