AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 13, 1998, Vol.279


エボラウイルスと細胞の相互作用 (Cell interactions with Ebola virus)

エボラウイルスは、致死的な突発出血熱を生じさせることで 知られている。ウイルスと細胞の相互作用を分子レベルで明 確にするために、Yangたちは(p.1034、p.983のWickelgren のニュース解説も参照)、分泌型と膜貫通型のウイルス性糖 タンパク質を研究した。分泌形態のウイルス性糖タンパク質 は好中球に結合し、その活性化を抑制する。膜貫通型は内皮 細胞と特異的に相互作用を行い、この症状の特徴的な出血に 関係しているようだ。(Na)

炎症を起こす(Turning on inflammation)

重傷のな自己免疫疾患の影響の一つは腎臓に対するダメージ である。自己抗体は抗原と大きな複合体を形成し、腎臓の糸 球体に絡まる。補体タンパク質がそれに引き続く炎症性のダ メージに必須であると考えられていた。Clynesたちは (p.1052)、自己抗体を作りやすい性向を持つマウスとFc受 容体γ鎖(Fcγ受容体の必須の部分で、抗体のFc部分と結合 するもの)の欠乏しているマウスを交雑させた。このマウス はまだ免疫複合体を生産するが、腎不全を引き起こさなかっ た。このように、補体は免疫複合体の除去に重要と思われる が、Fcβ受容体は腎臓のダメージを引き起こす複合体に対す る炎症応答を引き起こすのに決定的な要素である。この知見 は補体の欠乏しているヒトの狼瘡に対する逆説的性向を説明 しており、腎臓のダメージを防ぐ手段を提供すると思われる。 (Na)

STAT構造(STAT structure)

STAT(転写の信号伝達物質と活性化因子)は、サイトカイン と成長因子に応答する変化させた遺伝子発現を生じうる転写 制御因子である。刺激した細胞において、活性なSTAT二量 体が原形質から核へ移動し、標的遺伝子の転写を活性化する。 隣接するDNA結合部位に結合したSTAT二量体がアミノ端末の 領域を介して相互作用する。Vinkemeierたち(p. 1048)は、 STAT-4の最初の123個のアミノ酸残基の結晶構造を報告し、 この相互作用が発生するタンパク質界面の性質を明かにした。 (An)

移植における適合性を改善する (Improving transplant matching)

ヒトの臓器移植を成功させるという目標は、いつでも達成 できるというものではない。たとえ臓器のドナーが主要組 織適合性座位において「完全に」適合していたとしても、 移植された臓器が「根を下ろす」のに失敗することがある。 こうした失敗の多くは、HA-1と呼ばれるマイナーな組織 適合性座位における不適合によるものらしい。den Haanた ちは、HA-1ペプチドの配列を決定し、これがアミノ酸が一 つだけ異なる二つの形態を集団の中にもつ遺伝子に由来する ことを示している(p. 1054)。「HA-1陽性」というタイプ のファミリのメンバーはすべてこの遺伝子の一方の形態を もっている。それ以外については「適合している」ドナーと 移植を受ける人とにHA-1の対立遺伝子のどちらがあるか、 移植の前に決定することは、移植結果の統計を改善すること になるであろう。(KF)

異常なバースト(Anomalous burst)

ガンマ線バースト(GRB)は、未知の発生源からの短時間で高 エネルギーのフォトン閃光現象であり、以前は宇宙のどこから 来るのか分かっていなかった。最近、コンプトン・ガンマ線観 測衛星(1991年打ち上げ)による、バーストおよび一過性の発生 源観測実験(BATSE)によると、これらの現象は宇宙にランダム に散らばっているようであった。一方、X線観測衛星BeppoSAX (1996年打ち上げ)は、バーストが数分の角度以内で、より詳細 な位置を同定している(Kouveliotouによる展望記事参照; 1997/8/29号、p.1257)。これらの改善された観測結果によって、 天文学者たちは、ガンマ線バーストに引き続いて起きる一過性の 他の波長のフォトン放出の検出が可能になった。Castro-Tirado たち(p.1011)は、スペインのCalar Alto天文台の2.2メートル 望遠鏡とLa Palmaの4.2メートルWilliam Herschel望遠鏡を使っ て、バースト後、4時間から4日間に渡って、GRB970508に関連し た一過性の光学的現象を観測した。彼らは、バーストの2日後、光 学的輝度が急激に極大に達する一過性の現象を観測した。この輝度 極大現象は、天体が爆発して衝撃波が銀河を取り巻くガスに伝播す ることで最初のガンマ線放射を起こし、続いて、X線、可視光、電 波を放射する、と言うBRGのファイアボール(fireball)標準モデル で説明することが難しい。著者たちは、理論的に導かれる光学的な 一過性現象の持続時間や強度を、観測に合致するように変更するに は、ファイアボール・モデルは、実はもっと複雑であり、発生源、 衝撃波、周囲の媒体それぞれの、或いは、それら3つを組み合わせ たメカニズムが必要であることを示唆している。(Ej,Nk)

上昇するハワイ(Raising Hawaii)

ハワイは,地球上で最も活発で豊富な火山活動のある 地域である.マグマ活動(magmatism)は,一般に マントルのホットスポットと関連していると考えられ, またおそらく,現在はハワイ島の下にあるマグマの プルーム(上昇流)と関連している.ホットスポット 上の太平洋プレートの安定した動きが,島や海山の連 なりを生成してきた.マグマ活動の結果,ハワイ列島 周辺の海洋底は数百キロに渡る広範囲に地形の隆起を 形成し,さらにこの隆起から,熱の流れや地球物理学 的な測定をによって,下にあるマントルの熱状態や対 流を推測することができる.Mooreら(p. 1008)は,こ の隆起の数値的モデルを示し,このモデルはマグマの プルームと海洋岩石圏との相互作用を説明する.この モデルからハワイの下のマントルにおける小さな規模の 対流が,岩石圏を薄くしてきたことと,マグマのプルー ムは周りのマントルより100から150℃高温で,力学的 に孤立しているかも知れないことが分かった.(To)

記録の比較(Comparing recodrs)

最終氷期最盛期における熱帯海面の冷却の大きさがどれくらい であったか、と言うことについては議論が定まってないが、 正確な値を知ることは氷期の気候の推測やモデル化には極め て重要である。珊瑚礁におけるストロンチウム/カルシウム 比から推測される温度は、有孔虫の酸素同位体比から予想さ れる温度よりも低くなる傾向があり、これが従来議論の的で あった。Gaganたち(p.1014;およびBeckによるコメント、P .1003)は、約5000年前の完新世最盛期の近くからの珊瑚 礁と有孔虫の記録を比べている。それによると、海水は当時 1℃高く、海洋での蒸発量が増加した結果、【酸素-18/酸 素-16】比が高くなっていた。この酸素の同位体比の増大が、 有孔虫から見積もられる氷河期から完新世にかけてのわずか な差異の原因であったとして説明出来るとともに、熱帯にお ける大きな寒冷化とつじつまが合う。(Ej,An)

温暖化気候の暴風雨(Storms in a warmer climate )

政府間気候変動委員会(IPPC)は,1995年度アセス メントの中で,温室効果ガスの放出の増加により温暖 化する気候とともに,熱帯暴風雨の強度,分布,頻度 が変化するかどうかについて結論づけることができな いと表明した. Knutsonら(p. 1018)は,北東熱帯太 平洋に対する高解像度のハリケーン予想モデルの中で, 現在の状況と比べてより温暖化した気候ではより強い ハリケーンが観測されること,さらに地球全体の温暖 化は暴風雨の強度の増大を招く可能性があることを示 した.(To)

不揃いな分子の空間(Uneven molecular spaces)

"鉤爪"形状をしたある種の分子は適当な"ゲスト"分子の周りで 二量体化することが示されてきている。その結果、ゲスト分子 はカプセルに包まれるのであるが、それらが逃げられないほど しっかりとしたものではない。Rivera たち (p.1021) は、ア キラルな分子[註 参照]を合成した。それらはキラルなゲスト (テルペン)の周りに集まって、二つの異なる複合体を形成する。 (例に示した図では、ゲストの片方の側は赤で示したカプセルの 小さな腕の側を好む一方、他のものは青で示した長い腕の側を 好む[翻訳では図は示されていません]) 分子と空洞の間の接触が 異なっていることは、究極的にはゲストの周りの非対称な反応 を行なわせることに利用できる可能性がある。(Wt)
[註] アキラル:キラルではない、すなわち光学対掌体 (enantiomer)が同じ形をしている分子。分子内に対称面が存 在する時その分子は「アキラル」だ、といいます。すなわち、 分子内に不斉炭素原子がないとき(普通、このような用語は有 機化学において用いられるので炭素しか問題にしません)、そ の分子はアキラルです。(SO)

ボソンの誘導(Bosonic stimulation)

ボーズ−アインシュタイン凝縮下では、原子蒸気は極低温まで 冷却され、全原子は単一の量子状態となる。凝縮体の一つの応 用は、原子レーザー--- 光子の代わりにコヒーレントな原子ビ ームを放射するデバイス---を作ることである。Miesner たち (p.1005; Hellemansによる解説記事(p.986)も参照のこと)は、 そのプロセスの重要な部分である物質波増幅の観測を報告して いる。相転移近傍で時間とともにその凝縮体がどのような挙動 をとるかを注視することによって、著者たちはボソン数が誘導 成長する様子が観測できるようになった。(Wt)

不対の染色体を検出 (Detecting unpaired chromosomes)

細胞が有糸分裂する時、染色体の分布が正しく行われていること を確認するために、細胞がもっているチェックポイント機構は、 全ての染色体が紡錘に正しく付着する時まで、細胞周期の後期へ の移行」と「染色体分離の進行」を抑制するという機構である。 Mad2タンパク質は、このチェックポイント機構に関与し、紡錘 糸に結合していない染色体上の動原体に結合する(動原体とは、 染色体が紡錘糸と結合する部位)。Kimたち(p. 1045)は、分裂 酵母(fission yeast; Schizosaccharomyces pombe)を研究し、 紡錘が正く構築しない場合に、Mad2からの信号がどのようにし て細胞周期機構に影響し、細胞分裂周期を静止するかということ を示している。Mad2は、Slp1というタンパク質と相互作用する が、Slp1は後期を促進する複合体の制御に関与する。(この複合 体が細胞の後期への進行を制御する)。Hwangたち(p. 1041)は、 発芽酵母(budding yeast; Saccharomyces cerevisiae)にお いて、Slp1のホモログ(相同)タンパクであるCdc20が監視シ ステムにおいてMad1,Mad2,Mad3の3種類のタンパク質と(分 裂酵母の場合と同様に)相互作用することについて述べている。 両方の研究結果から、細胞が紡錘糸に結合していない染色体を 認識し、細胞周期の進行を遅延する分子機構が明らかになった (Elledgeによる注釈参照p.999)。このように、(正常な)細胞 は異常な染色体の分離を回避するが、染色体の分離が異常な振る 舞いをするということがガン細胞におけるゲノムの不安定性の 原因の1つであるかもしれない。(An,SO)
訳注:TWIS(原文)の文中で紛らわしいのは、分裂酵母と発芽 酵母の学名が逆になっていた事です。これらは、両方「酵母」 (Yeast)という名で呼ばれますが、分子進化学的にはかなりかけ 離れた種で、分裂酵母と発芽酵母の距離(系統樹での距離)は、 ヒトと発芽酵母の距離ぐらい離れている。(SO)

小さなドングリから(From little acorns...)

木を枯らすペストガの突然の発生と、マダニによる病気の ヒトへのリスクとを結びつけるものは何であろうか。Jones たちは、その生態学的な関係を見い出すため、合衆国北東部 のオークの森で一連の大規模な実験を行なった(p. 1023;表紙 とKaiserによるニュース記事p. 984参照)。その実験によって、 ドングリの実のなる量とその収穫に大きな影響を受ける足の白 いマウス(white-footed mice)、さらにマウスによって影響 を受けるジプシーガ(gypsy moth)の突然の大発生が結びつい た。彼らはまた、ドングリの実のなる量を森にいる鹿の存在に 結びつけた。鹿は黒い足のマダニ(black-legged tick)の密度 を制御し、そのマダニは、それに引き続いて生じるマウスのか らだの上での成長によって、ライム病の病原体に感染すること もあり、結果としてヒトがその病気にかかるリスクが増える、 というのである。この研究は種の間の間接的な相互作用が、個 体群動態に大きな影響を与えるということを確認するものであり、 また森林管理についても教えてくれるものである。(KF)

ナトリウムのチャネルを介したカルシウムの流入 (Calcium entry through sodiumchannels)

心臓の筋肉細胞の収縮は、ある活動電位によって開始される。 それは細胞外からの電位依存性のカルシウム・イオン(Ca2+)の 流入の原因である。しかし、電位開口型のCa2+チャネルとナト リウム-カルシウム・イオン(Na+/Ca2+)交換体とがブロックさ れても、そうしたCa2+の流入は持続する。Santanaたちは、あ る条件の下で、外部のCa2+が、実際に、Na+チャネルを通って、 実質的に細胞の収縮性に影響を与えるほどの量、心臓の筋細胞 に入りうるという証拠を与えている(p. 1027;Hanksによる注釈 p. 1004参照)。こうしたNa+チャネルは、Ca2+イオンが細胞に 入ることを許すかどうかの選択性を一過的に失うことになる。こ の結果は、心筋や他の型の細胞におけるCa2+信号に影響を与える 可能性のあるCa2+流入の予期せざるソースを同定している。さら に、Na+チャネルのこの異常な電気伝導性の性質は、広く用いられ ているジギタリスに関連する治療薬が心臓に効 果を及ぼす仕組みにも貢献しているらしい。(KF)

結合の協力を作る(Creating a binding partnership)

真核生物における転写を仲介するタンパク質は二量体として 結合することによって特異性を増加するが、両方のタンパク 質が同じ遺伝子ファミリに属する二量体の構造研究が現在ま で行われてきた。Batchelorたちは、(p. 1037; Gravesによ る注釈参考p. 1000)GA結合タンパク質(GABP)というヘテロ 二量体の結晶構造を報告している(GABPが21塩基対のDNA鎖 と複合体を形成してる状態における)。複合体のサブユニット が異るファミリに属している;GABPαサブユニットは、ETS ファミリのDNA結合領域を含み、単量体としてDNAと結合で きるが、GABPβサブユニットは、一連のアンキリン反復を表 している。GABPβは、この複合体の形でDNAと接触するこ とはないが、三元複合体はGABPαだけとの複合体よりも100 倍安定している。ETS領域およびカルボキシル末端の領域との アンキリン反復によって、GABPβがGABPαに接触すること により、GABPαのαらせん体を再配向し、DNAとの接触を安 定化するとみられる。(An)

天文ニュース:宇宙の年齢(p.981) (The universe shows its age)

数年前、最古の星は、宇宙の年齢よりも古いように見えていた。 最新の改良された理論モデルと、ヨーロッパ宇宙開発局の Hipparcos star-mapping衛星の高精度のデータから、球状ク ラスターとして知られている初期の星の年齢を、約120億年に若 返らせた。ハッブル宇宙望遠鏡と、宇宙の距離測定の新技術を併 用して、宇宙の年齢を修正し、これも120億年に近づけている。 (Ej,Nk)

地震学ニュース:地震のゆっくりした開始(p.985) (A slow start for earthquakes)

理論的、および実験室での研究によれば、断層には、破砕が生じる 際に前兆現象が起きることが示唆されているが、現実に確認した者 はいない。地震の際の潮汐効果をテストするという、見かけ上、遠 回りの方法で、ある種の断層では、完全に破砕されて滑りはじめる 数時間前、或いは数日前、急激にストレスが集積するきわめて強い 証拠が示された。しかし、この効果は場合によっては余りにも小さ く、これを予測できる保証はない、と研究者たちは警告している。 (Ej)

天文物理ニュース:太陽震による太陽系交響曲(p.987) (Sunquakes may power solar symphony)

太陽は何百万という倍音を伴って震動しているが、その正確な 原因は不明である。3月1日号のAstrophysical Journalに掲 載予定の論文によれば、「太陽震(sunquake)」と呼ばれる太 陽の微動は音波バーストによってこの共鳴を起こしていると提 案している。音波による太陽大気(solar atmosphere)運動の 測定結果を解析することで、研究者たちはガスが太陽表面下に 騒音を出しながら突っ込む証拠を見つけた。しかし、この下向 きの流がどのようにして騒音を発生するかは分かっていないが、 このチームは、太陽震動の1つのタイプがこの音波エネルギー の供給を受けていることを検出した。(Ej)
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