AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 20, 1998, Vol.279


秘密を守る(Keeping secrets)

メッセージを暗号化する一つの方法は、そのメッセージを 雑音の多い回路を通し、受信側である適切な回路を通し復 元することである。この方法は電気回路を用いて実証され たことがあるが、バンド幅が少なく高速通信では実用的で なかった。VanWiggerenとRoyは(p.1198、p1156の Gauthierの注釈も参照)、マイクロ波光学システム(波長 1.53μm)に10MHzのメッセージを埋め込み、大振幅のカ オス的キャリアの中で復元出来ることを示した。メッセー ジの復元はフィルターでは実現出来ず、送信機を複製した 受信機が必要である。(Na)

変えられた発音(Altered speech)

運動性の命令のプランニングと遂行は、感覚器官からの 入力を、たとえば視野をずらすプリズム眼鏡の着用など で変えることによって、混乱させることができる。 HoudeとJordanは、聴覚性のフィードバックをずらすこ とで母音の生成が変化すること、この変化が少なくとも 何十分か安定していること、さらに異なった音声環境の もとでの同じ母音の生成や同じ音声環境のもとでの別の 母音に対しても、この適応が一般化できること、をこの 方法を用いて明らかにした(p. 1213)。運動性の音声の 生成の基本的ユニット(音素や音節)、および内部表現 と文脈的環境の影響の相対的な寄与の度合い、を検証す ることが、かくて可能になったのかもしれない。(KF)

体細胞の変異を見る(Seeing somatic mutations)

免疫応答が発達する間、B細胞免疫グロブリン遺伝子は 変異を起こして、抗体の特定抗原に対する特異性とか親 和性を変化させる。このような体細胞性の変異が、免疫 系が多数のウイルスや細菌性タンパク質を認識する能力 を発達させる鍵の一つである。このとき、どんな遺伝子 が体細胞性変異に関わっているかを決定するために、 Cascalhoたち(p.1207;Shannonによるコメント、p.1159) は、通常、何百もの免疫グロブリン遺伝子セグメントが 細胞によって無数の抗体に組換えられるが、この免疫グ ロブリン遺伝子セグメントを欠く準モノクロナル免疫グ ロブリン遺伝子を持つマウスを利用した。この系によって、 彼らは容易に体細胞性変異による変異を検出することが 出来た。これらのマウスと、DNA中のミスマッチを修復 することができない欠失マウスと交配した結果、彼らは ミスマッチを修復するのに必要な遺伝子であるPms2が、 この場合は変異を保持することに寄与していることを見 つけた。(Ej,hE,Kj)

変異でも生き残る(Surviving mutations)

ある変異が複数の表現型を生成すること(つまり多面発現 効果をもつこと)によって、その変異が集団中における 遺伝子型の分布に大きく影響することを示す理論的な遺 伝学モデルが展開されている。WaxmanとPeck (p. 1210; Wagnerによる注解参考 p. 1158)は、3つ以 上の形質に影響する変異を分析すると、生物体の天然集 団中で予想された遺伝子型の分布が最適な遺伝子型に傾 きだすことを示している。非多面発現効果の変異は、多 種の最適以下の遺伝子型をもつ集団およびごく少ない最 適な遺伝子型をもつ個体を生成する。従って、変異率が 高くても、変異が多面的であれば、至適な遺伝子型が栄 えて生存する。(An)

複雑な支持物(Complex underpinnings)

分裂している細胞において、後期を促進する複合体(APC)に 制御されているタンパク分解性機構によって、姉妹染色分体 の分離が制御されている。APCは、少なくても12サブユニッ トからなる大きな複合体であり、細胞周期制御に関与するキ ータンパク質のユビキチン依存分解を仲介する。Zachariae たち(p. 1216)とYuたち(p. 1219)は、ヒトおよび発芽酵母の APCサブユニットのクローニングと分析について報告してい る。両方の生物体の共通のサブユニットの一つであるApc2が Cdc53pタンパク質と似ているが、Cdc53pがSPCという別の 複合体に関与する。S期を促進する複合体(SPC)は、タンパク 質のユビキチン化を仲介し、DNA合成の開始を制御する複合 体である。このように、APCとSPCは異なる制御モードをもつ 別の複合体であっても、Apc2とCdc53pとの類似度は、両方の 複合体において、共通の機構が働いていることを示すかもしれ ない。(An)

ウイルス感染の追跡(Tracking viral infection)

ヒト免疫不全症ウイルス-1型感染やエイズの予後と 治療を分析する中で,Tリンパ球の致死と置換のダイ ナミクスを理解しようとすることが,最近の進展の中 心となってきた.生体内でのリンパ球の代謝回転 (lymphocyte turnover)の変化をより正確に追跡する ことで,Mohriたち(p. 1223)は,アカゲザル科のマカ クザルでブロモデオキシウリジンがリンパ球に取り込ま れることを追跡した.サルの免疫不全ウイルスの感染は, 通常の活性化の状態を示唆するナチュラルキラー細胞や B細胞の個体数と同様に,記憶細胞やナイーブ T細胞の 中の代謝回転の割合が増加することと関係している. (TO)

神経伝達物質遊離の動力学 (Neurotransmitter release kinetics)

膜融合イベントにおいて、Nエチルマレイミド感受性 因子(NSF)の役割が多くの研究で注目されている。 Schweizerたち(p. 1203)は、NSFがシナプスにおい て、神経伝達物質遊離の程度だけではなく、遊離の動 力学も制御することを示している。(An)

海の塩の反応(Sea-salt reactions)

大気中の化学反応のサイクルにおいては、粒子が重要な 役割を果たす。しかし、たいていの技法は、複雑に混合 された粒子を含む大量のサンプルを測定するようになっ ているので、どの粒子が存在しているか、またどのよう な反応が起きているか、を正確に決定することは難しい。 Gardたち(p. 1184)は、単一の粒子の大きさと化学組成 を決定できるエアロゾルの飛行時質量分析装置を、大気 の輸送と反応モデルと共に用いて、粒子の組成は、それ らが質量分析装置に運ばれて来た際にまとっていた空気 の包みの来歴に依存して異なるということを明らかにし た。海の塩に含まれる塩化物が、亜酸化窒素からなる汚 染物質との反応の結果、硝酸塩によって置換されること が、陸の上でいくらかの時間を過ごした空気の包みにつ いては観察された。一方、海から真っすぐやってきた空 気の包みをまとった海の塩の粒子は、ほとんど反応して いなかったのである。(KF)

植物の防御のペイオフ(Payoffs for plant defense)

草食動物との相互作用によって,植物における一連の 化学的なカスケードが誘発される.これらの誘発され たいくつかの応答の元となるメカニズムは十分に明ら かにされて,それが草食動物からの攻撃に抵抗するこ とと結びついている.しかし,そのメカニズムが植物 に本当に適応性を向上させているという証拠がこれま で欠けていた.今,Agrawalによるフィールド調査に よりこの証拠が得られた.成長する季節の早期において, 野生のハツカダイコンで実験的に応答が誘発された. これらの植物は,その後草食動物に好まれなくなる傾 向になり,対照標準植物と比べて十分に大きな適応性 の指標が得られた.(TO)

ABCR遺伝子と、年齢に関係した黄斑性変異 (ABCR Gene and Age-Related Macular Degeneration)

技術的コメント概覧:R.Allikmetsたちは、年齢関連性 黄斑変性症(ADM)の167人の老齢患者の遺伝子的研究を 行った(9月19日号、P.1805)。彼らは、青年期に生じる 「黄斑性ジストロフィーによく見られる遺伝性疾患のスタ ルガルド病の人に欠失している遺伝子であって、レチナー ル桿体光受容体タンパク質をコードしている」ABCR遺伝 子をスクリーニングした。Allikmetsたちは26人のADM 患者のABCRの1つの対立遺伝子中に13の変更箇所があり、 これらの変更箇所はADMに伴っているように見えることを 見つけた。T.P.Dryjaたちは、どのような理由に基づいて Allikmetsと彼の同僚がその結果を解釈したかについて 「疑問のある方法論的欠陥を指摘」している。彼らによれ ば、サンプリングと研究の分析に偏りがあるばかりでなく、 「ADM中のスタルガルド(Stargardt)遺伝子の変異発生率 の推定」に矛盾がある。C.C.W.Klaverたちもまた、「デー タの解釈に欠陥がある」ことを指摘して、研究の中のADM の診断について疑問を提示している。これに反論して、 Allikmetsと同僚(M.Deanたち)は、批判を1つ1つ論じ、 220の対照[正常]群の個々人の[ABCR遺伝子中の]すべての 変動の完全な分類結果」を示している。彼らは、ABCR変異 が「ADMへのリスクを増大させる可能性がある」と言う研究 結果を示しているのである、と述べ、「彼らの仮説に関連す るデータが公開されることを待ち望んでいる」と締めくくっ ている。(Ej,hE)全文は、 www.sciencemag.org/cgi/content/full/279/5354/1107a

マラリア原虫の系統間による交差拮抗作用 (Cross antagonism by malaria strains)

マラリア寄生虫と免疫系との相互作用の複雑さは、 実験室実験とフィールド研究、そして数学的モデル を組み合わせた一つの研究で新たなレベルに達した。 Gilbertたちは、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum:マラリアを引き起こす寄生虫)の、キーと なる免疫原性抗原決定基(エピトープ)のアミノ酸が 1つだけ異なる1対の変異体について記述している (p. 1173;Williamsonによるニュース記事参照p. 1136)。 これらの変異体は、試験管内で互いに免疫応答を抑制 するが、これは交差拮抗作用として知られるプロセス である。この現象の生物学的重要性と一貫する形で、 アフリカの子供における寄生虫の変異体の分布は、さ まざまな系統がランダムに入り混じっている条件下で 予測されるものとは根本的に異なっている。これらの 経験的な知見を結びつけて、著者たちは、寄生虫の集 団構造を拮抗作用がどのように変化させるかを示す数 理的モデルを開発した。こうした知見はまた、ワクチ ンの開発にとっても重要である。(KF)

T細胞受容体の認識の根底にあるもの (Underlying T cell receptor recognition)

抗体を通じて直接抗原に結合するB細胞と異なり、 T細胞は抗原が壊されて、主要組織適合複合体(MHC) 抗原のポケットに挿入される必要があるが、これらは 抗原提示細胞の表面に乗っている。Garciaたち (p.1186)は、MHC-自己ペプチド-T細胞抗原受容体 (TCR)複合体の構造決定をした。彼らは、この構造と、 TCRを伴わない同じMHCとペプチドとの複合体、およ び、MHC-外来性ペプチド-TCR複合体について従来知 られていた構造を比較した。この構造から、アロ反応 性、TCRがクラスTかクラスUのどちらを認識するか についてのメカニズム、および、ペプチドが限られた 接触しかしていないTCRによって、どのようにしてT 細胞の成熟と活性化に影響を及ぼしているかについて 説明する手がかりを与えてくれる。(Ej,hE,Kj)

ポンと鳴る記録(Pop records)

希ガスの量とマントルの化学的性質は、地球の脱気と 初期の堆積の歴史についてのキーとなる情報である。 しかし、大気の混入が、マントルからの試料に含まれ る希ガスを測定する努力を妨害してきた。重要な試料 の一つがいわゆる「ポンと鳴る岩(popping rock)」、 すなわち、大気が混入しないように封じられ、明らか にマントルのガスを中に捕らえて気孔中の圧力を増し た海洋底海嶺玄武岩からの試料である。Moreiraたちは、 この岩に含まれるネオン、アルゴン、キセノンの量と その同位体を分析し、地球のマントルにおける希ガス の量が、太陽からの値よりはコンドライトにおける量 に近いこと、また地球の大気が、大部分マントルの脱 ガスによって説明できることを発見した(p. 1178)。 (KF,Tk)

シューメーカー・レビィ 9 から取り出された硫黄 (Extracting sulfur from Shoemaker-Levy 9)

シューメーカー・レビィ 9 彗星が砕けて木星と衝突した とき、複数の観測者は木星大気中に有機硫黄化合物が生成 されていることに注目した。これは、予期されてもいなかっ たし、また現在まで説明できてもいない。Kaiser たち (p.1181) は、炭素と硫化水素から出発し、有機硫黄化合物 に至る反応経路を理解するために、分子クロスビーム実験と、 第一原理的(量子化学)計算を行なった。彼らは、衝突の期間 中に形成され、観測にかかった有機硫黄化合物のいくつかが 説明可能となる数種の中間的な反応を同定した。そして、こ れは木星大気中で形成された、硫黄の豊富な暗い斑文の原因 解明に寄与するであろう。(Wt)

小胞の目録(Vesicle inventory)

細胞中にある一つ一つの小胞の内容物が生物学的応答を 引き出していると考えらているが、一つ一つの小胞内容 物を分析して同定することは気の遠くなるような作業で ある。Chiuら(p.1190)は、アト・リットル(10^(-18) リットル)レベルの量の小胞をキャピラリー電気泳動分 離カラム中に光学的にトラップして操作できることを報 告している。次にこれを溶解し、化合物をレーザー誘導 による蛍光で同定できるように標識する(既知の標準化 合物を用いてピークを同定し、マススペクトルで小胞集 団の内容物を分析する)。その結果、軟体動物のアメフ ラシ(Aplysia californica)の房腺(atrial gland)由来の 小胞内容物にはバラツキがみられ、例えばタウリン含量 には大きな差があった。(hE)

炭素14による年代測定を遡って (Pushing back carbon-14 dating)

正確な暦年代を得るためには、放射性炭素の時間 スケール(したがって炭素14による年代)を校正 しなければならない。年輪はおよそ一万年過去ま では良い校正法を与える。較正曲線(検量線)は、 また、海洋(主たる炭素の貯蔵庫である)の循環や、 地球磁場と宇宙線のフラックスの強さ(両者とも地 球上層大気中での炭素14の生成に影響を与える) に関する情報も与えてくれる。Kitagawa と van der Plicht(p.1187)は、4万5千年過去まで遡る 校正を行なうために、氷縞年輪のある日本の湖の中の化 石の年代測定を行なった。その結果は、もう少し粗 くその記録を校正しようとした他の試みと矛盾して いないし、また、海洋の循環に関するいくつかの事 件と大きな二つのスパイクを示している。後者は、 おそらくは宇宙線フラックスが大きいか、近傍の超 新星か、あるいは地球磁場の崩壊を示している。(Wt)

中間層トンネル効果と超伝導 (Interlayer tunneling and superconductivity)

層状の銅塩超伝導材料が正常状態の時、その中の 電子の動きは、プレーンの正常な方向に対し一貫 性がない。高温超伝導の中間層トンネル (ILT: interlayer tunneling)モデルでは、超伝導 電子対を形成する推進力は対形成により行われる 干渉性輸送である、と主張している(p. 1157のLeggett の注釈参照)。層間のジョセフソントンネル効果の強 さは(特にTI2Ba2CuO6+のような一層材料においては) ILTモデルの厳密テストとなる。Molerたちは(p. 1193)、 この材料の中間層ジョセフソン渦の画像を得、中間 層浸透がおよそ20μmであると測定した。このことは、 ILTの仕組みでは超伝導状態に必要とされる凝縮エネル ギーの1/1000しか寄与しないことを示唆している。 Andersonは(p. 1196)、これらの結果と他の、よりILT モデルを支持するような実験的研究成果と照らし合わせ、 TIBa2CuO6+の作成が困難であることは、この材料が真 の一層材料でない可能性があることを示唆した。(Na)
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