AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 6, 1998, Vol.279


深海漁業(Fishing too deep)

世界的な漁業の将来はどうなるだろうか。Paulyたちの分析 によると、見通しは暗い(p.860、p.821のDaytonの注釈も 参照)。220種類の海洋性と淡水性の種の栄養レベルを詳細 に分析し、彼らは長期的な地球規模、及び地域的な漁業捕獲 の評価を行った。実質的にすべての漁業で、陸揚げされた 漁獲量における平均栄養レベルは低下している、短命で低栄 養レベルの無脊椎動物やプランクトンが、長命な高栄養レベ ルの種を置き換えている。明らかに、漁業を維持する機能が 欠如しつつあり、海洋管理の必要性の急務を表しているとい える。(Na)

何とか回避して(Getting around)

ビタミンA(レチノイン酸)はいくつかの異なる受容体に結合 している。Krezelたち(p.863)は、3つのレチノイン酸受容体 の各々が欠乏している変異体マウスは、野性型の同産仔に比べ て動きが少ないが、その理由は、随意運動を制御する脳の部分 である中脳辺縁系でのドーパミン情報伝達の変化に起因してい るものと思われる。(Ej,hE,Kj)

場所を見失って(Lost in space)

遺伝子組換えマウスやノックアウトマウスを産生する技術が 導入されるようになって、無傷の動物の記憶の発現に関する 分子的メカニズムが研究対象になってきた。Gieseたち (p.870)は、カルモジュリン依存性タンパク質リン酸酵素を (構造的に)不活性に変えて、その変異の学習への影響を調 べた。それによると、遺伝子組換えマウスは空間学習の課題 に対して著しくその能力を阻害され、これの電気生理学的関 連である海馬の長期増強をも著しく阻害していることを示し た。Choたち(p.867)は更に進んで、この学習能力の欠陥は、 明らかにこれらのマウスが周囲の認知空間地図を作ることが 出来ていないと解釈することが出来ることを示した。 (Ej,hE,SO)

病原性の機構(Virulence mechanisms)

レジオネラニューモフィラ(legionella pneumophila)は 細菌性病原体であり、エンドサイトーシスの経路を通して マクロファージに感染する。細菌が何とかして宿主の食胞 を変化させ、リソソームという破壊的区画との融合を防い でいる。Vogelたち(p. 873)は、食胞を正常なエンドサイ トーシスの経路から転換する模式図の部分を明かにした。 細菌が食胞膜に輸送システムを挿入するが、このシステム は、プラスミドDNAを膜を貫通して移動させることができ る。このシステムは、エンドサイトーシスの融合イベント を遮断する物質の伝達を許容しているらしい。(An)

どっちが先?(Which comes first?)

減数分裂において、相同染色体の対形成(対合)がx組換えの 前に発生することが必要であると思われている。しかし、 最近の研究は、酵母において減数分裂の組換えが対合の前 に発生することを示した。McKimたち(p. 876)は、組換え 欠損のキイロショウジョウバエ変異体を用い、ハエ卵母細 胞において組換えイベントがなくても、対合が発生できる ことを報告している。このように、対合にとって組換えの 必要性が異なっており、高等真核生物であるショウジョウ バエにおける減数分裂の過程と下等真核生物である酵母に おける減数分裂の過程が異なっているとみられる。(An)

原始地球の温室効果ガスとしての有機物の遮蔽 (Organic shielding of greenhouse gases on early Earth)

C. SaganとC.F.Chybaのモデル(1997,May23,p.1217)に よると、40億年前の地球では、アンモニアとかメタンとか のガスが温室効果を与えており、これによって氷点以上の 温度を保っていたことを示した。このモデルがいわゆる 「弱々しい初期の太陽」の矛盾を解決してくれるかも知れ ない。つまり、初期の太陽輝度は弱いと思われており、当 時の地球が液体の水を持っていたことをうまく説明出来な かった。S.L.MillerとJ.R.Lyonsは、このモデルが「生命の 起源に多くの魅力的な示唆を与える還元性の原始地球大気」 と言う以前のモデルに如何にうまく調和するかを指摘して いる。例えば、かつてMiller(Science, 15,May,1953)に よる研究で示唆されているように、このような環境はアミノ 酸の生成に有利である。このための有機分子とエネルギー源 についての可能性(宇宙、化学、地熱、隕石など)をMiller とLyonsが簡潔に論じている。これに対して、Chybaは、 「還元性Miller-Urey大気」は「紫外線の光分解に対する自 己遮蔽」となりうることがこのモデルで支持されていると言 う点で同意している。一方、原始地球に生物起源となりうる 有機物(prebiotic organics)が存在すると言うことは、 「すべての生物の共通祖先につながるほとんどすべてのス テップが、ますます理解しにくいものになってきた」ことを 保証するようなものである、と述べている。(Ej,hE) 全文参照:http://www.sciencemag.org/cgi/content/ full279/5352/779a

動物の起源(Animal origins)

動物は,カンブリア紀の爆発の直前にあたる約5億6千5百万年前の ベンディアン紀(Vendian)に最初に現れたと考えられてきた. しかし,これらの初期の形態と後のカンブリア紀の化石や現存 する動物相との関係は明確になっていない.いくつかの分子に 関する研究からも動物はもっと早くから進化したことを示して いるが,化石によるはっきりとした証拠は見つかっていない. 最近,Liたち( p. 879; Kerrによるニュースストーリーを参照, p. 803),中国北部におけるDoushantuo層群から見つかった 約5億8千万年前の化石について記述している.それは最も原始的 な後生動物(metazoans)である微少な海綿動物であった.燐 酸塩の変質(phosphate alteration)の結果,大いに内部細胞 構造は保存されていた.そしてこれらの化石は,初期の後生動物 の起源が少なくともカンブリア紀の爆発の4千万年から5千万年以 前に溯るかもしれないことを示している.(TO)

輝いて偏光して(Brightly polarized)

液晶ディスプレイは、光を遮ったりあるいは通過させたりする ために偏光子を用いているが、これらの偏光子は光を吸収し、 効率を落としている。Weder たち(p.835) は、いくつかの有 機発光材料について記している。この材料は、配向した薄膜と して作成すると偏光子として働き、また、明るい色彩を発する ことができる。この材料に基づいてディスプレイを構成するこ とにより、広視野角のディスプレイにもなる。(Wt)

青から出でて(Out of the blue)

発光材料への希土類元素によるドーピング量を適正にする ような、材料合成における組み合わせ論的方法 (combinatorial approache)は、複雑な系の最適化に対し て理想的方法のように思われる。Danielson たち(p.837) は、組み合わせ論的方法は予想外の材料を見つけ出すこと も可能であることを示している。かれらは、Sr2CeO4 は CeO6 の八面体の鎖からなる独特の構造をしており、それ の青色発光は、配位子からCe4+への電荷移動によるもの であることを見出した。この移動は、通常の金属から配位 子への電荷移動とは逆のものである。(Wt)

水っぽい星(Wet stars)

最近、太陽黒点の赤外波長領域のスペクトルにおいて、 熱した水が同定された。太陽は熱すぎて液体の水を含む ことができないと考えられていたため、この観測は予想 外のものであった。Jennings と Sada (p.844) は、二 つの赤色超巨星である、ベテルギュースとアンタレス (Marsは Ares の競争相手であるが)の赤外光中にいくつ かの類似の特徴を持つ吸収を同定している。これらの星 は、われわれの太陽よりも冷たく、熱した水を含んでい る可能性があるが、以前の仕事ではこれらの吸収ライン のいくつかは誤って同定されてきた。加えて、どの程度 これらの星が冷たいのかを把握するため、この水を評価 することで星の彩層の温度を見積もることができる。 (Wt,An)
訳注:Aresはギリシャ神話の軍神で、ローマ神話のMars にあたる。そして、Antares = anti-Ares = Mars' rival の図式から、「Aresは Mars の競争相手」となる。

融解した断層(Wet faults)

1994年に発生したマグニチュード8.3のボリビア地震は 上下2つのマントルの中間、637Kmの深さで発生した。 他の、まれに発生する深層地震の場合と同様、延性の 高い深層のマントルでどのようなメカニズムでこのような 高エネルギーの地震が発生したかを理解することは困難 であった。金森(Kanamori)たちは(p.839、p.824の Wiensの注釈も参照)、最初に裂け目が発生すると、およそ 30cmほどの薄い融解ゾーンが断層面にそって作られ、 それにより、断層がさらに滑ってゆくことを示唆した。 薄い融解ゾーンの発生とそれに付随する断層の滑りが、 このような異常に緩徐な破壊速度でありながら、大きな マグニチュードの地震を発生するかを説明していると思 われる。(Na)

水っぽい彗星(Wet comets)

彗星の重水素/水素(D/H)比を測定することは,地球上の 水の起源を知る鍵となる.そして,彗星の中に,ビッグ バン以後の重量の分布を追跡するための鍵がある.ヘール ボップ彗星は,その大きなサイズと1997年に地球への比 較的近い接近があったため,詳しく調べられた.Meierたち (p. 842)はハワイのマウナケア山のジェームスクラーク マックスウェル望遠鏡を用いて,重水素を含んだ水(HDO)の スペクトルを得た.これらの観測と以前の水の検出データか ら,彼らはヘールボップ彗星のD/H比を決定した.そのD/H 比はハーレー彗星や百武(Hyakutake)彗星での推定とは矛盾 しないが,地球上の水や恒星間ガスにおけるD/H比よりも高 い.この高いD/H比は地上の水は,彗星だけに由来するので はなく別の源に由来すること、また彗星はビッグバン初期の おそらく太古の残骸であることを示唆している.このビッグ バンにより彗星の氷の中に重水素が捉えられて遮蔽され, トリチウムに変化することやヘリウムに崩壊することなく保 たれたのである.(TO)

不公平な再分配(Unequal redistribution)

化学反応のダイナミクスの理論は、ある反応中に分子内に 取り込まれたり、解放されたりするエネルギーは、急速に、 多数の振動モードおよび回転モードに統計学的に再分配さ れると仮定している。そのようなエルゴード的な振る舞い は、いつも観察されるわけではないが、反応エネルギーが 高くなれば統計学的な振る舞いが支配的になる、と考えら れてきた。Diauたちは、利用可能なエネルギーがモルあた り120キロカロリーという高さである反応においても、非 統計学的な振る舞いが観察されることを実験的に示してい る(p. 847;Orefによる注釈p. 820を参照のこと)。環状ケ トンから一酸化炭素が急速な光解離によって生じる割合の 係数は、エルゴード的な振る舞いより、少なくともオーダ ーで2つ以上大きい。こうした結果は、エネルギーの再分 配は解離に比較して緩慢であること、また高い反応エネル ギーにおいても、フェムト秒レベルで反応が活性化される 方が選ばれうること、を示している。(KF)

ペプチドセンサー(Peptide sensors)

トリペプチド(tripeptides)に選択的に結合する 小さな分子は、センサーに組み入れられてきた。 Chenたちは、大環状テトラアミドのアミド結合が異なって いる数種の付加化合物がビーズに付着しうること、また クロロホルム溶液中に同族のペプチドが存在する場合には この付加化合物が可視の蛍光現象を示すことを示している (p. 851)。(KF)

膜を貫通するプリオンタンパク質 (Transmembrane prion proteins)

プリオンタンパク質の異常な形態が、ヒトのクロイツ フェルト-ヤコブ病やウシのBSE(狂牛病)などの種々の 神経変性病の伝播に関連しているとされてきた。内在 性の正常なプリオンタンパク質の役割が分かっていな いように、そうした病気自体の病理学におけるその役 割もはっきりしてきていない。Hegdeたちは、このた び、細胞内にある異常な膜貫通型のプリオンタンパク 質が、感染性プリオンタンパク質の産生がない状況下 で、遺伝子組換えマウスにおける神経変性病の原因と なりうること、またヒトの神経変性病に関連付けられ ることを示した(p. 827)。プリオンタンパク質の細胞 内プロセシングの制御は、それゆえそうした疾患の理 解と制御にとって重要となる可能性がある。(KF)

繰り返し構造のアッセイ(Repeat assay)

三ヌクレオチドの繰り返し構造の拡大は、ハンチントン氏病 や筋緊張性ジストロフィーなどのいくつかのヒトの疾患の原 因となる変異である。パン酵母を用いて、Freudenreichた ちは、CTG繰り返し構造の拡大の根底にある遺伝的欠陥を研 究するためのアッセイシステムをつくりだした(p. 853)。 DNA複製の中間体を処理するヌクレアーゼを符号化する遺伝 子であるRAD27の欠失が、CTGトラクトの拡大の比率と不安 定化をはっきりと増す原因であった。(KF)

部分を元に組み合わせる (Putting the pieces back together)

プレメッセンジャーRNA(mRNA)のプロセシングには、RNAと タンパク質との複数の相互作用が関与するが、この相互作用は、 核内低分子リボ核タンパク粒子(snRNP)の形で行われる。スプ ライセオソームの機構においては、U4とU6というsnRNPが広 範囲の塩基対形成によって会合し、この会合はスプライセオソ ームの活性化とスプライシングの触媒作用のためにこわされる。 次の回のスプライシングでは、U4とU6のsnRNPは再度アニー リングして、二本鎖U4/U6 snRNPを形成しなければならない。 RaghunathanとGuthrie(p. 857)は、特異的RNAアニー リングタンパク質Prp24を同定する。Prp24は、U4/U6 snRNP リサイクリング経路において、プレmRNAスプライシングを複 数回行うように機能する。(An)

医学ニュース:1959の試料からHIVのウイルス見つかる (p.801)(Virus from 1959 sample marks early years of HIV)

最新号のNatureによれば、1950年代にHIVが人間に潜入した とする説を裏付ける証拠が得られた:1959年の血漿試料から 初期HIV−1ゲノムを取り出し、配列を決定した。その結果が もし正しければ、これが最初の確認されたHIV感染症例となる。 さらに、このウイルスのゲノムと現在のHIV配列と比較するこ とによって、どのようにウイルスが進化して来たかの情報が得 られ、これによって研究者が薬剤やワクチンをどう設計するか の情報となろう。これはまた、HIVがどうやって猿や類人猿か らヒトに、種の壁を乗り越えて来たかの手がかりを持っている かも知れない。(Ej)

天文ニュース:宇宙からのニュートリノを韓国チームが発見 (p.802)(Korea makes a bid to catch neutrinos from the cosmos)

Seoul発Normile報告:物理学者たちは、ほとんど性質のわかってい ない素粒子であるニュートリノを発見するために、背景雑音を押さえられ るように、検出器を地下に設置して捜すのが一般的である。韓国の物理学 者たちは、遠い宇宙からのニュートリノをキャッチするため、ノイズを効 率よく除くことが出来る新しい望遠鏡を設計した。うまくいけば山の頂上 に設置することができ、安上がりとなろう。もし、試作品がうまく働けば 政府は1,000万ドル~1,500万ドルの建設要求予算を認めると思 われる。この望遠鏡はHANULと呼ばれている。(Ej)

数学ニュース:折り紙の数学;アルゴリガミ(p.804,805)(Proving a l ink between logic and origami)

良く知られている、平面の折り畳み問題、つまり折り紙問題は、問題解決 が極めて困難な理論的課題の1つであることを示した。従来、折り紙 に関する数学的問題は、少数の科学者によって取り扱われてきたが、この 問題はコンピュータ科学で知られていた、全てが正しいとは限らない3 -SAT問題と同等であることがわかった。(Ej)
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