AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 17 2015, Vol.348


未接触アメリカ原住民の微生物相(Microbiome of uncontacted Amerindians)

驚いたことに、これまで未調査のアメリカ原住民の微生物相は、抗生物質耐性遺伝子を含んでいる。Clementeたちは、彼らの先祖が南アメリカに到着して以来11,000年の間、西洋人と何らの接触も知られていない Yanomami Amerindian villageの人々の便や口、及び皮膚の細菌微生物相を解析した。彼らの微生物群系(microbiota)は、かって人に関して報告された中で最も多様性に富んでいる。これらのデータは、抗生物質の使用以前に、潜在的な抗生物質耐性が人の全微生物相の中に存在していた可能性があることを理解すためのまれな機会を提供する。(KU,ok,kh)
The microbiome of uncontacted Amerindians (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500183 (2015))

重たい電子が相関に影響を与える(Massive electrons signify correlations)

銅酸化物超伝導体の超伝導メカニズムは、30年にわたって謎とされてきた。この銅酸化物の通常の非超伝導状態に関しても謎が多い一方で、超伝導が堅牢であるほど、それを抑制するに必要な磁場は強くなることが知られている。Ramshawらは、90テスラを超える磁場中で3種類の銅酸化物 YBa2Cu3O6+δに関して調べた。彼らは、最高転移温度に向かって酸素含有量が増えるほど、ますます伝導電子が重くなることを見いだした。この質量増加は電子相関の増加を反映しており、これが量子臨界点の特徴につながっていると考えられる。(NK,KU,ok,kh)
Quasiparticle mass enhancement approaching optimal doping in a high-Tc superconductor (Science, this issue p. 317)

稀薄なことが厄介な疑問をとく(Dilution solves the recalcitrance question)

深海は溶解した有機物に満ちていて,それらの中には,何千年間も変わらないままのものもある.何が,これらの化合物を微生物分解に強くさせているのだろうか? もしかすると,もともと化学構造がそれらを代謝させにくくさせているのだろうか? Arrietaたちは,それらの化合物が単純に稀薄すぎるために,微生物にとって利用可能なエネルギー源とはならないことを示している(Middleburgによる展望記事参照).微生物にとって扱いにくいと思われているこれらの有機分子が濃縮されると,周囲にいる微生物がこれらを消費することを、追加実験が示している.(MY,KU,ok,kh)
Dilution limits dissolved organic carbon utilization in the deep ocean (Science, this issue p. 331; see also p. 290)

損傷した背骨の回復に向けた前進?(Progress toward fixing a broken back?)

脊髄損傷後の軸索再生には、軸索伸長と瘢痕形成の早期抑制を促進するために、神経細胞機構への干渉を必要とする.微小管の安定化は,原理的に、そのような介入への基礎を提供するはずである.Ruschelたちは,脊髄損傷の動物モデル,経時的撮影による生体内での画像化,一次ニューロン【訳注】の培養,行動学的研究を用いて,この問題に取り組んだ(TranとSilverによる展望記事参照).彼らは,アメリカ食品医薬品局が認可した,血液脳関門【訳注】を通過できる微小管安定化剤のエポチロンBが,損傷後でもなお,機能的な軸索再生を促進することを示した.(MY,ok,kh)
【訳注】
・一次ニューロン:末梢感覚受容器と中枢神経との間を結ぶ脊髄神経細胞
・血液脳関門:脳と脊髄を含む中枢神経系の組織液と血液の間で交換できる物質を制限する機構
Systemic administration of epothilone B promotes axon regeneration after spinal cord injury (Science, this issue p. 347; see also p. 285)

ミトリボソーム全体を解明する(Resolving whole mitoribosomes)

ミトコンドリアはおそらく、原始真核細胞中に棲んでいた原核細胞から進化した.その結果,ミトコンドリアは,タンパク質翻訳のため高度に異なるミトリボソームに必要となる少数の遺伝子を除き,そのゲノムDNAの多くを失った.GreberたちとAmuntsたちは低温電子顕微鏡を用いて,この複合体の構造を明らかにし(BeckmannとHermannによる展望記事参照),更にきわだった mRNA結合チャンネルを明らかにした.その構造は,アミノ配糖体抗生物質がミトリボソームをどのようにして抑制しているのか,また,ミトリボソーム中の変異が人間の病気をどのように引き起こすのかに関する手がかりを提供する.(MY,kh)
The complete structure of the 55S mammalian mitochondrial ribosome (Science, this issue p. 303)

私の目を見つめなさい(Gaze into my eyes)

人は、お互いの目を見つめあうことで情緒的に結ばれる---ホルモン・オキシトシンの介在するプロセスである。Nagasawaたちは、このような凝視介在の結びつきがまた、我々と我々の最も身近な動物仲間である犬との間でも存在することを示している。彼らは、お互いに見つめあうことがオキシトシンの濃度を高め、そしてオキシトシンのにおいを嗅がせると犬の凝視が増え、自分たちの飼い主に伝えられるある効果を持っている。 狼は、自分たちの人間訓練者と目を合わせて注意を引こうとすることはまれであり、このような効果に反抗しているらしい。(KU,kh)
Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds (Science, this issue p. 333; see also p. 280)

幹細胞は古さによりミトコンドリアを選り分ける (Stem cells can sort mitochondria by age)

老いていく生物における組織の更新には幹細胞を必要とするが、 これは幹細胞の性質を保持している一つの娘細胞と特定の組織型に分化する別の娘細胞へと非対称的に分裂するきわだった能力を持っている。Katajistoたちは光活性化するマーカータンパク質を用いて、人の胸部組織からの幹細胞様細胞における細胞小器官の古さと娘細胞中のそれらの分布を追跡した。殆どの小器官は均等に分布されていたが、幹細胞の性質を維持していた娘細胞は新しく産生されたミトコンドリアをより多く、そして古いミトコンドリアをより少なく受け取っていた。(KU,kh)
Asymmetric apportioning of aged mitochondria between daughter cells is required for stemness (Science, this issue p. 340)

ほんものの変異だけ、どうかご起立を(Will the real mutation please stand up?)

患者が癌だと診断されると、病気の治療法を決めるのに役立つ変異を探すために、腫瘍試料が分析される。Jonesたちは、15種類の癌の型のいずれかに罹った800人以上から得られた試料の特徴を明らかにした。正確を期すために、この手法は同じ患者の対応する正常な DNA試料も必要になる。そうすることによって、患者の正常な組織内に存在する変異は治療標的からは除かれ、治療に役立つ腫瘍中の新たな変異が明らかになる。(KF,ok,kh)
Personalized genomic analyses for cancer mutation discovery and interpretation (Sci. Transl. Med. 7, 283ra53 (2015))

生物多様性は草原の安定性を守る(Biodiversity protects grassland stability)

生物多様性が生態系の安定性と豊饒にどのように相互作用するかは、生態系の機能における環境変化の影響を理解する上での鍵となる。温帯草原における10年に及ぶ一連の実験で、Hautierらは、窒素、水、二酸化炭素、草食性、及び火事を取り上げた。全ての場合において、環境変化の際に、植物種の多様性が生態系の機能を維持する上で重要であった。したがって、生物多様性の保存と復元は、人為的攻撃に対して生態系を守ることになる。(hk,KU,kh)
Anthropogenic environmental changes affect ecosystem stability via biodiversity (Science, this issue p. 336)

大海には似通ったすがた・かたちが棲息する(Similar shapes inhabit the sea)

生物の歴史上,幾つかの異なる脊椎四肢動物のグループが海洋環境に再侵入した.これらのグループは,爬虫類,哺乳類,両生類,鳥類にと、広い分類群に属するが,彼らが進化させたその形状は驚くほど似通っている.KelleyとPyensonは,2億5千万年に渡る海生脊椎動物群の歴史に関する文献を調べ,これらの海生動物(種)の進化を促進したイノヴェーションやそのような形態的収斂を選択した環境条件,そして今後の環境変化で直面する脅威について記述している.(MY,KU,bb,kh)
Evolutionary innovation and ecology in marine tetrapods from the Triassic to the Anthropocene (Science, this issue 10.1126/science.aaa3716)

線維症における線維芽細胞(Fibroblasts in fibrosis)

過剰な線維性結合組織は、瘢痕と同様に、傷の修復の際に形成される。線維芽細胞がそれに関与していることは知られているが、その役割はあまり明らかにされていない。Rinkevichたちは、マウスの背側の皮膚中にある皮膚線維芽細胞の2つの系列を同定している(SennettとRendlによる展望記事参照)。Engrailed-1の胚性発現によって定義される線維形成性系列は、真皮の発生や、創傷治癒、放射線誘発の線維症、癌の間質形成において中心的役割を果たしている。この系列を標的として抑制すると、その結果、治癒された皮膚の構造的完全性にはなんの影響もなく、メラノーマ増殖や瘢痕形成が減少した。つまり、線維性の病気に対する治療法が示唆されたのである。(KF,ok)
Identification and isolation of a dermal lineage with intrinsic fibrogenic potential (Science, this issue 10.1126/science.aaa2151; see also p. 284)

磁場の偏光による指標(The polarized mark of magnetic fields)

強力な対になったプラズマジェットは、しばしば、活動銀河核(AGN)にあるそれらの発生源から数万光年以上にまで達する。天文学者たちは、何がジェットをしっかり囲い込み、それほど遠くまで進ませているのかについて、いまだに研究中である。Marti-Vidal たちは、ファラデー回転と呼ばれる現象の証拠を示す偏光信号の中に、隠れている答えを見つけたのかもしれない。この測定は、存在する磁場の強さを示すことが可能であり、 AGN PKS 1830-211 に対するそれは数ガウス程度であった。磁場が牽引役になっているという知見は、我々をこの現象の理解により近づけてくれる。(Sk,ok,kh)
A strong magnetic field in the jet base of a supermassive black hole (Science, this issue p. 311)

古い銀河よ、悲嘆に暮れよ(Eat your heart out, old galaxies)

1000億太陽質量を超える銀河の多くは、高密度の回転楕円体であり、現在は星形成活動を示していない。それでも、宇宙がほんの数十億年歳だった時に、同サイズの銀河は活発に星を形成していた。Tacchellaたちは面分光法と高解像力の画像化法を用いて、古い銀河内の星形成速度と星質量密度の分布地図を作成した。星形成は、中心部では最初に明らかに抑えられていたが、その一方、銀河の周辺部では活発なままであり、その星形成の抑止は数十億年をかけて外側に進行した。(Wt,KU,kh)
Evidence for mature bulges and an inside-out quenching phase 3 billion years after the Big Bang (Science, this issue p. 314)

衝突中の衝突の痕跡(Traces of collisions within collisions)

月は、火星大の物体が地球と衝突することにより作られたとして、広く受け入れられている。しかしながら、この出来事が正確にいつ生じたのかについての情報は、未だ見付かってない。更なる解明のため、Bottkeたちは、モデルや隕石の記録を衝撃加熱の見積もりと比較した。主衝突で放出物が吹き飛ばされた時に、高速のキロメートル大のかけらが小惑星帯にぶつかり加熱した。そのような衝突の証拠は、それらの小惑星のかけらが地球上で隕石として発見されたときに出てくる。そのモデルと実証的な記録は44億8千万年前に収束し、異なるアプローチで到達した以前の見積もり値が確認された。(Sk,kh)
Dating the Moon-forming impact event with asteroidal meteorites (Science, this issue p. 321)

小さな違いと大きな異常気象(Smaller differences and greater extremes)

近年の北極での急速な温暖化は、世界のほかの場所の気候に影響を及ぼしていたのだろうか? Coumouたちは、北半球における大気循環のいくつかの重要な基準値が夏期に弱まったことを見いだしている。この変化は、中緯度地帯と北極との間の気温差の減少により引き起こされていた。夏季の循環が強度の面で減少するに従い、より涼しい環境をもたらす嵐の回数が減るため、暑い気候状況がより持続的になる。(Uc,KU,ok,kh)
The weakening summer circulation in the Northern Hemisphere mid-latitudes (Science, this issue p. 324)

大陸の海沿いで速い消滅が起きている(Disappearing faster around the edges)

南極大陸を取りまく浮遊棚氷(これは大陸からの氷河をささえ、海への氷河流の放出を遅くする)は、より速い速度で薄くなっている。Paoloらは、大陸の周縁部を取り巻いている多くの地域での棚氷が、質量が減っていることを示す衛星データを報告している。この結果は、気候温暖化が続くと、どのくらい速く海面が上昇するかという関心を増すことになる。もし過去数十年と同様に温暖化が棚氷を薄くし続けるなら、その消失が陸上の氷 を崩壊し融解させるかも知れない。(hk,KU,ok,kh)
Volume loss from Antarctic ice shelves is accelerating (Science, this issue p. 327)

広域スペクトルの抗ウイルス薬に向けて(Toward broad-spectrum antiviral drugs)

エボラやデングなどの新たに登場するウイルスの多くには、認可された薬物処置が存在しない。展望記事において、BekermanとEinavは、その他あれこれのウイルスへの対処において、広域スペクトル抗ウイルス薬が主要な役割を果たしうる、と論じている。そうした薬は、ウイルスか宿主細胞かを標的とする。いくつかの癌治療薬などのように、他の病気を治療するのに認可された薬剤もまた、抗ウイルス治療としての可能性を示す。毒性や薬剤耐性などの課題が問題になるときには、広域スペクトル抗ウイルス薬が、狙いの絞られた既存の治療法を有効に補うものになるだろう。(KF,ok,kh)
Combating emerging viral threats (Science, this issue p. 282)

金属クラスターを実際に大写しにする(Metal clusters really close-up)

原子間力顕微鏡(AFM)は、原子サイズ以下の構造を明らかにするために用いられる。この手段により、Emmrich たちは、個々の銅と鉄の原子が銅表面においてドーナツ構造を形成しているのを見つけた。これらの形状は、原子中心での静電的引力と、その辺縁部でのパウリの斥力により生じる。クラスター中の個々の原子は基礎的な表面対称性を有しており、クラスター形状でさまざまな表面サイトに結合することができる 。(Sk,kh)
Subatomic resolution force microscopy reveals internal structure and adsorption sites of small iron clusters (Science, this issue p. 308)

超酵素機能の実現工学(Engineering superenzyme function)

タンパク質ドメインとサブユニットがいかにして作用しているか理解することは、タンパク質に新規の機能を工学的に組み込むために決定的に重要である。Arslanたちは、DNAをほどく大腸菌のヘリカーゼである Repの2つのドメイン間に分子内架橋を導入した。異なった長さのリンカーを挿入することで、そのドメインは「開く」か「閉じた」状態に保持される。閉構造はヘリカーゼを活性化するが、それはまた、高速かつ、かなりの力で、長く伸びたDNAをジッパーのように開いて、スーパーヘリカーゼを産み出すことができる。Comstockたちは光学的ピンセットと蛍光顕微法を用いて、この細菌のヘリカーゼ、UvrDの構造と機能を同時に測定した。彼らは、DNAの巻きとほどきの活性と、それらの活性の際のその形状とをモニターした。運動領域もまた、DNAほどきの際に「閉」構造を取り、また、閉じていく相互作用の際に逆の「開」構造に切り替える。(KF,KU,kh)
Engineering of a superhelicase through conformational control (Science, this issue p. 344)
Direct observation of structure-function relationship in a nucleic acid-processing enzyme (Science, this issue p. 352)

赤血球はヘモグロビンのためにロイシンを必要とする(Red cells need leucine for hemoglobin)

タンパク質複合体 mTORC1の阻害剤は、臨床で用いられるが、貧血をもたらすこともある。利用できるアミノ酸のロイシンが少ないと、mTORC1の活性は抑制され、これが mRNA翻訳を妨げることで、タンパク質合成を抑制することになる。ヘモグロビン中のグロビンタンパク質は、とりわけ高い割合でロイシン残基をもつている。Chungたちは(Nathanによるフォーカス記事参照)、赤血球の成長によるヘモグロビンの産生が、細胞のロイシン取り込みを可能にする輸送体である、LAT3の欠乏あるいは抑制によって減少することを発見した。特に、不十分なロイシン取り込みはグロビン-コード化転写物の翻訳を妨げた。(KF,KU,kh)
Amino acid uptake in erythropoiesis. and The mTORC1/4E-BP pathway coordinates hemoglobin production with L-leucine availability (Sci. Signal. 8, ra34 and fs9 (2015))
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