AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 10 2015, Vol.348


霧の中のゲノム(Genomes in the mist)

マウンテン・ゴリラは、絶滅の危機の象徴となっている種である。Xueたちは、二つの異なる集団からの13頭のゴリラの塩基配列を決定し、彼らの遺伝的多様性を調べた。そのゲノムは、ホモ接合性が広く存在し、高度に有害な遺伝的変異体が喪失しており、この集団が経験した極度の個体数減少(ボトルネック)と近親交配を示唆している。遺伝子多様性のこの減少は20,000年以上前に始まっていたらしく、そして気候変動と人間活動と結びついた影響により引き起こされたのであろう。(KU,kh,bb,nk)
Mountain gorilla genomes reveal the impact of long-term population decline and inbreedin (Science, this issue p. 242)

細胞選別を仕分けする(Sorting out cell sorting)

タンパク質の適切な区画への仕分けは、正しい細胞機能にとって必須である。20年前のその発見後に、特異的な細胞内タンパク質仕分けにおける新生鎖付随の複合体(nascent chain-associated complex:NAC)に関する多様な潜在的役割が提唱されてきた。今日まで、明瞭な表現型は発見されていなかった。Gamerdingerたちは、線虫におけるタンパク質移動に関する NACの役割を調べた(Kramerによる展望記事参照)。彼らは、NACが、ミトコンドリアタンパク質といった間違った積荷を小胞体中に運び込むのを防いでいることを見つけた。(KU,kh)
【訳注】
・細胞選別(cell sorting):2種類以上の細胞を混合して培養したときにそれぞれが分離して集まる現象
The principle of antagonism ensures protein targeting specificity at the endoplasmic reticulum (Science, this issue p. 201; see also p. 182)

タンパク質折りたたみに援助の手を差し伸べる(Giving protein folding a helping hand)

タンパク質の可逆的なリン酸化は、細胞や生物機能のあらゆる面を実質的に制御している。したがって治療対象にリン酸化を取り上げるのは、治療方法を大きく広げることに つながる。こうして、キナーゼは重要な治療標的となった。標的として、脱リン酸酵素は魅力的なものであるはずであるが、しかし実際に、それらを操作するのはかなり難題である。Dasたちは、Sephin1と呼ばれる安全、かつ特異的な阻害因子を見つけたが、これは生体内でタンパク質脱リン酸酵素1の調節サブユニットを標的としている。Sephin1は PPP1R15Aに結合して抑制するが、関連する調節性脱リン酸酵素 PPP1R15Bには結合も抑制もしない。マウスにおいて、Sephin1はストレス誘発性のホスホ-シグナル経路を引き延ばして、無関係なタンパク質折りたたみ異常疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病タイプ1B (Charcot-Marie-Tooth 1B)や筋萎縮性側索硬化症の病理学的欠陥を防いだ。(KU,kh,nk)
Preventing proteostasis diseases by selective inhibition of a phosphatase regulatory subunit (Science, this issue p. 239)

海洋間の閉鎖は早じまい(Early closing between oceans)

かつてはパナマ弧を南アメリカから分断していた中央アメリカ海路は,信じられているよりもさらに1000万年前に閉じた可能性がある.Montesたちは,パナマ起源としか考えられない鉱物が,今から1500万年から1300万年前の中期中新世の間に南アメリカに現れ始めたことを報告している(HoornとFlantuaによる展望記事参照).その鉱物の存在は,パナマ円弧から北部南アメリカの浅い海盆へと河川が流れ込んでいたことを示している.この発見に対する1つの解釈は,大西洋と太平洋の間の大規模な海流が,それまでは終わっていたというものである.もしこれが正しいなら,古海洋循環に対する多くのモデルと南北アメリカ大陸間での生物交換の見直しが必要となる.(MY,ok,kh,nk)
Middle Miocene closure of the Central American Seaway (Science, this issue p. 226; see also p. 186)

アレルギー薬がウイルスの感染を抑制する(Allergy drug inhibits viral infection)

鼻水や目のかゆみを断つのに用いられるある種の薬は,C型肝炎ウイルス(HCV)の治療に再利用されるかもしれない.このウイルス感染症は,しばしば見逃されているが,癌を含む肝臓病を悪化させる.アレルギーを和らげる抗ヒスタミン薬が HCVを治癒できるということは,認可された薬剤群を再調査する中で, Heたちによって明らかにされた.これらの中で,第1世代の抗ヒスタミン薬であるクロルシクリジンは,抗ウイルス薬に伴う共通の問題である薬剤耐性が現れることなしに,試験管内や「ヒト化」肝臓をもつマウスで特効性の高い抗HCV活性を示した.更に,クロルシクリジンは,リバビリン,ソフォスブビル,インターフェロンαのような他の抗HCV薬との相乗効果があった.抗ヒスタミン薬は広く入手可能で,安全でそれほど高価ではない:HCVが流行している国での使用に理想的な候補薬である.(MY,ok,kh,nk)
Repurposing of the antihistamine chlorcyclizine and related compounds for treatment of hepatitis C virus infection (Sci. Transl. Med. 7, 282ra49 (2015))

火星の水の歴史を地図化する(Mapping Mars' water history)

我々は、地球における水の循環が複雑であることを知っている。火星においても、それは単純ではない。Villanuevaたちによって作成された水同位体の赤外線地図は、火星全域にわたる H2Oとやや重い水(HDO:水素同位体の混合物を含む重水)の分布を示している。HDOの濃縮度は時間と場所によって異なる。例えば、不規則な同位体シグナルは異なる地形的特徴に関係している。その測定はまた、北側の氷冠の季節性の昇華の程度を推定することを可能にし、したがって過去の気候の変動を明らかにするために用いることが可能である。(Sk,kh)
Strong water isotopic anomalies in the martian atmosphere: Probing current and ancient reservoirs (Science, this issue p. 218)

脂質成分を画像化する(Imaging lipid composition)

細胞膜の化学的画像化は,マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)によって行われるが,イオン化効率が低いので,しばしば,沢山存在するホスファチジルコリン化学種のような,主要な脂質組成物によって支配される信号になってしまう.Soltwischたちは、中性化学種をポストイオン化【訳注】するために波長可変レーザーを用いて,コレステロール,リン脂質,糖脂質のような,他の細胞膜成分の信号を増大させた.この方法による細胞や組織の画像化は,さらに広範囲の化学的な特徴に基づく区別を可能とする.(MY,KU,ok,kh,nk)
【訳注】
・ポストイオン化:対象物をガス化した後に,外部からエネルギーを付与してイオン化させること
Mass spectrometry imaging with laser-induced postionization (Science, this issue p. 211)

ヒトの中で染色体数が変わる(Chromosome number varies in humans)

妊娠損失はしばしば、異数性として知られる条件である染色体数の損失と結びついている。体外受精周期にある異数体の胚を調べることによって、McCoyたちは、母系性染色体数の欠損と結びつく大きなゲノム領域を発見した(VohrとGreenによる展望記事参照のこと)。この領域はPolo様キナーゼ4(PLK4)という遺伝子を含んでいるが、これは、染色体分配に影響することが知られ、また、母系性異数性の増加率と相関する変異体をもつものである。驚いたことに、そうした変異体は、ヒトの集団においても比較的高いレベルで生じ、正の選択下にある可能性がある。(KF,kh)
Common variants spanning PLK4 are associated with mitotic-origin aneuploidy in human embryos (Science, this issue p. 235; see also p. 180)

多重の温度を検出する(Detecting multiple temperatures)

たいていの人は、温度を直感的に理解している。統計力学という面では、温度が高いほど、系はその最低エネルギー状態から遠ざかる。量子力学に支配され、いくつかの保存量に拘束される非平衡系においては、事態はより複雑となる。Langenたちは、特殊な方法で二つに分けられたルビジウム原子の1次元ガスの定常状態を記述するには、10個もの温度のような変数が必要であることを示した(Spielmanによる展望記事参照)。(Sk)
Experimental observation of a generalized Gibbs ensemble (Science, this issue p. 207; see also p. 185)

海洋の酸性化と大量絶滅(Ocean acidification and mass extinction)

地球の歴史上の最大の大量絶滅は,2億5200万年前のペルム紀-三畳紀境界で生じた.何が海洋生命を荒廃させたかについて,幾つかの考えが提案されてきたが,直接的な証拠に乏しい.Clarksonたちは,この境界期間にまたがる,海水のpHに対する精度の高い代用物としてホウ素同位体を評価した.どうやら,海洋は,その当時のパルス状に生じた火山活動からの炭素放出による酸性化の影響を緩和したが,シベリア・トラップ【訳注】形成の際に火山活動が増大すると緩和出来なくなったらしい.その結果は、広範な海洋のpH低下と殻を形成する生物体の消滅であった.(MY,KU)
【訳注】
・シベリア・トラップ:中央シベリア高原にある西ヨーロッパに匹敵する面積の火山岩帯。火山活動により噴出したマントルプルームにより形成されたとされている
Ocean acidification and the Permo-Triassic mass extinction (Science, this issue p. 229)

量子シミュレーションをベンチマークする(Benchmarking quantum simulation)

ある問題への解を見つけることは、しばしば最適化問題へと帰結し、かくして 系の最低エネルギー状態を求める問題へと書き直される。基底状態を求めるために、焼きなまし法(annealing)に基づいた数学的手法が開発された。また、これまでの古典的手法よりもより早く基底状態を見つけるために、量子力学的手法が提案されたが、量子的手法によるスピードアップの効果は多々議論されていてまだ決着が付いていない。この結果は、問題をどのように記述するか、また最適化の手段をいかに実行するかに依存していることをHeim たちは示している。この開発は量子力学的手法をベンチマークするのに役立つであろう。(NK,KU,ok,kh,nk)
Quantum versus classical annealing of Ising spin glasses (Science, this issue p. 215)

大気中にあった二酸化炭素とともに沈む(Down with atmospheric carbon dioxide)

海洋は、どのようにして表層の水に含まれる炭素を内部深くへとに移動させているのだろう? 最近の理解では、二酸化炭素は植物プランクトンによって大気から除かれ、そのプランクトンが食べられて、次に、その捕食者が死んで、水中深くへ沈んでいき、海床の沈降物になる、とされている。この経路に加えて、Omandたちは、径1キロメートルから10キロメートルの海洋渦によって引き起こされる沈降流が、プランクトンの春の大増殖によって生み出された炭素の多くを深海に届けることができることを示している。この渦は、通常では沈みにくい小さな粒子と分解された有機物の炭素を降下させて、大きくて自然に沈降する粒子による炭素の下降量を増大させるのである。(KF,nk)
Eddy-driven subduction exports particulate organic carbon from the spring bloom (Science, this issue p. 222)

ユビキチン化の単一分子分析 (Single-molecule assay of ubiquitylation)

細胞における生物学的過程の多くは、タンパク質に付着したユビキチンペプチド類によって制御されている。細胞抽出液中の単一の蛍光分子測定法が、そうした反応の速度論を追跡するために用いられる。Luたちは、分析条件を精緻にして、E3ユビキチンリガーゼによるユビキチン結合を追跡した(Komanderによる展望記事参照)。彼らは、細胞分裂周期の制御にとって決定的なユビキチンリガーゼである後期促進複合体(APC)の活性を可視化した。APCによって触媒される進行性の初期反応は、より緩やかな反応によって置き換えられた。その結果は、小さな、普通に生じている認識モチーフが、いかにして、特異的で高度に制御された酵素反応のイベントを導いているかを示している。もう一つの論文で、Luたちは、付加されたユビキチン鎖の数と配置が、ユビキチン化されたタンパク質とプロテアソーム(ユビキチン化されたタンパク質を認識し、それを分解するタンパク質複合体)との相互作用に、どのように影響を与えているかを探求した。ユビキチン化の程度が基質タンパク質とプロテアソームとの相互作用の強さを決定し、ユビキチン鎖の配置がタンパク質のプロテアソーム中への移動と、結果として分解速度を決定していた。(KF,kh,nk)
Specificity of the anaphase-promoting complex: A single-molecule study (Science, this issue 10.1126/science.1248737; see also p. 183)
Substrate degradation by the proteasome: A single-molecule kinetic analysis (Science, this issue 10.1126/science.1250834; see also p. 183)

冷たいところで彗星を作る(Making comets in the cold)

彗星の中の窒素化合物の化学種を同定することで、その歴史を知ることができる。彗星は、太陽系の中で最も古くからの天体の一種であるが、それには、彗星が形成された時に豊富であった窒素化合物が含まれているはずである。Rubinたちは、Rosetta宇宙船に搭載された ROSINA質量分析計を用いて、原始太陽系と比べて、彗星における窒素分子の量が非常に低いことを見出した。窒素がこれほど少ないということは、彗星が、原始時代に存在したアモルファス水の氷粒子の低温凝集体からか、あるいは、包接化合物から形成されたことを示唆している。(Wt,kh,nk)
Molecular nitrogen in comet 67P/Churyumov-Gerasimenko indicates a low formation temperature (Science, this issue p. 232)

自然災害の早期警報をクラウドソーシングで(Crowdsourcing early warnings of natural disasters)

携帯電話や同様の電子機器は、環境に関する地域ごとのセンシングに利用される強力なテクノロジーを含んでいる。Minsonらは、広く普及した携帯電話から得られる消費者向けの全地球的航法衛星システム(すなわち、GPS)センサと慣性航法システム(例えば、加速度計)センサからの変位データをどのように組み合わせて、地震と津波の早期警告を作り出せるかを示している。このような素早く獲得できるクラウドソースデータの利用は、公共の安全を向上させ、地震多発地域での災害対応を容易にするための価値ある方法であろう。(hk,KU)
【訳注】
・クラウドソーシング:或る仕事に関してインターネットなどを利用して不特定多数の人に委託すること
Crowdsourced earthquake early warning (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500036 (2015))

癌と闘うための死のシグナルのネットワーク化(Networking death signals to fight cancer)

妨害を引き起こすことなしに癌細胞を選択的に殺すことこそ、癌治療における聖杯である。癌細胞は、分泌タンパク質、TRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド)によって引き金を引かれる細胞死にとりわけ高感受的である。不幸なことに、ある種の癌細胞は、TRAILによって引き起こされる死を逃れ、自身のシグナル伝達ネットワークを組み換えることで、妨害を引き起こす。Soたちはプロテオミクスのデータを用いて、TRAILによって引き起こされる細胞死に影響するキナーゼからなるタンパク質の相互作用ネットワークを地図化した。このネットワークを介した情報流れのモデル化は、癌細胞を殺して妨害を防ぐ、TRAILとの併用療法の開発に活用できる可能性のある標的を明らかにした。(KF,KU,kh)
Integrative analysis of kinase networks in TRAIL-induced apoptosis provides a source of potential targets for combination therapy (Sci. Signal. 8, rs3 (2015))
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