AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 20 2015, Vol.347


常に大型化している(Getting bigger all the time)

今日の世界では多くの動物種は大型であり、ごく最近絶滅した種の中にはもっと大きなものもあった。しかし、最初に誕生した動物は小さかった。このような大きさの増加は能動的な選択、あるいは 何かもっとランダムな過程によるものだったのだろうか? Heimたちは、コープの法則として知られている、体の大きさが増加するような選択が働いているとする古典的仮説を検証した。彼らは、5億年以上にわたる、17,000種以上の海洋動物種のデータを分析した。コープの法則を裏付けるように、からだの大きさ(体積)は、最初の動物の誕生以来、5桁以上大きくなっていた。さらにこのモデルは、そのようなものすごい増大がランダムな過程では生じ得なかったことを示唆している。(Sk,ok,nk,kh)
Cope-fs rule in the evolution of marine animals (Science, this issue p. 867)

正しい方向に進んでいるだろうか?(Are we heading in the right direction?)

グリッド細胞と呼ばれるある種の神経細胞は、複数位置で発火して、その動物の周囲の状況を表わす一定のパターンを形成する。これらの細胞は、その動物の走っている速度や動いている方向の情報を用いて、常にその位置を更新する。いわゆる頭部方向細胞は、動いている方向に関する信号を提供している。Winterたちは、目覚めて行動しているラットの神経細胞の活動を記録した。頭部方向細胞からの入力を遮断すると、グリッド細胞は正常に機能しなくなった。これらの知見は、頭部方向細胞からの信号が妨害されると、グリッド細胞はその特徴的な発火パターンを示さなくなるという理論的な予測を、実験的に裏付けるものである。(Sk,kh)
Disruption of the head direction cell network impairs the parahippocampal grid cell signal (Science, this issue p. 870)

中国は食料と環境の安全性に取り組んでいる(China addresses food and environment security)

中国の指導者は、持続可能な方法でより多くの食料を生産して需要増を満たすという困難な課題に取り組んでいる。Luらは、中国での食料の安定供給への要望の変化と共に、現在の大気、水及び土壌の状態について述べている。彼らは、国家の政策は科学に基づく「生態レッドライン」に依るべきであると主張している。「生態レッドライン」とは、食料の安定供給と安全な品質とを土壌、大気、水及び生物多様性資源の持続可能な管理とバランスをとることである。科学界は政策立案者と協力して、国や省及び地元の土地利用の実施が、確実にデータに基づいていることを保証する必要があるだろう。土地利用計画は長期的な結果を念頭に置いて作成され、施行されるべきである。(hk,KU,nk)
Science Advances 10.1126/sciadv.1400039 (2015)

立体配置力学の進化が機能に影響する(Evolution of dynamics affects function)

抗癌剤であるグリベックは Ablキナーゼを阻害する作用があり,複数の癌治療に用いられている.Ablキナーゼと近縁関係にある Srcキナーゼもまた,癌化の要因であるが,グリベックによる阻害効果がない.それでもやはり,グリベックが結合した Srcおよび Ablの構造はほとんど同じである.Wilsonたちはこの構造知見とタンパク質の配列データに基づき,Srcと Ablの共通祖先を再構成した.立体配置の力学に影響を及ぼす変異により,Ablに向かう進化の経路でグリベック親和性が獲得され,また,Srcに向かう進化の経路でグリベック親和性が喪失された.(MY,nk,kh)
Using ancient protein kinases to unravel a modern cancer drug's mechanism (Science, this issue p. 882)

構造を付加することにより光を減速させる(Slowing down light with added structure)

我々は、自由空間における光速は普遍的物理定数の一つ(c)である、と教えられている。Giovanniniたちは、今回、そのような確信を打ち砕くことが可能な、ある条件が存在することを示している(Sambles による展望記事参照)。単一光子からなる光ビームに空間的な構造付加により、光速が減少した。減少の大きさは、光子に加えた構造の複雑さに依存していた。(Sk,hk)
Spatially structured photons that travel in free space slower than the speed of light (Science, this issue p. 857; see also p. 828)

必須の負のフィードバックを見つける(Finding the necessary negative feedback)

銀河の進化は、その中心にある超大質量のブラックホールの成長と結びついているように思われるが、その理由は完全には明らかでない。いくつかのモデルでは、ブラックホールの成長が、星の形成を阻害するようなガスの流出につながることを示唆している。しかし、これまで、この負のフィードバックの十分な証拠が不足していた。Nardiniたちは、PDS 456というクエーサーの X線スペクトルに、強く絶え間ない流出ガスの特徴を見出した。彼らは、そのガス流は広い立体角に及んでいると推定している。そして、それは、狭いジェット状の流出よりもはるかに大きな影響を、そのブラックホールが存在する銀河に及ぼしている。(Wt,nk,kh)
Black hole feedback in the luminous quasar PDS 456 (Science, this issue p. 860)

日に照らされたメラニンの陰の側面(The dark side of melanin exposed)

日光浴愛好者には,海辺でくつろぐ間に起こる DNAの損傷よりも,さらに心配すべきことがあるのかもしれない.皮膚細胞の発癌性変異に関与する DNAの光生成物は,日光を浴びた後,数時間もその生成が続くらしい.Premiたちは,この遅延性損傷の重要な媒介役が,癌を防ぐと思われている色素のメラニンであることを見出している(Taylorによる展望記事参照).彼らは,紫外線で誘起された反応性の酸素と窒素種がメラニンフラグメント中の電子を活性化する「化学活性化(chemiexcitation)」モデルを提案している.このエネルギーが次に DNAに移行し,紫外線と同じ損傷を暗闇で引き起こす.もしかしたら,日焼け止めへのクエンチャー【訳注】添加で,このエネルギーを霧散させてしまうことができるかもしれない.(MY,KU,nk)
【訳注】
・クエンチャー:他の分子の活性化状態からエネルギーを奪い,活性化状態を消去させる微量添加された化合物
Chemiexcitation of melanin derivatives induces DNA photoproducts long after UV exposure (Science, this issue p. 842; see also p. 824)

遷移状態がポーズを保つ(A transition state holds a pose)

化学的変化過程の遷移状態は,エネルギー的に高い構造であるため,元々,その寿命は束の間である.それでも,Pearsonたちは修飾されたタンパク質を用いて,遷移状態の典型的な一例である結合回転の遷移状態を封じ込めた.ビフェニル分子では,そのベンゼン環同士が回転して互いに平行な配置になる時に、エネルギー極大状態を通過する.スレオニル-転移RNA合成酵素の編集領域の中にあるポケットを修飾することで,互いに平行なビフェニルのベンゼン環が安定化され,通常では過渡的なこの構造に対するさらなる解析が可能となった.(MY,nk,kh)
Trapping a transition state in a computationally designed protein bottle (Science, this issue p. 863; see also p. 829)

Pezが転移を抑制する方法(How Pez dispenses with metastasis)

腫瘍細胞は、自身の細胞表面により多数の増殖促進受容体を持っており、転移を促進する因子を遊離する。Belleたちは、タンパク質チロシンホスファターゼ PTPN14(Pezとも呼ばれている)が、受容体の細胞表面への移動と、転移促進因子が遊離されるのを妨げていることを見出した。Pezを欠いた乳癌の異種移植されたマウスは、より大きな腫瘍を持ち、そしてより多く転移していた。(KU,nk,kh)
The tyrosine phosphatase PTPN14 (Pez) inhibits metastasis by altering protein trafficking (Sci. Signal. 8, ra18 (2015))

より大きなスケールでの原子価と結合(Valency and bonding on a larger scale)

分子系において、原子価とは、或る1個の原子がその隣接する原子と作る結合の数を言う。コロイドのようなより大きな物体は結合して、連結構造を作り、そこでは結合の数、或いは原子価は中心となる物体によって制御されている。Jonesたちは、DNAに基づく物質合成による、強い結合を作る二つの主要な方法をレビューしている。これらの方法により、単一原子よりもはるかに大きな構築要素から分子様物体を作ることができる。(KU)
Programmable materials and the nature of the DNA bond (Science, this issue 10.1126/science.1260901)

疾病の構成単位を見出すネットワーク的アプローチ(A network approach to finding disease modules)

共有された遺伝子は、二つの疾病間の機構上の関係に関する強力な、しかし限定的な関連を示す。しかしながら、タンパク質間相互作用の解析は、インターラクトームマップの不完全さにより妨げられていた。Mencheたちは、疾病の構成単位(疾病に関連したタンパク質間の局在化した結合領域)が観察可能となるのに必要な数理的条件を定式化した。ある特定の閾値を越える範囲のデータを持つ疾病に対してのみ、その構成単位が同定可能である。構成単位のネットワークに基づく疾病距離を解析した結果、構成単位が重なり合うと予期された疾病のペアが、統計的に有意な分子的類似性を持つことが明らかになった。これらの類似性は、それらのタンパク質成分、遺伝子発現、症状、及び罹患率を包含していた。共有する疾患遺伝子を欠いている疾病間の分子レベルの関係もまた、同定されるであろう。(KU,nk,kh)
【訳注】
・インターラクトームマップ(interactome maps):細胞内のすべてのタンパク質間の物理的相互作用を統合するネットワークのマップ
Uncovering disease-disease relationships through the incomplete interactome (Science, this issue 10.1126/science.12576019

細胞運命を導く、ある相互作用(An interaction that guides cell fate)

Notchシグナルは、ほ乳類における細胞運命決定において重要である。このシグナル伝達は、ある細胞上の膜貫通Notchタンパク質の細胞外領域が、別のある細胞上の表面リガンドに結合する際に惹き起こされる。Lucaたちは、Notchとデルタ様のリガンド DLL-4との相互作用領域の結晶構造を報告している。Notchタンパク質はO-連結されたグリカン添加によって修飾され、これがシグナル伝達に必要とされる。この構造は2つの相互作用界面をもつ。グリカンは 低保存側の界面に固着し、これが、発生の際のNotch相互作用を制御する柔軟な手段を潜在的に提供するのである。(KF,kh)
Structural basis for Notch1 engagement of Delta-like 4 (Science, this issue p. 847)

量子的安定性を引き出す方法(A way to induce quantum stability)

古典的、量子的にかかわらず、動的な系においては所望の状態を維持し、性能を安定にする方法が必要である。例えば、コンピューター同士の通信においては、誤り訂正符号が必要であり、情報が正確に伝達されることを確実にしている。しかし、量子系においては、観測することそれ自体が状態を壊してしまう。Leghtasらは、量子系と周辺環境の相互作用を制御し、微妙な量子状態を定定化させる技術を開発している。量子情報処理をより簡略化できると期待される。(NK,KU,kh)
Confining the state of light to a quantum manifold by engineered two-photon loss (Science, this issue p. 853)

食べるにも食べないにも、飢え過ぎている(Too hungry to eat, too hungry not to eat)

膵β細胞は、食物への応答としてのインスリンの源であるが、栄養枯渇への順応のために、異常な仕組みを駆使している。Goginashviliたちは、β細胞は飢餓状態になると、新しく形成したインスリン顆粒を、細胞のゴミ処理ユニットであるリソソームとの融合を介して、選択的分解することを発見した(Rutterの展望記事参照)。栄養センサーである mTORがそれらリソソームに補充されて、その局所的活性化をもたらし、また細胞が自分自身の成分を「食べる」自食の抑制をもたらす。インスリン顆粒発生の主要な制御因子であるタンパク質キナーゼDが、栄養の豊富さに応答して、この顆粒分解を制御している。つまり、他のほとんどの細胞と違って、β細胞の飢餓への順応において、自己貪食は最適な戦略ではないのである。(KF,ok,nk,kh)
Insulin secretory granules control autophagy in pancreatic β cells (Science, this issue p. 878; see also p. 826)

薬剤同士がビタミンKを奪い合う(Drugs can compete for vitamin K)

あたりまえに処方されている抗凝固薬であるワルファリン投与中の患者は、その薬の活性を邪魔するビタミン Kを豊富に持っている葉物緑色野菜を摂らないよう忠告されている。Takadaたちはこのたび、コレステロール輸送体である Niemann-Pick C1-like 1 (NPC1L1)が、ビタミン Kの吸収におけるその役割を通じて、この図式をさらに複雑にしていることを示している。NPC1L1に作用するコレステロール低下薬、エゼチミブを与えられた動物においては、ワルファリン活性は増強された。それは、ビタミン Kが正常に吸収されなかったからである。そうした動物にビタミン Kを与えると、ワルファリン活性は正常レベルに戻った。患者においても、ワルファリン作用は、エゼチミブと一緒に摂ると増強された。この薬剤同士の相互作用は、エゼチミブ(あるいはビタミンの吸収を変える似た薬剤)を与えられている患者にワルファリンを処方する際、重く考慮すべきものである。(KF,ok)
NPC1L1 is a key regulator of intestinal vitamin K absorption and a modulator of warfarin therapy (Sci. Transl. Med. 7, 275ra23 (2015))

母は何でも知っている(Mother knows best)

動的な自然環境は、生まれ育つには困難な場所である。多くの種では、しかしながら、母が生きている環境が、その子孫が成長する環境を事実上決定する。そうした母性効果が、重要な環境情報の何代にもわたる交換を促進している。Duckworthたちは、母親自身の環境への生理的応答が、我々が考えている以上に、より複雑な情報を伝える事につながっていることを明らかにしている(Dantzerによる展望記事参照)。メスのチャカタルリツグミ(western bluebird)は、巣の場所の奪い合いが厳しくなると、より多くのアンドロゲンを卵に注ぎ込むことになる。その結果、より活動的ななオスの仔が産まれ、遠くまで移動して、新たな、あまり混んでいない生息地で繁殖する。(KF,KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・アンドロゲン:雄性ホルモン作用を持つステロイドホルモンの総称
Cycles of species replacement emerge from locally induced maternal effects on offspring behavior in a passerine bird (Science, this issue p. 875; see also p. 822)
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