AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 28 2014, Vol.343


ドリップからチューブへ(From Drips to Tubes)

水生の生息地から陸生の生息地への進化の変わり目において、植物は、水分を運搬したり構造を支えるための内部システムを獲得した。Xuたち (p. 1505, 3月20日号電子版)は、乾燥地での適応に必要とされるイノベーションを解明するために、一群の遺伝子とそれらが制御する細胞を研究した。シロイヌナズナにおいて、 特定の転写因子が水分を運搬する植物組織である木質部(xylem)の発生を調整している。苔の一種、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)は類似な遺伝子を持っており、ハイドロイド(hydroid)やステライド(stereid)と呼ばれる、水分運搬や構造支持に特化した細胞の発生を制御している。遺伝子やそれらの機能の類似性は、陸上植物の維管束系の進化的起源を示唆している。(TO,KU,nk)
Contribution of NAC Transcription Factors to Plant Adaptation to Land

ブラウン運動を超えて(Beyond Brownian Motion)

長時間のスケールでは、液体中を拡散する粒子のランダムなブラウン運動は、 Einsteinらによって研究された理論によってよく説明できるが、瞬間、もしくは短時間のスケールでの振る舞いの観察や分析ははるかに困難であった。Kheifetsたちは (p. 1493)、非常に感度の良い位置検出手段と十分に収集されたデータを結びつけることによって、ビーズ-液体間相互作用の特性時間よりも短い時間スケールにおける液体中のミクロビーズのブラウン運動を探った。(Uc,nk)
Observation of Brownian Motion in Liquids at Short Times: Instantaneous Velocity and Memory Loss

子供の世話について(Look After the Child)

学校教育の期間だけでなくそれ以後の時期においても、子供への投資が彼らの生活を向上させることが示されてきた。それは就職や収入などの投資結果を通じて検証されている。その上、子供たちへの投資は支援を最も必要としている子供たちをしばしば救っている。Campbellたちは (p. 1478)、これらの投資が大人になった際の健康の向上にもつながっている可能性があることを報告している。1970年代に募集された4つのコホート集団に属していた122人の子供たちが関与した、ランダムかつ徹底的な調査から得られた結果によって、人生の最初の5年間に一日中世話をされた場合、その子供の30才台において、代謝上・心臓循環系上の健康診断においてより良い結果がもたらされたことが示された。(Uc,KU,nk)
【訳注】
・コホート(cohort):年齢、収入等の共通点を持つ群
Early Childhood Investments Substantially Boost Adult Health

腸の免疫寛容(Gut Immune Tolerance)

絶えず食物抗原や,そこに棲み着いている何十億もの微生物からの攻撃に曝されているので,腸は免疫寛容性の重要な部位である。Morthaたちは,遺伝子改変マウスの特定の腸免疫細胞集団の研究により,腸マクロファージが腸内微生物叢由来の信号に応答して,サイトカインの1種であるインターロイキン-1 (IL-1)を産出することを見出した(p. 10.1126/science.1249288, 3月13日発行電子版; AychekとJungによる展望記事参照)。IL-1は,腸内の3型自然リンパ球(innate lymphoid cell)に作用し,それにより,その後,サイトカインの1種であるコロニー刺激因子2 (Csf2)が産出される。Csf2は次に,骨髄性細胞(樹状細胞とマクロファージを含んでいる)を誘発し,レチノイン酸やインターロイキン-10のような制御因子が産出され,この制御因子が制御性T細胞の転換や伸長を助長する。制御性T細胞は腸内の免疫寛容の維持に重要な役割を果たしていることが知られている細胞群である。(MY,nk)
【訳注】
・免疫寛容:特定抗原に対し,免疫細胞による排除がおきないこと
・サイトカイン: 細胞から放出され、細胞間相互作用に関与するタンパク質の伝達物質
Microbiota-Dependent Crosstalk Between Macrophages and ILC3 Promotes Intestinal Homeostasis

ミトコンドリアのリボソーム(Mitoribosomes)

ミトコンドリア(全ての真核細胞で見出される)は、彼らの遺伝子のほとんどを核のゲノムに転写した。核に局在化したミトコンドリアの遺伝子は発現し、細胞質中で翻訳され、その結果としてのミトコンドリアタンパク質はミトコンドリア中に移入される。にもかかわらず、少数の遺伝子は、ミトコンドリア内のミトコンドリアゲノム中にとどまっており、そしてこれらの遺伝子はミトコンドリアのリボソーム(mitoribosomes)によって翻訳される。Amuntsたち (p. 1485; Kuhlbrandtによる展望記事参照)は単粒子低温電子顕微法を用いて、酵母の mitoribosomesの構造を決定した。mitoribosomesは細菌や真核生物のリボソームとは大きく異なっている、例えば、新しく合成されたペプチドに対する特有の出口チャンネル、及びミトコンドリア膜に mitoribosomesをアンカーするのに役立つような膜に向いた突起構造を持っている。(KU,nk)
Structure of the Yeast Mitochondrial Large Ribosomal Subunit

ディスクからの一方的な話(One-Sided Story from Disk)

太陽系に似た若い天体においては、彗星や発生初期の惑星の侵食が進むことにより、塵だらけのデブリが生成される。そして、このデブリはやがては中心星により吹き飛ばされる。また、揮発性の氷が昇華するときは、ガスもこのプロセスで放出されるであろう。しかしながら、これはそう頻繁に検出されることはない。Dentたち (p. 1490, 3月6日付電子版; Brandeker による展望記事参照) はAtacama Large Millimeter/Submillimeter Array を用いて、ダストと一酸化炭素からなる高い非対称性を示すディスクの画像を得ている。このダストや一酸化炭素は、惑星を持つ星である β Pictoris の周りを周回している。ガスとダストの分布は、これまで提案された二つのシナリオと整合している。一つは、外側に移動しつつある惑星が、星の反対側の二つの集塊中にあるダスト放出天体を共鳴現象によって捕捉したというもの。もう一つは、デブリ集団全体が、火星の大きさの天体の最近の一回の衝突による結果であるというものである。(Wt,nk)
Molecular Gas Clumps from the Destruction of Icy Bodies in the β Pictoris Debris Disk

量子プラズモニクスを制御する(Controlling Quantum Plasmonics)

空洞共振器間の電子トンネル現象は、量子プラズモンモードを誘起する。これは、ナノエレクトロニクス、触媒反応、非線形光学、単一分子センシング等の中核技術と成り得る可能性を秘めているが、現在の最先端技術をもってしても実現困難な微小領域で発生する現象であると考えられていた。Tan等は(p. 1496; Nordlanderの展望記事参照)、自己組織化単一分子膜で連結された銀ナノキューブからなるプラズモン2量体を用いて、共振器間の量子プラズモントンネル現象を観測するとともに、分子トンネルジャンクションを選択することによってトンネルプラズモン共鳴の周波数を制御することに成功した。しかも、この効果は既存技術で実現可能なサイズ領域で実証されたのである。(NK,KU,nk)
Quantum Plasmon Resonances Controlled by Molecular Tunnel Junctions

水理的サーモスタット(Hydrologic Thermostat)

地球内部のケイ酸塩に富んだ岩石や鉱物が隆起して地表に露出すると、それらは溶解する。地質学的時間スケールでは、この化学風化のプロセスは最終的に O2の吸収源を形成し、地球規模の気温に影響を与える。MaherとChamberlainは(p. 1502, 3月13日号電子版)、風化、地殻変動、および地質学的炭素サイクル間の基本的な関係を理解するための、理論的な枠組みを開発した。解析結果によれば、気温は化学風化(それは地殻の隆起と侵食のバランスに依存する)を制御する役割というより、大陸の地表水の量やケイ酸塩鉱物が流体にさらされる時間に関与しているとみられる。増加する地表水あるいは気温による風化フラックスの安定化が、隆起あるいは侵食の大きな速度にもかかわらず、大気中の CO2濃度の安定化を可能にしている。(Sk,nk)
Hydrologic Regulation of Chemical Weathering and the Geologic Carbon Cycle

光学的な角度選択(Optical Angular Selection)

単色の電磁平面波は、一般に三つの特性(波長、偏光、伝播方向)により特徴付けられる。はじめの二つの特性に基づく光信号の選択は徹底的に研究されているが、方向に基づく選択は、同様に重要でありながら、あまり研究されていない。Shenたちは(p. 1499)、ヘテロ構造のフォトニック結晶を用いて、広い波長範囲にわたって狭い角度選択性を提供する単純な方法を実証している。その結晶は非常に限られた範囲の視野角では透明だが、それ以外の角度では全て鏡として機能する。そのような角度選択には、例えば高効率の太陽エネルギーの変換、プライバシー保護システム、高いSN比の検出器など、多くの用途が見つかるはずである。(Sk,KU,nk)
Optical Broadband Angular Selectivity

攻撃と反撃(Move and Countermove)

植物細胞の表面にある受容体は,病原菌に関係する分子パターンを認識するよう調整されている。Machoたちは (p. 1509; 3月13日発行電子版) ,シロイヌナズナにあるこれらの受容体の1つを活性化すると,特定のチロシン残基がリン酸化され,これが次に植物の病原性細菌であるシュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)に対する免疫応答のトリガーとなることを見出した。シュードモナス・シリンゲは,特定標的を脱リン酸化する酵素を分泌して反撃することで,植物の免疫応答を停止させている。(MY)
A Bacterial Tyrosine Phosphatase Inhibits Plant Pattern Recognition Receptor Activation

生殖細胞を特殊にする(Keeping Germ Cells Special)

生殖細胞は、後生動物の初期発生の際に体細胞系列から分離する。Eunたち (p. 1513)は、ショウジョウバエの生殖細胞が、ポリコーム群の成分 E(z)が体細胞中で不活性化されると、成体の精巣内でそのアイデンティティを失い、体細胞-特異的なマーカーの発現に向かうことを見出した。しかしながら、生殖系列の幹細胞を含む初期段階の生殖細胞のみが、この可塑性を保持している。このように、雄の生殖腺における体細胞の役割の一つは、生殖細胞中にある体細胞の固有性を無効にする。(KU,ok,nk)
A Non?Cell Autonomous Role of E(z) to Prevent Germ Cells from Turning on a Somatic Cell Marker

概日リズム(Circadian Rhythms)

ショウジョウバエにおける概日リズムは、脳のニューロンによって駆動されている。YaoとShaferは、概日リズムを駆動するいくつかの異なるニューロン集団を分析した(p. 1516)。それぞれのニューロン集団の周期を別々に操作することによって、多様な時計信号がかなり一致している場合には、ハエは頑強な概日リズムを示すことが明らかになった。しかし、多様な時計信号が互いに同期から大きくずれているときには、ハエは昼と夜の周期を忘れてしまった。(KF)
The Drosophila Circadian Clock Is a Variably Coupled Network of Multiple Peptidergic Units

移住をモニターする(Monitoring Migration)

移住民の「ストック」データ、すなわち、母国以外のある国に住んでいる人の数、が、国際的な移住に関する現状のトレンドを理解するのにしばしば用いられるが、そのデータはひどく限定されたものだ。AbelとSanderは、5年間隔での経時的ストックデータから推定された、グローバルでの二国間の移住の流れを提示している(p. 1520)。5年間に移動した世界の人口のパーセンテージは、1995年と2010年の間で劇的な変化を示していなかった。アフリカ各国出身の人びとは、アフリカ大陸内で移動する傾向があったが、欧州出身の人びとは、非常にさまざまな場所に移動する傾向を示した。(KF,ok)
Quantifying Global International Migration Flows
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