AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 21 2014, Vol.343


ほら、ご近所だよ(There Goes the Neighborhood)

定常状態における質量降着ブラックホールは、それの重力と平衡となる以上の輻射エネルギーを生成することはできない。ブラックホールが放射できるこの極大光度は Eddington 限界として知られている。しかしながら、質量降着は輻射エネルギーに転換されるばかりでなく、また、力学的な物質流出という形で運動エネルギーにも変換され得る。Soria たち (p. 1330, 2月27日付電子版; King による展望記事と表紙を参照のこと) はX線観測を用いて、渦状銀河 M83 中に衝撃波でイオン化された小型の電波/可視光星雲を同定した。この星雲は、ブラックホールからの流出ガスが作った衝撃波から活動エネルギーを得ている。彼らはブラックホールからのガス流は球対称で、その運動エネルギー流は Eddington 限界を10倍も超えていると推測した。また、それの質量は、太陽質量の 5〜15倍の範囲にあると推算することができた。急速に降着が起きているブラックホールは、それが存在する銀河に対して、以前予想されていたよりも大きな影響を有している可能性がある。(Wt,KU,nk)
【訳注】
・Eddington limit(エディントン限界):力学平衡にある星が定常的に放出できる最大の放射光度
Super-Eddington Mechanical Power of an Accreting Black Hole in M83

火星の隕石の起源(Sourcing Martian Meteorites)

ほぼ150個の認められた火星隕石があるが、それらが火星のどこからやってきたかは正確にはわからない。 Wernerたち(p. 1343, 3月6日号電子版)は、火星の500万年前のモハベ(Mojave)衝突クレーターが、火星隕石の一つのタイプ、シャーゴッタイト(shergottites)の単一の放出位置であるという証拠を示している。モハベクレーターは火星の大昔の地形上に形成されており、それ故にシャーゴッタイト隕石は古い火星の地殻物質を表している。(hk,KU,nk)
The Source Crater of Martian Shergottite Meteorites

生産性をもたらす塵(Productive Dustiness)

海洋表面における生物学的生産性が利用可能な鉄の不足によって制限されているという考えは、広く受け入れられているが、しかしこの鉄の影響が地質学的過去にも作用していただろうということを示すことは困難であった。Martinez-Garciaたち (p. 1347)は、海洋掘削プロジェクト(Ocean Drilling Project)の堆積層コアからの試料中における有孔虫の殻に結合した窒素の同位体成分を調べ、そして硝酸塩消費の1000年スケールの変化が鉄分の沈降フラックスと生産性の代用指標とに相関することを、過去16万年間に渡って見出した。このことから、南洋における生物学的ポンプは、塵が海に沈降する量が高いときに強まり、これは氷期サイクルを通して起こっていると観測されている大気中炭酸ガス濃度の差異のかなりの部分を説明するものである。(KU,nk)
Iron Fertilization of the Subantarctic Ocean During the Last Ice Age

細胞学的に有益な化石(Cytologically Informative Fossils)

化石化のプロセスは繊細な細胞構造を破壊へと導く。しかし、Bomfleurたち (p. 1376)は、珍しく、核や染色体を含めて良く保存されている化石の細胞内構造をジュラ紀のシダ類の化石で見つけた。比較解析と定量的解析は、これらの細胞が現存するシダ類のシナモン、ヤマドリゼンマイ目のシナモン(Osmundastrum cinnamomea)の化石の核に極めて似ていることを示している。このことは、このシダのグループが、1億8千万年の間、実質的に変化していなかったことを示唆している。(KU,nk,ok)
Fossilized Nuclei and Chromosomes Reveal 180 Million Years of Genomic Stasis in Royal Ferns

世界の匂いの全て(All the Smells of the World)

標準的な人間は、どのくらい多くの匂い刺激を識別できるのだろうか? Bushdidたちは (p. 1370),混合した匂いを識別する心理物理的試験の中で,人間が1兆以上の異なる臭いを識別できることに気付き、驚嘆した。本研究の著者たちは,収集した128の匂い分子から抽出した10種,20種ないしは30種の成分の混合物のみを調べることで,匂いの複雑さを軽減させたために,人間が区別可能な潜在的な匂い刺激数は,多分,この驚くべき大きな数値以上になると思われる。(MY)
Humans Can Discriminate More than 1 Trillion Olfactory Stimuli

捕食が寄生を好む(Predation Favors Parasitism)

トリにおける寄生は、宿主のひなの追い出しや飢餓に導く。結果として、多くの宿主であるトリの種は群れを形成したり、寄生する卵の除去等の防御行動を進化させた。奇妙なことに、宿主の種のなかには、寄生に対する回避行動を示さないものもいる。例えば、ハシブトカラスは、自分自身のひなの中にいるカッコーのひなを許容する。長期間の研究において、Canestrariたち (p. 1350)は、カッコーのひなのいるハシブトカラスの巣ではヒナが捕食される割合が低く、それは寄生のカッコーのひなが有毒な、敵を寄せ付けない物質を分泌しているためであることを発見した。全体として、高い捕食圧の年では、カッコーの存在がカラスの子育て成功を良くし、しかし周りにカラスの捕食肉食動物が少なくなると、寄生がカラスの適合性を低くする。(KU,nk,ok)
From Parasitism to Mutualism: Unexpected Interactions Between a Cuckoo and Its Host

電極触媒の性能を向上する(Giving Electrocatalysts an Edge)

白金(Pt)は,燃料電池や電解槽中での酸素還元反応(ORR)用の優れた触媒であるが,高価過ぎ,また,希少過ぎるため,たとえPtナノ粒子として炭素電極担体に分散させた形態(Pt/C)でも,広範に展開するのが困難な状況にある。その代替えとして,Chenたちは(p. 1339, 2月27日発行電子版; Greerによる展望記事参照),ひし形12面体のPtNi3ナノ結晶の内部を溶出させ,白金リッチのPt3Niエッジを残す方法で,高い活性を持つORRを作った。これらのナノフレーム触媒は耐久性が高く(10,000回の充放電サイクルの後も触媒活性を維持),Pt/Cより遥かに活性が高い。(MY,nk,ok)
Highly Crystalline Multimetallic Nanoframes with Three-Dimensional Electrocatalytic Surfaces

協調による発毛(Coordinated Hair Growth)

Wnt/β-カテニンシグナル伝達は重要なシグナル伝達経路で,成体における組織再生時の幹細胞機能の制御において進化的に保存された役割を果たしている。生きたマウスの低速度撮影イメージングを用い,Descheneたちは(p. 1353),毛包幹細胞中にあるβ-カテニンの遺伝子活性化が,たとえ正常なニッチ(真皮乳頭)がレーザ切除された場合でも,細胞分裂と細胞運動を協調させて発毛根を生成することを明らかにしている。活性化されたβ-カテニンにより,Wnt配位子の分泌が高まり,その後,これらの配位子により,活性化されたβ-カテニンを有していない隣接する細胞中のWntシグナル伝達の活性化が可能となる。これは,正常成長の間や癌状態において,活性化された幹細胞が,どのようにして隣接する細胞に影響を及ぼすことができるのかを示している。(MY,nk)
β-Catenin Activation Regulates Tissue Growth Non?Cell Autonomously in the Hair Stem Cell Niche

HIVの病原性(HIV Virulence)

HIVに関する研究の主要な焦点は、感染への宿主応答についてである。当然ながら、ウイルスは免疫系をターゲットにしていて、かつワクチン開発における関心のためである。それに対して、これまで僅かにしか行われていない、ウイルス自体の病毒性を決定する要因に対する研究のレビューにおいて、Fraserたち (10.1126/science.1243727)は、長期的死亡率、潜伏期、急激な宿主内の進化、及び宿主間の病原性の遺伝等、HIVを特徴づける、しかし理解が不十分な現象の幾つかに対して進化的な説明を与えている。(KU,nk,ok)
Virulence and Pathogenesis of HIV-1 Infection: An Evolutionary Perspective

同期化のために振動する(Oscillate to Synchronize)

社会性アメーバである細胞性粘菌においては、低分子の環状アデノシン一リン酸(cAMP)の周期的な波が、走化性の移動や細胞分化を誘導する。Cai たちは(10.1126/science.1249531;Wollman による展望記事参照)、 Gタンパク質-結合受容体を介して作用する振動性の cAMPのシグナルに応じて、GATAファミリー転写因子がアメーバの核と細胞質の間を行き来していることを見出した。遺伝子発現が刺激のレベルよりむしろその数に関連しているように、それぞれの振動が遺伝子活性の瞬間的な激化を引き起こし、それによって次に細胞集団における転写の同調が引き起こされる。(Sk)
Nucleocytoplasmic Shuttling of a GATA Transcription Factor Functions as a Development Timer

超高速で操る(Ultrafast Manipulation)

マルティフェロイック物質は磁性と強誘電性の両方を示す材料であり、電場をかけることにより磁気配向を操作することが可能であり、逆もまだ同様である。Kubackaたちは (p. 1333, 3月6日号電子版)、エレクトロマグノン(電荷秩序と磁気秩序に起因する励起)に共鳴する強力なテラヘルツ電磁パルスを作用させ、サブピコ秒の時間スケールでマルティフェロイック物質であるTbMnO3のスピンダイナミクスを制御し、この材料のスピンサイクロイド平面の回転を引き起こすことに成功している。(NK,nk,ok)
【訳注】
・マルティフェロイック物質(Multiferroic materials):強磁性、強誘電性や強弾性などの強的(ferroic)な特性を複数、同一系内でもっている物質群のことで、最近、注目されている。
Large-Amplitude Spin Dynamics Driven by a THz Pulse in Resonance with an Electromagnon

銅塩の擬ギャップ(The Cuprate Pseudogap)

銅酸化物超伝導体の特性は化学的ドーピングにより変化するが、もしドーピングが最適量以下であると、転移温度Tcは低下する。逆に、それが超伝導に関係するとは限らないが、フェルミ準位近傍の状態密度の谷間、いわゆる擬ギャップが強まる。銅塩である YBa2Cu3O6+xは、低温側と高温側のどちらからTcに近づけても、電荷密度の秩序の増大を示す。Haywardたちは(p.1336)、超伝導と電荷秩序の両者を含む、6成分の秩序パラメータの古典的ゆらぎによるモデルを開発した。それはx-線散乱強度の特徴的なくぼんだ温度依存性を再現し、それにより擬ギャップ状態の理解するための枠組みを提供している。(Sk)
Angular Fluctuations of a Multicomponent Order Describe the Pseudogap of YBa2Cu3O6+x

生と細胞死(Life and Cell Death)

動物をある一つの型の細胞死から守ろうとすることが、別の型の死をもたらす可能性がある。RIPK1とRIPK3として知られる2つのタンパク質キナーゼは、ネクロプトーシスによる細胞死をもたらすシグナル伝達を促進する。しかしながら、Newtonたちは、RIPK3の抑制が必ずしも有益であるとは限らないことを発見した(p. 1357, 2月20日電子版; またZhangとChanによる展望記事参照)。そうではなくて、触媒活性を持たないある型のRIPK3を発現するマウスは、アポトーシス細胞死の増加により死亡したが、RIPK3タンパク質を完全に欠く動物は、おそらくRIPK3が、独立したメカニズムによるカスパーゼ-8によって仲介されるアポトーシスを制限するために、死ななかった。(KF,KU,ok)
【訳注】
・ネクロプトーシス:壊死と似ている特徴をもつ細胞死
Activity of Protein Kinase RIPK3 Determines Whether Cells Die by Necroptosis or Apoptosis

in situでの可視化(Visualized in Situ)

多くの進展結果にもかかわらず、単細胞の配列決定に対する今日の方法では、細胞内での転写物の位置を決定できない。そこで、Leeたちは、生体内で作用して細胞内のメッセンジャーRNAの局在性を明らかにするために、蛍光性のin situ RNA配列決定法(FISSEQ)を開発した(p. 1360, 2月27日号電子版)。この方法は、rolling circle amplification法によって相補性のDNA標的を増幅させ、次に、in situでの架橋結合によって単位複製配列をロックし、3次元配列決定のための豊富で高度に局在化した鋳型を生み出す。この技法は、線維芽細胞において試され、傷の修復の際の、個々の細胞間の差異を明らかにした。(KF,KU,nk,ok)
【訳注】
・rolling circle amplification法:環状DNAを鋳型として用い,一定温度でポリメラーゼ反応を行い,長鎖の一本鎖DNA(あるいはRNA)を指数関数的に増幅させる方法
Highly Multiplexed Subcellular RNA Sequencing in Situ

連続する突然変異(Serial Mutation)

遺伝子機能に影響を及ぼし、究極的に、生物の表現型に影響をもたらす変異は、進化をもたらす材料である。長期にわたる突然変異実験の際に細菌で観察された、安定な多形性の遺伝的基礎を検討する中で、Plucainたちは、相乗的上位性があり頻度依存の相互作用を示す、3つの特異的かつ連続的な突然変異イベントを同定したが、これが一つの系統が別の系統に侵入し、そこで維持されることを可能にした(p. 1366, 3月6日号電子版)。つまり、一連の特異的突然変異が侵入表現型をもたらし、また、すべての突然変異が存在するときに限って新たな供給源を利用できるようにしたのである。(KF,ok)
Epistasis and Allele Specificity in the Emergence of a Stable Polymorphism in Escherichia coli

傷害における転位置(Translocation in Injury)

輸送体タンパク質TSPOは、コレステロールとポルフィリンをミトコンドリアに移入するのに必須である。TSPOの発現は脳障害の領域や神経興奮の際に増加するので、つまりは、診断上、治療上の意味をもっている。Jaremkoたちは核磁気共鳴分光法を用いて、リガンドPK11195(これは構造を安定化させる)を備えた18キロダルトンの哺乳類TSPOの高分解能構造を決定し、5つのらせん体のきつい束としての高次構造を明らかにした(p. 1363)。(KF,KU)
Structure of the Mitochondrial Translocator Protein in Complex with a Diagnostic Ligand

現実のネットワークの制御(Real Network Control)

複雑なネットワークがいかに制御されているかを理解することは、交通安全から転写制御まで、多様な現実世界のネットワークについての理解のヒントになる。RuthsとRuthsは、情報の流れにとっての多くの情報発生場所と情報消失場所に基づくネットワーク内の個々の制御を解析する枠組みを開発した(p. 1373; またOnnelaによる展望記事参照)。この方法によって、ネットワークが必要とする制御の数が予想可能になり、サイズや構造、機能の違うネットワークにわたって、制御の基礎の直接比較が可能になった。現実のネットワークの3つの大きなクラスが観察されたが、ネットワークに関する現行の確立されたランダムモデルは、それらの制御構造をモデル化するには不十分であった。(KF)
Control Profiles of Complex Networks
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