AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 20 2013, Vol.342


植物進化の形成(Shaping Plant Evolution)

被子植物のアンボレア(Amborella trichopoda)は,現存する顕花植物の中で最も原始的なものと考えられていて,そのゲノムは地球上の植物生命体の進化解明への手掛かりになるものと期待されている(Adamsによる展望記事参照)。その遺伝子配列を確証し,構築するため,Chamalaたちは,蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH),ゲノムマッピング,次世代配列決定技術(next-generation sequencing)を組み合わせた(p. 1516)。アンボレア・ゲノムプロジェクト(Amborella Genome Project)により,全ゲノム重複の事象が,この祖先の被子植物の進化に先行して生じたことが推測され(p. 10.1126/サイエンス1241089 ),また,Riceたちは,ミトコンドリア遺伝子の多くが,遺伝子の水平伝搬により他の植物から獲得されたことを見出した(p. 1468)。ここには,コケ類と藻類からほぼ完全な形で伝搬された4つのミトコンドリア遺伝子が含まれている。(MY,KU,kj)
【訳注】
・Amborella trichopoda:ニューカレドニアに生育する常緑の低木植物
・蛍光 in situ ハイブリダイゼーション:目的の遺伝子を,蛍光物質や酵素などで標識したオリゴヌクレオチドプローブと複合体化させ蛍光顕微鏡で検出する方法
・次世代配列決定技術:低コストのゲノム配列決定に対する次世代技術で,並列的に配列決定を行う方法
・全ゲノム重複:ゲノム全体が重複して,全遺伝子セットが2倍にコピーされる現象
・遺伝子の水平伝搬:母細胞から娘細胞への遺伝ではなく、種を越えた個体間で起こる遺伝子の取り込み
Assembly and Validation of the Genome of the Nonmodel Basal Angiosperm Amborella
The Amborella Genome and the Evolution of Flowering Plants

太陽系外惑星の重さを測る(Weighing Up Exoplanets)

惑星の質量を知ることは重要であるが、太陽系外の惑星の質量決定は困難である。de Wit と Seager (p.1473) は、太陽系外の惑星の大気を親星の光が透過した時の吸収スペクトルが得られれば、スペクトル解析から分かる大気の特性に基づいて、その質量を決定することが可能であることを示している。この方法は、明るく大きな恒星の周りを軌道運動する低密度の惑星に向いており、他の質量探索方法に対して相補的なものである。(Wt,nk)
Constraining Exoplanet Mass from Transmission Spectroscopy

敵を知ること(Knowing the Enemy)

HIV-1による宿主細胞の感染は、ウイルスの表面にあるエンベロープ糖タンパク質 (Env)三量体のスパイクによって仲介される。Env三量体を構成しているタンパク質は感染に際して切断される必要があり、結果としてウイルスの融合には3つの Envの構造が関与している。Env三量体の構造は三量体の機能の理解とワクチン設計の指針の双方に対する鍵であるが、Env三量体の可撓性から、高分解能の構造を決定することが困難であった。Lyumkisたち (p. 1484) と Julienたち (p. 1477)は、特異的変異により安定化され、しかしほぼ元の抗原特性を保持している可溶性の切断された三量体を調べた。Lyumkisたちは広範な中和抗体との複合体における三量体の高分解能構造を報告しており、Julienたちは別の広範な中和抗体との複合体における三量体の結晶構造を報告している。(KU)
Crystal Structure of a Soluble Cleaved HIV-1 Envelope Trimer
Cryo-EM Structure of a Fully Glycosylated Soluble Cleaved HIV-1 Envelope Trimer

ウォータジェット中での緩和(Relaxing in a Water Jet)

液体の水とその溶質の高エネルギー照射は、強力な化学的還元体として作用する電子を瞬間的に遊離するが、しかしその電子を正確に解析することは困難な課題である。Elkinsたち (p. 1496)は、液体と気体との間のギャップを結びつけるために、液体ジェットにおける水和電子のダイナミクスに関する光電子分光法による結果を報告している。その結果は、溶媒シェルの完全緩和の前に、電子励起状態から基底状態への急速な遷移を明らかにしている。(hk,KU)
Relaxation Mechanism of the Hydrated Electron

塩に圧力をかける(Salt to Squeeze)

食卓塩NaClは、NaとClの大気条件下で唯一知られている安定相である。圧力と高温下におけるその構造と化学的特性を理解する以前の取り組みにより、NaとClが1対1のバランスを保つ場合に起きる相転移と結合の遷移は明らかにされた。結晶構造推定アルゴリズムを用いて、今回Zhangたち (p. 1502;Ibanez Insaによる展望記事参照)は、Na3Cl, Na2Cl, Na3Cl2, NaCl3,そして NaCl7 などの他の結合も、ある圧力範囲に渡ってNaClと同様に安定であることを示している。(TO,KU,nk,kj)
Unexpected Stable Stoichiometries of Sodium Chlorides

数の力(Power in Numbers)

托卵する鳥は、彼らの子孫を繁栄させるために特定の鳥の種を標的としており、しばしば里子家族に多大な犠牲を与える。Feeneyたち(p. 1506; Spottiswoodeによる展望記事参照)は、托卵の全世界の分布を分析し、複数の分類群(taxa)にまたがる協同繁殖の発生率との相関を発見した。たとえば、ルリオーストラリアムシクイ(Australian fairy wren)は、単独でも協同繁殖するグループの中でも子育てを行う。しかし、グループでの育児は、孤立したつがいよりも托卵に対してうまく抵抗できる。このことは協同繁殖の普及が、托卵に対する対応を示唆している。(TO,KU,kj)
【訳注】
協同繁殖(cooperative breeding):自分の子ではない子供の世話をする個体が存在する繁殖形態
Brood Parasitism and the Evolution of Cooperative Breeding in Birds

Gの構造(G Structures)

G タンパク質-共役型受容体 (GPCRs)は、真核生物の膜タンパク質であり、細胞の情報伝達における中心的役割を果たし、そして極めて重要な薬物標的になっている。GPCRsの結晶成長の困難さを克服するために、Liu etたち (p. 1521)は x線自由電子レーザを用いて、微結晶からのセロトニン受容体の高分解能の構造を決定した。(KU)
【訳注】
セロトニン:生理活性アミンの一種、神経伝達物質
Serial Femtosecond Crystallography of G Protein?Coupled Receptors

酵素ドリル(An Enzyme Drill)

セルラーゼは,セルロースをその構成糖のフラグメントに断片化することで植物の細胞壁を分解する酵素で,バイオ燃料の製造に対して,注目が集まっている。Bruneckyたちは透過電子顕微鏡を用いて,特に活性の高いセルラーゼである,Caldicellulosiruptor bescii bacteriaが作る CelAは,基質の表面を移動せずに,セルロースに穴を開け,空孔を形成するすることを発見した(p. 1513; see the Perspective by Berlin)。(MY)
【訳注】
・Caldicellulosiruptor bescii bacteria:好熱嫌気性セルロース分解細菌の1種
・CelA:分子内部から切断するエンドグルカナーゼに属するセルラーゼ
Revealing Nature’s Cellulase Diversity: The Digestion Mechanism of Caldicellulosiruptor bescii CelA

ユビキチンによる受胎能力の保険(Ubiquitin Fertility Insurance)

哺乳類のメスの生殖可能期間は、生まれて早期に産生される卵巣の原始卵胞の貯えによって決定される。Yuたちは、マウスにおいて、ユビキチンE3連結酵素複合体であるCRL4が、原始卵胞内での卵母細胞の生存と受精後の発生とに必須であることを見いだした(p. 1518)。CRL4はユビキチン化を仲介するアダプタータンパク質に結合し、それを活性化するが、なんらかの成分が除去されると、卵母細胞の維持と初期胚発生とに必要とされる遺伝子がサイレンシングされ、メスのマウスは不妊になる。(KF,kj)
CRL4 Complex Regulates Mammalian Oocyte Survival and Reprogramming by Activation of TET Proteins

スピンベリー位相(Spin Berry's Phase)

量子力学系において、磁界のように状態に影響を及ぼすパラメーター空間中を断熱的に循環運動すると、その波動関数は元の状態には戻らず、付加的な余分な位相を持つようになる。ベリー位相と呼ばれるこの物理量は、パラメーター空間のトポロジカル特性に依存しており、グラフェンやビスマスといった材料中にて観測されている。Murakawaらは (p. 1490)、BiTeI材料がベリー位相値πを示すことを明らかにしている。いわゆる、ラシュバ効果によって生じるスピンと軌道の自由度との強力な相互作用の結果もたらされると予言されていた現象である。(NK,KU)
Detection of Berry’s Phase in a Bulk Rashba Semiconductor

振動を通してのアクセス(Access via Vibration)

過去十年以上の分子線の研究により,基本的化学反応の結果に及ぼす振動励起の影響を支配している量子力学的な微細な因子の多くが解明されてきた。しかしながら,これらの研究では,一般的に,赤外光(IR)の吸収で容易に直接振動が生じる試料に焦点を当てる必要があった。Wangたちは,誘導ラマン励起を変化させると、二原子分子である重水素化水素(HD)のIR不活性な伸縮振動が効率的に励起されることを示した(p. 1499)。その結果,HD + F 反応の結果に及ぼす伸縮振動の影響を計測することが可能となった。スペクトル研究と理論研究を組み合わせることで,反応座標に沿うフェッシュバッハ共鳴(Feshbach resonance)が見出された。フェッシュバッハ共鳴は事前振動励起状態を通してのみ到達可能である。(MY,nk)
Dynamical Resonances Accessible Only by Reagent Vibrational Excitation in the F + HD→HF + D Reaction

人工的な複雑さ(Artificial Complexity)

量子光学では、光と物質間の相互作用を調べる。単純な単原子の系を集めていき、いくつかの(または多くの)原子からなる系の間で仮想光子が交換されると、多くの奇妙な現象を生じることが予測されている。原子の分離を原子スケールで制御することは実験的に困難であるため、van Loo たちが述べているように(p.1494, 11月14日号電子版)、人工原子の系が、系統的な研究のためのより扱いやすい道筋を提供してくれるであろう。彼らは、マイクロ波伝送路上の2個の分離された超伝導のキュービットからなる系を用い、どのようにすれば2個のキュービット間の相互作用を電磁モードで制御し伝えることが可能かを示した。その結果は、他の方法では実現困難な、多体現象の複雑性を調べることを可能にする道筋を例示している。(Sk)
Photon-Mediated Interactions Between Distant Artificial Atoms

すべてのマウスが同じ、ではない(Not All Mice Are Equal)

異なった研究室で、近交系動物の別の系統を用いることがよくあるが、行動についての比較はできないし、介入への反応が必然的に同じようなものになると想定することもできない。Kumarたちは、広く用いられている C57BL/6Nと C57BL/6Jというマウス系統の間でのコカイン応答の差異を検出し、量的形質遺伝子座解析を用いて、誘導性遺伝子 Cyfip内の一つの変異を同定した(p. 1508)。Cyfipは、Fragile Xタンパク質(FMRP)と相互作用し、神経細胞の結合性の制御を介して、コカインへの感受性と感作を制御している遺伝子である。(KF)
C57BL/6N Mutation in Cytoplasmic FMRP interacting protein 2 Regulates Cocaine Response

mTORについてもっとよくわかってきたこと(More from mTOR)

リー症候群(Leigh syndrome)は、子供における、稀で治療不能の遺伝性神経変性疾患であり、細胞のエネルギーを産生する小器官、ミトコンドリアの機能的破壊によって引き起こされる。Johnsonたちは、免疫抑制剤として、またある種の癌の治療のために臨床に用いられる薬剤、ラパマイシンが、リー症候群のマウスモデルにおいて神経症状の開始と進行を遅らせ、そのマウスの生存を有意に伸ばすことを示している(p. 1524, 11月14日号電子版; またVafaiとMoothaによる展望記事参照)。ラパマイシンは、多くの生活習慣病に寄与していることから現在熱心な研究対象となっている、いわゆる "mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)"シグナル伝達経路を抑制しているのである。(KF)
mTOR Inhibition Alleviates Mitochondrial Disease in a Mouse Model of Leigh Syndrome
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