AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 13 2013, Vol.342


私たちは星屑なのね(We Are Stardust)

多くの宇宙の化学元素は、恒星のなかで生み出された。その中でも最も重い元素は、恒星の爆発で生成されたものである。Barlow たち (p.1343) はハーシェル宇宙望遠鏡(Herschel Space Observatory) を用いて、かに星雲のサブミリ波のスペクトルを得た。このかに星雲は、西暦1054年に地球上で目撃された恒星爆発の残骸である。彼らは、この残骸ガスの中に 36ArH+という希ガスを含んだ分子イオンが存在している証拠を初めて検出した。Kooたち (p. 1346) は、パロマー5mヘール(Palomar 5m Hale)望遠鏡を用いて、カシオペア座Aという別の恒星爆発の残骸の近赤外分光観測結果を得、そして、かなりの量のリンがその爆発で生成されている証拠を見出した。生命にとって必須の6つの元素(水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄)のなかで、リンの起源だけが観測によって確認されずに残されていた。(Wt,KU,nk)
Detection of a Noble Gas Molecular Ion, 36ArH+, in the Crab Nebula
Phosphorus in the Young Supernova Remnant Cassiopeia A

液晶中のコロイドをまごつかせる(Confusing Colloids in Liquid Crystals)

単純な液体中で、コロイド粒子の運動といった粒子の拡散は、時間に比例する平均二乗変位の変化を示す。ネマティック液晶内で、分子の拡散は異方性の振る舞いを示す可能性がある。Turivたち (p. 1351; Abbottによる展望記事参照)は、ネマティック液晶内でコロイド粒子にどのようなことが起こっているかを調べた。短い時間において、長期(的)挙動とくらべて、より緩慢な運動とより速い運動の双方を持つ異常拡散が観察され、このことはコロイド粒子の拡散運動と液晶分子の運動との間の複雑な結びつきをを示唆している。(KU,kj,ok)
Effect of Collective Molecular Reorientations on Brownian Motion of Colloids in Nematic Liquid Crystal

上がったり下がったり(Up and Down)

気候変動は、たとえば気温、天気のパターン、そして地表層の蒸発などが変化することにより、地球の水文学的循環に重大な影響を有していると予想されている、米国の太平洋岸北西部では、河川流量の低下が気温上昇に因るものとされてきた。しかしながら、Luceたちは (p, 1360, 11月29日号電子版)、このような河川流量の変化が気温変化によって引き起こされたのではなく、それよりもむしろ河川流の源である山地における降雨が減少していることが原因であったことを示している。(Uc,KU,nk)
The Missing Mountain Water: Slower Westerlies Decrease Orographic Enhancement in the Pacific Northwest USA

適応は止まらない(The Fit Get Fitter)

近代生物学の進展で,進化の適応度を評価し,生存に有利な変異の固定化率を 見積もることができるようになった。Wiserたちは,一定の環境における大腸菌の進化研究であるLong-Term Evolution Experimentを利用して,20年を越えた50,000世代を経た後でさえ,適応の進展が頭打ちとなった証拠は認められないことを示した(p. 1364, 11月14日発行電子版)。頭打ちではなく,適応は,エピスタシスとクローン干渉に依存する,べき法則の関係に従っている。(MY,nk)
【訳注】
・Long-Term Evolution Experiment:R.Lenskiらによりなされている大腸菌の遺伝子変異に対する研究で,1988年より開始され現在も継続している。
・エピスタシス:非対立遺伝子間の相互作用
Long-Term Dynamics of Adaptation in Asexual Populations

視力を失ったものの目(Eye to Eyeless)

既存の変異と較べた時に、適応は新規の変異にどの程度依存しているのだろうか?熱ショック・タンパク質 90 (HSP90)は、系がストレス条件下で負荷を負わされるまで、間違った折れたたみのタンパク質を直すことで潜在的な隠れた変異を維持するのに作用しているということが提唱されていた。洞窟魚のAstyanax mexicanusに注目して、Rohnerたち (p. 1372)は、このメカニズムが自然環境下での形態進化に寄与しているという証拠を与えている。そこでは、先祖たちが棲んでいた川の中では、目の大きさに関する潜在的変異は HSP90 によって覆い隠されていたが、この魚が洞窟の中で育てられ、進化の選択を受けると、隠されていた変異があらわになったのである。(KU,nk,kj,ok)
Cryptic Variation in Morphological Evolution: HSP90 as a Capacitor for Loss of Eyes in Cavefish

恐怖因子(Fear Factor)

末梢性の感覚処理に対しては,報酬や賞罰が絡んでいても,その最も基本的な性質は変わらないと一般的にみなされている。臭いは同じ臭いであるはずで,色は同じに見えるはずであり,観測される変化は,一次感覚処理領域の下流側で起こっていると想定される。しかしながら,トランスジェニックマウスにおける長期的な in vivo での神経生理学を用いて,Kassたちは,恐怖条件づけされた後には,脅威の予知となる臭いに対して,嗅覚神経細胞そのものからの神経伝達物資の放出が選択的に高まることを観察した(p. 1389)。(MY,KU)
Fear Learning Enhances Neural Responses to Threat-Predictive Sensory Stimuli

非破壊的な光子検出(Nondestructive Photon Detection)

光子検出の一般的な方法は、光子が来ると検出器がカチッと鳴るようなタイプであり、単一光子でさえ検知できる十分な検出感度を持っている。しかしながら、このような検出プロセスは破壊的であり、光子が消滅してしまう。Reisererたち (p. 1349,11月14日の電子出版)は、非破壊で単一光子を検出することができる実験系について述べている。(hk,nk,ok)
Nondestructive Detection of an Optical Photon

住血吸虫の耐性(Blood Fluke Resistanc)

マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)の幼生は、淡水のカタツムリの中での複製サイクルを通して撒き散らされる。人が汚染された水と接触すると、その幼生は皮膚に付着し、、そして侵入する。その結果としての病である、住血吸虫症はアフリカや南アメリカにおいて約6千7百万人の人を苦しめている。不幸なことに、この寄生虫は有用な治療薬の一つ、オキサムニキンへの耐性を示しつつあり、このことは住血吸虫のコントロールが単一の薬、プラジカンテルに依存することを意味している。Valentimたち (p. 1385, 11月21日号電子版)は、遺伝子系列のマッピング、ゲノム配列決定、ゲノム機能解析及びx-線結晶解析を組み合わせることで、オキサムニキンへの耐性に関する遺伝子的、かつ分子的基礎を解析した。(KU,nk)
Genetic and Molecular Basis of Drug Resistance and Species-Specific Drug Action in Schistosome Parasites

手足の再生は発生とそっくりだ(Limb Regeneration Mirrors Development)

サンショウウオは、その手足のどこで切断されても、手足の適正な量を再生する。長い間議論された説明では、再生する組織は、再生部分の境界としてまず指先を再生し、その後指先と切り口との間の中間領域の全てを再生するのではないかと言われていた。Roenschたち (p. 1375)は、サンショウウオの手足が逆の順番で再生することを報告している。発生の際に従うプロセスに類似して、再生するサンショウウオの手足は、最初に切断された部位のそれと同一性を持つ細胞の場を確立し、それから、細胞が再生する手足の先端へと近づくにつれ、細胞は 次第に代わりの結末をとげていく。(KU,nk,ok)
Progressive Specification Rather than Intercalation of Segments During Limb Regeneration

動物系統樹の基礎にあるもの?(The Base of the Animal Tree?)

動物界の進化系統樹の最も基礎にある系統のその特定が,長い間,競われていた。Ryanたちは,有櫛動物である ”イボクシクラゲ”,別名,海クルミ類(sea walnut)のムネミオプシス・レイディのゲノム配列を決定し,海綿動物や,有櫛動物と刺胞動物の双方からなるクレード(分岐群)ではなく,有櫛動物だけが,現存している動物の中で,最も基礎にある動物であると結論付けた(p. 10.1126/サイエンス1242592;Rokasによる展望記事参照)。この結果から,生じた可能性がある具体的な進化プロセスとして以下のものが示唆される。繰り返し起きた中胚葉の獲得と喪失,細胞周期に関連した遺伝子拡張,増殖シグナル伝達,アポトーシス,上皮細胞や神経細胞の類型化。さらに,動物の進化に関する以前の仮説について,再評価が必要かもしれない。(MY,nk,kj)
【訳注】
・ムネミオプシス・レイディ:体長10cmの無色透明で、2つの大きな葉状の突起が口側にあり、1対の短い触手がその間にあるカブトクラゲ目に分類される有櫛動物で、世界の侵略的外来種ワースト100に選定されている
The Genome of the Ctenophore Mnemiopsis leidyi and Its Implications for Cell Type Evolution

病気の伝搬を予測する(Predicting Disease Dissemination)

出現した感染症の世界的な拡大に対する戦いにおいては、次の3つの質問に答える必要がある。すなわち、(1)どこで出現したのか、(2)次はどこに移動するのか、(3)いつ到達するのか、の3つである。BrockmannとHelbing (p. 1337; McLeanによる展望記事参照)は、地理的な距離よりもむしろ、強いリンクで結びついた2つの場所が実効的に近いという"実効距離"(effective distance)によって病気の拡大を分析した。2003年のSARSウィルス流行、2009年のH1N1インフルエンザの大流行、そして2011年に起こった ドイツにおける食物媒介性の腸管出血性大腸菌の発生から得られたデータを使い、このアプローチを用いて病気の到着時間あるいは病気の発生源を予測することができた。(TO,nk)
The Hidden Geometry of Complex, Network-Driven Contagion Phenomena

HOONをちらっと見る(A Glimpse of HOON)

酸素分子や各種過酸化物が時に爆発的な反応性を示すことからも理解できるように、酸素原子同士の結合は比較的弱い。亜硝酸(HONO)は机上では、N-O結合の代わりにO-O結合を有する異性体に転位可能であるが、ニトロシル基-酸素-水酸化物(HOON)は非常に不安定で観測はできないと考えられていた。Crabtreeらは (p. 1354)マイクロ波分光を用いて、ネオン雰囲気下のNOとOHの希薄混合ガスにおいてHOONの形成を観測することに成功している。同位体置換により分子構造の同定が可能となり、異常に長いO-O結合が含まれることもも明らかにしている。(NK,KU,nk,kj)
Detection and Structure of HOON: Microwave Spectroscopy Reveals an O?O Bond Exceeding 1.9 A

完全な合成によるEPO(EPO via Total Synthesis)

エリスロポエチン(EPO)は赤血球の産生に関与しているホルモンである。遺伝子改変された細胞の培養によって産生された合成エリスロポエチンは、貧血の治療に用いられ、さらに議論を呼ぶことには、運動競技での成績を伸ばすためにも用いられている。EPOは糖タンパク質であり、そのタンパク質成分ははっきりしているが、自然のEPOと合成EPOの双方とも、側鎖に広範囲のオリゴ糖がある。Wangたちは、化学合成法によって、側鎖の糖のパターンがサンプル全体に渡って均一なEPO試料を合成したが、これはEPOの糖成分の違いが機能にどう影響するかを解析する助けになる可能性がある(p. 1357; またHsieh-WilsonとGriffinによる展望記事参照) 。(KF,nk,kj)
Erythropoietin Derived by Chemical Synthesis

転写制御因子の結合部位(Transcription Factor Binding Sites)

転写制御因子(TF)とは、DNAに結合して遺伝子転写を制御するタンパク質である。Stergachisたちは、80以上の細胞型におけるヒトゲノム内のTF結合を検討した(p. 1367; またWeatherittとBabuによる展望記事参照)。TFは翻訳領域にも結合し、翻訳領域のほぼ15%も、同時にアミノ酸配列とTF認識部位の双方に合うようにコドンが特定されていた。TF結合部位の分布は、それら領域の中にあるコドンが、コードされたタンパク質機能に依存することなく、どのように変化するかを進化的に制約している。つまり、TF結合は、翻訳領域中に広範に広まった強力な進化の力を表すものである。(KF)
Exonic Transcription Factor Binding Directs Codon Choice and Affects Protein Evolution

EMREの出現(EMRE Emerges)

ミトコンドリア内のカルシウムの濃度は、緊密に制御されていて、代謝や細胞死の制御など、ミトコンドリアの生理的機能を調節している。Sancakたちは、小器官内でのカルシウムの濃縮を可能にしている多成分性のチャネルである、ミトコンドリアのカルシウム単輸送体(mitochondrial calcium uniporter:MCU)の分子的特徴を明らかにした(p. 1379,11月14日電子版)。彼らは、「必須なMCU制御因子(essential MCU regulator)」、すなわちEMREと名付けられた小さなタンパク質を同定した。これは十分に構築された単輸送体のカルシウム輸送活性に必要とされるものであった。(KF)
EMRE Is an Essential Component of the Mitochondrial Calcium Uniporter Complex

二酸化炭素があなたにとって役立つように(Making CO2 Work for You)

二酸化炭素をギ酸(HCOOH)へと転換することは、水素(H2)を燃料として使うために貯蔵し、取り出すための魅力的なやり方である。二酸化炭素は比較的安定であるために、それへの水素付加反応には、典型的に極端な条件が必要になる。SchuchmannとMullerは、アセトバクテリウム(Acetobacterium woodii)から、水素依存的な二酸化炭素還元酵素を単離した(p. 1382: またPereiraによる展望記事参照)。これは、これまで最速と知られていた化学触媒よりおよそ2000倍も効率が良い。化学的中間物としてギ酸塩の形成に依存するこのプロセスは、ある種の代謝経路が抑制されたときでも、Acetobacterium woodiiの細胞全体のシステム中でよく機能する。この酵素は、単離されても、或いは宿主細菌中にあっても、化学反応だけに基づく燃料電池よりもゆるい条件で機能することが可能な、より効率的な燃料電池の設計をもたらすことになるだろう。(KF,nk,kj)
Direct and Reversible Hydrogenation of CO2 to Formate by a Bacterial Carbon Dioxide Reductase
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