AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 22 2013, Vol.342


染色体の謎(Chromosome Conundrum)

細胞核内の染色体DNAの三次元的組織化は遺伝子制御に重要な役割を果たしている。Naumovaたちは (p. 948,11月7日号電子版; Klecknerたちによる展望記事参照 )、ヒト組織の培養細胞において染色体の構造キャプチュアに基づく方法を用いて、細胞周期全体に渡るヒト染色体の高次の折り畳みを解析した。細胞周期の間期(interphase)の間、染色体は座位-特異的な区画化(compart-mentalization)を示した。一方、有糸分裂期の細胞においては、染色体の組織化はより直線的であり、連続したクロマチンループの配列と一致していた。(KU,kj)
Organization of the Mitotic Chromosome

励起を画像観測する

化学反応や光合成のような複雑なプロセスにおいてはエネルギー移動が重要な役割を果たしている。しかし、エネルギー移動のメカニズム、周辺環境が及ぼす影響、量子力学がどの程度プロセスに影響を及ぼしているのかは未だ解明されていない。Gunterたちは(p.954、11月7日号電子版、Donleyの展望記事参照)、巧妙に前処理をされ、リュードベリ原子不純物で修飾された冷却原子雲を用いることにより、励起されたリュードベリ原子間の励起エネルギー移動を画像観測できることを発見した。背景環境の影響を制御可能なこの手法は、複雑な多体系におけるコヒーレントなエネルギー移動の研究に大いに役立つであろう(NK,KF,nk)
【訳注】
リュードベリ原子:リュードベリ原子は、電子の一つが非常に大きな主量子数nの状態に励起された原子で、励起電子の軌道半径は非常に大きい。
Observing the Dynamics of Dipole-Mediated Energy Transport by Interaction-Enhanced Imaging

ピリジンをフッ化する(Fluorinating Pyridine)

医薬品や農業化学の研究においては、小さな分子の特性を調整するために、炭素中心にフッ素置換基を付加することがよく行われる。しかし、フッ化するためにはしばしば腐食性のある、危険な試薬を用いる必要がある。Fier と Hartwig は(p. 956)、ピリジンや含窒素芳香族炭化水素中の窒素に隣接する炭素部位をフッ化するための、非常に穏やかで簡便な手順を提示している。その反応は二フッ化銀による処理を含んでいて、室温で急速に進行する。(Sk)
Selective C-H Fluorination of Pyridines and Diazines Inspired by a Classic Amination Reaction

南極・北極に記されたサイン(Bipolar Signature)

大気メタンは、産業革命が始まって以降、人類の活動が高まった結果、2.5倍に増加した。しかし、農耕の発達と拡大が開始した6000年前頃にも、より小さな規模で緩やかなスピードでメタンの増加が始まっていた。Mitchellたち(p. 964)は、南極と北極からそれぞれ得られた、過去2500年間の2つのアイスコア中の高精度なメタン記録を示している。メタン放出は主に熱帯地域で発生したが、2次的なものは人類のほとんどが生活している高緯度地域からも発生している。そのため、完新世後半の大気メタン記録を説明するには、自然からのメタン供給源と人によるメタン供給源の両方を考慮することが必要となる。(TO,KF,nk,ok)
Constraints on the Late Holocene Anthropogenic Contribution to the Atmospheric Methane Budget

発声の形成・確立(Building Vocalization)

転写因子 FoxP2(forkhead box P2)は、ヒトの言語獲得能力に影響し、それ自身も言語能力に影響しているタンパク質 SRPX2(sushi repeat-containing protein X-linked 2)を制御する。Sia たちは(p.987, 10月31日号電子版; Lieberman による展望記事参照)、マウスの脳中で、FoxP2 転写因子が SRPX2 遺伝子と結合していることを見出した。興奮性シナプスの形成には FoxP2 と SRPX2 の両者が影響しているのにもかかわらず、組織培養実験においては、SRPX2 ではなくFoxP2 が、樹状組織の形態に影響した。マウスの脳中でヒトの脳の言語領域に相当する部位での SRPX2 の過剰発現は、シナプス濃度に影響し、マウスの子供が母親を求めて上げる超音波での発声を中断させた。(Sk,nk,ok)
The Human Language-Associated Gene SRPX2 Regulates Synapse Formation and Vocalization in Mice

微生物叢が良い治療に寄与する(The Microbiota Makes for Good Therapy)

腸の微生物叢は、直腸結腸癌などの幾つかの癌の発生と関係づけられていたが、しかし---我々の腸微生物叢が代謝において重要な役割を果たしているとして---彼らはまた、幾つかの癌の薬物療法の効能をも変える可能性がある。Iidaたち (p. 967)は、免疫療法薬剤の[CpG (the cytosine,guanosine, phosphodiester link)オリゴヌクレオチド]と、化学療法薬剤として用いられている白金化合物であるオキサリプラチンの効能に関する微生物叢の影響を評価した。双方の治療は、微生物叢を欠く腫瘍をもつマウスにおいて効能が低下し、微生物叢が腫瘍に対する自然免疫反応活性化に重要であることを示している。Viaudたち (p. 971)は、シクロホスファミドで処置された腫瘍を持つマウスにおいて、微生物叢の同様の効果を見つけたが、このケースでは、微生物叢は腫瘍に対して適応(的)免疫応答を促進しているらしかった。(KU,KF,nk)
Commensal Bacteria Control Cancer Response to Therapy by Modulating the Tumor Microenvironment
The Intestinal Microbiota Modulates the Anticancer Immune Effects of Cyclophosphamide

酵母で治療?(From Yeast to Therapeutic?)

酵母は、神経変性疾患に付随する細胞の問題に対する治療可能性をもちうるリード化合物を産生するためのモデル系として、有望であることを示してきた。この線に沿って、Tardiffたち(10月24日号電子版p. 979)とChungたち(10月24日号電子版p983)は、酵母に対して複数スクリーニングを行い、その結果α-シヌクレイン蓄積による細胞障害性の影響に治療効果の可能性を持つ化合物が確認できたを同定した。α-シヌクレインによるパーキンソン病認知症患者からの神経細胞に対してその化合物を培養器中で適用したところ、病理学的特徴を通常状態の方向に回復させることができた。(KF,nk,ok)
【訳注】
リード化合物:創薬の初期候補である化合物
Yeast Reveal a “Druggable” Rsp5/Nedd4 Network that Ameliorates α-Synuclein Toxicity in Neurons
Identification and Rescue of α-Synuclein Toxicity in Parkinson Patient?Derived Neurons

STEREOでみた金星軌道

地球の周囲の軌道には、彗星や小惑星を起源とする粒子から成る、太陽の周りをめぐる塵のリングが存在する。希薄な塵のリングは、惑星に伴って普通に存在すると信じられているが、地球の周囲を除いて、未だ観測はされていなかった。今回Jonesたちは(p.960)、太陽立体化計画(STEREO:solar terrestrial relations observatory)から得られた観測結果を、金星軌道に伴って存在する塵のリングをマッピングするために活用している。(Uc,KF,nk)
Imaging of a Circumsolar Dust Ring Near the Orbit of Venus

腫瘍形成開始を制限する(Limiting Tumor Initiation)

腫瘍の成長期間において、突然変異を頻発する細胞が細胞が競合する上で優位なことは何であろうか? Vermeulen たちは(p. 995; BozicとNowakによる展望記事参照)、マウス腸における腫瘍の初期形成期間における、Apc遺伝子-欠損とKras遺伝子活性化、そしてP53遺伝子の突然変異の優位性を定量化した。突然変異は、クローンを作る点でのみ、限定的に有利だった。実際には、突然変異した幹細胞の多くは、確率的に野生型幹細胞によって置き換えられていき、腫瘍形成の開始に制限がかけられている。(TO,KF,nk,ok,kj)
Defining Stem Cell Dynamics in Models of Intestinal Tumor Initiation

マクロファージについての新たな見方(Macrophage Makeover)

マクロファージとは、恒常性維持の際や自然免疫反応における組織修復において機能している重要な免疫細胞である。炎症は、感染症によって引き金を引かれることがあるが、患部組織におけるマクロファージの大量な増加を伴う。常在性のマクロファージにおけるこの増加の主要なソースは、骨髄における造血幹細胞であると考えられてきた。しかしながら、最近の結果からは、患部組織に常在している成熟し分化したマクロファージは、それ自身、増殖して細胞数を押し上げることができると示されている。SiewekeとAllenは、マクロファージの起源についてわかっていることをレビューし、局所的なマクロファージ増殖が免疫応答と組織恒常性に対してどのような結果を生むかを概観している(10.1126/science.1242974)。(KF,nk)
Beyond Stem Cells: Self-Renewal of Differentiated Macrophages

地球外ニュートリノ(Extraterrestrial Neutrinos)

ニュートリノは、われわれの太陽系の外部の天体物理学的な発生源で生成されたと考えられている。しかしながら、最近に至るまで、そのようなニュートリノは、1987年に一個の超新星から観測されたもののみであった。Aartsen たち (10.1126/science.1242856; 表紙参照) は、2010年から 2012年の間に IceCube ニュートリノ検出器を用いて得られたデータについて報告している。そのデータは、これまで観測された中で最高エネルギーのニュートリノを含む高エネルギーニュートリノ流束の存在を明らかにした。そして、このデータには、30〜1200TeVのエネルギー領域での28件の事象が含まれている。この流束の起源は判ってはいないが、この発見は太陽系外起源のニュートリノ量に対する予測と整合している。(Wt,nk,kj)
【訳注】
IceCube:南極の氷原に掘られた深さ 2.5 km の竪穴 86 本に数千個の光電子倍増管を並べたニュートリノ観測所。スーパーカミオカンデより高エネルギー領域のニュートリノ検出が目的である。
Evidence for High-Energy Extraterrestrial Neutrinos at the IceCube Detector

制限されたインフルエンザの変異(Flu Drift Limited)

ウイルス表面の赤血球凝集素タンパク質にある5つの抗原性部位は、一緒になって131ヵ所のアミノ酸位置を構成していて、A型インフルエンザウイルスの抗原ドリフト(抗原連続変異)の全体像を決定していると考えられている。Koelたちは、主要な抗原性変化が単一アミノ酸置換によって引き起こされうることを明らかにしている(p. 976)。そうした単一の置換は、免疫系がウイルスと「出会う」やり方を実質的に歪めてしまう。重要な置換のすべては、赤血球凝集素中の受容体結合部位に隣接して生じていた。そのため抗原ドリフトにとって重要な位置は非常に少ないので、そうした位置での置換に対しては、厳密な生物物理学的制約から、将来どの時点においても、新たな抗原ドリフト変異体の数を制限することになる。つまり、インフルエンザウイルスの進化は、従来考えられていたより、ずっと予測可能であるのかもしれない。(KF,ok,kj)
Substitutions Near the Receptor Binding Site Determine Major Antigenic Change During Influenza Virus Evolution

ちょっと過酸化物を加えてみよう

抗菌ホスホマイシンの生合成において、HppE 酵素はエポキシド環のためにアルコールの酸化を触媒する手段として、鉄を用いている。このプロセスは二電子酸化であるため、酵素がどうやって、酸化的パートナーと思われる酸素O2を還元して、水を作っているのかは明らかになっていなかった。その二つの余分な電子はどこからやって来たのか? このたび、Wangたち(p. 991,10月10日号電子版;Raushelによる展望参照)は、HppEは実際にはペルオキシダーゼであるので、過酸化水素H2O2を還元でき、そのためには二つの電子だけで十分であるということを示している。この結果は、鉄-関連ペルオキシダーゼ酵素の構造上の範囲を、ヘムモチーフを超えて拡大するものである。(hk,KF)
Evidence that the Fosfomycin-Producing Epoxidase, HppE, Is a Non-Heme-Iron Peroxidase
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