AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 14 2013, Vol.340


呼吸を止める(Holding Your Breath)

ヘモグロビンとミオグロビンは,広範囲の生物に対し,酸素の運搬と貯蔵の役割を担っている。十分な酸素量を摂取し,長時間潜水して餌を探す水生哺乳類の能力は,筋肉中のミオグロビン(Mb)量に大きく関係している。Mircetaたちは(p. 1234192),水生あるいは半水生の習性を示す哺乳類系列では,Mbの正味の表面電荷が増えていることを見出した。これは,Mbが細胞中で高濃度の場合に自己会合しないように適応していることを示している。エピスタシスは、遺伝子間相互作用がたし合わせではないでことから生じ,表現型の進化に影響を与えているのかもしれない。Natarajanたちは(p. 1324),高地でのシロアシネズミに見られるヘモグロビンと酸素との結合親和性の増大が,エピスタシス相互作用で説明できることを示した。哺乳類では,代謝で生成するCO2が引き起こす血液pHの低下で,ヘモグロビンからの酸素離脱が促進される。しかしながら,魚類では,血液pHの低下により,ヘモグロビンの酸素運搬容量が低下する。Rummerたちは(p. 1327),ニジマスの筋肉中に光ファイバー酸素センサーを埋め込み,水中のCO2レベルの上昇により,アシドーシスとなり,酸素分圧が上昇することを見出した。(MY,ok,nk)
【訳注】エピスタシス:適用や表現型に及ぼす複数の遺伝子の相互作用
【訳注】アシドーシス:血液中のpHが正常域である7.4±0.05より酸性側となった状態
Evolution of Mammalian Diving Capacity Traced by Myoglobin Net Surface Charge
Epistasis Among Adaptive Mutations in Deer Mouse Hemoglobin
Root Effect Hemoglobin May Have Evolved to Enhance General Tissue Oxygen Delivery

脳は語る(The Brain Speaks)

人間の脳は、全体的に見れば左右対称であるが、言語能力のようなある機能については非対称性を示す。Bishop は(p. 1302)、特定の言語や識字能力に関する機能障害に焦点を絞って、脳の左右分化や言語の獲得について分かっていることを調査した。人体にダメージを与えない画像処理技術により、幼児期にどのようにして脳が発達していくかについての知識が進歩した。その結果は、脳の側性化(半球優位性)がこれまで考えられていたほど安定した、または確定したものではないということを示唆している。(Sk,ok)

フェルミオンの量子磁気(Fermionic Quantum Magnetism)

冷却原子で満たされた光格子は凝集物質系の量子シミュレータとして成功裏に用いられてきたが、しかしながらフェルミオンの量子磁気の場合、十分に低い温度を達成することが主な障壁であった。Greifたち (p. 1307, 5月23日号電子版; Portoによる展望記事参照)は、フェルミオンの光格子における交換相互作用を選択的に調整し、エントロピーの再分布を促すことで、結果として低エントロピーのサブシステムにおいて実効温度が十分に低くなり、磁気的相関を引き起こした。(KU,ok)
Short-Range Quantum Magnetism of Ultracold Fermions in an Optical Lattice

レドックスの循環(Redox Recycling)

プレートテクトニクスにより、地球の地殻とマントルの間で物質の交換が絶えず引き起こされる。沈み込みにより、地殻の物質がマントルへと付与され、それが中央海嶺からの火山噴出溶岩の組成に影響を与える。酸素供給量に対する応答として、マントルにおける化学的、物理的プロセスが時間とともに変化するので、中央海嶺の玄武岩のレドックス状態には地殻とマントル間の物質循環の歴史が残されている。Cottrell と Kelley (p. 1314, 5月2日号電子版)は、大規模な一揃いの中央海嶺玄武岩中の鉄の酸化状態とマントル源の組成に関するトレーサ間の関係を解析した。地質学的な時間スケールでいうと、古代の地殻の堆積層における還元炭素がマントルに組み入れられた結果がマントル中での高還元性の層の保持につながった可能性がある。 (KU,nk)
Redox Heterogeneity in Mid-Ocean Ridge Basalts as a Function of Mantle Source

埃が源泉(Dusty Origins)

巻雲の形成は氷核の形成から始まり、次にその氷核に水蒸気が凝結する。Cziczoたちは(p.1320,5月9日号電子版)研究用航空機で収集した巻雲の試料を昇華させ、残留した種粒子の化学的・物理的な特性を解析することによって、最初に巻雲の氷の結晶が形成される際の種となる粒子の種類を調べた。種粒子の殆どは鉱物または金属の微粒子であった。(Uc,KU,nk)
Clarifying the Dominant Sources and Mechanisms of Cirrus Cloud Formation

同じ起源の水(Common Water)

月は、従来は、からからに乾燥していると考えられてきたが、最近は、多くの研究により、マントル溶融の期間、月のマントルは地球の上部マントルと同じだけの水を含んでいたことが示されてきている。Saal たち (p. 1317, 5月9日付電子版; 表紙を参照) は、アポロ 15、17号 の有人探査で月から持ち帰った火山性のガラスとカンラン石の中の溶融包有物とに溶けている水素の同位体組成を測定した。月のマグマの水は炭素質コンドライト中のバルク水とは区別つけがたく、地球の水ととよく似ていた。これは、地球内部と月の内部に含まれている水が共通の起源を有することを意味している。(Wt,KU,tk)
Hydrogen Isotopes in Lunar Volcanic Glasses and Melt Inclusions Reveal a Carbonaceous Chondrite Heritage

メチル化とメトセラ(長命)化?(Methylation and Methuselah?)

ハッチンソン-ギルフォード早老症症候群(Hutchinson-Gilford progeria syndrome:HGPS)やその他のラミンA前駆体-関連早老性障害は、ファルネシル化またはメチル化された型のラミンA前駆体が核膜に蓄積すると生じる。Ibrahimたちは、イソプレニルシステイン・カルボキシルメチル基転移酵素(ICMT)の活性減少が、ラミンA前駆体を間違った場所に生じさせ、ラミンA前駆体-依存のAKT-mTORシグナル伝達を引き起こし、そして週齢30週の早老症のモデルマウスにおいて、病気の表現型を除去することを示している(p. 1330, 5月16日号電子版; またはJohnsonによる展望記事参照)。ICMT発現の減少が増殖を増加させ、早老症モデルマウスの線維芽細胞およびHGPSに罹った仔の細胞の成熟前老化を遅らせたのである。(KF,KU)
【訳注】
Methuselah:「聖」ノアの洪水以前のユダアの族長で969歳まで生きたという
ラミン(lamin):核膜の裏打ち構造である核ラミンを形成する主要なタンパク質。ラミン病といわれる早老症疾患の原因 
Targeting Isoprenylcysteine Methylation Ameliorates Disease in a Mouse Model of Progeria

場所感覚(A Sense of Place)

海馬の場所細胞は、視覚的手掛かりや自らの動きの手掛かりによって主に支配されていると信じられている。しかしながら、臭い、音、或いは手触り等の感覚的手掛かりの寄与を除去することは困難である。仮想現実(virtual reality)において、これらの手掛かりは動物の位置に関する何等の情報をも与えることはないであろう。Ravassardたち (p. 1342, 5月2日号電子版)は、現実の世界に可能な限り近い仮想現実系を開発し、そしてこの装置の中と現実の世界を走るラットにおける場所細胞を比較した。仮想現実系に比べて現実の世界の場合、2倍多いニューロンが活性化した。現実の世界での場所細胞は位置をコードしている一方で、仮想的世界での場所細胞は距離をコードしている。(KU)
Multisensory Control of Hippocampal Spatiotemporal Selectivity

水を選択(Choosing Water)

アクアポリンは生体膜の水透過を容易にするタンパク質である。アクアポリンは,水の透過を阻害するほど強く水と結合せずに水に対して選択的でなければならない。また,水素結合でつながった水分子間の急速交換によるプロトンの移動を抑制しなければならない。Kosinska Erikssonたちは (p. 1346; AbramsonとVartanianによる展望記事参照),オングストローム以下の解像度で酵母のアクアポリンの構造を描写した。これにより,側鎖のコンフォーメーションが決定され,そして水分子の水素結合の構造が,水透過を阻害せずにプロトン移動を阻止していることを示している。(MY,KU)
【訳注】コンフォーメーション:原子や結合などの3次元的な空間位置
Subangstrom Resolution X-Ray Structure Details Aquaporin-Water Interactions

原子層のヘテロ構造−多いことは良いことだ(Atomic Layer Heterostructures-More Is More)

ほんの一原子または数原子の厚みでの、種々の物質の安定な層の分離は、新規な機能を持つ素子を作成したり、基礎的な物理現象を調べたりするチャンスを提供してきた。Britnell たちは(p. 1311, 5月2日号電子版; Hamm と Hess による展望記事参照)、遷移金属のジカルコゲナイド WS2 の単層を2枚のグラフェンシートの間に挟んだ。そのヘテロ構造の素子の光電流応答は、WS2のみの層に比べて増大した。単一または数原子厚みの層をヘテロ構造に組み込むことができれば、将来、広範囲の特性を持つ素材を開発していく手助けになるであろう。(Sk,nk)
Strong Light-Matter Interactions in Heterostructures of Atomically Thin Films

偏光変換(Converting Polarization)

一方の偏光方向から他方の偏光方向への光信号の変換は、通信や計量分野において重要な役割を演じている。しかしながら、現在、偏光変換に使われているコンポーネントは比較的大きく、このことが問題となって、チップ-スケールの光エレクトロニクス回路の集積化を困難にしている。Gradyたち(p. 1304:5月16日号電子版)は、設計されたカットワイアのアレイ構成をもつメタマテリアル表面アプローチ法を採用して、伝搬するテラヘルツ信号の偏光状態を操作した。デバイス構造の適切な設計により、広帯域の周波数に渡っての反射光と透過光双方の偏光変換状態の制御が可能となった。(hk,KU)
Terahertz Metamaterials for Linear Polarization Conversion and Anomalous Refraction

多すぎるか少なすぎるか(Too Much or Too Little)

神経系の重要な仕事は、脳全体にわたって、適切に情報を分布させることである。ショウジョウバエの嗅覚系および味覚系は、それらの系とその根底にある仕組みを理解する良いモデルを提供してくれる (SuとCarlsonによる展望記事参照)。Linたちは、ショウジョウバエにとって重要な、環境信号であり、かつコミュニケーション用の信号である二酸化炭素 (CO2)を検出する回路のマップを作った (p. 1338)。投射ニューロンの2つの別々のクラスが、高濃度あるいは低濃度の CO2の回避を仲介するが、第3のクラスは抑制性ニューロンで構成されていて、高濃度の状況で低濃度経路を遮断する。他の基礎的な味覚とは違い、塩は生来、低濃度においては魅力的だが、高濃度では嫌われる。塩の検出の根底にある仕組みは、どの種についてもあまり理解されていないが、それは主に、特異的分子ツールが不足しているためである。Zhangたちは、ショウジョウバエが2タイプの味覚受容体ニューロンを用いて、塩の高濃度と低濃度を区別していることを発見した(p. 1334)。一方のタイプは、塩が少ないときに最大に活性化し、引き寄せられる摂食行動を誘発する。もう一方の受容体クラスは、主に、塩が高濃度のときに活性化し、回避行動をもたらすのである。(KF,ok)
Parallel Neural Pathways Mediate CO2 Avoidance Responses in Drosophila
The Molecular Basis for Attractive Salt-Taste Coding in Drosophila
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