AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 12 2013, Vol.340


ヴァンアレン帯の変動(Van Allen Variation)

ヴァンアレン帯と呼ばれる地球の周りを取り囲む相対論的粒子からなる二つのリングは、宇宙時代に発見された。そして、静止衛星軌道上の衛星を危険にさらすものとして知られている。NASA は、2012年8月30日に、the Van Allen Probes という二つの宇宙船を打ち上げて、地球の放射ベルトの領域を測定し、その特徴付けを行った。Baker たちは (p.186, 2月28日付け電子版)、予想外なことに三番目の放射ベルトが2012年9月2日、一時的に形成され、太陽風の変化に対応して4週間後に消滅したことを示した。(Wt,ok,nk)
A Long-Lived Relativistic Electron Storage Ring Embedded in Earth’s Outer Van Allen Belt

ハエとヒトの類似性(Of Flies and Men)

脳の構造や機能、および挙動の類似性は通常、収束進化に基因される。Strausfeld と Hirthのレビューにおいて(p. 157)、彼らは脊椎動物の大脳基底核と節足動物で中心複合体と呼ばれる前脳センターの系とで共有された複数の共通する特徴を同定している。著者たちは、行動上の選択に必須な回路が分類学上の門(phyla)を越えてごく初期に発生したと結論付けている。(KU,nk)
【訳注】収束(斂)進化:類縁関係の遠い生物間で似通った姿や器官を持つような進化の現象
Deep Homology of Arthropod Central Complex and Vertebrate Basal Ganglia

速くて若い(Fast and Young)

Ia型の超新星は、連星系をなす伴星からの物質が降着した白色矮星が、核融合反応を起こして爆発する結果、生まれると考えられている。それらを宇宙を測る物差しとして用いたことが、宇宙の加速膨張の発見につながった。Wang たちは(p. 170, 3月7日号電子版)、より高い膨張速度を有する超新星が、それらの属する銀河の中心のより明るい領域に位置し、より大きな、より明るい銀河中で見出されることを示している。このことは、超新星がより若い恒星種族と関係していることを示唆している。(Sk,KU,nk)
Evidence for Two Distinct Populations of Type Ia Supernovae

パクタマイシンの生成(Preparing Pactamycin)

微生物由来の有機化合物はたいてい、非常に複雑な構造を持っていて、このため際立った生理活性を示している。しかしながら,そのような構造的複雑さは薬剤開発にとっては障害となる。パクタマイシンはそのような例の1つの強力な抗生物質で,リボソームの構造と機能を調べるために用いられているが,その天然の化合物は細胞毒性が高すぎ,治療分野への応用が困難である。Malinowskiたちは,15ステップからなるこの分子のラボスケールでの合成法を示した。これは更なる薬用探索研究を促進するような類似構造体の生成の見通しを拓くものである。(p.180;CodelliとReismanによる展望記事参照)。(MY,KU,ok,nk)
Enantioselective Synthesis of Pactamycin, a Complex Antitumor Antibiotic

かくれんぼウイルス(Hide-and-Seek Virus)

ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、ヒト前駆体樹状細胞(progenitor dendritic cells)中に潜状感染を確立し、再活性化すると激しい病状と死亡をもたらすが、これは免疫抑制の治療を受けている移植患者で生じる。潜伏したHCMV-感染細胞はまれにしか存在せず、その検出も選択的除去も不可能であった。Weekesたち(p. 199)は、多剤耐性のABC輸送体である多剤耐性-関連タンパク質-1(MRP1)が、潜伏したHCMV感染の際に下流制御されることを見出した。結果的に、細胞傷害性のMRP1-特異的基質はHCMV-感染細胞から出て行かず、蓄積され、そして最終的には細胞死に導く。これは、移植前に感染細胞を除去するメカニズムを与える可能性がある。(KU,nk,ch)
【訳注】ヒトサイトメガロウイルス:感染しても発症することは少ないが、終生に渡り持続感染する。免疫不全の患者では致命的な肺炎を引き起こす。
Latency-Associated Degradation of the MRP1 Drug Transporter During Latent Human Cytomegalovirus Infection

永久凍土層の氷解の予測(Permafrost Thaw Predictions)

永久凍土層は大気の二倍の炭素を有しているが、もし広域の氷解が起きてこの炭素が放出されれば、深刻な結果をもたらすであろう。Vaksたちは(p. 183, 2月21日号電子版)、シベリアのある選択された地におけるスペレオゼム(speleothem:層状の洞穴堆積物(鍾乳石))成長の45万年にわたる長期間の記録を報告しているが、それからはその期間に渡る永久凍土層の大きさの変化がたどれる。著者たちは、今日よりわずかに温暖な条件となれば、北緯60度という北方の連続的な永久凍土層の広域にわたる氷解がもたらされる、と結論づけている。(Uc,nk)
Speleothems Reveal 500,000-Year History of Siberian Permafrost

折り畳みの簡素化(Simply Folding)

RNAシャペロンにより,本来は複雑で進行が遅いRNAの折りたたみ事象が簡単化される。 Grohmanたちは,モロニーマウス白血病ウイルス(MuLV)のヌクレオカプシド(NC)タンパク質(MuLV RNAの二量体化に関係する)が、露出したグアノシン塩基に結合し、そしてグアノシン塩基の強い相互作用を不安定にすることで MuLV RNAの折りたたみを促進することを示している (p. 190, 3月7日号電子版)。塩基対がおおよそ同じエネルギーとなり,RNA組み立て経路が簡素化され,適切な折り畳みが促進されるのである。(MY,KU)
A Guanosine-Centric Mechanism for RNA Chaperone Function

小さいほどよい(The Smaller, the Better)

新しい半導体素子技術は、発光ダイオード、シリコン素子、アクチュエータ、センサーなどを、脳のような生体組織の中の正確に制御された位置に注入することを可能にしている。Kim たちは(p. 211)、これらの技術と光遺伝学の手法を用いた動物のモデルの無線制御が、いかに基礎的な行動神経科学における新たな見通しを提供するかを示している。(Sk)
【訳注】光遺伝学:神経回路機能を調べるため光学と遺伝学を融合した研究分野
Injectable, Cellular-Scale Optoelectronics with Applications for Wireless Optogenetics

私が初めて愛したのは音楽であった(Music Was My First Love)

人類はなぜ音楽を楽しむのか? Salimpoorたち (p. 216)は脳スキャンと行動経済学を結び付けて、人がある曲を初めて聞いた時に、それが良い曲であるとどこで評価するかを調べた。彼らによると、人が新規の曲を聴いた際、その曲を買うのにいくらまでなら喜んで支払うかを予測するには、中脳辺縁系線条体における神経活動を測るのが最適である。これらの知見は、報酬プロセシングにおける感覚性の皮質領の関与を暗示しており、著者たちは人の判断に美的な要素が付随することに起因するとしている。(hk,KU,ok,nk)
Interactions Between the Nucleus Accumbens and Auditory Cortices Predict Music Reward Value

量子化と異常(Quantized and Anomalous)

ホール効果はメカニズムが解明されている電磁気学的現象であるが、外部磁界の存在に依存せず発現する量子化されたホール効果のように、特異な類似現象が多く存在する。磁性ドープされたトポロジカル絶縁薄膜中で量子異常ホール効果(QAH)が発現することが理論的予言され、それに触発されたChangらは(p. 167, 3月14日号電子版;Ohによる展望記事参照)、クロムを磁性ドープ材として用いてCr0.15(Bi0.1Sb0.9)1.85Te3 化合物薄膜を作成した。磁場を印可しない状態でゲート電圧の関数としてのホール抵抗に平坦領域が観測され、QAH状態を実現することに成功した。(NK)
Experimental Observation of the Quantum Anomalous Hall Effect in a Magnetic Topological Insulator

インターフェロンに干渉する“持続”(INTERFER(ON)ing Persistence)

ウイルスが持続的に感染している時には、免疫応答の調節不全のために感染を制御することができない。Wilsonたち(p. 202)とTeijaroたち(p. 207; またOdorizziとWherryによる展望記事参照)は、そのようなことが生じるのは、ウイルス感染症への初期の応答において重要なI型インターフェロン(IFN I)が、持続感染の際に見られる免疫の変化の一因になっているためである、と明らかにしている。マウスにおける慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV)の際の抗体によるIFN Iシグナル伝達の遮断は、感染後期段階におけるウイルス力価を減少させ、抑制性免疫分子の発現を減少させ、LCMVによる持続感染の際に典型的に観察される二次的リンパ器官への分裂を防ぐこととなった。I型インターフェロンが、ヒト免疫不全ウイルスやC型肝炎ウイルスなどのウイルスにヒトが持続的に感染した場合に有害であるかどうかは、まだ決定されていない。(KF,KU,ok,nk,ch)
Blockade of Chronic Type I Interferon Signaling to Control Persistent LCMV Infection
Persistent LCMV Infection Is Controlled by Blockade of Type I Interferon Signaling

より多くのクリーゲー中間体の発見(More Criegee Sightings)

オゾンと不飽和炭化水素の反応によって、Criegee(クリーゲー)中間体と呼ばれる短命な分子が産み出される。そういった分子でもっとも単純なH2CO2は、実験室において最近検出され、モニターされた。Suたちはその振動スペクトルを得たが、いずれ究極的には大気中でその反応の直接的な測定が可能となるであろう(p. 174; またVereeckenによる展望記事参照)。Taatjesたちは、水素原子の1つをメチル基に置き換えた、次に軽いCriegee中間体のラボでの合成とその反応性について報告している(p. 177; またVereeckenによる展望記事参照)。(KF,KU)
Infrared Absorption Spectrum of the Simplest Criegee Intermediate CH2OO
Direct Measurements of Conformer-Dependent Reactivity of the Criegee Intermediate CH3CHOO

変異体と制御(Variants and Regulation)

ゲノムDNAは、ヒストンタンパク質の周囲を巻くように、ヌクレオソーム中に包み込まれている。ヒストン変異体とヌクレオソームの組成は、他の染色質(クロマチン)によって仲介されるプロセスだけでなく、遺伝子発現にも影響する。たとえば、H2A.Z変異体は、RNA polIIプロモータに隣接しており、そのようなヌクレオソームは、リジン56においてアセチル化されたヒストンH3 (H3-K56Ac)に富むだけでなく、急速な代謝回転をも示す。Watanabeたちは、H3-K56Ac がクロマチンリモデリング酵素SWR-Cの基質特異性を変化させることを示している(p. 195)。SWR-Cは、通常ヌクレオソームのH2A.Zを追い払い、正規のH2Aと変異体H2A.Zの双方を急速に交換するようになり、ヌクレオソームの代謝回転を変化させて、それによって遺伝子制御に影響している。経路は著しく単純化され、適切な折り畳みを促進するのである。(KF,KU,ok)
A Histone Acetylation Switch Regulates H2A.Z Deposition by the SWR-C Remodeling Enzyme
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