AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 5 2013, Vol.340


サンゴ礁の修復(Reef Repair)

サンゴ礁は、白化現象、病気そして熱帯の嵐によって、大量死の被害を受ける。しかし、我々は、いつ、どこで、そしてどのくらいこれらの生態系が急速に崩壊したかについて知っている程には、サンゴ礁の回復については知識をもっていない。Gilmourたちは(p. 69; PolidoroとCarpenterによる展望記事参照)、サンゴ礁の70〜90%を死滅させた気候が原因となった大量の絶滅現象の前後の、或る高度に孤立したサンゴ礁について研究した。サンゴの表面の初期の回復には、残遺していたコロニーの成長と生存が関与しており、その後に幼生サンゴの補充の増加が続いた。このように、永続性の障害がなければ、孤立したサンゴ礁であっても破滅的な障害から回復することが可能である。(Uc,KU,nk)
Recovery of an Isolated Coral Reef System Following Severe Disturbance

バイオに鼓舞された合成ネットワーク(Bio-Inspired Synthetic Network)

集団行動は、隣り合う者同士がお互いに情報交換し、相互に作用する能力を持つということを通して出現する。Villaたち(p. 48, 表紙参照)は、膜貫通タンパク質で機能化された脂質-結合構造から成る三次元的にパターン化され、相互に接続するネットワークを作った。このネットワークは特定の経路に沿って電気的情報交換が可能であった。(KU,nk)
A Tissue-Like Printed Material

調和の中の循環(Cycling in Unison)

多くの小型哺乳類、特にハタネズミは、ほぼ規則的な生息数の急増と急減の周期を示す。基底的な捕食者および被食者としての小型哺乳類の基本的重要性を考えると、そのような周期は栄養食物網に広範な影響を与えるかもしれない。Cornulier たちは(p.63)、欧州全域で過去18年にわたって収集された、ハタネズミの生息数の生データを照合した。冬期における個体数増加速度の減少は、その土地土地で気候が大きく異なるにもかかわらず各生息地にわたって共通であり、ハタネズミの生息数について大陸規模での気候性の原動力が存在することを示唆している。(Sk,nk)
Europe-Wide Dampening of Population Cycles in Keystone Herbivores

HIVを防ぐ(Thwarting HIV)

複数のゲノム-ワイドアソシエーション(genome-wide association) の研究から、主要組織適合抗原座位のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子が、HIVに最強の影響を持っていることが明らかになった。特に、HLA-Cの上流の一塩基多型の35塩基対が血液中のHIVウイルス量と HIV に対する防御に重要な関係を有している。HLA-Cがこれらの影響にどのように介在しているかは、不明である。Appesたち(p. 87) は、アフリカ系とヨーロッパ系のアメリカ人において、HLA-Cの細胞表面発現の増加が血液中のHIVウイルス量とHIVの進行速度の減少と関連し、CD4+ T細胞の数を低下させることを実証している。HLA-C発現の増加は、細胞傷害性のCD8+ T細胞応答をより効果的にして、HIV制御を改善させるらしい。ただし、HIV感染に対する効果とは対照的に、高度のHLA-C発現は同時に炎症性腸疾患であるクローン病(Crohn's disease)のより高いリスクを伴う。(KU,nk)
【訳注】クローン病(Crohn's disease):消化管に起きる原因不明の炎症性疾患で、10代後半から20代の若年層に発生する。
Influence of HLA-C Expression Level on HIV Control

意思決定はどう行われるか(How to Make Decisions)

最近、非線形の神経系の内部特性を調べるいくつかの方法が開発されてきた。これらの方法では、系の入力空間を調べるために、大きく変化する刺激が用いられる。次に、各試行ごとに分かっている刺激情報を組み入れたモデルを用いて神経応答が調べられる。Brunton たちは(p.95)、この組み合わせ手法を意思決定の研究に適合するように修正した。意思決定に関するドリフト拡散モデルの拡散係数はラットと人の両方でゼロとなった。これは全ての誤差が知覚入力の処理時に生じ、意思決定の根拠を蓄積していく際には生じないことを意味している。さらに、ラットは意思決定のための根拠を徐々に蓄積していくが、その際は感覚順応の影響を強く受ける。(Sk,nk)
Rats and Humans Can Optimally Accumulate Evidence for Decision-Making

闇に光が(A Light in the Dark)

カルテノイドは,葉緑素が利用できない波長の光を吸収して,光合成の効率を高めている。しかしながら,これらの色素(カルテノイド)から化学触媒作用(光合成)をする部位(葉緑素)への吸収エネルギーの移動に対する重要な機構は明確になっていない。カルテノイドの電子構造において,直接的な光吸収では生じず,初期励起状態の部分的緩和で生じる「隠れた(dark)」状態が関与しているのではないかという研究上の論争があった。Ostroumovたちは二次元の電子分光法を用い,この状態が存在する証拠を示した (p.52)。(MY,KU)
Broadband 2D Electronic Spectroscopy Reveals a Carotenoid Dark State in Purple Bacteria

フッ素が共有する(Fluorine Learns to Share)

ハロゲン化合物は通常一つの炭素中心にしか配位しないが、正帯電したハロニウムイオンを形成する第2炭素との過渡的な配位結合により多くの化学反応の空間的ダイナミクスが説明される。しかし、ハロニウムイオンとなることが可能な塩素、臭素、ヨウ素とは異なり、フッ素は強力な電気陰性度のためにそのような挙動を示さないと考えられてきた。Strubleらは(p. 57, Henneckeの展望記事参照)、安定な剛体分子を合成し、置換反応においてフルオロニウム中間体が生成する証拠を突き止めた。(NK,nk)
Evidence for a Symmetrical Fluoronium Ion in Solution

三次元の超新星(A Supernova in 3D)

恒星が爆発すると、物質を超音速で放出する。Nikoliたち (p. 45, 2月14日付電子版)は、焦点面にマイクロレンズを並べ、画像各点でのスペクトルを同時に得る面分光法(integral-field spectroscopy)=2次元画像+一次元スペクトルで3次元データを構成する広がった天体の分光法、を用いて、超新星1006 に付随した衝撃波の高分解能の、空間的に解像されたスペクトルを得た。この超新星の周りの衝撃波の物理的特徴から、強い空間的な変動が示され、このことは宇宙線生成の種である可能性がある、超熱的な(約10keV〜100keV) 陽子の存在を示唆している。(Wt,KU,nk)
An Integral View of Fast Shocks Around Supernova 1006

ミクロRNAのメカニズム(MicroRNA Mechanism)

ミクロRNAは小さな非翻訳RNAで、相補的な標的メッセンジャーRNA (mRNA)に結合し、そしてタンパク質翻訳の抑制とmRNA分解を通してそれらの発現を抑制することで遺伝子発現を制御している。Meijerたち (p. 82)は、HeLa細胞系において、mRNAの分解が開始因子 eIF4A2による翻訳抑制の結果であることを示している。(KU)
【訳注】HeLa細胞:細胞寿命を越えて安定して増殖する不死化細胞の一つで、ヒト子宮癌由来の細胞から分離された現存する最古(1951年)の分離株 Translational Repression and eIF4A2 Activity Are Critical for MicroRNA-Mediated Gene Regulation

格子細胞から場所細胞へ(From Grid to Place)

哺乳類の空間回路には、海馬における場所細胞と嗅内皮質における格子細胞や頭部-方向細胞(head-direction cell)、および境界細胞(border cell)等の幾つかの機能的な、特殊化した細胞型を含んでいる。格子細胞は、海馬における場所細胞シグナルに関するキーとなる源の一つである。嗅内回路もまた、別の機能的細胞型を持っているが、しかしどの細胞型が海馬の場所細胞に投射しているかは不明である。Zhangたち (10.1126/science.1232627, Poucet and Sargoliniによる展望記事参照)は、オプトジェネティク(optogenetics)とin vivoでの多-電極を用いた電気生理学を用いて、この問題に取り組んだ。海馬の細胞は様々な嗅内ニューロンの細胞型からのインプットを受け取っている。格子細胞は空間的インプットの最大のグループであるが、しかし境界細胞や頭部-方向細胞、および非空間的細胞の大部分もまた、インプットを提供していた。このように、海馬の回路は、嗅内皮質からの特異的なタイプの機能的インプットを処理するための局所的なメカニズムを持っており、場所特異的なシグナルを発生する。(KU)
【訳注】場所細胞(place cell):動物が環境内のある特定の場所に来たときに強く活動する細胞、特にラットの海馬内に多く存在する。空間情報は海馬の場所細胞により符号化される。
Optogenetic Dissection of Entorhinal-Hippocampal Functional Connectivity

花とミツバチは互いを感じる(Flowers and Bees Have “Sparks”)

植物とその花粉媒介者は、それぞれの種の中での共進化の多くの代表的な事例によって力説されてきたように、非常に密接な相互作用を持っている。そのような密接な関連性は、植物と花粉媒介者の間のシグナル伝達を必要とする。植物が出す信号と花粉媒介者の認知力の間の連携は、花の色や形や匂いにあるとされてきた。Clarke たちは(p. 66, 2月21日号電子版)、植物−花粉媒介者のコミュニケーションの異なる方法についての可能性、電場について報告している。花が自然に有する電場は、自然な状態で電荷を帯びているミツバチの訪問により感知され、そのレベル、パターン、構造に基づいてミツバチに容易に識別され、ミツバチが前に花の蜜を得た場所を思い出す割合を向上させた。(Sk,nk)
Detection and Learning of Floral Electric Fields by Bumblebees

非晶質でさらに活性(Amorphous and More Active)

水から電気化学的な水素の生成は、オフピーク時間に再生可能なエネルギー資源によって産生されるエネルギーの貯蔵に有用となるであろう。しかしながら,この反応の中の遅い過程である酸素発生反応(oxygen evolution reaction:OER)に対する触媒は,希少な貴金属(イリジウムとルテニウム)の酸化物から構成されている。地球に豊富な元素による触媒性能を改善する戦略は,混合-金属酸化物の探索と,この酸化物を非晶質相として合成することである。Smithたちは非晶質の酸化物生成に対して,有機金属前駆体の光分解に基づいた汎用的な方法を開発した(p. 60, 3月28日号電子版)。鉄,ニッケル,コバルトからなる非晶質の混合-金属酸化物は,対応する結晶性材料よりも活性で,貴金属の酸化物に匹敵するOER性能を示した。(MY,KU)
Photochemical Route for Accessing Amorphous Metal Oxide Materials for Water Oxidation Catalysis

抗ウイルス武器の追加(Adding to the Antiviral Arsenal)

インフルエンザウイルスの外被は、赤血球凝集素とノイラミニダーゼ(NA)という、2つの免疫優性糖タンパク質を含んでいる。ザナミビル (Relenza)やオセルタミビル (Tamiflu)などの現存する抗ウイルス薬は、NAを標的にしている。しかしながら、薬剤耐性の発生が問題である。Kimたちはこのたび、NA阻害剤の、これまでとは違うクラスのものを報告している(p. 71, 2月21日号電子版)。NAは宿主細胞の表面からのシアル酸除去を触媒することで、侵入を引き起こしている。NA-シアル酸中間物の発見によって、NAに共有結合的に結び付き、その酵素活性を抑制するシアル酸類似体の産生がもたらされた。そうした化合物は幅広いインフルエンザ系統株に対する活性を示し、細胞培養実験においてウイルス複製を抑制し、マウスを用いた実験ではインフルエンザ感染症からの防御が確認された。マウスの保護はザナミビルにおいて見られたものと同等だった。さらに、その化合物は、試験管内で、薬剤耐性をもつ系統に対する活性を示した。こうした化合物は、インフルエンザ感染症の治療に用いられる抗ウイルス薬の武器庫への、潜在的に有望な追加である。(KF,nk)
Mechanism-Based Covalent Neuraminidase Inhibitors with Broad-Spectrum Influenza Antiviral Activity

セレンをタンパク質中に入れる(Putting Selenium in Proteins)

21番目のアミノ酸、セレノシステイン(Sec)は、多くの酸化還元酵素の活性部位に生じる。その同族の転移RNA(tRNA)には、まずseryl-tRNA合成酵素によってセリンがロードされ、それでできたSer-tRNASecが、続いてSec-tRNASecへと転換されるのである。Itohたちは、細菌中でこの転換の原因となるセレノシステイン合成酵素、SelAの結晶構造を、単独の場合とtRNAと複合した場合について決定した(p. 75)。SelA複合体の十量体は、tRNASec分子10個に結合する。この構造は、生化学と併せて、SelAがtRNASecとtRNASerとをどのように識別しているかを示し、触媒作用の仕組みについての洞察を与えるものであり、十量体化がその機能に必須であることを示すものである。(KF,KU)
Decameric SelA?tRNASec Ring Structure Reveals Mechanism of Bacterial Selenocysteine Formation

トランスポゾンをサイレンシングする(Silencing Transposons)

真核生物のDNAは、4つのコアヒストン(H2AとH2B, H3, H4)からなるヌクレオソーム上にパッケージされている。染色質もまた、5番目のヒストン、H1を含んでいて、これが核の粒子と隣接するヌクレオソームに結び付く「リンカー(linker)」DNAの双方に結合している。隣接するヌクレオソームに結び付く場所で、それは染色質がより高次の構造に折り畳まれるのを助け、遺伝子発現を一般にサイレンシングする。ショウジョウバエの生殖細胞、体細胞、組織において、Luたちは、in vivoにおいて、H1の抑圧的機能が転移因子(transposable elements)に向けられ、小さなRNAのサイレンシング経路には依存しないことを発見した(p. 78) 。代わりに、H1は、抑圧的ヒストン標識であるヒストンH3リジン9をメチル化するヒストンメチル基転移酵素、Su(var)3-9を、直接補充することを介して作用していた。(KF,KU)
【訳注】トランスポゾン:転移因子一般をさす。可動性の遺伝因子で、DNAのある部位から他の部位へ移動する
Drosophila H1 Regulates the Genetic Activity of Heterochromatin by Recruitment of Su(var)3-9

ロケット燃料が動力源の古細菌(Archaea Powered by Rocket Fuel)

過塩素酸塩は、大気中で自然に形成される、どこにでもある塩素をベースとした化合物である。それが大きな鉱床として存在するのはチリのアタカマ(Atacama)砂漠など、少数の場所に限られているが、その理由は、過塩素酸塩-還元細菌が、通常それを塩化物と酸素に分解するせいだと想定されていた。Liebensteinerたちは、しかしながら、archeon、すなわち超好熱性硫黄還元古細菌もまた過塩素酸塩を還元できることを発見した(p. 85; またNerenbergによる展望記事参照)。この古細菌の過塩素酸塩還元経路は、細菌性の過塩素酸塩還元経路と類似しているのはわずかな点に限られている。塩化物と酸素を産生する代わりに、酵素的に産生された亜塩素酸塩がイオウ化合物と反応して、酸化されたイオウ化合物を産生するのである。超好熱性硫黄還元古細菌に類似した超好熱性嫌気的古細菌は、地球上で最初に進化した複雑な生物体の一つと考えられており、それらが、酸素を産生する光合成の出現以前に、ある種の生息地で酸素のある状況を作り出し始めていたのかもしれない。(KF,KU,nk)
Archaeal (Per)Chlorate Reduction at High Temperature: An Interplay of Biotic and Abiotic Reactions

神経細胞のトランスポゾン(Neuronal Transposons)

トランスポゾンは、ショウジョウバエのゲノムのかなりの部分を構成しており、そして制御されないと、変異を生成することになる。したがって、トランスポゾンの活性を、特に生殖系列において抑制するメカニズムが存在している。Perratたち(p. 91)は、ショウジョウバエの脳のニューロンにおけるトランスポゾンの運動性を検討した。嗅覚記憶を担う脳のキノコ体は、いくつかの異なるタイプのニューロンを含んでいる。ニューロンのクラスの一つ、αβニューロンはトランスポゾンの移動性の増加を示したが、このことが神経細胞の多様性の増加をもたらした。(hk,KU)
Transposition-Driven Genomic Heterogeneity in the Drosophila Brain
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