AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 22 2013, Vol.339


非粒子を探す(In Search of Unparticles)

宇宙の基礎構成単位である素粒子の相互作用を記述する素粒子物理の標準モデルは、不完全な部分がある。数多くの理論拡張が提案されている中に、長距離スピン−スピン相互作用がある。この相互作用の存在を調べるために、通常は実験室でのスピン源が用いられる。Hunterらは(p.928) 地球をスピン分極源として用い、地理的な位置と測定装置の向きを変えながら長距離スピン-スピン相互作用の存在を調べた。分極したスピンは地球マントル中の鉄を含んだ鉱物中の電子に由来し、それらは地球の磁場に沿って整列している。分極した電子が数多く存在することで、実験室で得られるよりもはるかに低いレベルで提案されている特異スピン−スピン相互作用モデルのいくつかに強度の上限を示すことが可能となった。(NK,KU,nk)
Using the Earth as a Polarized Electron Source to Search for Long-Range Spin-Spin Interactions

ARTの費用-利益(Cost-Benefit of ART)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をコントロールする戦いにおいて、多数の人を対象とする抗レトロウイルス治療(antiretroviral treatment:ART)は、年間一人当たり$500〜$900の費用がかかる。Borたち(p. 961)は、クワズールー・ナタール州(KwaZulu-Natal:南アフリカ共和国東部)に住んでいる人々の平均余命に関するART強化の効果を算出した。約100,000人の集団から、 2000年〜2011年、すなわちARTの規模拡大前4年間とその後の8年間の期間に生じた死亡の日付が集められた。ARTが拡大された後、成人の平均余命は11年以上伸び、そして得られたその寿命の経済的価値は、治療の費用をはるかに超えるものと算出された。Tanserたち(p. 966)は、8年間にわたってクワズールー・ナタール州のHIV-非感染症のほぼ17,000人を追跡調査した。他のHIV危険因子を一定として、HIVに感染した人々のART適用の強化と共に、個々人のHIV感染の危険性は大きく減少した。(KU,nk)
Increases in Adult Life Expectancy in Rural South Africa: Valuing the Scale-Up of HIV Treatment
High Coverage of ART Associated with Decline in Risk of HIV Acquisition in Rural KwaZulu-Natal, South Africa

母親が最もよく知っている(Mother Knows Best)

ミバエは熟し切った果実、つまりアルコールに富んだ食物源を摂食し、結果として他の多くの種と異なる高度のアルコール耐性を進化させた。高レベルの経口摂取されたアルコールが、寄生するスズメバチの幼生に対してミバエの幼生を保護する。Kacsonたち(p. 947)は、寄生虫と戦うために、アルコールのこのような治療利用が世代間に伝わる要素であることを示している。ミバエの母親は寄生虫のスズメバチを見たときに、彼らは優先的に自分の卵を高いアルコールレベルの媒質上に産んだが、これは潜在的な感染症に対して子孫に先行的に投薬する一つの方法として用いている。(KU,nk,ok)
Fruit Flies Medicate Offspring After Seeing Parasite

地下を流れる水(Water Flowing Underground)

地下水は目には触れにくいが、必要とされる水源という働きに加え、深さが浅い場合は特に、地上の生態系に強い影響を及ぼしている。Fanたちは(p.940)政府の資料と公表された研究結果を用いて、100万点以上の直接的な井戸調査に基づいた地下水の深さに関する世界地図を構築した。次に、地下水のモデルを用いて、連続する地下水の深さの世界地図を構築した。ここで得られた知見によって、いくつかの地域や生態系をまたがった地下水の深さに関する海水面や気候の地球的規模の影響が明らかにされている。(Uc,KU)
Global Patterns of Groundwater Table Depth

ステルス的輸送(Stealth Delivery)

治療用や造影剤用の薬剤の輸送は、外来粒子を認識して除去する先天性免疫系の作用によって阻害されている。「自己」の細胞は膜タンパク質CD47によって食作用性のクリアランスから保護されているが、このタンパク質はマクロファージ上のシグナル調節タンパク質-α(SIRPα)と相互作用する。このような保護戦略を利用して、Rodriguezたち(p. 971)は、ナノ粒子をコンピュータを用いて設計した小さなヒト-CD47に基づいたペプチド(hCD47)でラベル付けをした。マクロファージがhCD47と交差反応するようなSIRPαを発現したマウスの系統にこの粒子を注入すると、このペプチドはナノ粒子が除去されるのを防いで腫瘍への薬物輸送を向上させた。(KU,nk,ok)
Minimal "Self" Peptides That Inhibit Phagocytic Clearance and Enhance Delivery of Nanoparticles

一人っ子集団の査定(Assessing Singletons)

中国政府が1979年に導入した一人っ子政策により,都市部では子供が1人の家族割合が増加した。その後,一人っ子はマスメディアにより「小皇帝:little emperors」と呼ばれるようになった。Cameron らは,一人っ子政策の施行以前の時期(1975年と1978年)と施行後の時期(1980年と1983年)に生まれた北京在住の約400人に対して2010年に調査を行った(p. 953, 1月10日号電子版)。信頼,リスク,競争意欲について経済ゲームを用いて測定したところ,一人っ子政策施行後に生まれたコホートは,それ以前に生まれたコホートと較べ,信頼や競争意欲が低く,また,リスクを避けたがることが分かった。(MY)
【訳注】コホート:ある一定期間内に出生した人口集団
Little Emperors: Behavioral Impacts of China's One-Child Policy

クラスターへの光(Light On Clusters)

メダカの学校からバクテリアのコロニーに至るまで、群れ形成、あるいはパターン形成のような大規模な現象は、至る所に存在する。このような系において、純粋に物理的な効果に対する「知能」 (生物学的効果)の相対的意義はいまだに解かれていない疑問である。合成コロイドに関する研究を通して、Palacciたち(p. 936)は、自己-組織化するクラスター形成をオン、オフ可能にし、光源を止めると溶解するような結晶を形成できることを示している。この粒子は、光照射されると化学反応を触媒する重合体の球の中に部分的に包まれた赤鉄鉱の立方体から構成されている。自己組織化の動きは、推進力と浸透圧効果、及びコロイド粒子とトレーサ粒子との間の結合の組合せの結果として現れる。(hk,KU,nk)
Living Crystals of Light-Activated Colloidal Surfers

エアロゾルの形成(Aerosol Formation)

多くの大気中のエアロゾル粒子は、大気の分子やクラスターを出発点とし、他の分子やクラスター、および粒子を獲得するにつれ、次第に大きなサイズになっていくような、成長プロセスに由来している。このプロセスの初期段階には、非常に小さな、直径2nm以下の微粒子が関与しており、観察することが難しかった。Kulmala たち (p.943; Andreae による展望記事を参照のこと) は、これらの小さな核を検出して計数することが可能な高感度な観察手法を開発し、そして彼らは、詳細にエアロゾル形成過程をマップ化した。(Wt,KU,nk)
Direct Observations of Atmospheric Aerosol Nucleation

居場所を知る(Know Your Place)

「細胞はいかにして知るか」シリーズ第二回の中で(2012年9月7日号の Chan と Marshall の記事も参照のこと)、Lander は(p.923)、細胞が発生途上の生物中でのかれらの居場所に応じて適切に分化した状態をとるために情報を処理する方法について、我々は何がわかっており、何がまだわかっていないかを報告している。自然はどのようにして、一方のプロセスを最適化すると、たいてい他方の性能が低下するという、技術上の困難なトレードオフを解決しているのであろうか?正確で高い再現性を持つ解明だけが、発生を正確に行うという複雑な動物の能力を説明できる。(Sk,KU,nk)
How Cells Know Where They Are

休止を強いる(Pressing Pause)

プロモータ近くのRNAポリメラーゼII(Pol II)の休止は、DNAをRNAへ転写するプロセスにおける重要かつ明確な調節性のステップである。休止に関与するタンパク質因子とDNA要素は同定されてきたが、休止をもたらすポストイニシエーションイベントは不十分にしかわかっていない。Kwakたちは、活発に転写しているRNAポリメラーゼの位置を、単一ヌクレオチドの精度でモニターする、PRO-seqと名付けられた方法を提示している(p. 950)。この方法は、プロモータ近傍の休止の仕組みを探求するのに用いられ、そしてコアプロモータ要素と休止部位との間の正確な位置決めが決定的に重要であることを明らかにした。この知見は、そのプロモータがいかにして転写性休止を指令するか、また、活動する転写複合体がゲノム内で優先的に局在化しているのをいかにして検出するかを示すものである。(KF,KU)
【訳注】プロモータ:DNA分子上の転写を開始するRNAポリメラーゼの結合部位
Precise Maps of RNA Polymerase Reveal How Promoters Direct Initiation and Pausing

カスパーゼ-11依存のピロプトーシス(Caspase-11-Dependent Pyroptosis)

インフラマソームとは、無菌の組織障害同様に、様々な微生物に対する免疫を引き起こすために構築される多タンパク質複合体である。インフラマソームの下流のカスパーゼ-1の役割はよく特徴付けられているが、カスパーゼ-1ノックアウトマウスがカスパーゼ-11をも欠くという発見は、カスパーゼ-11の機能の再評価をもたらすことになった。Aachouiたちはこのたび、カスパーゼ-11がマウスにおけるサイトゾル細菌に対する免疫に必要であることを実証した(p. 975, 1月24日号電子版; またCemmaとBrumellによる展望記事参照)。サイトゾルに入ることのできた細菌のみが、カスパーゼ-11依存的ピロプトーシス(pyroptosis:プログラムされた細胞死の炎症性の型)を活性化した。カスパーゼ-11のこの機能は、標準的インフラマソームとは違うものであった。(KF,KU)
Caspase-11 Protects Against Bacteria That Escape the Vacuole

プロモータの変異と癌(Promoter Mutations and Cancer)

癌のゲノム配列決定プロジェクトは、遺伝子のタンパク質翻訳領域内における反復性変異の病原性役割に光を当ててきた。このたび、2つの研究が、ヒト腫瘍における変異の範囲が、遺伝子の調節領域まで拡張できることを示唆している。70人のヒトメラノーマの研究において、Huangたちは、その内の71%(50人)がTERT(染色体末端をキャップする酵素である、テロメラーゼの触媒サブユニットをコードしている遺伝子)のプロモータ領域中の2つの特定の変異の内の一つを持っていることを発見した(p. 957, 1月24日号電子版)。これとは独立に、Hornたちは、メラノーマに罹りやすいファミリーのTERTプロモータ中に、メラノーマとは分離した生殖細胞系列の変異を同定し、そして孤発性メラノーマとメラノーマ細胞系統において高いパーセンテージで存在する付加的なTERTプロモータ変異を発見した(p. 959, 1月24日号電子版)。双方の研究における変異は、特定の転写制御因子のための新たな結合部位を生み出し、レポーターアッセイ中で、転写の増加を引き起こした。(KF,KU)
【訳注】メラノーマ:メラニン細胞由来の転移性の大きい黒色腫
Highly Recurrent TERT Promoter Mutations in Human Melanoma
TERT Promoter Mutations in Familial and Sporadic Melanoma

ヒ素が違いを生む(Arsenic Makes a Difference)

量子臨界点(QCP)は、絶対零度でも消えない量子ゆらぎが、緩やかな(いわゆる二次の)相転移を引き起こす時に現れる。QCP は強磁性体で観察されてきたが、強磁性金属ではその証拠はあまり明確でなく、温度が低くなるにつれて超伝導のような他の現象が QCP の形成を阻害するものと考えられている。しかしながら、Steppke たちは(p. 933)比熱と磁化率の測定を用いて、約10%のヒ素置換を行った擬一次元の重フェルミオン物質である、YbNi4(P1-xAsx)2において QCP の強力な証拠を見出した。その結果は、強磁性体の量子臨界に関する理論についての難題を提起している。(Sk)
Ferromagnetic Quantum Critical Point in the Heavy-Fermion Metal YbNi4(P1-xAsx)2
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