AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 1 2013, Vol.339


単一電子を干渉させる(Interfering Single Electrons)

量子情報処理では、区別不能でコヒーレントな粒子の生成が不可欠である。これまで光子では実証されてきたが、電子でも同様に実証し、量子エレクトロニクスに実装するのは至難の業であった。Bocquillon等は(p.1054、1月24日号電子版、Schonenbergerの展望記事参照)2次元電子ガス中に2つの独立した単一電子源をパターン配置して、単一電子干渉実験を行った。実験結果から、生成された電子は量子応用に必要な特性を示すことが示された。(NK)
Coherence and Indistinguishability of Single Electrons Emitted by Independent Sources

予防、或いは修復(Prevention or Repair)

二分脊椎といった神経管閉鎖障害は、母親の食事に葉酸(ビタミンB群の一つ)を補うことでこの障害を防ごうという広範囲の努力にもかかわらず、驚くほど多く生じている。発生初期での手術により、ある程度の成功をおさめたが、問題が多く残されている。Wallingfordたち(10.1126/science.1222002)は正常と異常な神経管発生をレビューし、そしてこれらの深刻な先天性障害に関する遺伝的な危険因子を見出すことが、神経管閉鎖障害を防ぎ、処置する方法を与えるだろうと示唆している。(KU)
【訳注】二分脊椎:母胎内での脊椎骨の形成不全による障害
The Continuing Challenge of Understanding, Preventing, and Treating Neural Tube Defects

隠れたブラックホール?(A Hidden Black Hole?)

太陽質量に近いブラックホールは、しばしば、変動するX線源に関連している。Corral-Santana たち (p.1048) は、Swift Burst Alert Telescope によって、われわれの銀河内に検出された微弱な変動するX線源の可視光観察結果を報告している。この可視光のデータにより、小質量のドナー星の周りを2.8時間の周期で回る、太陽質量の3倍より重い質量のブラックホールの存在が明らかになった。このタイプの系では珍しく、このブラックホール連星を非常に大きな軌道傾斜角(視線方向と公転軸のなす角度)で見ることができる。(Wt,nk)
A Black Hole Nova Obscured by an Inner Disk Torus

磁気ノイズを制御する(Controlling Magnetic Noise)

強磁性材料は多くの磁区からなっており、各々の磁区は磁場の強度が増大するとともに確率的に切り替わってしまう。磁気メモリー素子のサイズが小さくなると、この磁気ノイズを理解し、完全に制御することが重要になる。Burgess たちは(p. 1051,1月17日号電子版)、ナノサイズのねじればかりに組み込んだ磁気渦コアを用いることにより、ナノスケールの解像度で試料内の磁位の2次元マップを作り上げた。さらに、試料に幾何学的な欠陥(くぼみ)を持たせることにより、磁化を安定にすることができる。(Sk)
Quantitative Magneto-Mechanical Detection and Control of the Barkhausen Effect

片頭痛の発生の仕方(How Migraine Develops)

片頭痛はありふれた病気である。不幸なことに、片頭痛がどのように、そして何故生じるのかは分かっていない。Karatasたち(p. 1092)は、ストレスを受けたニューロンと髄膜の 三叉神経の求心路との間のシグナル経路に関して記述しており、片頭痛がどのようにして起きるのかを説明している。(KU)
【訳注】片頭痛(へんずつう):日本人の8%が悩まされている病気で、頭の片側のみに発作的な痛みを生じる神経学的疾患。求心路:脳に向かう情報経路
Spreading Depression Triggers Headache by Activating Neuronal Panx1 Channels

先行指標無し(No Leader to Follow)

大気中CO2濃度と地上大気温度の変化は密接に関連している。しかしながら、温度は大気中CO2から影響を及ぼされるのと同じくらい、大気中CO2に影響を及ぼしうる。従来の極地方の氷床コアに関する研究では、急速に温暖化が進んだ時期の温度上昇は、数百年もCO2の増加に先んじて起こっていた、と結論づけていた。Parreninたちは(p.1060;Brookによる展望記事参照)、南極の氷床コアに含まれていたN2の同位体組成に基づき、その大気成分の修正した年代尺度を報告しており、そして最終退氷期の間に起こった4回の急速な温暖化の期間を通じて、温度とCO2が同期して変化していた、と提唱している。(Uc)
Synchronous Change of Atmospheric CO2 and Antarctic Temperature During the Last Deglacial Warming

減数分裂を支配するもの(Mastering Meiosis)

二つの保存されたキナーゼ(Ipl1/Aurora BとMps1)は、減数分裂の際に紡錘体上での正しい染色体の配向にとって重要であることが知られているが、しかし染色体分配の制御における彼らの役割と関連性は不明である。酵母での研究から、Meyerたち(p. 1071,1月31日号電子版)は、染色体が紡錘体微小管への適切な付着のステップを通過する際の染色体をモニターし、そして染色体の対形成、配向、および分配における二つのキナーゼのの役割を調べた。(KU)
Mps1 and Ipl1/Aurora B Act Sequentially to Correctly Orient Chromosomes on the Meiotic Spindle of Budding Yeast

髄膜腫への遺伝的手がかり(Genetic Clues to Meningioma)

成人において、髄膜腫は、最もありふれた原発性脳腫瘍である。脳を覆う組織の層内部に生じると、これらの腫瘍は、通常ゆっくりと成長し、良性であるが、しかし重篤な神経学的合併症を引き起こす。これら腫瘍の約半分は、ニューロフィブロミン 2遺伝子 (NF2)に変異を持っている。髄膜腫の病変形成に寄与する他の遺伝子を同定するために、Clarkたち(p. 1077,1月24日号電子版)は、300の腫瘍に関するゲノム配列解析を行った。髄膜腫は二つの一般的なクラスに分類された:一つは頭蓋底に生じた良性の腫瘍、これらはTRAF7, KLF4, AKT1,および SMO 遺伝子に変異を持っているが、もう一つの方は大脳と小脳の半球で生じたより高いグレードの腫瘍で、これはNF2に変異を持っている。(KU)
Genomic Analysis of Non-NF2 Meningiomas Reveals Mutations in TRAF7, KLF4, AKT1, and SMO

IFN-εの役割(A Role for IFN-ε)

I型のインターフェロン(IFNs)は、病原体、特にウイルスに対する宿主防御に関与する重要なるサイトカインである。マウスやヒトにおいて、IFN-εはI型のINF座位内でコード化されたINF様遺伝子であり、その機能は解明されていなかった。Fungたち(p. 1088)は、Ifn-εの遺伝子欠損を持つマウスを作り、そして他のI型のINFs同様に、INF-εがINF-α受容体1と2を通してシグナルを伝達していることを見出した。しかしながら、これら他のサイトカインと異なり(これらのサイトカインは免疫細胞でまず発現し、そしてトリガーとなる免疫細胞上に誘発される)、マウスとヒトの双方において、IFN-εは雌性の生殖器系の上皮細胞でもっぱら発現し、そしてその発現はホルモンで制御された。IFN-ε欠損のマウスは、二つの普遍的な性交による感染病である単純ヘルペスウイルス2型 と クラミジアにより感染しやすくなった。(KU)
Interferon-ε Protects the Female Reproductive Tract from Viral and Bacterial Infection

ナノワイヤーの光起電力を改善する(Improving Nanowire Photovoltaics)

原理的に、インジウムリン(InP)のような、無機化合物半導体から作られたナノワイヤーをアレイ化した太陽電池は、平面接合のものに比較して、材料および製造コストを下げられるはずである。しかし実際面では、低い光吸収性能と表面領域での無用な電荷の再結合率の増大により、素子の効率が低くなる傾向にある。今回、Wallentin たちは(p. 1057, 1月17日号電子版)、ミリメーターの長さに成長させた p-i-n InP ナノワイヤー(正から負のドープへ変化させたもの)のアレイが、ナノワイヤーの径と負のドープ部分の長さを変化させることにより最適化できることを報告している。13.8% の効率が達成され、これは最も優れた平面接合型の InP の光起電力に匹敵するものである。(Sk,nk)
InP Nanowire Array Solar Cells Achieving 13.8% Efficiency by Exceeding the Ray Optics Limit

クークー(Coo Coo)

チャールズダーウィンは,自ら提唱した自然選択説を知らしめるため,大好きな飼育種カワラバトを種の劇的な多様化の例として用いた。飼育種鳩に見られる人為的に作られた形質の多くは,生態学的また進化的に,野生種が備えるそれらと関連する形質の中に集約されている。Shapiroらにより,カワラバトの飼育種(学名;Columba livia)および36の人工的繁殖種,2つの野生種とその兄弟種であるコウライバト(hill pigeon,学名;C. rupestris)のゲノム配列が決定された (p. 1063,1月31日号電子版; 表紙参照)。その結果,トサカに関する基本的な遺伝的特徴が明らかとなり,トサカを持つ人工的繁殖種は全て,1つの変異事象から派生した可能性があることが示唆された。(MY)
Genomic Diversity and Evolution of the Head Crest in the Rock Pigeon

苔のベール(A Mossy Veil)

陸生植物は異なる2つの世代を有している。即ち、配偶子を産生する一倍体の配偶体と二倍体の胞子体であり、殆どの陸生植物で観察される優性型である。しかしながら,基礎的な陸生植物であるコケ類において、その主要な生物量は一倍体の配偶体から構成されている。Sakakibaraらにより,ニセツリガネゴケに存在するKNOX2(class 2 KNOTTED1-LIKE HOMEOBOX)遺伝子の機能欠失型変異体についのて解析がなされた (p. 1067; Friedmanによる展望記事参照)。変異体の苔は無胞子生殖を示し,明らかに一倍体配偶体による受精が起きている。しかしながら,正常な胞子体相は無視され,代わりに一倍体配偶体に類似した二倍体構造が産生されている。この結果から,KNOX2は二倍体の相における一倍体のボディープランを抑制することで世代交代を制御していることを示唆している。(MY,KU)
KNOX2 Genes Regulate the Haploid-to-Diploid Morphological Transition in Land Plants

調節性ゲノム(The Regulatory Genome)

多細胞生物というのは、典型的に同じゲノムのDNAを含むけれど形態的にも機能的にもまるで違う多様な細胞型を含んでいる。それらの違いは、遺伝子発現の違いからきている。遺伝子調節性のゲノム領域(エンハンサー)はよく研究されているが、EncodeやmodEncodeなどのような大きな努力にもかかわらず、動物のゲノムにおけるエンハンサーの数やそのゲノム上の位置、細胞型の特異性、その強さなどは、おおむねわかっていない。Arnoldたちは、ゲノム全体にわたってのエンハンサーの強さを測定し、調節性ゲノムの組織化に関する洞察を与えてくれるSTARR-seqと名付けられた方法を報告している(p. 1074, 1月17日号電子版)。(KF)
Genome-Wide Quantitative Enhancer Activity Maps Identified by STARR-seq

脱凝集反応を調べる(Dissecting Disaggregation)

ミスフォールドタンパク質凝集(集合)体の過剰な蓄積は、細胞の「品質管理」の仕組みを圧倒し、細胞死にいたらしめることがある。酵母Hsp104タンパク質とその細菌性相同体ClpBは分子シャペロンであり、これらはアデノシン三リン酸加水分解によって生み出された力を、これらの大きな分子機構における軸チャネルを通して伸びたポリペプチドセグメントの段階的なアンフォールディングと糸状にすることに結びつけることによって凝集(集合)したタンパク質を「救出」する。そのチャネルから出現するアンフォールドされたポリペプチドは、第2のシャペロン系であるDnaK/DnaJ/GrpEの助けを借りて、再フォールドされる。DnaKは凝集体内のポリペプチドの領域をClpBにもたらし、可溶化プロセスを開始する重要な役割を担っている。Rosenzweigたちは、このClpB-DnaK複合体の核磁気共鳴由来の構造を記述し、それを変異原性と機能的アッセイを介して検証している(p. 1080, 2月7日号電子版; またSaibilによる展望記事参照)。この研究は、脱凝集反応中の分子プレイヤーそれぞれの役割を明確にし、DnaK-ClpB相互作用の構造的基盤を提供するものである。(KF,KU)
Unraveling the Mechanism of Protein Disaggregation Through a ClpB-DnaK Interaction

強力な雄性の微生物(Mighty Male Microbes)

遺伝的因子と環境因子の双方が、自己免疫疾患に対する各人の感受性に寄与しているが、特異的な環境の影響は特徴がよく明らかになっていない。Markleたちは、微生物因子、とりわけ腸の微生物叢が、マウスの1型糖尿病への感受性にいかに影響しているかを探求した(p. 1084, 1月17日日号電子版; またFlakたちによる展望記事参照)。1型糖尿病の非肥満性糖尿病(NOD)のマウスモデルでは、雌マウスは雄よりも有意に病気に対する感受性が高かった。しかし、この差は無菌条件下では明らかではなかった。雄性のNODマウスの盲腸の含有物を疾患発症前に雌性NODマウスに移すと、膵島の炎症や自己抗体の産生、および糖尿病の発生が保護され、雌性マウスにおけるテストステロンの増加も伴った。アンドロゲン受容体活性をブロックすると、保護が抑止された。つまり、微生物叢は性ホルモンを制御し、自己免疫への個々の感受性に影響する可能性があるのだ。(KF,KU)
Sex Differences in the Gut Microbiome Drive Hormone-Dependent Regulation of Autoimmunity

二重の魔力(Double Whammy)

単純な遺伝的要因ないし環境的要因では説明できない精神病理は、ときとして、複数の入力の間の複雑な相互作用の結果である。Giovanoliたちは、マウスにおける出生前と出生後のストレス要因の間の相互作用を分析し、どのような相乗作用が成体マウスにおける精神病理を生じさせているかを調べた(p. 1095)。 その結果は、マウスが出生前に感染症にさらされ、また思春期頃にもストレス要因にさらされたとき、感受性が上昇することを示唆している。その後の青年期にもたらされたストレス要因は、同じような感受性を生むことはなかった。ストレス要因と精神病理の間での遅延をもたらす仕組みは不明瞭なままだが、そのタイミングと引き金の順序とは、細胞でのありうる原因についてのヒントをもたらすものである。(KF,KU)
Stress in Puberty Unmasks Latent Neuropathological Consequences of Prenatal Immune Activation in Mice
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