AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 16 2012, Vol.338


古代の武器(Ancient Weaponry)

尖頭器を棒に取り付けるられるようにする「柄の取り付け」は、初期の人類の武器の機能を大幅に向上させる重要な技術進歩であった。この技術はネアンデルタール人と初期のホモサピエンスの両者が用いており、約200,000〜300,000年前以降ではよくみられる。しかし、その技術が共通の祖先によって用いられていたものなのか、それぞれが別々に獲得したものなのかははっきりしていなかった。共通の祖先による使用説を裏付けるものとして、Wilkins たちは(p. 942)、南アフリカ中央の遺跡で発見された尖頭石器は、約500,000年前頃に、槍の形になるように柄の取り付けがなされていたと報告している。証拠には、このような用途に一致する損傷した刃の部分と、柄の取り付けを示唆するような基部の痕跡が含まれている。 (Sk,nk)
Evidence for Early Hafted Hunting Technology

ナノチューブ紡ぎ糸のアクチュエーター(Nanotube Yarn Actuators)

アクチュエーターは、熱、光、電気をねじれや伸張動作に変換するものであり、人工筋肉と称されることも多い。アクチュエーションを示す材料の多くは、NiTi合金のように大きな力を発揮するが変位量が小さいか、ポリマー材料のように大きな動きを示すが力は小さいかのどちらかである。これらアクチュエーターが抱える他の課題は、応答時間が遅いことと寿命が短いことである。Limaらは(p.928, Schulzによる展望記事参照)、一連のゲスト分子を抱接した撚糸カーボンナノチューブの糸が、線形あるいはねじれ動作を示すだけでなく、応答速度と寿命の問題を解決し、また動作のために電解液を必要としないことを報告している。(NK,nk)
Electrically, Chemically, and Photonically Powered Torsional and Tensile Actuation of Hybrid Carbon Nanotube Yarn Muscles

DNAから形成されたチャネル(Channels from DNA)

人工的膜貫通チャネルは、細胞のシグナル伝達を検知したり、調整したりといった応用において興味深いものである。Langecker たち(p. 932, Stranoによる展望記事参照)は、DNA折り紙でナノ構造体を構築するさいのモデルとしてチャネルタンパク質であるα-ヘモリジン(α-hemolysin:溶血素)を用いた。脂質二重膜中に挿入すると、この構造体は膜チャネルとして作用する。イオンチャネル応答は、通常のイオンチャネルに対して測定されたものと類似しており、そして膜中にさらに押し込まれたチャネルはより大きなゲート開閉応答を示した。このチャネルは単一のDNA分子を検知するのに用いられた。(KU)
Synthetic Lipid Membrane Channels Formed by Designed DNA Nanostructures

コヒーレントな熱の流れ(Coherent Heat Flow)

一般に、固体中の熱は、界面や欠陥でのフォノンの散乱のため、非コヒーレントに輸送される。Luckyanova たちは(p. 936)、それぞれ 12-nm 厚みのGaAsとAlAsの層を、1〜9層積層した超格子フィルムを成長させた。このサンドイッチ構造の熱伝導度は、超格子層の繰り返し数に対し直線的に増大した。それは、コヒーレントな熱輸送の理論的シミュレーションと一致している。(Sk,KU)
Coherent Phonon Heat Conduction in Superlattices

磁性を持つパラサイト(Magnetic Pallasites)

パラサイト隕石の主成分である鉄と橄欖石とは、母天体の内部で層に分離していたため、その起源を説明するのが困難である。一般的に受け入れられているモデルでは、それらは、ある小惑星のコアとマントルとの境界で形成されたことを示唆している。Tarduno たち (p.939; Weiss による展望記事を参照のこと) は、二つのパラサイト隕石の橄欖石結晶中の残存磁化を計測し、そしてダイナモ機構がその母天体の中で作用していたに違いないと結論付けたが、これは小惑星の幾つかではダイナモ形成が可能であったという更なる証拠を与えるものである。その磁化データは、熱的モデルも考慮すると次の事実を示唆している。すなわち、あるパラサイトは、衝突した小惑星のコアからの液体 FeNi が、巨大原始惑星のマントルに注入されたときに形成された可能性がある。(Wt,KU,nk)
Evidence for a Dynamo in the Main Group Pallasite Parent Body

モデルと経験(Experience Versus Models)

眼窩前頭皮質が行動や学習、更に意思決定に関与しているかに関して、今も議論が続いている。Jonesたち(p. 953)は、眼窩前頭皮質が、その課題の連想モデルから価値を推定しなければならない時は、眼窩前頭皮質は価値観に基づく算出に関して重要であるが、以前の経験に基づいた価値の推定が十分である時にはそうでないことを見出した。この結果は、この領域が単に経済的な価値に関するシグナルを伝達するという仮定に異議を唱えるものである。しかしながら、価値とは無関係にモデルに基づいた世界の表現を構築するには重要である、という眼窩前頭皮質に対する概念とは一致するようである。(KU,ok,nk)
Orbitofrontal Cortex Supports Behavior and Learning Using Inferred But Not Cached Values

Aktの自己貪食(Getting Autophagy to Akt)

タンパク質キナーゼ Aktはヒト癌において活性化されることが多く、腫瘍形成を促進すると考えられている。このようなことを行う可能性の一つの方法は、自己貪食(細胞がそれ自身のタンパク質や小器官、特に損傷したものを消化するというプロセス)を抑制するということである。Wang たち(p. 956,10月25日号電子版;Koren and Kimchiによる展望記事参照)は、Aktが自己貪食を制御する直接的な分子メカニズムを報告している。自己貪食機構の成分であるBeclinは、Aktによるリン酸化の直接の標的である。このリン酸化により、細胞骨格の中間フィラメントとBeclinの相互作用が強くなり、自己貪食を抑制した。Aktによってリン酸化リン酸化されないように修飾されたBeclin1分子の発現は、培養中の細胞のAkt-誘発性の形質転換とマウスモデルにおける腫瘍形成を抑制した。(KU,nk)
Akt-Mediated Regulation of Autophagy and Tumorigenesis Through Beclin 1 Phosphorylation

腸チフス菌の制限を取り除く(Removing Typhoid Restriction)

病原性細菌の中には精巧な宿主適応を示し、単一の宿主のみに感染するものがいる。例えば、腸チフスを引き起こすチフス菌(S. Typhi)は、ヒトに感染するだけである。この宿主限定は細胞レベルで証明されており、その理由はチフス菌がヒト以外の種のマクロファージの中で生きることができないからである。Spano and Galan (p. 960)は、広範囲の宿主を持つサルモネラ属からの単一のIII型分泌エフェクタータンパク質がチフス菌中に発現すると、このヒトにのみ適応した病原菌が非許容宿主のマクロファージの中で生存可能となることを見出した。更に、このエフェクタータンパク質を発現するチフス菌は、非許容宿主であるマウス中で複製することができた。(KU,nk)
A Rab32-Dependent Pathway Contributes to Salmonella Typhi Host Restriction

聞き方(How to Hear)

哺乳類の耳においては、一連の生物物理的な事象により、空中を伝わる音響エネルギーが機械的振動に変換され、それが内耳蝸牛殻の機械センサー細胞により検知可能となる。哺乳類の耳はこのエネルギー変換に関して極めてユニークなものであると考えられていた。その理由は、インピーダンス変換として知られるこの変換を容易にしているのは哺乳類にのみ特有な中耳の精巧な骨だからである。他の脊椎動物のほとんどは、中耳を構成している骨が下顎の一部として機能しており、このエネルギー変換プロセスにおける脊椎動物の収れん進化に対する可能性を制限している。しかしながら、Montealegre-Z. たち (p. 968, Hoyによる展望記事参照)は、後肢に耳のある昆虫の熱帯雨林のキリギリスが独特の鼓膜-てこ器官(tympanum-lever organ)を用いて、3ステップのインピーダンス変換プロセスを収れん進化させていたことを示している。数百万年の進化の距離を越えてのこの収れん進化は、生物物理的チャレンジに適応するための形態学的柔軟性を示している。(KU,nk)
Convergent Evolution Between Insect and Mammalian Audition

合成パーキンソン病(Synthetic Parkinson's)

パーキンソン病(PD)とそれに関連するαシヌクレイン病は、黒質緻密部(SNpc)その他の脳領域におけるドパミン作動性ニューロンの損失と関連した、αシヌクレイン(α-Syn)を含むニューロン内包含物、レビー小体(LB)とレビー神経突起(LN)の蓄積によって定義される。しかしながら、LB/LN形成と神経変性の間の因果関係は不明なままである。実際に、LB/LNが有毒なものなのか、或いは神経保護応答を示すものかどうかも議論の的であった。Lukたちは、遺伝子組換えマウスのα-Synタンパク質に由来するα-Syn原線維を、野生のマウスの背側線条体に注入し、ミスフォールドされたα-SynがPD様のLB/LN形成と、それに引き続くSNpcなど、解剖学的に相互接続している領域への病的α-Synの細胞間伝達を引き起こしていることを発見した(p. 949)。さらに、LB/LNの形成とSNpcにおけるその蓄積が、それらドパミン作動性ニューロンの進行性の損失をもたらし、背側線条体へのドパミン神経支配を減少させ、ついにはPDに似た運動欠陥を引き起こした。つまり、合成ミスフォールドされた野生型のタンパク質(すなわちα-Syn)は、健康な非遺伝子組換えマウスにおいても、病気の生理と神経変性を誘発、伝達することができたのである。(KF,KU)
Pathological α-Synuclein Transmission Initiates Parkinson-like Neurodegeneration in Nontransgenic Mice

人工的に誘発された卵母細胞(Artificially Induced Oocytes)

マウスでは、雄性の胚性幹細胞(ESC)と誘発された多能性幹細胞(iPSC)が、試験管内で、始原生殖細胞様細胞(PGCLC)へと分化することが示されてきた。睾丸中に移植されると、それらPGCLCは、十分に機能する精子を形成した。再びマウスを用いた研究で、Hayashiたちは、雌性のESCとiPSCもまた、PGCLCへと分化でき、それが再構成された卵巣に凝集すると、試験管内で、後成的な再プログラムと減数分裂の潜在能力を示すことを見出した(p. 971,10月4日号電子版)。卵巣滑液包のもとでの再構成された卵巣の移植によって、雌性のPGCLCは、試験管内で成熟と受精が可能な健康な子孫をもたらすに十分に成長した卵母細胞を発生した。(KF,KU)
Offspring from Oocytes Derived from in Vitro Primordial Germ Cell?like Cells in Mice

Tヘルパー細胞の転写を助ける(Helping T Helper Transcription)

転写制御因子のインターフェロン応答ファミリー(IRF)のメンバーは、特異的に免疫細胞中に発現し、その分化を制御していることが知られている。IRF4とIRF8は、他の転写制御因子に結合することによって遺伝子発現を制御し、それがゲノム中の複合性モチーフへのそれらの補充をもたらすことになる。この制御が、ある種の免疫細胞でいかに作用しているかという特異的機構は理解されているが、T細胞でそれがどう生じているかは、IRFと通常のパートナーになる転写制御因子が存在しないので、はっきりしていない。ゲノム解析を用いて、Glasmacheたちはこのたび、Tヘルパー17(TH17)細胞中でIRF4-AP-1複合要素を同定し、IRF4とAP-1因子Batfとが協同的に、TH17細胞の分化と機能に必要となる大きな遺伝子の配列上に構築されることを示した(p. 975,9月13日号電子版; またMartinezとRaoの展望記事参照)。そうしたヘテロ二量体の組立ては、TH2細胞やB細胞、樹状細胞でも観察され、これは免疫細胞分化におけるこのモチーフの一般的重要性を示唆するものである。(KF)
A Genomic Regulatory Element That Directs Assembly and Function of Immune-Specific AP-1?IRF Complexes

保存のコスト(Costs of Conservation)

2010年、世界の多くの政府は、生物多様性条約を通じて、2020年までに達成されるべき20の目標を有する、生物多様性保全のための戦略的計画について合意した。目標達成に必要と思われるコストに関する情報が少なすぎるという理由が一つにはあるため、この計画に対する財政投資に関する議論は、未だ解決しきれてはいない。McCarthy達は(p. 946, 10月11日号電子版)、地域の保護と絶滅の回避に関連する二つの目標に対する財政コストを見積もった。鳥類に関するデータを用いて、彼らは、更に広い応用性のある生物多様性保存のためのコストを推定可能なモデルを開発している。全ての種に対して絶滅リスクを減らすためには、米国の領域内において毎年40億ドルが必要と見積もられている。その一方で、保護地域を保全し、維持するための予測されたコストはほぼ580億ドルである--双方のコストを合わせたとしても、生態系が失われることによる経済的コストに比べれば、まだ小さい。(Uc,ok)
Financial Costs of Meeting Global Biodiversity Conservation Targets: Current Spending and Unmet Needs

反逆するサルモネラ(Subversive Salmonella)

サルモネラ属は、もっとも集中的に研究された病原性微生物の一つである。サルモネラを含む空胞(SCV)は、パラドクスをはらんだリソソーム様の組成をもっている。一方で、SCV膜にはリソソーム膜糖タンパク質が高度に富んでいて、SCVはリソソーム内の含有物(加水分解酵素)に接近しやすいが、他方、SCV管腔には、マンノース-6-リン酸受容体経路によってもたらされるリソソーム性加水分解酵素が、相対的に欠けている。McGourtyたちは、このパラドクスを、サルモネラ属のエフェクターSifAがマンノース-6-リン酸受容体の輸送を妨害していることを示すことによって解決した(p. 963)。これがリソソームの酵素の誤配送と分泌をもたらし、リソソームの加水分解活性を減少させている。サルモネラ属の細胞内増殖は、リソソーム酵素活性の増強をした細胞では、減少したのである。(KF)
Salmonella Inhibits Retrograde Trafficking of Mannose-6-Phosphate Receptors and Lysosome Function
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