AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 23 2012, Vol.338


タンパク質の折りたたみ:過去と未来(Protein Folding: Past and Future)

50年前、球状タンパク質の構造決定に対し、Max Perutz と John Kendrew にノーベル化学賞が贈られた。最初のミオグロビンの構造の確認以来、科学者たちは、タンパク質の折りたたみを理解しようと努めてきた。Dill と MacCallum は(p.1042)、以下の三つの主要な疑問についてなされた進展について報告している。アミノ酸配列を構造に結びつけるその物理的法則は何なのか? どうしてタンパク質はそんなに速く折り畳まれるのか? タンパク質の構造は計算的に予測できるのか? 我々がこれらの疑問に答えるべく歩みを進めてきた一方で、新たな疑問が生じてきた。もはや、「タンパク質の折りたたみの問題の解決」について語ることは無用である。タンパク質の折りたたみは、次の50年も過去と同じくらい刺激的であるような研究領域に育ってきた。(Sk,KU)
The Protein-Folding Problem, 50 Years On

地球から月を作る(Forming the Moon from Earth)

月は、45億年前に、火星の大きさの惑星が地球へ衝突した後で形成されたと考えられている。この衝突のコンピュータシミュレーションによれば、月は衝突する惑星側の物質から主に生み出されたと予想されている。しかしながら、月は地球と類似の組成であり、そして、おそらくは、衝突した惑星は地球とは異なる組成を有していたであろう。以前のモデルでは、衝突直後の地球-月系の角運動量は現在の値と同じであったと、仮定されている(Halliday による展望記事を参照のこと)。Cuk と Stewart (p.1047, 10月17日付電子版; 表紙を参照のこと) は、地球-月系の角運動量は、月形成にいたる衝突現象の後、現在までに半減した可能性があり、その場合新しい衝突モデルへの途が開かれることを示した。たとえば、シミュレーションでは、初期の高速回転する地球に高速で衝突すると、主に地球のマントルから月が形成されるようになる。この案の代わりに、Canup (p.1052, 10月17日付電子版) は、質量が原始地球と同じくらいの惑星による低速度の衝突を検討した。そのような衝突では、類似の組成を持つ月と地球とを生成できる可能性がある。(Wt,nk)
Making the Moon from a Fast-Spinning Earth: A Giant Impact Followed by Resonant Despinning
Forming a Moon with an Earth-like Composition via a Giant Impact

セルロースの分解を観察する(Watching a Breakdown)

バイオ燃料の製造をスケールアップするに際しての主要なチャレンジの1つは、その後の発酵に向けてセルロースを糖に分解する、対費用効果の高い方法を開発することである。Dingたちはいくつかの異なったタイプの顕微法を適用し、究極的にはその分解プロセスを最適化するために、セルラーゼ酵素がいかにしてその分解作業を行なっているか、その詳細を理解しようとした(p. 1055)。リグニンの除去後に、真菌のセルラーゼは細菌由来の多酵素複合体よりも効率的に、残存するセルロースのポア構造に浸透した。だが、セルラーゼのこの挙動は、セルロースの当初の構造を保存しながらのリグニン抽出方式に依存している。(KF,KU,nk)
How Does Plant Cell Wall Nanoscale Architecture Correlate with Enzymatic Digestibility?

分子が衝突する時(When Molecules Collide)

コンピュータの計算能力とアルゴリズム設計における進歩は、実験装置の更なる精緻さと平行して進歩しているので、分子間相互作用の挙動をより正確に描写できのはどちらかを巡り、理論と実験は絶えず競い合ってきた。現在、単原子と二原子分子の衝突に関しては両者共に同程度の研究レベルである。一方、不対電子を有する2個の二原子同士の衝突は、コンピューター量子力学にとっては自由度が多すぎて計算が困難である。Kirsteらは(p. 1060)、その一例としてNO+OHの非弾性散乱における回転運動を実験的に明らかにし、さらに長距離相互作用に着目した単純化した理論モデルが実験結果と驚く程良く一致することを見出した。この近似法により、多くの類似した系の理論的予測がある程度可能になるであろう。(NK,KU,nk)
Quantum-State Resolved Bimolecular Collisions of Velocity-Controlled OH with NO Radicals

発表戦略を見抜く(Fathoming Publication Strategies)

多くの研究が発表後の引用の数を追跡調査しているが、その様な研究では、発表前のダイナミクスがどのようにその後の引用の履歴に影響するかを明らかにすることはできない。Calcagno たちは(p. 1065, 10月11日号電子版)、2006年から2008年の間に、生物学の16分野で発表された8万件以上の論文の提出履歴を調査し、科学ジャーナル誌間の原稿の流れを基にしたソーシャルネットワークを構築した。大きな影響力のあるジャーナル誌がそのネットワークの中心を占めていた。大部分の原稿は、それらが提出された最初のジャーナル誌で発表されていた。しかしながら、提出の履歴は、論文の発表後の影響力(引用数)に影響しており、再提出を求められた原稿が最終的により多く引用されていた。(Sk,KU)
Flows of Research Manuscripts Among Scientific Journals Reveal Hidden Submission Patterns

地震ノイズを利用する(Exploiting Seismic Noise)

一般に、地震の画像はわかっている発生源(通常は地震の震源地)から地震計に伝わる地震波の分析結果に基づいている。Poli たちは(p.1063; Prieto による展望記事参照)、今回、地震ノイズの実体波の相関関係から、地球内部深層に関する情報が与えられることを示している。他の観測点により補完された、フィンランドの一連の観測点を用いて、地球内部の鉱物学的変化に関係していると思われる、410kmと660 km の深さにおける地球のマントル内の二つの主な地震境界面からの反射を調べた。そのデータは、上部の不連続部は 15 km 以上に拡がっているのに対し、深いほうの不連続部はたった 4 km 程度の厚みしかないことを意味している。(Sk,KU)
Body-Wave Imaging of Earth’s Mantle Discontinuities from Ambient Seismic Noise

自己貪食を破壊する(Axing Autophagy)

レジオネラ菌のような細胞内病原体が哺乳類の宿主細胞に侵入すると、これらの菌を攻撃する宿主細胞の成分と戦う必要がある。自己貪食とは、細胞が自分自身の成分を消化するプロセスであり、しばしば飢餓や病原体攻撃への応答に関係している。Choyたち(p. 1072,10月25日号電子版)は、レジオネラ菌が真核細胞における自己貪食経路をどのようにして抑制しているかを記述し、そして生化学的メカニズムに関する詳細な記述を与えている。レジオネラ菌のエフェクタータンパク質であるRavZは、自己貪食性細胞膜由来の重要な自己貪食タンパク質 Atg8を特異的に解体する非常に強力な酵素として働き、結果として自己貪食を阻止する。(KU,nk)
The Legionella Effector RavZ Inhibits Host Autophagy Through Irreversible Atg8 Deconjugation

DNAの感触を得る(Getting the Feel of DNA)

遺伝子を転写するために、RNAポリメラーゼ(RNAP)はプロモータDNAを巻きもどして、「転写バブル(transcription bubble)」とRNAP-プロモータ開鎖複合体 (RPo)を形成する必要がある。RPoの活性は遺伝子発現制御にとって極めて重要である。Zhangたち(p. 1076,10月18日号電子版)は、プロモータDNAとRNAプライマーとの様々な複合体において、高度好熱菌由来の転写開始因子σと共に細菌のRPoの結晶構造を記述している。RNAPとσは、転写バブル(非鋳型鎖DNA)との配列-特異的接触によりプロモータを認識している。決定的な相互作用はDNA塩基の重なりの乱れと二つのタンパク質の表面にあるポケットの中への挿入により生じ、DNA配列の直接的な検知が可能となる。(KU)
Structural Basis of Transcription Initiation

癌の幹細胞:動く標的?(Cancer Stem Cells: A Moving Target?)

多形神経膠芽腫 (GBM)は、高度に攻撃的なヒト脳腫瘍である。有力な「癌幹細胞仮説」では、GBMが主に神経の幹細胞から生じていると断定している。Friedmann-Morvinskiたち(p. 1080,10月18日号電子版; Krivtsov and Armstrongによる展望記事参照)は、この仮説があまりにも限定しすぎていると示唆している。マウスモデルにおいて、ヒトGBMに似た脳腫瘍がアストロサイトやニューロンといった十分に分化した細胞から形成された。いくつかの遺伝子変化を得ると、成熟した脳細胞は元の始原的細胞へと脱分化することが可能であり、この細胞は次に腫瘍の増殖を開始し、維持することができた。(KU,nk)
Dedifferentiation of Neurons and Astrocytes by Oncogenes Can Induce Gliomas in Mice

プランクトンの局所最適化(Local Optima for Plankton)

近年の海洋の温暖化が海洋の植物プランクトンの季節性と組成に変化をもたらしている。Thomasたち(p. 1085,10月25日号電子版)は、植物プランクトンにおける温度の直接的な影響を調べた。広い緯度範囲から単離された194の植物プランクトン系統に対して、公表されたデータと平均の反応温度をフィッティングすることで、その結果としての温度に関係した形質(最大の成長速度、温度最適条件、および温度のニッチ幅)から、適温度条件と多様性の緯度効果が明らかになった。生物地理的な差異は熱帯性系統の更なる温暖化への感受性の増加を示し、そしてモデリングからは熱帯性系統が両極方向へ広がっていき、熱帯地方において百年以内に植物プランクトンの多様性が失われることを予想している。(KU,nk)
A Global Pattern of Thermal Adaptation in Marine Phytoplankton

植物の受精に際しての二重の送達(Double Delivery During Plant Fertilization)

重複受精とは、顕花植物を定義する特色の1つであり、2つの非運動性雄性配偶子(精細胞)と2つの雌性配偶子(卵子および中央細胞)が関与するものである。双方の受精イベントが生殖の成功にとって必要である。顕花植物が多精受精を防ぎつつ、いかにして、2対の配偶子の信頼でき、かつタイムリーな融合を保証しているかは、はっきりしていなかった。Sprunckたちはこのたび、シロイヌナズナにおける配偶子の相互作用が、システインに富む小さなEGG CELL 1(EC1)タンパク質に依存していることを明らかにしている(p. 1093; またSnellによる展望記事参照)。このタンパク質は卵子の貯蔵小胞中に蓄積され、精子-卵相互作用の際に遊離されるものである。EC1ペプチドが、精細胞表面へのフソゲン(fusogen、融合剤)の送達の引き金を引く。細胞間リンクが配偶子融合プロセスを通して2つの精細胞を結び付け、そして活性化した精細胞の自発的な融合を防ぐのに役立っているのである。(KF)
Egg Cell?Secreted EC1 Triggers Sperm Cell Activation During Double Fertilization

同期的な脳の活動(Synchronous Brain Activity)

様々な脳領域にわたる神経活動の同期は、作業記憶の負荷や注意の座位によって異なっている。同期は、記憶と注意のタスクに際しての、領域を超えた効率的な情報交換を増加させるための一般的仕組みとして働いていると考えられている。しかしながら、同期が特定の内容を伝えているかどうかは、わかっていない。Salazarたちは、サルの頭頂および前頭葉前部の皮質領域にわたって、用意された複数の電極からの記録を行い、作業記憶課題における場所とモノのアイデンティティ双方についての、内容特異的な同期が存在することを明らかにした(p. 1097,11月1日号電子版)。この知見は、作業記憶の内容が、脳の複数領域をわたっての部位特異的な同期を介して、維持されうることを示唆するものである。(KF)
Content-Specific Fronto-Parietal Synchronization During Visual Working Memory

飢えた細胞への助け(Help for Starving Cells)

腫瘍が成長するにつれ、個々の腫瘍細胞は、エネルギーを生み出す方法を変化させることによって、栄養の供給の減少に対応している。酵素であるピルビン酸キナーゼアイソフォームM2(PKM2)は、この「代謝の再プログラミング」の重要な要素である。PKM2がいかに制御されているかを同定するための研究で、Kellerたちは、SAICAR(succinylaminodazolecarboxamide ribose-5′-phosphate)と呼ばれる細胞代謝産物がPKM2活性を刺激して、グルコースが制限されている際の癌細胞の生存を促進していることを発見した(1069,10月18日号電子版)。SAICARはヌクレオチドの新規な生合成の経路の仲立ちをするものであり、PKM2との相互作用は、細胞が、エネルギー産生モードを栄養条件に合わせて協調するのを助けている可能性がある。(KF,nk)
SAICAR Stimulates Pyruvate Kinase Isoform M2 and Promotes Cancer Cell Survival in Glucose-Limited Conditions

HCMV遺伝子発現を解剖する(Dissecting HCMV Gene Expression)

我われのほとんどは、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)に感染しているが、重症になるのは、ほとんどいつも、免疫無防備状態にある個人や、新生児である。このウイルスは比較的大きな(およそ240kb)のDNAゲノムをもっていて、遺伝子転写のパターンは複雑であり、複雑な制御と翻訳の能力があることが暗示される。Stern-Ginossarたちは、ヒトの線維芽細胞のウイルス感染の過程に際しての、HCMV転写物上のリボソームの位置をマップ化した(p. 1088)。そのデータは、新たな複数の翻訳領域(ORF)が既存のORF内に存在していることを示唆するものである。正規のORFの上流に非常に短い複数のORFがあり、基準となるORFへのアンチセンスORFがあり、長いRNAによってコードされた、短い保存されたORFがある。選択されたORFが翻訳されると、HCMVのコード化能力は劇的に拡張されるのである。(KF)
Decoding Human Cytomegalovirus
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