AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 1 2011, Vol.333


結び目を作って(Get Knotted)

位相幾何学的には、ループや結び目は、単純なねじり操作や伸展操作によって互いに変換することは出来ない。この差があることで、ループや結び目は興味ある研究対象と見なし得るが、ポリマーを操作して予め定義した形状に作ることは困難を伴う。Tkalec たち(p. 62; および、Kamienによる展望記事参照)は、表面処理したコロイド粒子をキラルなネマティック液晶中に浸した。液晶分子が粒子の表面に垂直に整列すると、各粒子の周囲に欠陥線(defect line)が形成される。光学ピンセットを利用して異なる配列のコロイド粒子を選択すると、隣同士の欠陥ループが互いに交差する構造が作られる結果、任意の複雑度の結び目を作ることが可能となった。(Ej)
Reconfigurable Knots and Links in Chiral Nematic Colloids
p. 62-65.

回転はつまんない(Rotation Can Be Such a Drag)

光の速度は透明物質を通過する際に、屈折率に応じた減少量で減速する。光子ドラッグ効果(Photon drag effect)によって、回転するウインドーは像を回転させる。しかしながら、殆どの物質でこの効果は微小(一般には100万分の1度以下の角度)である。Franke-Arnold たちは(p.65)、光学的に誘起される、高い有効屈折率を有するスローライト光(訳注:真空中の光に比べて極端に遅く伝搬する光)媒体である、回転ルビーロッドを用いることで、人間の目で見ることができ、カメラで撮影できる程に光ドラッグ効果 を増幅できることを示している。(Uc,KU)
Rotary Photon Drag Enhanced by a Slow-Light Medium
p. 65-67.

超弾性の設定値(Superelasticity Set Point)

形状記憶合金は、他の金属や合金よりもはるかに大きな、可逆的歪み変形に耐えることができる。この超弾性は、負荷応力ゼロのもとでの安定した母相と、応力下での安定したマルテンサイト相の間の、可逆的な相転移によって引き起こされる。現在の超弾性合金の欠点は、転移を誘起する応力の強い温度依存性である。Omori たちは(p. 68)、 Fe-Mn-Al 合金に少量の Ni を追加すると、ほとんど温度依存の無い超弾性特性を有する合金になることを示した。(Sk)
Superelastic Effect in Polycrystalline Ferrous Alloys
p. 68-71.

溶融酸化物とガラスの中を電子が動く(Mobile Electrons in Oxide Melts and Glasses)

反応直前の溶媒和電子の寿命は一般的に短いと考えられているが、ある特定の溶媒中では電子は溶媒和し、アニオンのように振舞うことが知られている。以前から知られている例としては、液体アンモニア中での溶媒和したナトリウムが挙げられ、Na+と自由電子が存在した状態になる。電子化合物(electrides:エレクトライド)と呼ばれる固体中でも自由電子を保持できることが知られている。Kimらは(p.71;Edwardsの展望記事参照)、内部にかご構造を有し、酸素アニオンを取り去ると電子化合物になる[Ca24Al28O64]4+・4e-の研究に関して報告している。溶融状態や急冷ガラス状態ではホッピング機構によって電子対が移動することによって、金属並みの電気伝導を示すという。(NK,KU)
Solvated Electrons in High-Temperature Melts and Glasses of the Room-Temperature Stable Electride [Ca24Al28O64]4+4e-
p. 71-74.

疑問と戦争(Whys and Warfares)

何世紀もの社会的かつ哲学的分析が、「発生してしまった戦争はどのように進展していくか?」という普遍的な問いに対して捧げられてきた。Johnsonたちは(p.81)、アフガニスタンとイラク戦争における公になっている被害者数のデータ、ヒズボラとパキスタンの軍隊に対する自爆攻撃データ、及び1968年から2008年までの全世界のテロによる被害者数のデータを解析した。この解析によって、異なる地域の暴徒や世界的なテログループによる攻撃のタイミングの共通のパターンが明らかにされている。攻撃のエスカレートする割合と、その地域の最初の二日間における被害者数の時間間隔との間には線形的な関係が観察された。(Uc,Ej)
Pattern in Escalations in Insurgent and Terrorist Activity
p. 81-84.

より大きな同位体の偏りを持った細菌(Bacteria with a Bigger Bias)

硫酸塩還元細菌が呼吸に際して酸素の代わりにイオウ化合物を使う時、エネルギーを生成する化学反応には特定のイオウの自然同位体で反応が少し速くなる。その結果、天然の同位体存在量と比べ、呼吸に使用されたイオウ同位体だけが不足していることになる--千回の反応当たり僅か数原子分だけだが。Sim たち(p. 74) は、海岸の堆積物から単離された海洋細菌が、顕著に大きな同位体比を示し、それは千回の反応当たり、最大68倍にまで達することを示した。堆積岩中で測定された同じくらい高い値を説明するためにイオウと酸素の追加サイクルが必要と考えたれていた。しかし、今回の発見により、常にそうとは限らなくなった。(Ej,nk)
Large Sulfur Isotope Fractionation Does Not Require Disproportionation
p. 74-77.

飛行機雲形成の舞台(Pros and Contrails)

飛行機雲 -- これは高所を飛ぶ飛行機によって作られる長く薄い雲であるが -- は、大空では見慣れた光景であり、そして多くの人たちは、飛行機雲の形成が、飛行機の主たる雲量への影響であると考えているようである(正当ではあるが)。しかしながら、飛行機は、また、ある場合は雲量を減少させる。Heymsfield たち (p.77) は、存在する雲の中に飛行体により誘発される空孔の発生について記述している。この空孔は、飛行体が雲を通過するときに氷の粒子が生まれること、そして、その結果として、氷の成長からの潜熱による対流が起こることによって生成される。この現象は、また、局所的な降雪を引き起こし、以前、人工降雨用の雲の種まきによるとされていた降雪の幾つかはこれで説明できるかもしれない。(Wt,KU,nk)
Formation and Spread of Aircraft-Induced Holes in Clouds
p. 77-81.

慢性疲労症候群(Chronic Fatigue)

慢性疲労症候群(CFS)の患者は、異種栄養性マウス白血病ウイルス(XMRV)と呼ばれるレトロウイルスに感染しているという2009年のレポート(Science 326, 585)は、かなりの関心をもたれたが、しかし別のCFS患者グループにおける他の研究ではXMRVを検知できなかった。今回、二つの研究が、XMRVとCFSの間にあると主張されていた関係は、ほぼ間違いなく実験室と研究試薬がウイルスに汚染されていたためとの見解を支持している。Paprotkaたち(p. 97,6月2日号電子版)は、1990年代のマウスにおけるヒト前立腺腫瘍の異種移植のラボ経過実験の際に、二つのマウス白血病ウイルスの組み換えにより生じたという証拠を提供している。彼らは、初期の異種移植実験に由来する株化細胞(22Rv1)により産生されたXMRVの混入が、ほぼ間違いなく患者のサンプル中でのウイルスの検出を説明するものであると結論付けている。Knoxたち(p. 94,6月2日号電子版)は61人のCFS患者からの血液サンプルを調べたが、内43人は以前にXMRV陽性と診断された人である。ウイルスの核酸、感染性ウイルス、及びウイルス特異的な抗体に関する高感度アッセイから、そのサンプルのいずれからもXMRVに関する証拠は何等見つからなかった。(KU,nk)
Recombinant Origin of the Retrovirus XMRV
p. 97-101.
No Evidence of Murine-Like Gammaretroviruses in CFS Patients Previously Identified as XMRV-Infected
p. 94-97.

二重の義務を行なう(Doing Double Duty)

N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)-1-リン酸転移酵素は、リソソームへのそれらの効率的な輸送に必要なリソソーム酵素上にマンノース6リン酸(M6P)残基の生成に必須の酵素である。GlcNAc-1-リン酸転移酵素の欠損は致死的なリソソームの貯蔵障害にいたる。GlcNAc-1-リン酸転移酵素は不活性な前駆タンパク質として合成され、ゴルジ複合体中でのタンパク質切断により活性化される。Marschnerたち(p. 87,Yeによる展望記事参照)は、GlcNAc-1-リン酸転移酵素の切断に関与するタンパク質分解酵素が、部位-1タンパク質分解酵素(S1P)であり、この酵素はコレステロールの恒常性において中心的な役割を果たしているゴルジ-局在化タンパク質分解酵素であることを報告している。S1Pの損失はM6P残基の欠如により新たに合成されたリソソーム酵素の選別の誤りに帰結し、このことはS1P欠損動物における欠陥性の軟骨表現型に寄与する。(KU)
A Key Enzyme in the Biogenesis of Lysosomes Is a Protease That Regulates Cholesterol Metabolism
p. 87-90.

核膜タンパク質の篩効果(Nuclear Membrane Protein Sieve)

核膜の外膜から内膜への移動の際に、核膜タンパク質は核膜孔複合体を通過する必要がある。Meinemaたち(p. 90, 6月9日号電子版;Kriwacki and Yoonによる展望記事参照)は、膜貫通領域と核移行シグナルのスペースを広げる未変性の折り畳まれていないリンカーが、核膜孔のその膜からその中心チャネルにまで達していることを見出した。輸送の際に、折り畳まれていないリンカーが核膜孔複合体の骨格を「切断」し、これにより核内の膜タンパク質のレベルを制御する選択的ゲートとして核膜孔複合体が作用することを可能にしている。(KU)
Long Unfolded Linkers Facilitate Membrane Protein Import Through the Nuclear Pore Complex
p. 90-93.

微生物は人の食事により影響される(Microbes Are What You Eat)

腸内の微生物のコミュニティーは食事内容に影響される。Faithたち(p. 101, 5月19日号電子版)は、人腸微生物叢のうちの配列決定された10種のメンバーをコロニー形成させ、かつ人の食べ物の中でありふれた4つの成分の濃度を系統的に操作して食事を与えた無菌のマウスを用いて、ミクロフローラに対する食事の影響を明らかにしようと試みた。コミュニティーメンバーの絶対的存在量とコミュニティーのメタトランスクリプトームにおける変化がモニターされ、そしてそのデータは単純な直線回帰モデルで解析された。主要な栄養素 (macronutrient:casein=protein, corn oil=fat, cornstarch=polysaccharide, sucrose=simple sugar) の比率の変化は微生物種の存在量変動の半分を説明し、そしてカゼイン摂取がトータルの微生物量と高度に相関していた。(KU,Ej)
【訳注】メタトランスクリプトーム:環境中の微生物の総てのRNAを解析して実際に働いている遺伝子を解析する手法
Predicting a Human Gut Microbiota’s Response to Diet in Gnotobiotic Mice
p. 101-104.

戦う、逃げる、凍りつく(Fight, Flee, or Freeze)

扁桃体中心核の中央部分は、行動面でまた生理的に条件付けされた恐怖への応答に関与している。異なったタイプの恐怖応答には、行動と生理の要素の間の異なった関連付けが反映しているのだろうか? Vivianiたちは、その場に凍りついてしまうラットと心血管機能を使うラットの間で、脳幹の核に対して違う投射を有する分離した神経細胞集団を検出した(p. 104)。扁桃体中心核の中央のそれら神経細胞集団はまた、オキシトシン刺激薬に対して違う電気生理学的特長を示し、違うように応答した。恐怖条件付けパラダイムの文脈において、オキシトシンは選択的に、凍りつくことに影響したが、心拍変動には影響せず、これによって、ラットが子孫を守ろうとする際には、凍りつくことが少なく、母親がより攻撃性を示すということを説明できる可能性がある。(KF)
Oxytocin Selectively Gates Fear Responses Through Distinct Outputs from the Central Amygdala
p. 104-107.

仲間からのプレッシャー(Peer Pressure)

時には、脳中に堅く保持されていた記憶表現が、「記憶の同調(memory conformity)」と呼ばれる現象において外部からの社会的影響によって変化してしまうことがある。Edelsonたちは、脳イメージングと行動のパラダイムを組み合わせて用いることで、関与している脳の機構を解き明かした(p. 108; またRoedigerとMcDermottによる展望記事参照のこと)。事実を観察し、それについての記憶課題を完了した後に、各人は他の参加者から偽の記憶を提示された。元の回想が正確だった場合ですら、参加者の多くは大勢の意見に同調し、元の操作について知らされた場合ですら、不正確な回答を行なったのである。そうしたエラーの持続には、テストの際の扁桃体の活性の増強だけでなく、海馬における増強された活性も関わっていたのである。(KF)
Following the Crowd: Brain Substrates of Long-Term Memory Conformity
p. 108-111.

不完全なコピー?(Imperfect Copies?)

タンパク質に翻訳するためのDNAの相補RNA配列への転写は、遺伝学の基礎の一つである。しかしながら、DNAとRNAとの間で配列の違いが生じており、例えば脱アミノ化によって説明されるAとGの変化。Liたち(p.53:5月19日の電子出版)は、27人の個人からの培養されたB細胞、皮膚、及び脳組織において、そのRNA配列が対応するDNA配列と一致しないという2万を超える事象を同定した。複数の人が特異的な部位内で同一の変化パターンを示した。計算と実験による検証が行なわれ、そしてこの不一致は広範囲であり、タンパク質構造においてさえ検知された。このように、転写プロセシングあるいは転写後のプロセシングの予期しない側面はゲノム変動に影響を与えるだろう。(hk,KU)
Widespread RNA and DNA Sequence Differences in the Human Transcriptome
p. 53-58.

ウイルス圏についての見方(Views on the Virosphere)

ウイルス圏というのは、そのインパクトが明らかであるにも関わらず、もっともわかっていない生命の領域である。伝統的に、この領域を調べるために、培地依存の方法が用いられてきた。しかしながら、広範な環境におけるウイルス-宿主のダイナミクスについて、我々はほとんど何も知らないのである。Tadmorたちは微少溶液を用いた計数的な多発性PCR技法を開発し、ファージのマーカー遺伝子と、普遍的な細菌性宿主マーカーとの共出現を検出した(p. 58と表紙を見よ; またKrupovicとBamfordの展望記事参照のこと)。この研究は、シロアリの腸にある単一、無培養のバクテリア細胞のレベルでの、ウイルスと細菌の相互作用を明らかにしている。このシロアリのミクロフローラから得られた結果は、水平遺伝子伝達や宿主交代の潜在的可能性はあるにも関わらず、ウイルスにおける細菌の宿主特異性のレベルが高いということを示すものである。この実験的アプローチは、宿主とウイルスの培養を回避するもので、自然状態における複数のウイルス-宿主相互作用の解析を許すことになるに違いない。(KF)
Probing Individual Environmental Bacteria for Viruses by Using Microfluidic Digital PCR
p. 58-62.

損傷制限の練習(Damage Limitation Exercise)

ゲノムにおける共有結合性のストランド間クロスリンク(ICL)は、DNAに基づく細胞プロセスの破壊とDNAへの付加的な損傷を回避するために、すばやく修復される必要がある。脊椎動物は、ファンコニ貧血(FA)タンパク質を含むプロセスによるDNA複製の際に、ICLを修復できるが、この修復プロセスはまた、姉妹染色分体間の相同組換えを必要とすると考えられてきた。Longたちは、ツノガエル卵に基づく無細胞系を用いて、複製結合(replication-coupled)のICL修復では、切断された姉妹染色分体中の二重鎖切断の相同組換えにRad51が必要であることを示している(p. 84)。Rad51は二重鎖切断形成の前に、停止した複製点へロードされ、切断が起きるやいなや、ストランド侵入を引き起こすよう機能しているらしい。FAタンパク質複合体は、ICL修復の際に相同組換えの上流で作用していて、染色質へのRad51の補充を必要としていない。(KF)
Mechanism of RAD51-Dependent DNA Interstrand Cross-Link Repair
p. 84-87.

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