AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 24 2011, Vol.332


あなた自身のベッドを作りなさい(Make Your Own Bed)

動物は彼らが棲息する環境の端から端まで移動して資源を探索する。そのため、最も効率が良くなる移動行動が有利となるに違いない。しかしながら、動物が移動し、資源を入手するに従い、探索環境は彼ら自身の行動によって変化してしまう。このように、探索効率は時間につれて変わる目標となるのである。DeJagerたちは(p.1551;Grunbaumによる展望記事参照)、ムール貝の個体の行動が個体群レベルでの有益な環境複雑性を生み出していることを示している。特に、個々のムール貝が長いステップと短いステップの双方からなる、ある種のランダムウォークを用いて移動しており、その累積効果がムール貝の生息地におけるムール貝のパッチ状分布を作り出している。このパッチ状の分布が各個体への適応有利性を与え、そしてこの有益な環境の発展を可能にしているのがこのランダムウォーク戦略なのだ。(Uc,KU,nk)
Levy Walks Evolve Through Interaction Between Movement and Environmental Complexity
p. 1551-1553.

フォアグラの脂肪肝はトリにだけ有用(Foie Gras: For Birds Only!)

渡りをするトリの場合、必要エネルギーを過剰な脂肪として肝臓に蓄える能力は有用であるが、ヒトの場合脂肪肝は適応不全となり、重大な臨床結果をもたらす。非健康的な食事傾向に付随して先進国の成人の約1/3が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の影響を受け、健康不安が増加している。NAFLDの最も極端なケースとして、脂肪の異常蓄積が激しい炎症、肝臓ガン、あるいは、内蔵損傷を起こし、肝臓移植が必要となる場合がある。Cohen たち(p. 1519)は、ヒトにおいてNAFLDがどのように生じるかの知見をレビューし、最近の遺伝・代謝の研究から明らかになった真相に焦点を当てている。(Ej)
Human Fatty Liver Disease: Old Questions and New Insights
p. 1519-1523.

理解の問題だ(A Matter of Understanding)

量子色力学は原子内部の構造について、クォークがどのように互いに結合して、陽子や中性子を形成しているかを理論的に記述している。この相互作用をエネルギーや熱力学の観点から理解することが物質理解につながる。これはまた、そのプロセスに関与する相対エネルギーを正確に決定可能とするその温度スケールを必要とする。高エネルギーイオン衝突データを利用し、Gupta たち(p. 1525; および、Mullerによる展望記事参照)は、固体物質からクォーク-グルオンプラズマの集合へと分離する相転移点を決定可能にするような計算手法を定式化した。この結果、物質がどのようにして強固に結合されているかの理解が明確になった。(Ej,KU)
Scale for the Phase Diagram of Quantum Chromodynamics
p. 1525-1528.

星屑な私たち(We Are Stardust)

太陽を構成する物質の同位体組成、および、元素組成を得るために、NASA Genesis 探査機は地球磁気圏の外側の太陽風の試料を捕獲し、実験室での解析のために地球に持ち帰ってきた(Clayton による展望記事を参照のこと)。McKeegan たち (p.1528; 表紙を参照のこと) と Marty たち (p.1533) は、試料の実験室での解析に基づいて、太陽の酸素と窒素の同位体組成の測定結果を述べている。太陽と比較して、本質的にすべての太陽系の物質は、最も重い酸素同位体 17O と 18O 、および、重い窒素同位体 15N が系統的に豊富となっている。これから見て、地球や月、火星、小惑星は、それらが形成された平均的な太陽系星雲とは異なる酸素と窒素の同位体組成を有している。(Wt)
The Oxygen Isotopic Composition of the Sun Inferred from Captured Solar Wind
p. 1528-1532.
A 15N-Poor Isotopic Composition for the Solar System As Shown by Genesis Solar Wind Samples
p. 1533-1536.

フッ化炭素を分解する(Fleecing Fluorocarbons)

合成による炭素-フッ素結合は難問を提起している。一方では、この化合物は、焦げ付かない [テフロン加工の] 多くの消費者製品と同様に、多様な良く効く医薬品にも使われている。他方、利用が増える結果として合成フッ化炭素が廃棄物の流れの中に占める割合は増加しつつあり、しかもそれらの分解は大変難しい。Choiら(p. 1545)はこれらの結合を活性化できるずばぬけた間接的方法を発見した。これは、最終的には多様な化合物への入口 [出発物質] や出口 [生成物質] にも手軽に適用操作することに役立つであろう。特に、CH3F と C2H5Fのようなフッ化炭化水素はイリジウム錯体と反応し、最初に C-H 結合が切断され、続いて転位反応が起きて、C-F 結合が金属媒介により切断される。(hk,KU,nk,ok)
Net Oxidative Addition of C(sp3)-F Bonds to Iridium via Initial C-H Bond Activation
p. 1545-1548.

小さなコンデンサ、大きな可能性(Tiny Capacitors, Big Possibilities)

コンデンサは、非導電体によって隔てられた導電材料に電荷を蓄積することにより機能する。いくつかの用途では超コンデンサが充電式電池の代わりに用いられているが、コンデンサは電池より急速に充放電するものの、一般に、非常に少ない電荷しか保持できない。。Zhu たちは(p. 1537, 5月12日オンライン出版)、マイクロ波を用いてグラファイト酸化物を剥離し、カリウム水酸化物でその炭素を活性化することにより、多孔質のカーボン材料を作製した。処理が済むと、水素および酸素の含有率が低くて高い導電率を有する、炭素の単原子層で取り囲まれた1から5ナノメータの細孔の網状組織が得られた。電解質としてアセトニトリルを用いることで、高い重量あたりの静電容量が得られたが、この製造プロセスは容易にスケールアップできるであろう。(Sk,nk)
Carbon-Based Supercapacitors Produced by Activation of Graphene
p. 1537-1541.

バクテリアは応用できない(Bacteria Need Not Apply)

岩石や堆積層の奥深く閉じ込められたある種の元素の同位体比率の変動は、その層が堆積した時点の条件を反映している。特に、鉄同位体の大きな分別値は、古代の地球の歴史においてどのバクテリアが代謝に係わったかを推測する手掛かりとして注目されてきた。Guilbaud たち(p. 1548)は、鉄-硫化物鉱物の黄鉄鉱の形成において、類似の同位体比が非生物学的に得られることを実験的に示した。この比率は地球最古の岩石中の測定値と類似しており、鉄同位体法は初期のバクテリアによる鉄代謝の近似としては信頼が置けないかも知れない。(Ej,nk)
Abiotic Pyrite Formation Produces a Large Fe Isotope Fractionation
p. 1548-1551.

若さの秘訣は?(The Fountain of Youth?)

老化は生物学的構造体のゆっくりとした劣化に起因する。出芽酵母においてすら複製上の老化を蒙り、限られた数の子孫を産生した後に細胞は死んでいく。しかしながら、老化の影響が子孫に伝わることは無い。若い時と年老いてから生まれた子孫は同じような寿命を持つ。Unalたち(p. 1554)は、出芽酵母において、寿命が胞子形成の際にリセットされることを見出した。若い細胞と年老いた細胞由来の胞子の寿命は本質的に同じである。実際に、胞子形成プログラムの開始は複製体の寿命をリセットするに必要なトリガーであるらしい。転写制御因子Ndt80はその若返り効果と関連し、そしてその異所性発現が無性的に増殖する細胞の寿命を延ばしている。(KU)
Gametogenesis Eliminates Age-Induced Cellular Damage and Resets Life Span in Yeast
p. 1554-1557.

中心体を分類、整理する(Sorting Out the Centrosome)

中心体は対になった小器官であり、微小管を組織化して紡錐体を形成する。酵母の中心体(紡錘極体と呼ばれている)は18個のタンパク質から構成されている。中心体がどのように制御されているかをより理解するために、Keckたち(p. 1557)は質量分析法を用いて、酵母の中心体タンパク質のリン酸化に関する包括的な解析を行なった。リン酸化のほぼ総ての300部位が同定されたが、そのうちの約100部位は有糸分裂の間でのみ生じていた。この結果はより複雑なヒト中心体(これはおよそ100個のタンパク質から成り、非常な大規模セットのリン酸化事象によって制御されているらしい)の更なる機能的構造解析への道を切り拓くであろう。(KU)
A Cell Cycle Phosphoproteome of the Yeast Centrosome
p. 1557-1561.

一晩寝て考える(Sleep on It)

あるレベル以上の複雑さを持つ殆ど全ての動物は眠る必要がある。しかしながら、我々は、何故少しでも眠らないといけないのかを未だ知らない。ショウジョウバエにおいて利用可能な多くの遺伝的解析手段を用い、そしてこの解析結果を精緻な行動学的、かつ形態学的解析と組み合わせることで、Busheyたち(p. 1576)とDonleaたち(p. 1671)は、背側の扇形状体(fan-shaped body)(ショウジョウバエの脳における中心複合体の一部)が、睡眠を選択的に誘発している可能性を見出した。睡眠の誘導は長期記憶の強化に重要であり、そして睡眠それ自体がシナプスの再正常化に必要であった。環境的充足は睡眠に対するより強い必要性に帰結し、覚睡状態の際のシナプスの成長を高め、そして睡眠中のシナプスの再正常化を増加させた。更に、睡眠に対する更なる必要性は覚睡時のシナプスの成長に直接依存していた。(KU)
Sleep and Synaptic Homeostasis: Structural Evidence in Drosophila
p. 1576-1581.
Inducing Sleep by Remote Control Facilitates Memory Consolidation in Drosophila
p. 1571-1576.

光による制御(Light Control)

メラノプシンは、青色光への応答の際に、細胞内カルシウムの増加の引き金となる感光色素である。Yeたちは、転写制御因子NFAT(活性化細胞の核内因子)のカルシウム制御を利用して、NFATプロモーターの制御下において導入遺伝子の光誘発発現を実現する合成性シグナルカスケードを設計した(p. 1565; またChowとBoyden による展望記事参照のこと)。グルコース恒常性に関与するホルモンであるグルカゴン様ペプチド1の光誘発発現を示すよう設計された細胞が、マウスに移植された。移植された細胞へ青色光照明を行なうと、U型糖尿病マウスにおける血糖の可動域は小さくなった。光誘発を利用して緊密な制御を行なうこのアプローチは、薬物療法やタンパク質発現技術においてさまざまの応用をもちうるものである。(KF)
A Synthetic Optogenetic Transcription Device Enhances Blood-Glucose Homeostasis in Mice
p. 1565-1568.

気をつけろ、子ザルちゃん(Watch Out, Little Monkey)

前頭眼運動野は選択的注意に結び付いているのか、プログラムされた眼球運動に結び付いているのかについて、これまでかなりの議論がなされてきた。サルの電気生理学的記録を実施することで、SchaferとMooreは、選択的注意こそが、前頭葉前部の神経活動で自発的に駆動される変化における自然かつ訓練なしでの結果であることを発見した(p. 1568、5月26日号電子版; またRoelfsemaによる展望記事参照のこと)。前頭眼運動野におけるニューロンの活性は、運動皮質において古典的に観察されたものと同様、オペラント条件付け(神経フィードバック型のパラダイム)を用いて自発的に増えたり減ったりしうる。神経活動のこうした自発的変化は、自動的に、視覚認知における空間的に特異な変化をもたらすことになり、選択的注意の神経性相関を産み出すこととなった。(KF,KU)
【訳注】オペラント条件付け:個体が環境に自発的に働きかけ、その結果としての環境変化に反応すること
Selective Attention from Voluntary Control of Neurons in Prefrontal Cortex
p. 1568-1571.

整然とした不規則性(Ordered Disorder)

電子や光子が物質内を伝播する際に、不純物や欠陥によって散乱される。この不規則性の量は、電子や光子が物質内で停滞(または局在化)してしまうほどその伝播に影響する。不規則性が存在する系での伝播に関しては長く研究されているが、ほとんどの場合その不規則性は固定化されたものであり、系統的に不規則性が及ぼす影響を調べることはできなかった。Leviらは(p.1541;5月12日の電子版)準結晶構造を作りことで、不規則性の数を制御できる光学系を開発した。不規則がない自由伝搬状態と高度に不規則な局在化状態との間で、伝播の増強が観測された。(NK,KU,nk,ok)
Disorder-Enhanced Transport in Photonic Quasicrystals
p. 1541-1544.

過失の修正(Correcting Mistakes)

(ふつうRNA中に見出される)リボヌクレオチドの、デオキシリボヌクレオチドの代わりとしてのDNAへの取り込みは、短いタンデム反復内でのその徴となる2つから5つの塩基対欠失をもたらすことがあり、これはゲノムを不安定化することになる。同様な効果は、高レベルでの転写の際にも見られ、DNA切断に関与するプロセスであるDNAからの高次コイルの除去に通常関与しているトポイソメラーゼ1(Top1)酵素に依存している。RNase H 酵素は、DNAから潜在的に変異原性のあるリボヌクレオチド[リボヌクレオチド一リン酸(rNMP)]を正常に除去する。Kimたちは、酵母を研究し、リボヌクレオチド付随の徴となる2つから5つの塩基対欠失が、Top1によって産生されていることを明らかにした(p. 1561; またCerritelliたちによる展望記事参照のこと)。切断部位におけるrNMPの存在が、不可逆的なTop1切断をもたらし、それに引き続いての修復が欠失をもたらすのである。この活性がある種の癌細胞に見られる、ミスマッチ修復とは独立のマイクロサテライト不安定性の基礎をなしている可能性がある。(KF)
Mutagenic Processing of Ribonucleotides in DNA by Yeast Topoisomerase I
p. 1561-1564.

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