AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 8 2009, Vol.324


微妙な関係の漁業(Fine-Tuning Fisheries)

過去10年の間に、異常気候が北大西洋大陸棚における生態系の水界地理学的特性にどのような影響を与えてきたかに関して、我々の理解は驚くほど進展したが、このような事象が生物にどのようなインパクトを与えたかについては、さほど知られていない。Koellerたち(p.791,Greeneたちによる展望記事参照)は、重要な漁業資源であるエビ(pink North Atlantic shrimp)の孵化の時期を様々な場所で調べ、局所的な春の植物プランクトン(local spring phytoplankton bloom)の繁茂の時期と比較した。エビの繁殖は局所的な大陸棚海底の水温によって影響され、プランクトン繁茂の時期とは直接関係していなかった。局所的な海底水温とプランクトン繁茂の時期は一般によく整合しており、エビの孵化が食料の多い時期に当たるようになっているが、このうまく進化した関係が年ごとの変動や気候変化に追随しきれない可能性がある。(KU,nk)
Basin-Scale Coherence in Phenology of Shrimps and Phytoplankton in the North Atlantic Ocean
p. 791-793.

火星の問題(Mars Matters)

火星隕石の分析とともに、軌道周回と火星に着陸した(in situ)探査機による数十年間に渡る探査により、火星地殻の化学組成に関して豊富なデータが得られた。McSweenたち(p.736)は火星の地質学的歴史の推察に役立つようなこれらのデータをレビューし、火星が地球のマントルと似た水分を含むマントルを有していたのではという以前の考えが疑わしいこと、更に火星の隕石が火星の地殻を代表するものではないことを警告している。(KU,Ao,tk,nk)
Elemental Composition of the Martian Crust
p. 736-739.

N型ドープグラフィンナノリボン(Negatively Doped Graphene Nanoribbons)

PドープおよびNドープを実現することができれば、グラフィン(単原子層厚グラファイト)の電子デバイス応用の可能性が飛躍するであろう。大気圧条件下で物質を吸着させることで、容易にグラフィンナノリボン(幅数十nmの細長い片)をPドープすることができる。Wangらは(p.768)、アンモニア雰囲気下でジュール加熱することによって窒素がナノリボンの端に結合し、N型グラフィンを得ることに成功した。このN型材料を用いて、室温で動作可能な電界効果型トランジスタが実現可能であることも示している。(NK)
N-Doping of Graphene Through Electrothermal Reactions with Ammonia
p. 768-771.

サルの意思決定(Decisive Monkeys)

意思決定は認知神経科学における最近の研究の中心テーマである。行動に関するプロトコルは意思決定の根底にある神経プロセス研究の端緒を与えた。実験的研究からは拡散モデルが支持されてきた。このモデルではある閾値に達するまで情報が時間とともに蓄積される。誤った決定に関係する入力はその情報の雑音として働くのである。KianiとShadlen(p.759)は、選択の確かさを研究するための行動タスクを開発し、サルにおける対応する神経細胞群を同定した。サルたちは不確かな、高報酬の選択を放棄して、確実な、低報酬を好んで選択するようになった。この選択をするのに用いられた情報をコードしている同じニューロンが又、確実性の程度をもコードしており、このことは,ヒトにおいて自分の選択したことの信頼度として記述されるものであろう。(KU,nk)
Representation of Confidence Associated with a Decision by Neurons in the Parietal Cortex
p. 759-764.

チューリングパターン反応に新たな追加(Adding a Turing Pattern Reaction)

二つの化学反応系(塩化マロン酸とヨウ化マロン酸の反応とフェロシアン化ヨウ素とフェロシアン化イオウの反応)のみが、溶液中で持続的な定常パターン(チューリングパターン:Tyuring pattern)を形成するが、このパターンは拡散性の化学成分の動きとネガティブフィードバックループの形成の結果として生じる。Horvathたち(p.772)は次の3っの判断基準に基づいて、別の事例の発見に取り掛かった--反応が空間的な双安定性を形成すること、ネガティブフィードバック反応の独立した制御がなされること、そして錯体化剤とともに拡散性の化学成分を緩慢にすることで活性化と抑制のプロセスが別々に作用すること。チオ尿素-ヨウ素-イオウ(TuIS)の反応が、縞状や六法晶系のスポット配列を含めた様々な定常パターンを作った。かくして、このようなチューリングパターン-形成反応は必ずしも珍しいものではなくなるであろう。(KU,nk)
An Experimental Design Method Leading to Chemical Turing Patterns
p. 772-775.

コーラスのつぶやき(Chorus Hissing)

プラズマ圏のヒス(Plasmaspheric hiss;未解明の広帯域、低周波数の電波放射)は、以前から地球のプラズマ圏に存在することが知られていたが、その源は不明であった。ヒスの発生源は、磁気嵐の際にプラズマ圏の外側から発生するコーラス(chorus)と呼ばれる異なるタイプの電波の可能性がある。両者の電波は、宇宙船や宇宙飛行士の安全性と関係する地球近傍の宇宙空間におけるエネルギの高い電子の振る舞いに影響を及ぼすが、両者の相関を実験で明白にするのが困難であった。最近、THEMIS計画の5っの衛星のうちの2っの衛星が、幸運にも磁気嵐が活発な時に電磁波のデータを高分解能で4分間記録することが出来、ヒスとコーラスの両者を検知した。Bortnikたち(p.775,Sanolic and Chunによる展望記事参照)によるそのデータの解析から、二つのセットになった電波は良い相関を持っており、予期されたようにコーラスの後にヒスが遅れて生じており、実際のところコーラスはヒスに進化していることを示唆している。(KU)
An Observation Linking the Origin of Plasmaspheric Hiss to Discrete Chorus Emissions
p. 775-778.

風の中の塵のごとく(Dust in the Wind)

北大西洋の海面温度は、気候に関する様々な面において大きな影響力を持ち、とりわけその熱含有量はハリケーンの形成と強度を決定する要因となっている。北大西洋の表面は、ここ数十年間でかなり温まっており、この傾向は全世界的あるいは局地的な大気温度の上昇、あるいは海洋循環の変化と関連している。Evanたち. (p. 778, 3月26日号電子版)は、約30年間の人工衛星の観測データを使い、海洋温度変化の新たな原因として、大気エアロゾルの放射効果を調べた。熱帯北大西洋の海面温度における低い周期の変化は、対流圏の鉱物性エアロゾル、及び成層圏の火山性エアロゾルの量の変化が主たる原因になって起こるようである。従って、こうした海面温度のより正確な予測を行うためには、汎用の循環モデルによって、塵の大気含有(dustloadings)の長期間の変化を説明することが必要であろう。(TO,KU,nk)
The Role of Aerosols in the Evolution of Tropical North Atlantic Ocean Temperature Anomalies
p. 778-781.

抗アンドロゲンのための2番目の手段(A Second Act for Antiandrogens)

前立腺癌が進行した男性の治療は、しばしば抗アンドロゲンによって行われるが、これは腫瘍の増殖を助けるテストステロンのような男性ホルモンの活性を抑える薬剤である。このような薬剤の多くは、細胞増殖の転写制御因子であるアンドロゲン受容体 (androgen receptor (AR))の機能を崩壊させることによって作用するが、ARのより高次の発現によって結果的には薬剤耐性を持ってしまう。Tran たち(p. 787、および、4月9日号電子出版参照)は、第二世代の抗アンドロゲンを開発したが、これはMDV3100と呼ばれるチオヒダントイン誘導体(thiohydantoin)であり、ARと強く結合する。MDV3100は、ARのレベルが上がっても培養細胞やマウスモデル中で抗がん活性を保持している。この薬剤は、ARの核内への転位を抑制するだけでなく、転写活性を抑えることで作用しているように見える。MDV3100は進行した前立腺がんの患者で試験されており、最初のグループは、ガン増殖のマーカーである前立腺特異抗原の血中レベルが低下した。(Ej,hE)
Development of a Second-Generation Antiandrogen for Treatment of Advanced Prostate Cancer
p. 787-790.

意識と意図(Consciousness and Intention)

脳の中のどの部分で意図が形成され、どのようにしてこれが意識されるようになるのか?Desmurget たち(p. 811; および、Haggardによる展望記事参照)は、脳の腫瘍の除去手術を行っている最中の患者の頭頂と運動前野領域への直接的な皮質性刺激を与え、その効果を調べた。頭頂葉の刺激によって上肢や唇や舌を動かしたいという意識が知覚されたが、実際の運動は伴わなかった。刺激が強くなると、患者は実際に動いたりしゃべったりしたと信じたが、この場合も筋肉の動きは検出されなかった。しかし、前頭葉の運動前野領域が刺激されると、実際に複合的な多関節の動きが誘発された。しかし、患者は意図に従った意識的な動きとは知覚しなかった。実際、動いたことさえ気づいてなかった。刺激を増加すると動きの強度や複雑度が増すが、意識されることは無かった。(Ej,hE)
Movement Intention After Parietal Cortex Stimulation in Humans
p. 811-813.

私を連れ出してちょうだい(Let Me Out)

マラリアの原因となる熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)や、トキソプラズマを発症させる原虫トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)のようなアピコンプレクサ寄生虫(Apicomplexan parasite)は、宿主動物の細胞内で複製する。宿主動物内部で細胞から細胞へと感染を広げるためには娘寄生虫は複製後に親細胞から出て行かなければならない。Chandramohanadas たち(p. 794, 4月2日号電子出版)は、寄生虫の感染期間中のタンパク質分解酵素の機能を解明する研究過程で、宿主細胞のカルパイン(calpain)が、これに同期して出てくる唯一のタンパク質分解酵素であることに気づいた。このカルパインは、感染した赤血球細胞からマラリア寄生虫の放出を促進させる。もし、カルパインが除去されると、再封印された感染赤血球からの寄生虫の放出は停止する。さらに、トキソプラズマ原虫は、カルパイン調節サブユニットを欠くノックアウト・マウスでは線維芽細胞からの効率的な逃避は不可能となる。(Ej,hE)
Apicomplexan Parasites Co-Opt Host Calpains to Facilitate Their Escape from Infected Cells
p. 794-797.

赤外線による視覚(Infrared Vision)

可視光領域の波長で蛍光を発するクラゲやサンゴのタンパク質は、細胞の光学的画像形成システムを革新してきた。しかし、この波長の光(特に励起光)はヘモグロビン、水、脂質に吸収されるため、このタンパク質は組織の奥深くの画像形成材料としては適当ではない。Shu たち(p. 804)は、ビリベルジンを発色団として取り込んでいるディノコッカス・ラディオデュランスから得られたバクテリオフィトクロム(bacteriophytochrome)を操作して、684ナノメートルの励起光を用いて 、 発光スペクトル708ナノメートルの蛍光を発生させた。これらの赤外蛍光タンパク質は哺乳類やマウス細胞でうまく発現し、全身画像を得るのに利用できる。(Ej,hE,KU)
Mammalian Expression of Infrared Fluorescent Proteins Engineered from a Bacterial Phytochrome
p. 804-807.

もつれを分かち合う(Entanglement Sharing)

量子情報処理が可能となるには、量子状態をつくり、それをもつれた状態にし、更にそれらの量子状態を高い信頼性でネットワークを介して送受信できるかに依存している。量子的な2レベルの系、或いはキュビットを用いて、大規模なシステムを保持(そして、複雑な問題を解く)しようとすると、そのシステムを制御するのに必要な付属装置が追いつかないほどの速さで増加する恐れがある。この解決策の一つとして、幾つかの量子状態が単一成分中で操作可能な多粒子系の利用が提案されてきた。Papp たち (p.764) は、4つの光学モード間で共有された単一のフォトンからなる多粒子系を用いて研究し、そしてもつれ度合を制御、調整可能であることを示している。このようなもつれた多粒子系を使って、かつ、制御できれば、量子情報処理の発展に役立つであろう。(Wt,KU)
Characterization of Multipartite Entanglement for One Photon Shared Among Four Optical Modes
p. 767-768.

太陽光を浴びるCl原子(Cl in the Sunlight)

ハロゲンによって誘発される成層圏オゾンの分解に関する長年想定されてきた仕組みのモデルにおける主要な仮定は、ClOOClなどの分子の太陽光による光分解によってCl原子が定常的に生み出されるということである。しかしながら最近、実験室データによって、この仮定の根底にあるClOOCl吸収断面積の不確かさが浮かび上がってきた。Chenたちは、その矛盾を探求するため、分子質量数に基づく正確な断面積測定を企てた(p. 781)。分子は、紫外光分解の前後で直接計数されることで、光ビームの減衰を測定する伝統的な検出法にありがちな不純物や副産物吸収による干渉が回避された。2つの異なった紫外波長において測定された断面積は、オゾン分解についての標準モデルを支持するのに必要なマージン内に収まることが判明した。(KF,nk)
UV Absorption Cross Sections of ClOOCl Are Consistent with Ozone Degradation Models
p. 781-784.

感染と防御(Infections and Defense)

細菌は植物や動物の宿主における免疫を抑制するため、エフェクターを分泌するようになるので、結果として細菌と真核生物である宿主との間で、ある種の軍備競争が生じることになる。細菌に対する植物の免疫の重要な1側面は、耐病性タンパク質複合体に基づいているが、それは特定の細菌性エフェクターを認識して、シグナル伝達を活性化させるものである。トマトやシロイヌナズナに感染するシュードモナス菌のある系統は、エフェクタータンパク質AvrPtoBを植物細胞に注入する。すると2つの植物タンパク質キナーゼFenとPtoが、感染を制限ないし停止させうる防御応答を刺激するのである。Ntoukakisたちは、AvrPtoBが引き金となる感受性と抵抗性とのバランスは、耐病性複合体内のキナーゼ活性Ptoによって決定されることを示している(p. 784)。(KF)
Host Inhibition of a Bacterial Virulence Effector Triggers Immunity to Infection
p. 784-787.

デザインされた幹細胞(Designer Stem Cells)

疾病モデルとしての利用、また再生医学においての利用が期待されながら、ヒト由来の多能性幹細胞(iPS)の産生は、宿主細胞ゲノム中のベクターと導入遺伝子の統合によって邪魔され続けてきた。Cre/LoxP組換え戦略やpiggyBacトランスポゾンアプローチを利用した最近の研究は、この目的を追求するものである。しかしながら、Yuたちはこのたび、oriP/EBNA1ベースのエピソーム性ベクターを用いた、出生後包皮線維芽細胞からのヒトiPS細胞の誘導を示している(p. 797、3月26日号電子版)。結果として得られたiPS細胞はヒトの胚性幹細胞の特徴を示し、ベクターや導入遺伝子を含まないものであった。(KF)
Human Induced Pluripotent Stem Cells Free of Vector and Transgene Sequences
p. 797-801.

結核との戦争における新兵器(Ammunition for the TB Wars)

結核は世界的にも重要な、主要なヒト疾患であって、風媒性病原体である結核菌による感染症であるが、この結核菌は利用可能なすべての薬剤に対してますます抵抗性を高めつつある。抗結核性benzothiazinone化合物には、感染細胞中のあるいはマウスにおけるマイコバクテリアを殺す能力がある。Makarovたちは、benzothiazinoneの活性にとって重要な硫黄原子およびニトロ残基を同定し、遺伝学的手法と生化学的解析を用いて、細胞壁合成の際にarabinogalactan生合成をブロックしているその標的を同定した(p. 801)。この化合物はエタンブトールと同じ経路に影響しており、つまりbenzothiazinone薬剤は薬剤抵抗性の病気に対する治療の重要な一部となり、結核の一次処置においてさして効果のないエタンブトールを置き換える可能性をもっていることになる。(KF)
Benzothiazinones Kill Mycobacterium tuberculosis by Blocking Arabinan Synthesis
p. 801-804.

抗体のレパートリーが明らかに(Antibody Repertoire Revealed)

B細胞によって産生される抗体は、広い範囲の病原体による感染症から我々を保護している。そうした広範囲の応答が可能なのは、侵入者に結合する抗体の特異的領域が、抗体分子をコードしている受け継がれてきた遺伝子セグメント集合が体細胞組換えされることによって高度に可変であるからである。個々の生物内における抗体多様性というものは分かっているのだが、個々の生物の特異抗体のレパートリーはその特徴がはっきりと明らかにされていない。高性能の配列決定技術を用いて、Weinsteinたちは、ゼブラフィッシュの抗体重鎖にある抗原結合性領域の多様性の特徴を明らかにした(p. 807)。個々の魚の抗体レパートリーは、可能な遺伝子組み合わせの少なくとも50%をカバーしていた。特異的遺伝子の組み合わせは魚間で異なってはいたが、レパートリーの度数分布は似ていることが観察された。同じ抗体が別の動物で観察されるというように、進化による転換の予想外の例も見出された。(KF)
High-Throughput Sequencing of the Zebrafish Antibody Repertoire
p. 807-810.

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