AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 15 2009, Vol.324


ゲノムの編集(Editing the Genome)

繊毛虫オキシトリカ(Oxytricha trifallax)は、変ったゲノムを持っており、遺伝子をコードする領域(エクソン)がゲノム中に広く分散している。エクソンは、タンパク質に翻訳されるのに先立ち、転写に従って編み込まれるが、その詳しいメカニズムは解ってない。この過程の一部として、発生中にオキシトリカはすべての転位因子(トランスポゾン)を除去し、元の生殖系列DNAの5%にまでゲノムをはぎ取ってしう。Nowackiたち(p. 935,および4月16日電子版参照)は、生殖系列に限定されたトランスポサーゼ(transposases)が、大規模なDNAの再編成に重要な役目を負っているらしいことを示した。(Ej,hE)
A Functional Role for Transposases in a Large Eukaryotic Genome
p. 935-938.

シナプスへのタグ付け仮説の証明(Synaptic Tag Tagged)

シナプスは特定の入力信号に対して再現性のある応答できる可塑性を有するが、これが可能であるためには特定のニューロン集合が活性化する必要がある。晩期の信号に対してシナプスが可塑性を保持するために、シナプスのタグ付け仮説が唱えられているが、そのためには長期記憶の保持が必要となる。しかし、この仮説が求めるようなタンパク質を見つけることは困難だった。Okada たち (p. 904)は、体細胞で合成された遅延相に関連するVesl-1Sタンパク質を脊髄に制御して侵入させることで、シナプスのタグとして機能するかどうかを調べた。Vesl-1Sタンパク質は体細胞からすべての樹状突起に輸送され、入力方式に依存したシナプスの活性化によって脊髄に補充される。脊髄侵入はタンパク質合成には非依存で、NMDA受容体に依存しており、寿命のある間、活性化への持続性を持っている。これらの結果から、今まで長い間探索されていた、入力信号特異的で、シナプス可塑性を与えるタンパク質のタグ仮説が見つかった可能性がある。(Ej)
Input-Specific Spine Entry of Soma-Derived Vesl-1S Protein Conforms to Synaptic Tagging
p. 904-909.

氷床の崩壊と海面上昇(Collapse and Rise)

南極西部の氷床(WAIS: West Antarctic Ice Sheet)は、本質的に不安定であり、ある温度上昇の閾値に達すると急激に崩壊しやすいと考えられている。崩壊が起きることは無さそうだが、もし崩壊したとしてその結果どのくらい海面が上昇するかを予測することは重要である。従来、WAISには崩壊すると海面を5〜7m上昇させるのに十分な氷があると予測されていた。Bamberたちは(p.901、表紙、Ivinsによる展望も参照)、WAISのより正確な地形データを元に再評価し、急激な崩壊が起きると地域的に顕著な変動はあるが平均3.2mの海面上昇が起こると結論づけた。従来の予測のおよそ半分の高さではあるが、それでも海岸線では壊滅的な影響がある。(Na)
Reassessment of the Potential Sea-Level Rise from a Collapse of the West Antarctic Ice Sheet
p. 901-903.

タリン、キンドリン、インテグリンの物語り(Tales of Talin, Kindlin, and Integrin)

インテグリンとは動物細胞表面上の受容体であり細胞外の基質への接着を仲介する。また、これは分子の情報伝達を担い、基質中のリガンドに結合するとき、情報伝達経路を活性化する。さらにインテグリンは、細胞内部の信号がインテグリンの細胞外リガンドとの親和性を変化させるとこれを外部と情報交換する。Moser たち (p. 895)は、2つのタンパク質、タリン(talin)とキンドリン(kindlin)が、インテグリンβサブユニットの尾部に結合して、インテグリンの活性を制御しているメカニズムに注目し、双方向信号伝達や健康と病気に対するタンパク質の役割について、最近の研究の進展についてレビューした。(Ej,hE)
The Tail of Integrins, Talin, and Kindlins
p. 895-899.

波長以下の微細パターン形成(Subwavelength Patterning)

最近、顕微鏡学者は、1つの光ビームを他のビームの周辺ハロー部に集束させて、その輝点中心以外の場所での蛍光色素の輝きを消滅させることで、波長以下の解像度での蛍光画像形成に成功した。これによって蛍光色素の輝きを、ちょうど輝点中心に凍結(quench)することが可能になった。これを利用した露光方式に関する3つの研究が報告された(Perrynによる展望記事参照)。Andrew たち(p. 917, および、4月9日の電子版も参照) は、紫外線のエッチング光線を吸収し、透明層に異性化してあるが可視光を吸収すると元の不透明に戻る分子による、フォトレジストコートを実現した。紫外線ピークによる干渉パターンを、可視光の中心点の狭いエッチング領域に制限して重ね、波長以下の狭い線幅を実現した。Scott たち(p. 913,および、4月9日の電子版も参照)は中心光を重合開始用に、周囲のハロ形状のビームを重合停止用引き金として利用した。Li たち(p. 910,および、4月9日の電子版も参照)は、同一波長の光(800ナノメートル)に反応する異なる反応開始分子を使う方法を見つけ、比較的弱い凍結ビームと、ほんのわずか遅れた強い同一波長の開始ビームを利用した。後者の2つの方法によって、波長以下の3次元構造を生成した。(Ej,hE,nk)
Confining Light to Deep Subwavelength Dimensions to Enable Optical Nanopatterning
p. 917-921.
Two-Color Single-Photon Photoinitiation and Photoinhibition for Subdiffraction Photolithography
p. 913-917.
Achieving {lambda}/20 Resolution by One-Color Initiation and Deactivation of Polymerization
p. 910-913.

タイタンの全球解析(Global Analysis of Titan)

Cassini 宇宙探査機は、その土星の周りの軌道にあって、通常、その土星の最も大きな月であるタイタンの近くを定期的に通過する。Zebker たち (p.921, 4月2日にオンラインで公表された) は、その月の厚い大気を通して内部を眺めるためのレーダー計測器を用いて、タイタンの全球モデルを開発した。タイタンは、僅かに偏平化しており、そのため、極が赤道よりも低い高度にある。これによって、その月の炭化水素の湖が高緯度に位置する理由を説明できる可能性がある。(Wt,Ej,tk)
Size and Shape of Saturn's Moon Titan
p. 921-923.

開始失敗の原因(Identifying Abortive Initiation)

試験管内において転写を開始するとき、RNAポリメラーゼ酵素は、プロモータDNAとの相互作用を阻止し、転写伸長を開始する前に、短いRNA転写物を合成して放出するサイクル("abortive initiation") を行うのが一般的である。マイクロRNAを検出するために開発したハイブリダイゼーション法によってGoldmanたち(p. 927)は、in vivoのバクテリア細胞中で abortive initiation の生成物を直接検出した。RNAポリメラーゼとプロモータの相互作用が強化されるか、あるいは、転写が中止したときにabortive initiation は増える。このように、abortive initiationの生成物は、遺伝子発現の制御に役立つであろう。(Ej,hE)
Direct Detection of Abortive RNA Transcripts in Vivo
p. 927-928.

卵母細胞成熟を制御する(Regulating Oocyte Maturation)

繁殖能力を持つ卵を産むために卵胞がどの程度成熟しているのか正確に理解することは、受胎能力についての治療における多くの側面にとっての鍵である。黄体形成ホルモン(LH)の下垂体サージが排卵前期の卵胞の顆粒膜細胞に結合するとき、シグナル伝達現象のカスケードによって、顆粒膜細胞が黄体細胞になり卵母細胞が減数分裂を始める引き金が引かれる。Fanたちは、マウスをモデル系として用いて、顆粒膜細胞中のキナーゼERK1とERK2を選択的に狙って破壊した(p. 938; またDuggavathiとMurphyによる展望記事参照のこと)。それらキナーゼは、排卵と黄体化のLH誘導の生体内の必須メディエーターであった。(KF)
MAPK3/1 (ERK1/2) in Ovarian Granulosa Cells Are Essential for Female Fertility
p. 938-941.

転位と非対称(Migration and Asymmetry)

脊椎動物は内部の体組織で非対称性を示すが、左と右との異なった解剖学的構造の確立に向けた最初の段階がどのようなものかは、保存されていない。鳥類においてそれがどのように実現されているかは、とりわけ混乱させるものになっている。Grosたちは、ニワトリの遺伝子発現における最初期の左右非対称領域のうち、ソニックヘッジホッグ(Shh)と線維芽細胞増殖因子8(Fgf8)などを含むいくつかは受動的に産生されている、ということを示している(4月9日オンライン発行されたp. 941)。遺伝子はまず両側性細胞集団において 活性化され、ソニックヘッジホッグ発現細胞をシャッフルするような再編成がそれに続くのである。(KF)
Cell Movements at Hensen’s Node Establish Left/Right Asymmetric Gene Expression in the Chick
p. 941-944.

軸索の横断における「進めと止まれ」(Stop-Go Axon Crossing)

発生中の軸索は、反発性あるいは誘引性の誘導因子(guidance factor)のバランスに従って、身体の正中を横切ることもあれば、横切らないこともある。ある軸索が最初に正中に近づくと、comm遺伝子によってコードされた抑圧性受容体が細胞内での再配置によって不活性化される。その軸索がいったん正中を越えると、抑圧性受容体が再活性化され、軸索が横断して戻ることのないようにするのである。Yangたちはこのたび、ショウジョウバエではcomm遺伝子がFrazzledと呼ばれる誘引性受容体によって制御されていることを明らかにしている(3月26日オンライン発行されたp. 944; またKiddによる展望記事参照のこと)。このFrazzledタンパク質は、つまるところ、2様に機能していて、リガンドへの応答においては誘引を惹き起こし、comm遺伝子の転写を活性化し、抑圧性シグナルを作用しないように保っているのである。(KF)
A Frazzled/DCC-Dependent Transcriptional Switch Regulates Midline Axon Guidance
p. 944-947.

選ばなかった道(The Path Not Taken)

人は、自分が選ばなかった行為によっても何らかの結果がもたらされたはずだということをたやすく認識し、それに合わせて自分の行動を調整することができる。ありえた結果を認識する能力は、悔やむために必要な要素であると考えられており、この能力が破壊されると、不安が惹き起こされ、問題というものがギャンブルになってしまう。動物もこれと同じプロセスを踏むのだろうか? Haydenたちは、サルに対して、選ばなかった選択肢にどのような報酬がありえたかという情報を提供した(p. 948)。サルの行動は、そうしたありえた結果に強く依存した。サルの課題実行中に、報酬決定の結果をモニターしてそれに続く行動の変化を導いている前帯状皮質中のさまざまな単一ニューロンの応答が記録された。対象におけるニューロンのおよそ半数が、実際の結果とありえた結果の双方に応答した。つまり、前帯状皮質は単純に行為の結果をモニターしているのではなく、実際と情報と架空の情報の双方を取り込むような、より抽象的なやり方で結果を表現しているのである。(KF)
Fictive Reward Signals in the Anterior Cingulate Cortex
p. 948-950.

条件反射の逆転(Reversing Pavlov)

恐怖に関わる連想記憶、たとえば、低電圧ショックを受ける前にある音が聞こえたというようなことは、思い出そうとすると、その連想が消えてしまったか再整理されてしまったかのように、不安定である。Monfilsたちは、標準的な連想消去処理(ショックが何もないときに何度もその音を聞かせる)を再整理が通常生じるはずの時間枠内に適用することで、もとの連想記憶が上書きされて消える効果があることを実証している(4月2日オンライン発行されたp. 951)。このように治療されたラットは、更新のレベル(その音だけを一度聞くことで誘発される恐怖)や、復元のレベル(ショックだけを一度与えられることで誘発される恐怖)がずっと低くなり、自然治癒に向かったのである。(KF)
Extinction-Reconsolidation Boundaries: Key to Persistent Attenuation of Fear Memories
p. 951-955.

グラフェンのランダウ準位を解明する(Resolving Landau Levels in Graphene)

二次元導体中の荷電粒子に磁場を印加すると、新らしいエネルギー準位が出現する。この準位はランダウ準位とよばれており、サイクロトロン軌道上の荷電粒子の運動に対応している。グラフェン(単原子層厚グラファイト)においては、エネルギー準位分裂の間隔が等しくない特異なランダウ準位が発生することが知られているが、実験的検証は隣接層を跨いだ回転運動のために対象性が崩れた複数のグラフェン束で行われただけである。Miller等は(p924)低温度走査型トンネル顕微鏡を用いてシリコンカーバイト表面に成長させた単一グラフェンのランダウ準位を高いエネルギーおよび運動量分解能で得ることに成功した。また、グラフェンでは特徴的なゼロエネルギー準位が存在することも発見している。(NK,nk)
Observing the Quantization of Zero Mass Carriers in Graphene
p. 924-927.

メチル化の媒介(Methylation Mediation)

DNA中でのシトシン塩基、5-メチルシトシン(5mC)のメチル化は、哺乳類ゲノムにいて重要な調節的役割を果たしている。メチル化パターンは、しばしば世代を越えて受け継がれるが、それはまた動的になることもあるので、活動的なDNA脱メチル化経路が存在していることも示唆される。そうした経路の1つ、植物においてもっとも良く特徴が明らかにされているものに、5mC塩基の除去と、DNA修復機構を介したCによるその置換というもの、がある。KriaucionisとHeintzはこのたび、哺乳類ゲノムにおける5mCと同様、プルキンエ・ニューロンのDNA中には相当量の5-hydroxymethylcytosine(5hmC)があり、それは非常に小さい異質染色質のある大きな核をもっていることを示した(4月16日オンライン発行されたp. 929)。Tahilianiたちは、タンパク質TET1が、試験管内と生体内の双方で、5mCを5hmCに転換できることを見出した(4月16日オンライン発行されたp. 930)。5-Hydroxymethylcytosineはまた胚性幹細胞中にも存在し、5hmCとTET1のレベルは細胞分化の際の相関変動を示すものである。(KF)
The Nuclear DNA Base 5-Hydroxymethylcytosine Is Present in Purkinje Neurons and the Brain
p. 929-930.

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