AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 20 2009, Vol.323


ハローHurdia(Hello to Hurdia)

Anomalocardidsはカンブリア紀の生物すべての中でも最も有名な生物の一つであり、その巨大な大きさ故に「カンブリア紀のT.rex」と称され、そして捕食生物であったとみなされている。Daleyたち(p.1597)によって記述されたHurdiaは、カナダの化石地層、Burgess Shaleでは最もありふれたでAnomalocardidある。Hurdiaは節足動物の進化における重要性から最近注目されているが、その化石には他の幾つかの属が混じりこんで間違って帰属されたために実際には曖昧なままである。Hurdiaはその独特の、かつ顕著な前部の甲殻を持っており、系統初期の節足動物の鰓構造に関する決定的な新たなデータを与えており、最近の議論されている節足動物の手足の進化と直接的な関連を持っている。(KU,Ej)
The Burgess Shale Anomalocaridid Hurdia and Its Significance for Early Euarthropod Evolution
p. 1597-1600.

物質から筋肉を作る(Making Muscles Out of Materials)

電気的、化学的、或いは熱や光のエネルギーを力学的エネルギーに変換するような新たな物質が研究されている。Alievたち(p.1575;Maddenによる展望記事参照)は、非常に低密度のエアロゲルとして形成された多層カーボンナノチューブのシートに関する力学特性と静電気による伸縮に関して述べている。このシートを帯電させると、ナノチューブの向きに対して垂直方向に大きく膨らんだ。そして引っ張られると逆にその方向に少し収縮した。この研究は高度に指向性のある力学的特性を持った新たな材料開発の道を開くものであろう。(KU,nk)
Giant-Stroke, Superelastic Carbon Nanotube Aerogel Muscles
p. 1575-1578.
MATERIALS SCIENCE: Stiffer Than Steel
p. 1571-1572.

一つの抗体で二つの抗原を(Two-in-One Antibody)

抗体に関する教科書的な定義では、抗体がその標的抗原と極めて特異的に結合することを強調している。新たな研究では、この「一つの抗体-一つの抗原(one antibody-one antigen)」というパラダイムが研究室では疑問視されていることを示唆している。Herceptin(乳がん増殖因子HER2を標的とする治療上のモノクロナル抗体)の変異体に関する遺伝子工学ライブラリーの研究により、Bostronたち(p.1610;Parren and Burtonによる展望記事参照)は、同時に2つ目のがん関連抗原である血管内皮増殖因子(VEGF)に高い親和性で結合する抗体結合部位を持つ変異体を巧みに選択した。その有効性に関する予備分析において、このtwo-in-one抗体はマウスにおける腫瘍増殖と同様に、in vitroでHER2-とBEGF-介在の細胞増殖を抑制した。このように、がん治療における単一の治療法の可能性を示唆している。(KU)
Variants of the Antibody Herceptin That Interact with HER2 and VEGF at the Antigen Binding Site
p. 1610-1614.
IMMUNOLOGY: Two-in-One Designer Antibodies
p. 1567-1568.

超導電性に整列する(Ordered into Superconducting)

銅塩超伝導体といった高温超伝導体において、電子は電子-フォノンのカップリング以外のメカニズムによってクーパー対を形成する。このような系は、超伝導体と超伝導体を形成する元々の電子状態の間でのスムーズな転移を観測するのが困難である。Takabayashiたち(p.1565;Tosattiによる展望記事参照)は、アルカリフラーレン超伝導体CsC(このフラーレン化合物は非常に規則的な構造と体心立方対称性を持っている)が、圧力をかけるとスピン-1/2反強磁性の絶縁体から超伝導体に変化することを示している。この転移は純粋に電子的であり、なんらの構造変化も無秩序さも生じていない。圧力に関する転移温度の依存性は超伝導性に関する標準モデルでは説明できない。(KU)
The Disorder-Free Non-BCS Superconductor Cs3C60 Emerges from an Antiferromagnetic Insulator Parent State
p. 1585-1590.
PHYSICS: Fullerides in a Squeeze
p. 1570-1571.

パーキンソン病の治療法を改善する(Improving Parkinson's Treatment)

脳深部刺激療法は、パーキンソン病における運動症状の治療にとって一般的なやり方になってきた。しかしながら、それは侵襲性の外科的手法であるので、よりリスクの少ない代替方式を発見しようという試みがなされてきた。Fuentesたちは、パーキンソン病の動物モデルを使い、脊髄後柱の電気的刺激を代替戦略としてテストした(p.1578; 表紙参照; またMillerによるニュース記事参照のこと)。彼らは、皮質線条体系の(corticostriatal)活性パターンが随意運動行為に先立っていることを発見したが、これは、意志による運動の根底にある仕組みについての何らかの説明を提供してくれる可能性がある。動物において、脊髄後柱刺激ははっきりと運動機能を改善し、薬理的な治療を強化するものであり、パーキンソン病の患者の治療にとって、かなりの期待をもたらすものであるようだ。(KF)
Spinal Cord Stimulation Restores Locomotion in Animal Models of Parkinson's Disease
p. 1578-1582.
NEUROPSYCHIATRY: Rewiring Faulty Circuits in the Brain
p. 1554-1556.

太陽の大気を加熱する(Heating the Solar Atmosphere)

太陽は、その表面から大気の外層に向かうにつれて顕著に高温になる。Alfven波と呼ばれる種類のプラズマの波動は、非圧縮で磁場の張力によって駆動されると仮定されているが、この仮説は、エネルギーが太陽大気を通してどのように輸送されるかに対する最も適切な説明と考えられている。しかし、それらのあいまいさのない検出は、なお、疑問のあるところである。Jess たち (p.1582; Kerr によるニュース解説を参照のこと) は、太陽の高分解能画像を得、そして、ねじれ Alfven 波固有の特徴を持ち、太陽大気を加熱するのに十分なエネルギーを輸送する振動を見出した。(Wt,nk)
Alfvén Waves in the Lower Solar Atmosphere
p. 1582-1585.

メタ位置への付加反応(Meta Addition)

フリーデル-クラフト反応は、今日の有機化学において最も古くから採用された反応の一つで、一世紀以上もの間ベンゼン環に種々の原子を付加し、色素や薬剤や様々な機能性材料の合成に用いられてきた。これらの反応ではアミンのような電子供与性の置換基に隣接したベンゼン環のカーボンか、或いは向かい合ったカーボンに新たな基が導入される。既存の置換基から遠く離れた二つのカーボンの位置、即ちメタ位置での新たな基の導入は困難な課題であった。Phipps and Gaunt(p.1593;Maleczkaによる展望記事参照)は、アミド置換ベンゼンのメタ位置への新たなフェニール基を選択的に付加する銅触媒を発見した。この種の触媒は新規な農薬や薬剤開発への道を開くものである。(KU)
A Meta-Selective Copper-Catalyzed C–H Bond Arylation
p. 1593-1597.
CHEMISTRY: Copper Puts Arenes in a Hard Position
p. 1572-1573.

メチル化修飾の回復(Methylation Rescue)

ゲノムDNAのメチル化は、トランスポゾンと反復DNA配列の場所で高い頻度で生じ、それら潜在的にダメージを与えかねないゲノム特徴の転写を抑えている。メチル化のパターンは通常、細胞分裂の際に、メチル化された親のDNA鎖が娘鎖のメチル化の鋳型を提供するようにして継承されている。しかし、ときどきメチル化のマークが切除され、それに続くすべての世代で失われてしまうことがある。Teixeiraたちは、シロイヌナズナが、減数分裂とRNA干渉-依存性のDNAメチル化機構とを必要とするプロセスにおいてメチル化マークを回復することを発見した(p. 1600、1月29日号電子版オンライン; またLawとJacobsenによる展望記事参照のこと)。1ないし3世代後に、もともとのメチル化水準が回復されたのである。この仕組みはゲノムの安定性を維持するだけでなく、後成的遺伝における適応応答を可能にしているらしい。(KF)
A Role for RNAi in the Selective Correction of DNA Methylation Defects
p. 1600-1604.
MOLECULAR BIOLOGY: Dynamic DNA Methylation
p. 1568-1569.

導電性の3D印刷(Conducting 3D Printing)

よりロバストで、フレキシブルな、或いは伸縮性のエレクトロニクス材料の開発課題は、デバイス内やデバイス間の電極の印刷である。Ahnたち(p.1590,2月12号電子版;Gatesによる展望記事参照)は、3Dで印刷可能な濃厚な銀ナノ粒子のインクに関して詳しく記述している。この電極は自己保持性があり、そして広範囲の基板に複雑な方法で平面形状や、或いは3D形状といったパターンを描くことが出来る。温和な温度で一度焼結すると、コロイド粒子が溶融して、バルクな銀に近い電気抵抗の線が出来る。(KU)
Omnidirectional Printing of Flexible, Stretchable, and Spanning Silver Microelectrodes
p. 1590-1593.
MATERIALS SCIENCE: Flexible Electronics
p. 1566-1567.

光受容器の選別(Sorting Light Receptors)

網膜においては、環状ヌクレオチド開閉(CNG)チャネルが、桿体の感覚繊毛(sensorycilia)において光に対する電気的応答を惹き起こす。このチャネルは繊毛の外節に限定的に局在化しているが、それがどのように位置を定めているかはほとんど知られていない。ツメガエル(Xenopus)を調べて、Kizhatilたちは、膜骨格タンパク質ankyrin-Gに結合するCNG-βサブユニットが、CNGチャネルのポスト-ゴルジ体輸送(post-Golgi transport)に必要なだけでなく、桿体の外節の発生にも必要であることを示している(p. 1614)。ヒトにおけるCNG-βサブユニットの変異はこの標的機構を破壊し、網膜色素変性症に関わるものである。同じようなankyrin-Gに基づく機構は、嗅毛や精子の鞭毛などの部位においても生じている可能性がある。(KF)
Ankyrin-G Promotes Cyclic Nucleotide–Gated Channel Transport to Rod Photoreceptor Sensory Cilia
p. 1614-1617.

私の言葉を信じなさい(Take My Word for It)

事実に関する課題、たとえばバスが出て行ったばかりかどうか、については、我われは初対面の人からの情報を受け入れるのにやぶさかではない。一方、情動が関わる状況では、他人が教えてくれることよりも自分自身の感じるものにより頼りがちである。Gilbertたちは、この自信が履き違えであると実証している(p.1617)。スピード・デートのシナリオ(順番にパートナーを交替しながら多数の相手とお見合いするような出会いイベント)で、女性たちは一人の男性と5分間話をする前後に、その男性についての主観的評価をするよう求められた。男性のプロフィールと写真だけを与えられた女性は、その5分間のデート後の自分自身の反応を予測するに際して、その前にその男性と話をした女性によるその男性の評価を与えられた女性たちに比べて、有意に成績が悪かったのである。(KF)
The Surprising Power of Neighborly Advice
p. 1617-1619.

母がいちばんわかっている(Mother Knows Best)

Gouldian finch(グールド・フィンチ)には、種として交配する2つの色違いの形態が存在している。PrykeとGriffithは、色違いのオスと番うよう強制されたメスが、同じ色の相手と番になることを許されたメスよりも多くオスを生み、そのオスたちを育てるためにあまり努力しない、ということを明らかにした(p.1605)。しかし、オスがメスの好む相手に似た色に塗られると、騙されたメスは行動と卵のオスとメスの比率を再調整したのである。この結果は、メスの鳥はさまざまな方法で、メスの子孫への資源割り当てを変更している可能性があることを意味するものである。(KF,Ej)
Genetic Incompatibility Drives Sex Allocation and Maternal Investment in a Polymorphic Finch
p. 1605-1607.

栽培されたコメがどんぶりいっぱいに(Generating the Rice Bowl)

コメは、我われ人類にとってもっとも重要な穀物の1つになるよりも1万年も前に、栽培作物になっていたと考えられている。揚子江下流域の考古学的遺跡を調べて、Fullerたちは、アジアにおけるコメ栽培の時期を決定することができ、コムギの栽培と同様、コメの栽培作物化は長い年月をかけてなされたということを明らかにした(p. 1607; またBalterによるニュース記事参照のこと)。彼らはそのしっかりした表現型を基礎にして栽培されるようになったコメを同定し、それが、日常の食事において、徐々に野生の集められた植物を置き換えていったことを示したのである。(KF)
The Domestication Process and Domestication Rate in Rice: Spikelet Bases from the Lower Yangtze
p. 1607-1610.
ARCHAEOLOGY: Recipe for Rice Domestication Required Millennia
p. 1550.

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