AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 7 2008, Vol.322


アジアのモンスーンの物語(Tales of the Asian Monsoon)

アジアのモンスーンは大量の熱と水分を海洋から陸地へと運び、気候に及ぼす影響も重要となる。農業はモンスーンのもたらす降雨に依存し、人間の生活面においても重要となる。中国の石筍に由来する記録を用いて、Zhangたち(p.940)は、過去1800年にわたるアジアのモンスーンに関する詳細な歴史を研究し、モンスーン、太陽放射、北半球の温度、およびヨーロッパにおける氷河サイクルの間の結びつきを示唆している。モンスーンの強さの変化は中国王朝の変遷とも関係しており、気候が人間社会にもたらす影響の重要性を強調するものである。(KU)
A Test of Climate, Sun, and Culture Relationships from an 1810-Year Chinese Cave Record
p. 940-942.

オンデマンドに幹細胞を作る(Stem Cells on Demand)

成体マウス細胞に4っの転写制御因子(Oct4,Sox-2,c-mys,Klf4)の遺伝子を発現するウイルスの移入により、胚性幹細胞に似た人工多能性細胞(iPS)が産生される。ウイルスは一般に、この方法で細胞のゲノムを永続的に変えて動物に腫瘍をもたらす。従って、これらのiPS細胞を細胞治療に直接用いることは出来ない。Stadtfeldたち(p.945,9月25日のオンライン出版)はアデノウイルス(通常はゲノム中には組み込まれていない)を用いて、成体マウスの皮膚と肝細胞を4つの転写制御因子遺伝子へ一過性に曝すことでマウスのiPS細胞を作った。永久的な遺伝子操作をせずにiPS細胞が作れる可能性があり、そして疾病の研究だけでなく、今後の臨床治療でのiPS細胞の利用において患者-特異的な細胞が作られる可能性がある。(KU)
Induced Pluripotent Stem Cells Generated Without Viral Integration
p. 945-949.

量子ドット中の励起子を遮蔽する(Sheltering Excitons in Quantum Dots)

量子ドットは長寿命の蛍光を示すことがある。しかし、それらの励起状態は、潜在的には光電池や赤外線検知への応用には有用ではあるが、非常に急速に(1psec以下)減衰する傾向がある。Pandey と Guyot-Sionnest (p.929)は、カドミウム−セレンの量子ドット中の二つの最低エネルギー励起状態の冷 却は、電子の隔離物質、この場合では 亜鉛-セレンであるが、これを厚くコートすることで減衰を遅らせる可能性があることを報告している。このような隔離を用いることで、励起状態の寿命は、1nsec 以上に延びた。(Wt,KU)
Slow Electron Cooling in Colloidal Quantum Dots
p. 929-932.

燃焼に努める(Going forthe Burn)

フィットネスクラスは、脂肪の燃焼が人々をより健康に、かつおそらくはより長寿命にするという考えを広めている。Wangたち(p.957,Xieによる展望記事参照)は、線虫が脂肪燃焼戦略を採用して彼ら自身の寿命を延ばしていることを見出した。特異的なリパーゼ、K04A8.5の発現上昇により、脂肪の貯蔵が減少し、寿命が延びた。リパーゼのレベルは成虫期には低い値であるが、しかしながら生殖系列の幹細胞が増殖を停止すると10倍も誘発され、脂肪が分解される。加えるに、リパーゼはインスリンのシグナル伝達を減少させることで線虫の長寿命に寄与している。かくして、少なくても線虫において、脂肪代謝と寿命コントロールは密接に結びついている。(KU,nk)
Fat Metabolism Links Germline Stem Cells and Longevity in C. elegans
p. 957-960.
PHYSIOLOGY: Burn Fat, Live Longer
p. 865-866.

ヒマラヤのグラファイト(Himalayan Graphite)

地球は酸素に富んだ大気を持っているが、地質学的な時間スケールにおいて呼吸により二酸化炭素に戻る以上により多くの有機物質が光合成によって作られためである。有機炭素が多様な地質学的プロセス、例えば造山運動によって、どのように変化するのか、その詳細を知ることは炭素と酸素のサイクルを理解するうえで必須である。Galyたち(p.943)は、ヒマラヤにおいて有機炭素が驚くほど効率的にグラファイトに変化し、やがて河川に移動して海底の堆積層に埋没することを報告している。浸食サイクル中に、岩石中の炭素の半分ほどがグラファイトに変化し堆積層中に隔離される。このことは、このプロセスが地球規模で作用し、炭素と酸素のサイクルをコントロールしていることを示唆している。(KU,Og)
Recycling of Graphite During Himalayan Erosion: A Geological Stabilization of Carbon in the Crust
p. 943-945.

記憶の移動(Moving Memories)

記憶獲得に関する最も初期の段階は海馬に依存しているが、しかしながら、中央前頭前野と呼ばれる脳の他の領域が統合された連想記憶を引き継いでいることを示唆する証拠が次々と現れている。Takahara−Nishiuchi and McNaughton(p.960)は、連想記憶の獲得に続いて、ラットの中央前頭前野における神経活動がその獲得された記憶において特異的、かつ必要であることを見出した。記憶された時の状況を繰り返すというような条件がなくても、約6週間の記憶固定期間の間、その記憶に特有な神経活動パターンが、自発的に発生した。このように、記憶に関する神経の相関は記憶固定と同時に新皮質で徐々に発生する。(KU,nk)
Spontaneous Changes of Neocortical Code for Associative Memory During Consolidation
p. 960-963.

マントルの流れ(Mantle Flow)

地震波を利用して、現在の地球のマントル対流のイメージを描くことは可能である。造山帯の地質学的データや盆地の堆積の記録から全体的なマントル対流の効果を示すことは可能であるが、実際の対流パターンそのものを描くことは不可能である。Liuたち(p. 934;およびSteinbergerによる展望記事参照)は、地震波の構造やプレートの動きを取り入れた逆マントル対流モデルを利用して、北アメリカFarallonプレートの沈み込みを1億年にわたって再現した。このモデルは平坦なFarallonプレートの沈み込みに整合しているだけではなく、浅い沈み込みが1000キロにわたって広範囲に広がっており、これによって白亜紀の堆積記録に見られる広範囲の不整合も説明できる。(Ej,Og)
Reconstructing Farallon Plate Subduction Beneath North America Back to the Late Cretaceous
p. 934-938.
GEOPHYSICS: Reconstructing Earth History in Three Dimensions
p. 866-868.

骨のように乾いた月(Dry as a Bone Moon)

Clementine 宇宙探索機からのレーダー観測では、月の南極のShackletonクレーターに永久氷が存在する可能性を示していた。しかし、これは地球からのレーダーによって確認されたわけではなかった。月の周囲を回っている探索機のかぐや(SELENE)に搭載されたカメラでの観測から、Haruyama(春山純一)、Takeda(武田弘)たちはこのクレーターを観測し、クレーターの壁からの反射光(albedo)と、底からの放射量から内部の温度を推定した。クレーター底部は90K以下と水の氷を保持するには十分低温ではあったが露出した氷は観測されなかった水の氷は数%にも満たないわずかな量で土と混じり合っていのかもしれない。あるいは、そもそも存在しないのかもしれない。(Ej,Hr)
Lack of Exposed Ice Inside Lunar South Pole Shackleton Crater
p. 938-939.

もっと欲しい幹細胞(More Stem Cells on Demand)

ウイルスベクターがホストのゲノムに組み込まれて腫瘍を形成する危険を防ぐために、Okitaたち(p. 949,および10月9日オンライン出版参照)は、マウスの胎仔線維芽細胞にプラスミド形質移入法を用いて遺伝子導入を行い、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作った。これらの細胞は、多能性マーカーの発現、マウスに移植されたときテラトーマやキメラを発生する能力も有する胚性幹細胞の多くの特徴を示している。重要なことは、プラスミド組込みの証拠は無く、他の手法よりは効率は落ちるが、本手法はiPS細胞を誘発するための、より安全な方法であると思われる。(Ej,hE)
Generation of Mouse Induced Pluripotent Stem Cells Without Viral Vectors
p. 949-953.

発話と音声の処理(Processing Speech and Voice)

日常生活において、我々はたとえ誰が話していようと、自動的かつ努力なしにその発話を言語へと解読することができる。これと同様に、我々は相手が何を言っているかにかかわらず、話者の声を認識することができる。Formisanoたちは、発話の内容と、話者が誰かということを、聞き手の脳の活動を測定することによって解読することが可能であることを示している(p. 970)。彼らは、試行を繰り返しながら、さまざまな母音あるいは話し手を聴くことによって誘起される分散された活性化パターンが、聞き手の聴覚皮質の異なるパッチ(部分的な領域)において誘起するさまをマップ化し、解読した。ある母音に付随するパターンは、その母音が別の話者によって話されても変化せず、話者に付随するパターンはその人が何を言ったかには依存しないのである。(KF)
"Who" Is Saying "What"? Brain-Based Decoding of Human Voice and Speech
p. 970-973.

脳の修復(Brain Repair)

哺乳類では、ひどく傷ついた腕または脚の神経は再成長して、最終的には機能的な結合を再確立しようとする。脊髄あるいは脳内における同じような障害は修復されることはなく、結果として永久的に能力障害と麻痺が残ることになる。中枢神経系における再生の貧弱さは、脳のミエリン(神経軸索を包む膜)に組み込まれているタンパク質に起因している。これは、NgRと呼ばれるニューロン上の抑制性受容体と相互作用するものである。この号の2本の論文は、別の抑制性受容体もミエリンに組み込まれたタンパク質を認識するということを示している(KimとSniderによる展望記事参照のこと)。Atwalたちは、免疫系の免疫グロブリンに関連しているマウスのタンパク質PirBを同定したが、NgRとPirBの双方がブロックされると再生が再開される(p. 967)。Parkたちは、視神経が障害を受けたあとで、増殖に関連するシグナル経路であるmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)が細胞中で活性化すると、マウスの網膜神経節細胞の軸索が再生するということを発見した(p.963)。このmTOR経路の負の制御因子がマウスの網膜から除去されると、数週間以内に、網膜神経節細胞の軸索は視交叉まで再成長する。つまり、神経のダメージからの回復を促進するためには、ニューロンの内因性の増殖経路を刺激するだけでなく、抑制性のプロセスを除去するための治療方法の組み合わせが必要なのである。(KF)
NEUROSCIENCE: Overcoming Inhibitions
p. 869-872.
PirB is a Functional Receptor for Myelin Inhibitors of Axonal Regeneration
p. 967-970.
Promoting Axon Regeneration in the Adult CNS by Modulation of the PTEN/mTOR Pathway
p. 963-966.

まったくの眠りではない(Not Quite Sleep)

何千人もの人が麻酔下で無反応にされるが、彼らは必ずしも意識がなくなるのではなく、手術台の上で臓器の摘出中に目を覚ましていたような話はたくさんある。Alkireたちは、行動における無反応と忘却の間のギャップについて、我々が知ってる限りのわずかなことについてレビューしている(p. 876)。意識のオンとオフの切り換えに関する視床と皮質領の相対的な役割は不明だが、ほとんどの麻酔薬は、その作用の仕組みの違いにもかかわらず、下側頭頂葉(inferior parietallobe)の周囲にある後側皮質性視床複合体(posterior corticothalamic complex)に作用しているらしい。この領域を非活性化するだけでなく、麻酔はまた、この複合体の小領域間の連絡切断をも引き起こしている。麻酔の効果を理解することは、つまるところ、意識に関する神経との関連についての理解に有用な道具となる。(KF)
Consciousness and Anesthesia
p. 876-880.

2成分金属のナノ粒子の表面と内部(Ins and Outs of Bimetallic Nanoparticles)

2成分合金の不均質触媒は、合金の表面と内部で酸化から還元へと反応条件が変化するに従い、金属成分の分布が変化する可能性がある。Tao たち(p. 932,および、10月9日オンライン出版参照)は、ロジウム (Rh) と パラジウム (Pd)、あるいは、白金(Pt)とパラジウム (Pd)の等しい分量からなる2成分ナノ粒子を合成し、これをシリコンのウェーファープレート上に沈着させ、これを一酸化窒素、一酸化炭素、酸素、水素などのガスに数百パスカルの圧力で曝したのち、表面の成分をX線光電子分光分析によって分析した。 Pt-Pd粒子の表面成分は何の変化も生じなかったが、Rh-Pd粒子の表面は酸化条件の後Rhが富化し、還元条件の後にはPdが富化した。この結果から、反応物に誘発されて変化した表面成分は、新しい触媒を開発するための調節可能なパラメータであると考えられる。(Ej,hE)
Reaction-Driven Restructuring of Rh-Pd and Pt-Pd Core-Shell Nanoparticles
p. 932-934.

タンパク質の寿命(Protein Lifetimes)

マイクロアレイ技術の進歩により、転写制御機構による細胞プロセスの制御が注目されている。しかし、翻訳と制御されたタンパク質分解は、タンパク質の生理的効果を決定するにあたって、同じように重要なパラメータでありうる(GrabbeとDikicによる展望記事参照のこと)。Yenたち(p. 918)とYenおよびElledge(p.923)は、何千もの個々のタンパク質の寿命を、細胞培養によって再現可能な様々な生理的また病理学的条件下でモニターした。その鍵は、等量産生された2つのタンパク質転写物をそれぞれコードする単一プロモータをもったレポーターとなる作成物を利用することである。その一方は赤色蛍光タンパク質であり、二番目のものは、緑色蛍光ラベルでタグ付けされた(その安定性を知りたい)タンパク質である。赤色蛍光タンパク質は安定であるので、つまるところ、2つのタンパク質の蛍光の比によって、調べているタンパク質の安定性の測定が得られるのである。蛍光標識細胞分取は、特定の半減期をもつタンパク質を担う細胞を分離するのに用いられ、次いで、細胞中で輸送されるコード化遺伝子が、PCR法によって同定される。この方法によって、従来は認識されていなかった、細胞分裂周期や細胞性シグナル伝達、アポトーシスなどのプロセスを制御するよう機能しているE3ユビキチンリガーゼのための基質が同定されたのである。(KF)
CELL BIOLOGY: Going Global on Ubiquitin
p. 872-873.
Global Protein Stability Profiling in Mammalian Cells
p. 918-923.
Identification of SCF Ubiquitin Ligase Substrates by Global Protein Stability Profiling
p. 923-929.

翻訳は今すぐ中止だ(Stop Translation Now)

翻訳を終結するために、タンパク質終結因子はメッセンジャーRNA上の終止コドンを認識し、リボソームに結合した転移RNAからの新生タンパク質鎖の加水分解を触媒する。細菌では、3つの終止コドンについての特異性でオーバーラップするところのある2つの終結因子がある。RF1がUAG(アンバー)を認識し、RF2はUGA(オパール)を認識するが、双方ともUAA(オーカー)は認識する。Weixlbaumerたちは、70Sリボソーム中でUGA(オパール)終止コドンと複合体をなしている終結因子RF2の結晶構造を提示している(p. 953; またLiljasによる展望記事参照のこと)。この研究は、最近発表されたUAA(オーカー)終止コドンと結合したRF1の構造を補完するものである。これらの構造を一緒にしてみると、タンパク質の遊離の仕組みだけでなく、終結因子による終止コドンの認識の特異性についての洞察が得られることになる。(KF)
Insights into Translational Termination from the Structure of RF2 Bound to the Ribosome
p. 953-956.
BIOCHEMISTRY: Getting Close to Termination
p. 863-865.

病気をもたらす経路(Pathways to Disease)

ヒト遺伝学の最近の進歩は、10年にもわたった科学プログラムの結果である。疾患感受性遺伝子を同定する努力は、リスクに対して相対的に小さな効果しかなかったかもしれないが、病気の根底にある生物学的経路を系統的に明らかにしている。これは医学における長期的な進歩に向けた決定的な基盤である。Altshulerたちは、遺伝的マッピングの努力の歴史と、全ゲノム関係付け研究における最近の成功、さらには将来のチャレンジについて、レビューしている(p. 881)。(KF)
Genetic Mapping in Human Disease
p. 881-888.

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