AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 14 2008, Vol.322


スチルベンのねじれ方(How stilbene twists)

過去10年の間に、高速振動分光により分子励起によって生じる分子再配列過程の詳細が明らかにされてきた。しかしながら、分子中の劇的な構造変化を示す部位においてのみ詳細な研究が可能であった。Takeuchiらは(p.1073; Blankの展望記事参照)コヒーレントラマン技術を利用して、スチルベンの中心C=C二重結合に関する光シス−トランス異性化における骨格全体の振動状態緩和を観測することに成功した。得られた振動状態の変化と理論的モデリングにより、分子構造変化過程の全貌が明らかになった。まず2重結合の伸長が生じ、引き続いてねじれによってペンダント水素原子が平面から離れるという。(NK)
Spectroscopic Tracking of Structural Evolution in Ultrafast Stilbene Photoisomerization
p. 1073-1077.
CHEMISTRY: A Sideways Glance at Chemical Reactivity
p. 1056-1057.

ホモエレクトスと臀部(Homo erectus Hips)

ヒトの骨盤の形態は産科学、雌雄二形、新生児の脳サイズやその成長パターンだけではなく、体の進化と関連して熱帯環境へ歩行運動を適応させることを理解するための中心的重要性を持っている。しかし、十分に保存された状態で化石骨盤を入手することはきわめて稀であり、アフリカのプリオ-プライストシーン(Plio-Pleistocene;ジャカルタや東アフリカの250万年から150万年前の鮮新世から更新世への連続した堆積層を指す)での記録ではわずかな例しか知られていない。Simpson たち(p. 1089)は、エチオピアAfarのゴナ(Gona)で採集されたホモエレクトスのメスの成体骨盤をほぼ完全な状態で修復することに成功した。これは90万年〜140万年前のものである。この骨盤は今まで考えられていたよりもずっとアウストラロピテクス類に近く、そして生まれた子の脳サイズは以前の推定値よりも25〜30%大きく、ホモ・エレクトスはヒトに見られるような親に完全に依存するタイプの幼児期を欠いていたらしい。さらに、ホモエレクトスは、以前信じられていたのとは異なって、現代人が熱帯性準乾燥環境に適応した背の高いスリムな体や、長距離を走るのに適した臀部を持たなかった。(Ej,KU,nk)
A Female Homo erectus Pelvis from Gona, Ethiopia
p. 1089-1092.

酸素が分離して(Oxygen Torn Apart)

分子が光イオン化の後にまだ過剰なエネルギーを保持するとき、二次電子を放出して緩和する。しかし、光イオン化した酸素は、核が充分離れた後にのみ、このような緩和が生じるらしい。最近開発されたアト秒のX線パルス発生とイオンの詳細な画像化手段によって、Sandhuたち(p. 1081)は、形成された酸素分子の挙動の基になっている動力学を明らかにした。彼らは、最初に形成されたO2+イオンのエネルギーが、ジカチオン(dication;2電子不足した分子)を形成するに必要な閾値以下に急速に低下するが、核同士が反発するので、約30オングストローム離れた場所でジカチオンは形成可能となる。この段階において過渡状態(Feshbach共鳴)は、スピン軌道のカプリングの期間持続して観察可能となるが、更なるイオン化、あるいは、放射による緩和過程によって最終的には減衰する。(Ej,nk)
Observing the Creation of Electronic Feshbach Resonances in Soft X-ray–Induced O2 Dissociation
p. 1081-1085.

全世界の光合成を定量化する(Quantifying Global Photosynthesis)

気候モデルの有用性の如何は、植物によるCO2の取り込みである光合成をどのくらい精度良く表現しているかに一部依存しているが、それは、炭素と気候の関係がとても密接であるからである。しかし、どの程度の光合成が地球的規模で実際に生じているのかを測定することは困難である。というのも、利用可能なテクニックは間接的であるか、あるいは直接的であっても大規模なスケールでの応用には充分に適用できないからである。Campbellたち(p.1085)は北アメリカの成育期(growing season)に行われた測定結果を用いて、硫化カルボニルCOSは二酸化炭素の優れた代用物(surrogate)となること、そして研究室で測定されてたその2つの定量的な関係をバルクな大気に対しても拡張できることを示している。従って、大気の垂直方向におけるCOSの濃度勾配を測定した値は、成育期において大陸全体の光合成がどの程度生じたかを反映しているはずである。(TO,Ej,nk)
Photosynthetic Control of Atmospheric Carbonyl Sulfide During the Growing Season
p. 1085-1088.

デジタル化の進展 (Digitizing Development)

脊椎動物の発生の完全な描像を構築するためには、長期にわたる胚全体の記録が必要だが、現在の顕微鏡はそのための計測速度もまた低光毒性も備えていない。Kellerたち(p. 1065,10月9日のオンライン出版;Vogelによる10月10日のニュース記事、及び表紙参照)はこれらの限界を打ち破り、また細胞以下の分解能で全体的なゼブラフィッシュ胚の定量的な情報を提供するDSLM(デジタル走査レーザ光シート蛍光顕微鏡)を開発した。そのデータは脊椎動物種の発生上の青写真を提供し、同時に主要な器官が機能を示す段階まで約2万個の細胞を追跡している。(hk,KU,nk)
Recycling of Graphite During Himalayan Erosion: A Geological Stabilization of Carbon in the Crust
p. 943-945.

記憶の移動(Moving Memories)

記憶獲得に関する最も初期の段階は海馬に依存しているが、しかしながら、中央前頭前野と呼ばれる脳の他の領域が統合された連想記憶を引き継いでいることを示唆する証拠が次々と現れている。Takahara−Nishiuchi and McNaughton(p.960)は、連想記憶の獲得に続いて、ラットの中央前頭前野における神経活動がその獲得された記憶において特異的、かつ必要であることを見出した。記憶された時の状況を繰り返すというような条件がなくても、約6週間の記憶固定期間の間、その記憶に特有な神経活動パターンが、自発的に発生した。このように、記憶に関する神経の相関は記憶固定と同時に新皮質で徐々に発生する。(KU,nk)
Random Tiling and Topological Defects in a Two-Dimensional Molecular Network
p. 1077-1081.

炎症にブレーキをかける(Putting the Brakes on Inflammation)

セレクチン、インテグリン、或いは免疫グロブリンファミリーに関する数多くの接着受容体は炎症細胞の補充を促進する。対照的に、白血球の接着カスケードの阻害因子はよく知られていない。Choiたち(p.1101)は、白血球の接着カスケードの内在性阻害因子として発生中の内皮の座位-1(Del-1)を解析した。Del-1は内皮に発現し、分泌する分子で、主要な白血球接着受容体LFA-1のリガンドである。可溶性のDel-1は、静的な流れの条件と生理的な流れの条件の双方で好中球の接着を阻害した。内皮のDel-1の欠損は白血球の接着を増進させ、そしてDel-1の欠損したマウスは肺炎症においてかなり高い好中球の蓄積を示したが、Del-1/LFA-1の二重欠損マウスでは逆転した。このように、Del-1はLFA-1と相互作用し、炎症細胞の補充を阻害している。(KU)
Del-1, an Endogenous Leukocyte-Endothelial Adhesion Inhibitor, Limits Inflammatory Cell Recruitment
p. 1101-1104.

ユビキチンの子供は?(Ubiquitin's Pup(py)?)

ユビキチンは分解すべきタンパク質をタグ付けするために、真核生物で普遍的に用いられている修飾因子である。Pearceたち(p.1104,10月2日のオンライン出版;Mukherjee and Orthによる展望記事参照)は、原核生物においてPupと名づけたユビキチン-様タンパク質系に関して記述している。Pupは結核菌(Mtb)プロテアソームによるタンパク質の分解に必要である。プロテアソームの機能はMtbの病原性にとって必須のものであり、このPup関連経路は抗結核菌薬剤の開発ターゲットとなるであろう。(KU)
Ubiquitin-Like Protein Involved in the Proteasome Pathway of Mycobacterium tuberculosis
p. 1104-1107.
MICROBIOLOGY: A Protein Pupylation Paradigm
p. 1062-1063.

花から花へ(From Flower to Flower)

遺伝子水平伝播は細菌において広範囲に研究されているが、多細胞の植物や動物の進化におけるその役割はほとんど知られていない。M.Kimたち(p.1116)は、2種のより高度な真核生物、ノボロ菊の間での自然伝播される重要なる形態学的、及び生態学的形質を解析した。その伝播には、花の形態をコントロールしている調節遺伝子の遺伝子移入を含んでいる。この遺伝子は、発生中の花の外側領域で発現し、そこで大きな花弁を持つ非対称性の花の生成を促し、高次の外部交配を与えるようなヒナ菊様の頭が生じる。このように、調節遺伝子により、進化の過程で形態学的、及び生態学的形質を獲得したり、失ったり、更に再獲得が可能となり、個々の系列が独立に進化するという伝統的な考えよりも進化的変化に関してよりダイナミックな見方を与えている。(KU)
Regulatory Genes Control a Key Morphological and Ecological Trait Transferred Between Species
p. 1116-1119.

唯一の食べ物(Sole Food)

シロアリは死んだ木材を消化する恐るべき能力をもっている。その結果、彼らは、世界中にある人間の作り出した構造を破壊する主要な害虫となってきた。木材を消化するのに必要な生化学的能力は、バイオ燃料を処理するために人間によって捜し求められてきたものではあるが、木材が栄養バランスの悪い食料であり、また窒素を欠いているので、単純な解決策はまだ見つかっていない。シロアリは、その成功を、相補的な代謝を行う多数の相利共生的微生物に負っている。Hongohたちは、シロアリの腸内に棲息する中で優勢な原虫の内部に生存する主なる共生細菌のゲノム配列を決定した(p. 1108)。その配列は、大気中の窒素の固定、原虫からの窒素性排泄物からの窒素の再利用、さらには、自身と宿主のため、また宿主の宿主が利用するためにアミノ酸を作り出すことを、その細菌に可能にしている遺伝子を明らかにした。窒素固定に必要なエネルギーはかなりのもので、その細菌はそれを窒素固定中に生み出される水素からだけでなく、原虫によってセルロースから遊離される糖の嫌気性の発酵からも得ているのである。(KF,nk)
Genome of an Endosymbiont Coupling N2 Fixation to Cellulolysis Within Protist Cells in Termite Gut
p. 1108-1109.

気孔になる、ならない?(To Be or Not to Be?)

葉の表面にあって開閉する小さな穴(ポア)、すなわち気孔は、植物の生理に基づく必要に従ってガス交換をしている。発生中に形成される気孔の数は、ポア形成を活性化あるいは抑圧するシグナルの競合によって決まる。Lampardたちはこのたび、それら競合するシグナルが、入力が只1つの問いに帰結する形で収束するやり方を明らかにしている(p. 1113)。その問いとは、ここに小孔ができるかできないかというものである。転写制御因子SPEECHLESSは、気孔の発生プログラムを活性化するものであるが、ある種の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPKs、MAPキナーゼ)、すなわち、いろいろな機能の1つとして気孔の形成も抑制できるキナーゼのグループによってリン酸化される。リン酸化部位のすべては、つまるところポジティブおよびネガティブなシグナルを統合する場所である、SPEECHLESSの93-アミノ酸MAPキナーゼ標的領域内に含まれているのである。(KF)
Arabidopsis Stomatal Initiation Is Controlled by MAPK-Mediated Regulation of the bHLH SPEECHLESS
p. 1113-1116.

結晶を成長させる(Growing Crystals)

ナノスケールの物質を成長させるひとつの経路は、気相-液相-固相成長(Vapor-Liquid-Solid 成長)を経るものであり、この成長過程では、一種、二種以上の材料の蒸気を基板上に堆積し、液滴を形成する。過飽和状態が生じると、核が形成され、液滴から結晶が成長する。B. J. Kim たち (p.1070) は、金−シリコンの液滴から成長するシリコン粒子形成を研究し、透過型電子顕微鏡を用いて核形成過程の動態を追跡した。直径 12nm 以上の粒子では核形成が起こる臨界過飽和度は粒子サイズに依存しなかった。(Wt,nk)
Kinetics of Individual Nucleation Events Observed in Nanoscale Vapor-Liquid-Solid Growth
p. 1070-1073.

転写酵素の機能の切り替えを解き明かす(Resolving Reverse Transcriptase's Repertoire)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が宿主細胞のDNAに組み込まれる前に、その一本鎖のウイルスRNAは二本鎖DNA中に転換されなければならない。これには、DNA重合やRNAの切断、鎖の転移、鎖の置換合成など幾つかの活動が必要である。それらすべては多機能性のHIV逆転写(RT)酵素によって触媒されているので、そのため、それがHIV薬物療法の主要な標的になっている。その酵素が様々な機能をいかにして切り替えているかについての洞察を得るために、Liuたちは蛍光共鳴エネルギー転移を用いて、個々のHIV-1逆転写(RT)分子と核酸基質との相互作用をモニターした(p.1092;またSarafianosとArnoldによる展望記事参照のこと)。RTは核酸の二本鎖上を長距離にわたって、両端の間を行き来するように滑って動く。さらに加えて、RTは、それぞれ違った活性を支持する逆の結合配向の間で自発的に状態を切り替えることができる。この酵素はつまり、さまざまな部位を忙しく試して、機能するのに必要な立体配置にアクセスすることができるのである。(KF)
Slide into Action: Dynamic Shuttling of HIV Reverse Transcriptase on Nucleic Acid Substrates
p. 1092-1097.
BIOCHEMISTRY: RT Slides Home...
p. 1059-1060.

交差提示と腫瘍の排除(Cross-Presentation and Tumor Rejection)

交差提示(Cross-presentation)とは、ウイルスに感染した体細胞中に産生されたある抗原が、樹状細胞などの専門的な抗原提示細胞の主要組織適合抗原クラスI分子によって提示される経路のことである。Hildnerたちは、通常の樹状細胞のCD8α+ サブセットの発生を欠くマウス系統を創り出し、モデル抗原やウイルス性病原体への応答や腫瘍の排除をin vivoで分析した(p. 1097)。その知見は、その樹状細胞サブセットがウイルスへのCD8+T 細胞応答にとって重要であるとする従来の推測を確認し、また、腫瘍の排除もそれら特定の樹状細胞に依存しているということを示すものであった。(KF)
Batf3 Deficiency Reveals a Critical Role for CD8α+ Dendritic Cells in Cytotoxic T Cell Immunity
p. 1097-1100.

見失われていた特徴(Missing Features)

海洋性ラン藻はわれわれの惑星において酸素を生産し、炭素および窒素を固定する原動力である。酸素はニトロゲナーゼにとって有毒なので、窒素固定は、こうした代謝の混合した状況に適合するにはいささか問題である。Trichodesmiumのような多細胞性のラン藻は、さまざまな時間的なあるいは区画による戦略を進化させることによって、自分たちのニトロゲナーゼ酵素が毒されないように保護してきた。新たに発見された大量に存在する単細胞ラン藻のグループは、炭素固定と酸素産生を行うことなく、妨害なしにニトロゲナーゼを利用することができる。Zehrたちは、細胞ソーティングによってこのグループを抽出し、ゲノム解析によって、それが光化学系IIと、還元的ペントース・リン酸回路を介した炭素固定の双方のための遺伝子を欠いていることを明らかにした(p. 1110)。この知見は地球上の窒素と炭素の循環に関する現行のモデルを再評価する必要があることを示すものである。(KF,nk)
Globally Distributed Uncultivated Oceanic N2-Fixing Cyanobacteria Lack Oxygenic Photosystem II
p. 1110-1112.

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