AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 10 2008, Vol.322


防御装置をつける(Armor Plamting)

海洋環境に棲むトゲウオは淡水性のいとことは異なり、より防御的な側板を身につけている。海洋の生息地から淡水でのコロニー形成でどうして側板が消滅するのであろうか?Barrettたち(p.255,8月28日のオンライン出版;Creskoによる展望記事参照)は、海洋から淡水へと自然に変化するトゲウオのコロニー形成を再現し、この中のトゲウオの子孫の中で、対立遺伝子が影響している側板の数の出現頻度を測定した。側板発生を抑える自然選択が淡水環境中で観測されたが、しかしながらその選択勾配は時間と共に変化し、より大きな(より年老いた)トゲウオは側板の防御装置が減る傾向にある。(KU)
Natural Selection on a Major Armor Gene in Threespine Stickleback
p. 255-257.
EVOLUTION: Armor Development and Fitness
p. 204-206.

アフリカについて(About Africa)

熱帯アフリカは、地球上の水の生成・循環のサイクル(hydrological cycle)の重要な場所であり、そして多くの人口を抱えている。過去における降雨や気温がどのように変化したのかという記録はあまりに少なくかつ期間が短いため、地質学的時間で近い過去において、何が降雨や気温を調節していたのかを良く理解することができない。Tierneyたち(p. 252,9月11日オンライン出版)は、何の要因がこの地域の気候を動かしているのかを明らかにするために、タンガニーカ湖の堆積物から過去6万年間の気温と降雨量の記録を再現した。その結果、北半球とインド洋との明瞭な関連が観測されたが、驚くべきことに、熱帯収束帯(Inter tropical Convergence Zone)の地点おける変化は降雨変動をもたらす主要因ではなかった。どうやら、南東アフリカ気候は、十分に理解されていないが、複雑な一連の強制要因(array of forces)によって動かされている。(TO)
Northern Hemisphere Controls on Tropical Southeast African Climate During the Past 60,000 Years
p. 252-255.

三重の冷却(Triple Cooling)

冷たい原子として扱いうる物質に対しては過去10年間にわたり精力的に研究されてきたが、静止状態近くまで冷却された極性分子からなる試料があれば、分子間相互作用が付加された複雑な研究領域が生まれてくるであろう。しかしながら、このような試料を生成する上で困難なことは、分子の振動と回転に結び付けられる内部エネルギーの散逸が必要なことにあった。Ni たち (p.231, 9月18日にオンライン出版; Gould による展望記事を参照のこと) は、この挑戦を、二つの異なる周波数のレーザー照射によって励起される可干渉ラマン過程を用いることで乗り越えた。この技術によって、振動および回転モードに関しては基底状態である三重項電子状態にあり、並進運動に関して極低温状態にある異種2原子分子 KRb 試料を作ることができた。(Wt,nk)
A High Phase-Space-Density Gas of Polar Molecules
p. 231-235.
PHYSICS: Cold Molecules Beat the Shakes
p. 203-204.

配列における蛍光寿命(Fluorescing in Sequence)

紫外線吸収によるそのエネルギーを急速に散逸させることでDNAは光損傷を抑えることができるが、これが長期にわたる遺伝子安定化の重要なる特質である。このエネルギー散逸をもたらす基本的な動力学に関して、多くのモデルが提唱されている。SchwalbとTemps(p.243)は、このような研究において構造面での単純なモデル化はリスキーであることを見出した。一連のオリゴヌクレオチド(一重鎖および二重鎖の双方を含めて)に関するピコ秒の蛍光寿命の比較から、塩基配列に関する複雑な依存性が明らかにされた。20個のアデニン−チミンで構成された塩基鎖の中で4個のグアニン−シトシンのペアが置き換わると蛍光寿命が半減し、入り混じった配列がより急速に緩和するという一般的な傾向の重要性を示している。(KU)
Base Sequence and Higher-Order Structure Induce the Complex Excited-State Dynamics in DNA
p. 243-245.

やもりをしのぐ接着力(Sticky Stuff)

重力に耐えるためにせん断方向の接着力が強く、容易に剥がせるように垂直方向の接着力は弱い接着剤は、物を壁に貼り付ける際には理想的な接着剤である。動物の中にはあらゆる表面をよじ登ることができる者もおり、そのため、例えばヤモリの足を模倣する研究が続けられている。Quたち(p.238)は、垂直方向に並んだナノチューブが、様々な表面に対して高い耐せん断力を有していることを報告している。配列したナノチューブ層上の不規則なナノチューブ層は、垂直方向に比べてはるかに高い耐せん断力を発揮する。せん断接着力はヤモリのものよりも強く、高い接着力を示しつつかつ容易に剥がせるという。(NK,SO,nk)
Carbon Nanotube Arrays with Strong Shear Binding-On and Easy Normal Lifting-Off
p. 238-242.

哺乳類の保存状態を監視する(Monitoring Mamamlian Conserbation Status)

地球規模での哺乳類の多様性に対する適切な保存戦略を作るには、効果的な戦略に関する知識および危険状態にある種の現状の状態に関する詳細な知識を必要とする。Schipperたち(p.225)は、130ヵ国1700人を越える協力者が参加し、かつ全5487の哺乳類の種(海洋の種を含めて)についての分布状態と保存状態に関する標準データの編集を担っているプロジェクト、Global Mammal Assessmentによる重大な発見について報告している。このデータベースが国際自然保護連合によって無料公開されており、すべての種に関する多様性のパターン、脅威、および知識についての詳しい記述がなされている。見かけ上まったく異なるパターンが海と陸の種で見出されたとしても、それらは両方の種の多様性を支えているメカニズムが似ている可能性を示唆している。また、その結果は、世界の哺乳類に関する恐るべき保存状態をも明らかにするもので、陸上種の1/4が、海洋種の1/3が脅威の中にある。陸上種は主に生息地の消滅と狩猟によって、海洋種は主として漁業作業や汚染個所に巻き込まれたことによる犠牲によって脅威にさらされている。(KU,nk)
The Status of the World's Land and Marine Mammals: Diversity, Threat, and Knowledge
p. 225-230.

Soufriere火山の研究(Seising up Soufriere)

地表の変形の観察および地震データと地球化学的なデータと結びついた火山噴火の動力学により、火山を活発にする供給系に関する概念図が得られる。Elsworthたち(p.246)は、12年以上もの間続いている西インド諸島東部Montserrat島でのSoufriere Hill火山の噴火に関してこの種のデータを統合した。3っの主要な噴火サイクルが起こっていた。地表の膨張と収縮を噴火のスタイルと強さとで相関を取ると、マントル或いは地殻のベースからのマグマが絶えず中位(ほぼ10km)の地殻マグマ溜りを満たし、これがすみやかに火山下(ほぼ6km)のマグマ溜りを満たしていることが示された。このデータはまた、噴火が終わりに近づいていることを示唆している。(KU)
Implications of Magma Transfer Between Multiple Reservoirs on Eruption Cycling
p. 246-248.

熱くて深い所で孤独に生きる(Hot, Deep, and Alone)

地表から何キロも深くて太陽光や酸素がない深部にも生物は棲んで栄えている。Chivian たち(p.275)は、南アフリカの金鉱内の深い帯水層から得られたゲノムの集合と、このアノテーション(注釈)について記述した。ゲノムの分析とアノテーションから、この生物は動くことができ、胞子を形成し、硫酸塩を還元し、化学合成によるエネルギーの利用可能な好熱菌であり、集団はクローンのようにほとんど均一なゲノム構造を持っていることが示唆される。この単一種の集団は、水の加水分解による持続可能な生態系を持っており、エネルギーの還元体となる水素と、硫化鉄鉱物を酸化して硫酸塩にする過酸化水素との二つを発生する。。(Ej,hE,nk)
Environmental Genomics Reveals a Single-Species Ecosystem Deep Within Earth
p. 275-278.

ヨセミテでの一世紀(A Century in Yosemite )

20世紀初頭、生態学の創始者、Joseph Grinnellと彼の同僚たちは、合衆国カリフォルニア州の今はヨセミテ国立公園となっている地域の、高度60メートルから3300メートルにかけての高度変化に沿っての帯状標本地における小型哺乳類の多様性について調査を行った。彼らの調査は非常に詳細で、きちんと文書化され、そのデータは標本やフィールド・ノート、写真などに裏付けられて、脊椎動物動物学博物館(the Museum of Vertebrate Zoology)にずっと保存されてきた。それからおよそ100年後、Moritzたちは、ヨセミテ帯状標本地における小型哺乳類の多様性を再調査した(p. 261; SvenningとConditによる展望記事参照のこと)。その結果は、気候温暖化へのコミュニティー規模の明瞭な応答を明らかにしているが、それには、低地に分布していた種が上方に分布を拡大し、高地に分布していた種が分布範囲を狭めているということもあった。この百年単位の規模での記録は、高地に分布していた種のいくつかの分布範囲が崩壊していることを含め、過去の気候変化に応答して生態系に実質的な変化があったことを示す確固たる証拠を提供している。種の多様性は、しかし、分布範囲の揺らぎはあったにせよ保持されてきており、これは、気候変化に対応して移動性向が変化することで多様性を保持していくためには景観の保護が重要である、ということを示唆するものである。(KF,nk)
Impact of a Century of Climate Change on Small-Mammal Communities in Yosemite National Park, USA
p. 261-264.
ECOLOGY: Biodiversity in a Warmer World
p. 206-207.

毒素処理を促進する(Promoting Toxin Processing)

細菌性毒素はしばしば、真核細胞に入ったときに活性化される不活性な前駆物質として産生される。そうした毒素のファミリーの1つで、コレラ菌RTXを含む多機能性自己プロセシング毒素(MARTX: Multifunctional Autoprocessing Toxins)は、自身のシステインプロテアーゼ領域(CPD)によって活性化されるが、最近になって、小分子イノシトール六リン酸(InsP)がこの自己タンパク分解を刺激していることが明らかになってきた。Lupardusたちは、この、InsPに結合したコレラ菌RTX CPDの結晶構造を決定した(p. 265)。この構造データと、CPD変異体についての生化学的また動力学的な解析とを組み合わせることで、InsP結合がCPD活性部位をさらけ出し、自己プロセシングへと導くアロステリックな切り替えを誘発している、ということが示唆されるのである。(KF,SO)
Small Molecule-Induced Allosteric Activation of the Vibrio cholerae RTX Cysteine Protease Domain
p. 265-268.

樹状細胞のT細胞による調節(T Regulation of Dendritic Cells)

免疫系において、調節性(regulatory)T細胞は反応性免疫細胞の過剰産生と、自己免疫疾患のリスクとを防ぐ緩衝装置として作用している。T調節性細胞は通常、樹状細胞上にある2つの細胞表面タンパク質、すなわち免疫系に対して外来性抗原を提示するCD80とCD86の発現を抑制している。Wingたちは、マウス においては、T調節性細胞が樹状細胞の過剰発現を抑制する際に必要とされるCTLA-4が、CD80とCD86の発現を抑制するのに必要であることを報告している(p. 271; またShevachによる展望記事参照のこと)。CTLA-4の量が減少すると、CD80とCD86の発現が増加し、樹状抗原提示細胞が他の免疫細胞を過剰刺激し、その結果、リンパ球増殖や自己免疫疾患、そしてIgEの過剰産生が生じた。同時に、それらマウスは、腫瘍に対する免疫を発生させた。つまり、調節性T細胞中のCTLA-4は、樹状細胞の抑制について、ひいて は免疫系の恒常性における自身の役割について、責任を担っているのである。(KF)
CTLA-4 Control over Foxp3+ Regulatory T Cell Function
p. 271-275.
IMMUNOLOGY: Regulating Suppression
p. 202-203.

原子雲の力学(Mechanics of Atom Clouds)

空洞中の光力学によって、空洞に閉じ込められた数個の光子の効果に注目して力学的振動と電磁場のカップリングを観察することが可能になる。このような研究は、重力波のように微小な動きの検出に応用できるだけでなく、古典的量子力学からの遷移を検出するような基礎的な研究にも利用できる。Brennecke たち(p. 235,および9月11号の電子出版号参照)は、すべての原子が光空洞内で同一量子状態に凝縮するボーズ-アインシュタイン凝縮(BEC)を紹介し、このBECと数個の光子の相互作用を利用すると、量子状態での力学的振動の極めて鋭敏な検出器が作れることを示した。(Ej,hE)
Cavity Optomechanics with a Bose-Einstein Condensate
p. 235-238.

地震波の信号(Seismic Signal)

火山噴火の前とその最中において、多様で特徴的な地震波が記録される。あるものはマグマの動きを反映し、またあるものは、岩石の破砕や動きを反映し、あるいは、マグマ近傍での熱水の圧力低下を反映していると思われている。Benson たち(p.249; および、Burlini and Di Toroによる展望記事参照) は、火山のマグマ溜りに相当する環境条件下で、実験試料に対し上に述べたような地震を発生させることに成功した。著者たちは間隙水が急速に減圧された時に生じる破砕試料の周囲の微小な振動を記録した。これは、多くの活火山で記録される信号と、発生場所やタイプが類似しており、火山の噴火を予測するのに有用な低周波数の特徴的な信号も見られる。(Ej,hE,nk)
Laboratory Simulation of Volcano Seismicity
p. 249-252.
GEOPHYSICS: Volcanic Symphony in the Lab
p. 207-208.

分布範囲がずれる(Shifting the Range)

人類のせいで生じた気候温暖化のもとでの生物の分布範囲変化についての文献は、主として、低地の種が極に向けて高緯度方向に移動するか、高さ方向、すなわち高地の方に移動するかのいずれかで温暖化を避けるという温和な気候に焦点を当てている。北回帰線と南回帰線に挟まれた地域では、緯度方向での温度勾配がほとんどゼロなので、低地での熱帯性固有種の逃避行動は、ほとんどの場合、極方向へではなく高さ方向の移動になる。低緯度の種について言えば、温暖化に適応してしまった種に代わって低地に生じた隙間を埋めようとする種のプール(蓄積)はないことになる。コスタリカにおける熱帯の高度勾配についての、植物と昆虫、およそ2000種に関する生物地理学的分布範囲データを用いて、Colwellたちは実質的に減少した低地の種の豊富さについての潜在的なパターンと、現在および温暖化後の高度分布範囲の初期段階でのギャップとを明らかにしている(p. 258; またSvenningとConditによる展望記事参照のこと)。次の世紀において3.2度の気温上昇によって、600メートル上方への移動が引き起こされると仮定すると、それら種の半数はもはや低地域を占有することはなく、また半分は、現在の分布範囲と温暖化後の分布範囲の間で生じるギャップに直面することになる。(KF)
Global Warming, Elevational Range Shifts, and Lowland Biotic Attrition in the Wet Tropics
p. 258-261.
ECOLOGY: Biodiversity in a Warmer World
p. 206-207.

ヘルペスを邪魔する(Hindering Herpes)

神経節への潜伏(neuronal latency)状態からの単純ヘルペスウイルス(HSV)の再活性化は、ありふれたしかも潜在的に甚大な被害をもたらす世界的な病気の原因である。このたびKnickelbeinたちは、生体内および試験管内で感覚神経中におけるHSV-1潜伏の維持に、HSVに特異的な CD8+T細胞による溶解性の顆粒成分パーフォリンとグランザイムBの利用が有効であることを実証した(p. 268)。溶解性の顆粒は、潜伏感染した神経節の免疫監視の際にT細胞/ニューロン接合部に分極し、これが、HSV-特異的CD8+T細胞によるアポトーシス誘導を選択的に阻害する。溶解性顆粒成分グランザイムBは、初期および後期のウイルスの遺伝子発現に必要なウイルス性の即時型初期タンパク質を切断することでウイルスの遺伝子発現を抑制した。つまり、溶解性顆粒は無細胞毒性様式で機能し、グランザイムBは、さらなるウイルスの遺伝子発現に必要なウイルスタンパク質を標的としているのである。(KF,KU)
Noncytotoxic Lytic Granule–Mediated CD8+ T Cell Inhibition of HSV-1 Reactivation from Neuronal Latency
p. 268-271.

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