AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 3 2008, Vol.322


信念の問題?(A Matter of Faith?)

科学と宗教とが交差する領域は、科学者も非科学者もが確実に強い関心を寄せる重大な問題である。Norenzayan と Shariff(p.58)は、過去と現在の人間がどのように社会の利益となる行動をとるかについての、最近の社会心理学、実験経済学、そして進化論的人類学における最近の成果を報告した。宗教においては自分が犠牲になっても社会のために奉仕することを教えている。自己報告に基づく社会学的調査では、個人の宗教的傾向と社会に利益となる行動との間には相関が認められるが、実験的手法で個人の宗教性と社会行動を測ってみると、この相関は世間体を気にするような状況で強く現れることが示された。実験的に宗教的な考え方を強めると、不正行為を減少させ、見知らぬ人々に対する愛他的社会的行為が増加する。実験的には、宗教的な献身をはっきりと宣誓した人は周囲からの信頼がより大きいという相関が見られる。異なる文化の間に観察される事実から、モラルに基づく神の文化的存在とヒトの集団の大きさの関連性が見られる。宗教における社会的犠牲の多様な面を統合し、これが他と異なる点を明瞭にし、未解決の問題点や将来に対する予測も述べる。(Ej,hE,nk)
The Origin and Evolution of Religious Prosociality < BR>p. 58-62.

海面の高低(Ups and Downs)

DNAは正確な相補的塩基対であるため、この塩基対やこの鋳型によってアセンブルしたナノスケールの構造物に利用されるケースが増えている。これらの中には、粒子やワイヤ、また金属や他の分子で粒子やワイヤを装飾したものが含まれる。Aldayeたち(p. 1795)は、複合物質によるアセンブリに、DNAを用いて正確な位置決めを行った例をレビューした。その発展経過は、単純な1次元の鋳型製作から2次元、3次元の動的な対象物の形状や大きさを変化させたり、ナノマシンを目標にしたものまで進んでいることが明らかになった。(Ej,hE)
A Chronology of Paleozoic Sea-Level Changes
p. 64-68.

温度に敏感な水の層(Temperature-Sensitive Water Layers)

疎水性の性質を有するタンパク質の折りたたみ(folding)や膜輸送のようなプロセスには、これと相互作用する水の層が中心的役割をする。しかし、これらはバルクの水と接しているため、その性質を決定することは困難である。単分子壁からなるカーボンナノチューブの内部は疎水性であることが期待されている。この中に吸収させた水は、微小領域の界面水として、タンパク質の折り畳みの研究に重要である。Wangたち(p.80)は、水温を22℃から8℃に下げながらNMRで観察した結果、水が疎水性環境から親水性環境へ遷移する状態を計測し、同時に、水分子の再配列速度も極めて緩慢になったことも明らかになった。(Ej,hE)
Temperature-Induced Hydrophobic-Hydrophilic Transition Observed by Water Adsorption
p. 80-83.

巨大な小麦(Mighty Wheat)

小麦は世界中で最も重要な穀物の一つであるが、その遺伝子が大きくて複雑であることから、配列の決定は不可能であると見られていた。Paux たち(p. 101)は、今回、最大のコムギ染色体である染色体3Bの物理的な地図を組み立てることで完全なゲノム得るために必要な最初の取り組みを始めた。1ギガ塩基(正確には995メガ塩基)の染色体だけで、コメとヒトのすべての遺伝子よりも大きい。この偉業が近い将来実現した暁には、倍数体植物ゲノムの染色体に基づく物理的地図(17ギガ塩基)ができるであろう。(Ej,hE,KU)
A Physical Map of the 1-Gigabase Bread Wheat Chromosome 3B
p. 101-104.

負の屈折率のための未来(Back to the Future for Negative Refraction)

波は、ある媒体から別の媒体に伝達される際に屈折する。この屈折の割合は媒体の屈折率に依存する。自然界ではすべての物質は平凡な正の屈折率を持つ。しかし、最近、負の屈折率を有する物質が見つかった。このような物質で電磁波を利用できれば完全なレンズと遮蔽が可能となる。もちろん、このメタ物質の製作には不可避的な損失が発生し、効率を著しく低下させる。負の屈折率と時間反転プロセスを関連させ、Pendry (p. 71,8月28日のオンライン出版参照) は、これらの有限の損失を克服するための別の方法を考察している。光学的に活性で、適正な非線形光学的性質を有する物質を利用して、負の屈折に伴う損失を伴わない負の屈折率を模倣した物質ができる可能性がある。(Ej,hE,KU,SO)
Time Reversal and Negative Refraction
p. 71-73.

電子を与える(Lending an Electron)

光学異性体の点で純粋な有機化合物を生み出す触媒は、電荷、あるいは、強く分極した中間体を含む電子対のメカニズムにより作用する傾向がある。不対電子を有する中間体(ラジカル)の合成により、望ましくない競争反応を避ける一方、別の物質を合成するのに有利な他の反応経路の道を開くことができる。このようなやり方で、Nicewicz と MacMillan (p.77, 9月4日のオンライン 出版 ;Renaud と Leongによる展望記事を参照のこと) は、他の方法では 起こらない反応を引き起こす単電子輸送に光励起ルテニウム錯体が有用な ことを示した。この錯体を、一連のアルデヒドのエナンチオ選択性化合物(transformations)に触媒作用するのに用いられる光学活性なアミンと結合させた。可視光を照射のもとでは、ルテニウム共触媒へ向けての電子移動と、共触媒からの電子移動は、アルデヒドの自己共役反応を避けつつ、アルデヒドの効果的な非対称アルキル化のためのラジカル過程を促進する。(Wt、KU、nk)
Merging Photoredox Catalysis with Organocatalysis: The Direct Asymmetric Alkylation of Aldehydes
p. 77-80.
CHEMISTRY: A Light Touch Catalyzes Asymmetric Carbon-Carbon Bond Formation
p. 55-56.

最終氷期における二酸化炭素(Gas from the Past)

二酸化炭素は気候にもっとも大きな影響をもたらす大気トレース気体である。気候変動をもたらしたり、逆に気候変動に影響されるCO2量の変動を伴いつつ、炭素循環と気候は非常に強く結ばれているため、気候と大気中のCO2が過去にどのように変化したかを知ることは、気候ダイナミクスに関する更なる理解を深めるのに重要である。AhnとBrook(p.83,9月11日のオンライン出版)は、比較的良く研究されている最終氷期の90.000から20.000年前の期間における大気CO2、南極表面の大気温度、およびグリーンランドの気候に関する記録を比較した。(KU,nk)
Atmospheric CO2 and Climate on Millennial Time Scales During the Last Glacial Period
p. 83-85.

生活史が重要(Life History Matters)

植物において、生活史の特質の変化が進化の速度と相関があると示唆されているが、しかしながら以前の研究では相反する結果を与えている。分子進化の速度が生活史の特質と相関があるかどうかを調べるために、SmithとDonoghue(p.86)は、5つのグループの顕花植物に関するその進化の速度を調べた。分子進化の速度は、一般的に長い世代時間を持つ樹木や低木においてはゆっくりしており、それに比べて短い世代時間を持つ近縁の草木において、分子進化の速度は比較的速い。このように、進化の速度はその生活史に依存して、密な近縁種でも異なる。(KU)
Rates of Molecular Evolution Are Linked to Life History in Flowering Plants
p. 86-89.

原腸陥入を把握するに至る(Getting to Grips with Gastrulation)

原腸陥入には、体軸を形成するための胚葉の協調運動が含まれている。NairとSchillingは、発生中のゼブラフィッシュにおける、内胚葉の形態形成のケモカイン制御と、肝臓および膵臓の位置決定について研究した(p. 89、8月21日オンライン出版)。発生の際には、内胚葉は通常中胚葉とともに遊走するが、これら2つの胚葉は、フィブロネクチンへのインテグリン-依存性の接着が失われることによるケモカイン・シグナル伝達の破壊によって、物理的に分離してしまうこともある。つまり、ケモカインによって仲介される接着性相互作用は、通常は内胚葉の細胞を隣り合った中胚葉性細胞に繋ぎ止めることができるのだ。これにより、ケモカインが、古典的な化学誘引物質としての役割とは違う、胚性の細胞運動を制御する仕組みが提供されているのである。(KF)
Chemokine Signaling Controls Endodermal Migration During Zebrafish Gastrulation
p. 89-92.

ハブに導かれて(Homing In on the Hub)

微生物は、さまざまな環境ストレスに対し、複数のストレス応答遺伝子を上方制御(up-regulating)することによって応答している。多くの場合、そうした応答は、多タンパク質のシグナル伝達ハブ、すなわち、複数の入力が単一の出力へと影響するように統合するストレソソーム(stressosome)によって協調されている。Marles-Wrightたちは、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のストレソソームの構造を、擬原子レベルの分解能で決定した(p. 92)。その複合体は、突き出した20個の出っ張りのある、20面構造のウイルス-キャプシド様の核をもっている。そうした出っ張りを構成する配列は可変で、おそらく別々のシグナルを感知するようにできている。その核の保存された領域は、それらのシグナルを統合して、単一のシグナル伝達結果に生むようになっている可能性がある。(KF,SO)
Molecular Architecture of the "Stressosome," a Signal Integration and Transduction Hub
p. 92-96.

記憶への帰還(Homer-ing In on Memories)

記憶についての神経における相関物は、人間に対する完全な信頼があって初めて研究できる。というのも、被験者は自分の内的体験を、言葉によってしか報告できないからである。治療用電極を難治性てんかんの患者の脳に埋め込む脳手術は、そうした研究を行うよい機会を提供してくれる。Gelbard-Sagivたちは、そうした患者の海馬内あるいは近傍にあるニューロンが、テレビ番組「The Simpsons」の各エピソードに対し、特異的な活性化を示したと報告している(p. 93、9月4日オンライン出版; また9月5日のMillerによるニュース記事参照のこと)。後になって、自由な回想によって同じエピソードが心によみがえった時には、神経活動の同じパターンがあらわれた。これは、少なくとも海馬においては、ある刺激の想起は、その最初の体験時に活性化したのと同じニューロンの活性化を伴うことを実証している。(KF)
Internally Generated Reactivation of Single Neurons in Human Hippocampus During Free Recall
p. 96-101.

陰謀理論のコントロール(Controlling Conspiracy Theories)

自分自身がきちんとコントロールされた状態にあると信じることは、不安やストレスを軽減するための確立された、しかも顕著に効果的な道筋である。逆に、コントロールから外れた状況下にあることは、安全な場を求めることを目指した行動を活性化させることになる。WhitsonとGalinskyは、コントロールへのニーズは、実際に存在しないパターンを見てしまうほど知覚に影響を与えるくらい強いことを示している(p. 115)。一連の研究で、被験者は、自分たちの成績とは無関係のフィードバックを与えられた。そうすると、個人的体系が必要という被験者からの報告は増加し、ランダムな視覚的静止画像中にパターンを見てしまうことも増加し、ついには何もないところに陰謀をみてとるまでに至ってしまった。被験者に、自己肯定訓練(self-affirmation exercises)を介して自分自身の不安と戦うことを許したところ、彼らの幻覚的な知覚はコントロールされた状態に戻ったのである。(KF,nk)
Lacking Control Increases Illusory Pattern Perception
p. 115-117.

高温、高密度の事象を調べる(Probing Warm Dense Matter)

一秒の何分の一かでペタワット(15)級の光パワーを物質へ供給できる超パワーのレーザの出現は、天体物理学のプロセスを再現できるような極端な圧力と温度の条件を提供することができる--惑星の形成に含まれるプロセス条件としての高温、高密度の事象。これらのパワー供給システムの開発と歩調を合わせて、これらの極端なプロセスを調べるための特性解析ツールが必要である。Kritcherたち(p. 69)は高パワーパルス照射前あるいは照射中の電子密度をダイナミックに調べることのできる過渡的x線源について報告している。彼らはこの技術を用いて、レーザパルス・ショックを与えることでLiHの絶縁体-金属転移を起こす際のLiH中の電子密度の動的な振舞いを調べた。(hk,KU,SO)
Ultrafast X-ray Thomson Scattering of Shock-Compressed Matter
p. 69-71.

カーボンナノチューブによる酸化触媒(Catalyzing Oxidation with Carbon Nanotubes)

部分酸化反応はアルカンのような不活性の化合物に適用され、反応性の官能基(カルボニル基といった)を付加したり、或いは酸化的な脱水素反応において、水素を除去して反応性のアルケンを合成する。その反応の触媒には遷移金属酸化物が多く用いられているが、その表面の酸化能力を維持するために、高い酸素/反応物の比が必要とされ、この結果不幸なことに、酸化反応を完全に行おうとすると生成物の収率が下がることになる。Zhangたち(p.73)は、カーボンナノチューブの表面を酸化してリン酸基で修飾すると、ノーマルブタンのブテン(主要な生成物であるブタジエンと共に)への部分酸化反応を触媒することを示している。この反応は、低い、かつより安全な酸素/アルカンの比で進行する。更に、鉄のような金属を添加すると収率が下がるが、カーボンナノチューブ上の残留鉄は触媒活性には影響しなかった。(KU)
Surface-Modified Carbon Nanotubes Catalyze Oxidative Dehydrogenation of n-Butane
p. 73-77.

細部にいる「悪魔」(The Devil in the Detail)

細胞内の相互作用タンパク質からなる宇宙の解析においては、細部に「悪魔(thedevil)」がいるかもしれない。酵母2ハイブリッド(Y2H)あるいは親和性プルダウンによる共複合(co-complex)相互作用マッピングとその後での質量分析(AP/MS)など、いろいろなアプローチが利用されている。現状支配的なパラダイムは、高効率なアプローチは、文献に基づく効率の悪い実験結果よりもノイズが多いとするものであった。共複合アプローチが、バイナリーな相互作用マッピングに質において勝る、とする見方もこれまでずっとあった。Yuたちは、そうした違った方法論で産み出されたデータの大量比較を実施し、高効率なアプローチは文献に基づくデータセットに比肩しうることを示した(2008年8月21日オンライン発行されたp. 104; またJensenとBorkによる展望記事参照のこと)。バイナリーな相互作用においては、そのタンパク質がノックアウトされている場合には、タンパク質の結合性は、その相互作用が必須であるかどうかということよりも、観察される表現型の数に関連する。そうしたバイナリーなインタラクトーム(interactome)はタンパク質複合体間の結合部において豊かであり、一方AP/MS相互作用は、複合体内の結合部において豊かなのである。これら2つの方法論は、つまるところ、インタラクトームの違った側面を探査していることになる。(KF,SO)
High-Quality Binary Protein Interaction Map of the Yeast Interactome Network
p. 104-110.
BIOCHEMISTRY: Not Comparable, But Complementary
p. 56-57.

別の経路によるアポトーシス(Apoptosis by Another Route)

スフィンゴ脂質セラミドは、アポトーシスの制御に関与しているとされてきたが、その重要性については議論があった。Dengたちは、特定のアポトーシス形態の制御におけるセラミドの役割についての強力な証拠を提示している(p. 110)。それは、電離放射線に曝された線虫(Caenorhabditis elegans)の生殖細胞のアポトーシス、通常の発生中に起こるものとは違うアポトーシス、における役割である。セラミド合成機能を欠く変異体の線虫は、放射線によって誘発されたアポトーシスにおいては欠陥があった。セラミドの正確な分子的役割は未だにはっきりしていないが、それはミトコンドリアに作用するらしい。放射線照射された線虫から得られた生殖細胞のミトコンドリアには、セラミドが蓄積していた。セラミドの産生はまた、APAF-1(アポトーシス性タンパク質分解酵素活性化因子1)様タンパク質CED-4がミトコンドリアから核に再分配されるのにも必要であり、核でそれはカスパーゼCED3を活性化するのである。つまり、セラミドは、ミトコンドリア外膜の性質を変化させることによって作用し、そこでアポトーシスを制御する鍵となる調節タンパク質と相互作用している可能性がある。(KF,KU)
Ceramide Biogenesis Is Required for Radiation-Induced Apoptosis in the Germ Line of C. elegans
p. 110-115.

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