AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 21, 2007, Vol.318


両性の戦い(Battle of the Sexes)

雌雄選択に関する研究の多くは、雄同士の同性間の競争か、或いは雌によるつがいの選り好みのどちらかに焦点が当てられている。Clutton−Brock(p.1882)は最近の研究をレビューして、雌同士の間の同性競争と特定のカテゴリーのパートナーに対する雄の選り好みもまた、一般的なことであり、そして雌においてより高度に発生する二次的な性的特徴が生じることを示している。雌雄の選択は今日、両性における同性間の競争とつがいの選り好みの影響を包括するような新たな概念的なフレームワークを必要としている。(KU)
Sexual Selection in Males and Females
p. 1882-1885.

ガラスのエージング(Aging in Glasses)

ガラスは時間とともに構造的に経時変化していくが、低分子系におけるこれらのプロセスのベースとなる構造的再配列を理解するには、個々の分子の動きを追跡することができないので大変難しく、かつ再配列における全体の変化も小さい。Schallたち(p. 1895; Falkによる展望記事参照)は共焦点顕微法を用いて、小さなひずみ応力のもとでのコロイドガラスの動きを追跡した。コロイド粒子が、不可逆なひずみ変形をこうむるような局在化ゾーンが形成される。さらなる解析によって、ひずみを受けたコロイドガラスがどのように活性化され、そしてそれらがネットワーク中でどのように相互接続しているかが明らかにされている。(hk)
Structural Rearrangements That Govern Flow in Colloidal Glasses
p. 1895-1899.

アミロイド原繊維の力学(Mechanics of Amyloid Fibrils)

多くの病気と関係するアミロイドの構造は、広範囲に渡る無関係なポリペプチドから形成されており、興味をそそるが、しかしながらよく分かっていない物理特性を持っている。原子間力顕微鏡を用いて一連のタンパク質原繊維を可視化することで、Knowlesたち(p.1900)は局所的な力学特性を測定し、この結果を分子シミュレーション(coarse-grained atomistic molecular simulation)と関係づけた。水素結合を制御することで、原繊維の安定性が変化したり強められたりし、特異的な側鎖の相互作用を相殺するのに用いられる。(KU)
Role of Intermolecular Forces in Defining Material Properties of Protein Nanofibrils
p. 1900-1903.

二酸化硫黄による火星の温暖化(Heating Mars with SO2)

火星が若かりしときに火星表面には液体の水があったということは、今日と違って火星の大気温度が水の凝固点以上であったことを示唆している。もしも、このような条件が、主にCO2による温室効果ガスによる温暖化の結果だとすると、CO2の分圧はかなり高かったはずで、炭酸塩の鉱物が形成されたであろうーーしかしながら、未だ火星表面にこのような鉱物は観測されていない。Halevyたち(p.1903)は、H2Sと共により還元性の条件下で放出される火山性のガスSO2が、CO2と組み合わさって液体の水形成に必要な閾値以上の温度をもたらしたと提唱している。溶解したSO2はまた、海洋を酸性化し、炭酸塩鉱物の形成を阻害するであろう。地球上での類似のメカニズム的作用が、始生代由来の炭酸塩岩石の欠如を説明するものであろう。(KU)
A Sulfur Dioxide Climate Feedback on Early Mars
p. 1903-1907.

量子幾何学の課題(An Exercise in Quantum Geometry)

量子計算は、量子ビット(qubits)をコヒーレントに扱う能力に依存している。しかしながら、環境との避けがたい結合により、量子ビットの寿命は有限となる。幾何学的位相(すなわち、Berry の位相。これはある物体がひとつの経路を横断するにつれて蓄積されるトポロジー的な位相である) は、コヒーレンス性の崩壊の影響に対して頑健であろうと提案されている。Leek たち (p.1889, 11月22日にオンラインで出版) は、超伝導量子ビットにおける幾何学的位相の観察について述べている。彼らは、それらは障害耐性の高い量子計算を、一ステップ身近なものする可能性があると主張している。(Wt)
Observation of Berry's Phase in a Solid-State Qubit
p. 1889-1892.

カーボンナノチューブファイバーを創る(Carbon Nanotube Fiber Fabrication)

短い紐や藁でもこれを一緒にして捩ることで、原材料が十分に長く絡み合い、かつセグメント間での応力伝達が十分なほどに緻密に絡まっている限り、頑丈なファイバーあるいはロープを創ることができる。理論上、カーボンナノチューブ(CNT)は、そのすばらしい固有物性のために、非常に丈夫なファイバーを創ることができる。Koziolたち(p.1892,11月15日オンライン出版)はCNTエアロゲルを作り、それを直接紡いで頑丈なファイバーを作った。さらに、アセトン処理により密度を高めることで、隣接するファイバー間での最大の応力伝達が可能となった。筆者たちは、得られたファイバーの強度と剛性をCNTや従来の材料(例えばKevlar)と比較している。(NK,KU,ok)
High-Performance Carbon Nanotube Fiber
p. 1892-1895.
   

滑りやすい蛇紋岩の岩床(Slippery Serpentine Sheets)

沈降する岩石圏スラブの最上部を覆っている蛇紋岩(Serpentinite)層は、沈み込み帯で激しい変形を受けるため、沈み込み帯地震では重要な役割を果たすと考えられてきた。Hilairetたち(p. 1910)は、蛇紋岩の1つの構成鉱物アンチゴライト(serpentine Antigorite)を高温高圧化で変形させる実験を行った。その結果、アンチゴライトは異常に粘性が低いことが判明したが、このことが沈み込み帯内での強い地震が発生した後の地震性変形(postseismic deformations)を説明するものであろう。この性質はまた、沈み込みを引き起こし、そして沈み込み帯内でどのように対流(convection)するかを決定付けているであろう。(TO,nk)
High-Pressure Creep of Serpentine, Interseismic Deformation, and Initiation of Subduction
p. 1910-1913.

甲虫の惑星(Planet of the Beetles)

記述されている種の20%以上は甲虫が占める。もっとも、この分類目内の関係は推測の域を出ない。Hunt たち(p.1913) は、認識されている80%以上の甲虫ファミリーの発生学上の系統を再構築し、以前知られていなかった多くのグループの関連を明らかにした。目全体に及ぶ多様性解析を実施して、主要な甲虫グループの多様化は、従来考えられていたより以前のジュラ紀に生じたらしいことを推定した。(Ej,hE)
A Comprehensive Phylogeny of Beetles Reveals the Evolutionary Origins of a Superradiation
p. 1913-1916.

誘導ヒト多能性幹細胞株(Induced Human Pluripotent Stem Cell Lines)

胚性幹細胞は無制限回数増殖することができるし、基本的にはどんな細胞にも変化することができるので、再生医学の理想的候補と見られている(Cibelliによる展望記事参照)。しかし、潜在的な拒絶反応の問題や、細胞の起源に関する倫理上の問題が残っている。Yu たち(p.1917,および11月20日、オンライン出版、また、Vogel and Holdenによるニュース記事も参照)は、ヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を作る方法について報告している。4つの遺伝子(OCT4, NANOG, SOX2, and LIN28)をヒト線維芽細胞に導入することによって、基本的にヒト胚性幹細胞の全ての性質を共有する幹細胞が得られた。Hanna たち(p. 1920) は、マウス細胞を再プログラムする方法を利用して、ヒト化鎌状赤血球貧血モデルマウスから、胚性幹細胞に似た多能性状態の、いわゆるマウス誘導多能性幹細胞、あるいは、iPS細胞、を生成した。このiPS細胞はこのマウスモデルの皮膚生検から得られたもので、遺伝子修正によって遺伝的欠損は除去されている。これらの細胞は造血前駆細胞に分化し、ドナー鎌状赤血球マウスに移植され、これが病気の表現型を治癒した。(Ej,hE)
Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells
p. 1917-1920.
Treatment of Sickle Cell Anemia Mouse Model with iPS Cells Generated from Autologous Skin
p. 1920-1923.

ルーマニアにおける孤児とその育成(Orphanages and Fostering in Romania)

ルーマニアが捨て子に対する里親看護(foster care)システムをもっていなかった時代について研究することで、Nelsonたちは、或る里親看護システムを作り、孤児院施設(orphanage care)あるいは里親看護を受けられるようランダムに選ばれた子どもたちの成績を追跡した(p. 1937)。その結果は、家庭での里親看護に移行した子どもたちはより良い認知の成績を示し、また孤児状態から移されるのが早ければ早いほど成績が良い、ということを示すものだった。政策フォーラムにおいて、MillumとEmanuelは、実験への同意を与えるべき親ないし保護者が見つからない場合に、そうした研究が提起する倫理的な問題および必要となる歯止め策について考察している。(KF)
Cognitive Recovery in Socially Deprived Young Children: The Bucharest Early Intervention Project
p. 1937-1940.

ヒストンの活動(Histones Coming and Going)

真核生物の核のDNAは、ヌクレオソームの中に封じ込められているが、そのヌクレオソームはゲノムの複製を可能にするために除去され、その後に新たに合成される2つの娘鎖で再構築される。この除去と再構築の過程は、それぞれの複製フォークにおいて生じなければならない。Grothたちは、この平衡がヒストン・シャペロン抗サイレンシング機能1(Asf1)によって制御されていることを明らかにした(p. 1928)。Asf1は、MCM2-7複合体--すなわち推定上の複製ヘリカーゼ--と、ヒストンH3およびH4に付随した核のプールに存在している。つまり、Asf1はヘリカーゼと親のヒストンとの相互作用を介して、複製フォークの前方での鋳型の巻き戻しとヌクレオソームの除去と、複製フォークの後方での再構築を協調的に進めているのである。(KF,KU)
Regulation of Replication Fork Progression Through Histone Supply and Demand
p. 1928-1931.

ニューロン結合の急速な再編成(Rapid Reorganization of Neuronal Connectivity)

脳の運動皮質出力の再編成には皮質それ自体の中での興奮性変化が関与していると考えられている。一方、筋肉活動への個々の出力ニューロンの効果は一定なままである。しかし、Davidsonたちは、単一の運動皮質ニューロンから筋肉への処理量が、ある行動では存在せず、別のときには存在するという風に変化しうることを発見した(p. 1934)。特に、単純な移動の際に存在しない効果が、ニューロンを放電し同時に筋肉を活性化することによってサルが特別に報酬を与えられた際にしばしば出現するのである。急速な変化はつまり、運動皮質ニューロンから脊髄の運動ニューロンへの単シナプス性結合を含む皮質下レベルで生じているのである。(KF)
Rapid Changes in Throughput from Single Motor Cortex Neurons to Muscle Activity
p. 1934-1937.

初期地球の分化(Early Earth Differentiation)

古代の岩石中のネオジウムの (Nd) 同位体比によって地球の分化した時期がわかる。グリーンランド南西部とオーストラリア西部からの36億4000万年から38億5000万年の岩石に対し、Ndの同位体比を高精度で計測した結果、Bennettたち(p. 1907)は、地球の核が分離する時期に近い、地球の歴史の始めの4000万年から6000万年の間における、化学的には明瞭に異なるケイ酸塩貯蔵体の形成時期を直接決定することに成功した。彼らは、現在の陸生岩石や、原始隕石、月岩石の組成と比べ142Ndの過剰を見つけた。36億年前の暁始生代(Eoarchean)の地殻が広がって遺されている2か所で採取した同時期の岩石で見つかった142Nd値の違いは、地球のマントルに大規模な化学的な二分化が大規模な形で存在し、少なくとも地球の歴史の最初の10億年はそれが継続していたことを示している。142Ndの時間的変動から、これら初期に形成されたマントルの化学領域が、その後、不完全な練り直しを受けたことを物語る。(Ej,hE,tk,nk)
Coupled 142Nd-143Nd Isotopic Evidence for Hadean Mantle Dynamics
p. 1907-1910.

明らかにされたGタンパク質の相互作用(G Protein Interactions Revealed)

受容体-連結へテロ三量体グアニンヌクレオチド-結合タンパク質(Gタンパク質)は、しばしば、RhoAのような低分子量GTP分解酵素を活性化することで、細胞内にシグナルを産生する。Lutzたちは、グアニンヌクレオチド交換因子p63RhoGEF(Rhoの活性化因子)およびRhoの相互作用部分とともに活性化したGタンパク質αサブユニットであるGα[q]の結晶構造を解析したが、これはグアニンヌクレオチド交換因子がいかにして活性化されるかについて1つのモデルを示唆するものである(p. 1923)。 変異原性試験の結果は、p63RhoGEF内の領域の相互作用がその酵素の自己抑制を引き起こしているらしいとするモデルを支持した。代わりに、p63RhoGEFのこの同じ抑制領域と活性化したGα[q]サブユニットとの相互作用がグアニンヌクレオチド交換因子の抑制を解放し、それがRhoAの活性化を導くらしい。(KF)
Structure of Gq-p63RhoGEF-RhoA Complex Reveals a Pathway for the Activation of RhoA by GPCRs
p. 1923-1927.

機能したりしなかったり(On Again, Off Again)

真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA)の3'-非翻訳領域は、AUリッチエレメント領域(ARE)やミクロ(mi)RNA結合部位などの調節部位を数多く含んでいるが、(mi)RNAは一般に、翻訳を抑制したり、mRNA分解を促進したり、あるいはそれら2つのプロセスを通じて遺伝子発現を抑制している。腫瘍壊死因子α(TNFα)の遺伝子中のAREは、非増殖性細胞内の翻訳を活性化し、そうした条件下でAGO2タンパク質および脆弱X染色体精神遅滞-関連タンパク質1(FXR1)と結びつき、それがまたmiRNAに結びつく。Vasudevanたちはこのたび、ヒトのmiR369-3がTNF αAREに結合し、AGO1およびFXR1を補充して、非増殖性細胞において見られる翻訳の発現上昇に必要となる、ということを明らかにした(p. 1931、11月29日オンライン出版;また、BuchanとParkerによる展望記事参照のこと)。これとは対照的に、miR369-3は、同じmRNAが増殖細胞中にある場合にはその翻訳を抑制している。レポーター作成物の制御における3つの他のmiRNAについても同様の結果が成り立っていることは、miRNAが、本質的に常に抑制的であるというのではなくて、むしろ細胞周期に支配されて機能していることを示唆するものである。(KF,hE)
Switching from Repression to Activation: MicroRNAs Can Up-Regulate Translation
p. 1931-1934.

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