AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 26, 2007, Vol.318


自家受粉の要因(The Makings of Self-Pollination)

雄性と雌性の二つの配偶子を作る植物は様々な戦略を用いて、自家受精するか、それとも他の花からの花粉を用いるかを決定する。細胞表面にある受容体の適合性がこのストーリーの重要な要素であるが、花部分の幾何学的形状もまた、花粉がその柱頭に着地するのに影響する。栽培用のトマトの花では、柱頭が葯の内部に埋め込まれており、それによって自家受精がより容易となる。しかしながら、トマトの野生種においては、柱頭が葯を越えて飛び出しており、他家受精が好ましくなる。Chenたち(p.643)は、花柱の長さを、即ちトマトにおける柱頭と葯の相対的な幾何学的配置を制御する遺伝子を同定した。(KU)
Changes in Regulation of a Transcription Factor Lead to Autogamy in Cultivated Tomatoes
p. 643-645.

ポケットに満ちた糖(A Pocketful of Sugar)

水の中での異なる糖の選択的な結合は分子認識に関する大きな課題であり、それは豊富にあるOH置換基が、著しく似たような周囲の水は勿論のこと、お互いの糖分子とも区別する必要がある。Ferrandたち(p.619)は有機物の受容体を合成(合成レクチン)し、はるかに構造的に複雑な糖結合レクチンタンパク質の効果的なアプローチを模擬することで、幾つかの二糖類に対してこの認識の研究を行っているが、これは又、生化学的な応用をも約束するものである。この受容体は、OH基の総てがエクアトリアルな配置をしている二糖類のセロビオースや関連した化合物と結合し、会合定数はほぼ600M-1である;アキシアルなOH配置の基質化合物の場合、その親和性は10倍以上低下する。核磁気共鳴分光法によってその結合状態が確認され、受容体における極性の壁が水酸基とうまく相互作用しており、一方上部と下部での芳香性化合物がゲストのアルキル部分にまたがっている。(KU)
【訳注】椅子形状の6員環の糖類で環の炭素に結合しているOH基が環の面内にあるときをエクアトリアルな配置といい、環の面の上下にあるときをアキシアル配置と言う。
A Synthetic Lectin Analog for Biomimetic Disaccharide Recognition
p. 619-622.

上部マントルの不均一性をマッピングする(Mapping Mantle Heterogeneity)

地球の上部マントルは、鉱物学的な相変化と関連した一連の地震性の不連続を示す。この不連続性は似たような深さで起こっているが、局所的に変化している。SchmerrとGarnero(p.623)は、SS地震波の弱いプレカーサ(precursor)を積み重ねることで南アメリカと隣接する海洋の真下のマントル構造を調べ、ほぼ400kmと660kmの深さ位置での不連続性をマップ化した。沈み込み帯の沈降していく側で、彼らは410kmでの不連続性が数十kmより深い所で起こっており、冷たいスラブ物質という予想と食い違っていることを見出した。見出された特徴を説明するには、相変化への化学的、かつ熱的な寄与の二つを必要とし、そしてマントルの不均一性を形成するうえで深いところでの地殻形成プロセスの影響を確認する必要がる。(KU,nk)
Upper Mantle Discontinuity Topography from Thermal and Chemical Heterogeneity
p. 623-626.

絶縁相に働く応力 (A Stress on the Insulating Phase)

固体の電気伝導を説明するバンド理論によると、奇数の電子数を持つ材料は金属的特性を示す。しかし、いくつかの材料、例えばNiOは、クーロン相互作用と電子相関の強い影響のために低温では絶縁性を示す。これら絶縁体は温度を上げることで金属相へ転移する。これら金属-絶縁体転移(MIT)では通常、構造的相転移を伴う。Mooreら(p.615)は、層状のバルクなペロブスカイト(Perovskite;Ca1.9Sr0.1RuO4)が154ケルビンで構造変化を伴うMITを示すのに対して、表面はさらに低温の130ケルビンでMITを示しかつ構造変化を伴わないことを明らかにした。筆者たちは、表面のCaおよびSrイオンは内部に引きつけられる応力をうけており、この応力によってモット絶縁体(Mott-insulator)の基底状態を安定化していると述べている。故に、金属-絶縁体転移が構造変化よりも先に起きると結論している。(NK,KU)
A Surface-Tailored, Purely Electronic, Mott Metal-to-Insulator Transition
p. 615-619.

温暖化における不可避的な不確かさ(Inevitable Uncertainty)

産業革命以前の大気中のCO2濃度が2倍に変化したことによって生じる放射能力に起因する世界的な平均気温の変化量によって気候感受性は定義される。過去の研究から、気候感受性として最も可能性の高い値は、2℃から4℃の間であることが示されており、この値が8℃とか、さらに高い値である可能性は低いと見られていた。高温度化可能性の確率分布の低い範囲が長く伸びており、気候変動の不確定要素があまりにも大きなことが、政治家の政策として反映させる行動を取らせない原因の1つであった。Roe と Baker (p. 629; および Allen and Frameによる展望記事参照)は、この低い確率分布の広がりは気候系そのものに起因する性質であり、データやモデルが不適切だとかによるのもではないことを論じている。より高い確率で気候予測が可能になるまで政策決定を延ばすのは無益であると結論付けた。(Ej,hE,KU)
Why Is Climate Sensitivity So Unpredictable?
p. 629-632.
ATMOSPHERE: Call Off the Quest
p. 582-583.

解凍と温暖化(Thawing and Warming)

最終氷期の開始直前の18000年前ごろ、温室効果を生じるガスの1つであるメタン濃度が急激に上昇したが、その供給源は未だに解っていない。Walter たち(p. 633)は、メタン源として知られている従来のmix(氷に覆われてないアジアやアメリカの北部凍土地域)に、今まで知られていなかったメタン源を追加した。気温が温暖化するにしたがって、これら地域の土地は解凍して湖が生じ、有機物に富む湖底の堆積物からメタンが発生する。このプロセスによって、間氷期に寄与したと考えられている北極圏や寒帯のメタンの85%が供給された可能性がある。このメタン発生機構は更新世から完新世への変遷期には大いに温暖化に寄与したであろう。(Ej,hE)
Thermokarst Lakes as a Source of Atmospheric CH4 During the Last Deglaciation
p. 633-636.

精神状態を詰め込む(Pack Mentality?)

利他主義の起源についての説明は、理論生物学者たちを悩ませてきた。Choi とBowles (p. 636; およびArrowによる展望記事参照) は、グループ間の敵対関係は戦争へ、非敵対関係は交易へと導くというルールでのゲーム理論の枠組みの中でのグループ相互の関係に基づいたシミュレーションを報告している。これらのグループのメンバーが他利的であると同時に偏狭な、すなわち自己グループのメンバーを愛するが他グループのメンバーを嫌う、場合には、これら一方だけつまり誰に対しても利他的であるグループや誰に対しても偏狭なメンバーだけのグループよりも、結果的により好ましい進化を遂げることが解った。(Ej,hE,nk)
The Coevolution of Parochial Altruism and War
p. 636-640.
EVOLUTION: The Sharp End of Altruism
p. 581-582.

核輸送の制御(Regulating Nuclear Transport)

真核細胞においては、核膜孔複合体(NPC)が選択的に作用することで、核内外への巨大分子の出入りを調節している。Limたちは、核細胞質間輸送を支配している生化学的相互作用における核膜孔タンパク質の1つのフェニルアラニン-グリシン(FG)領域による生物物理学的応答を調べた(p. 640、10月4日にオンライン出版)。このFG領域は核輸送受容体カリオフェリン-βに結合すると、よりコンパクトな構造へと崩壊する。この崩壊は、核輸送の制御因子として知られるRanグアノシン三リン酸によって元に戻る。FG領域のこうした可逆的崩壊こそが、核膜孔複合体を介しての輸送制御の根底にある仕組みを示すものであろう。(KF)
Nanomechanical Basis of Selective Gating by the Nuclear Pore Complex
p. 640-643.

植物と病原体の軍備競争(Plant-Pathogen Arms Race)

植物は免疫様の受容体を介して病原体を認識していて、この受容体が抵抗性応答を活性化している。一方、病原体は抵抗性応答が引き起こされることを回避するために、植物のシグナル伝達経路を変える手段を進化させてきた。Kayたち(p. 648)とRoemerたち(p. 645)は、植物と病原体の間のこうした進化的軍備競争の根底にある分子機構に取り組んでいる。細菌のIII型エフェクタータンパク質、AvrBs3は、Bs3として知られる抵抗性遺伝子を欠いている感受性の宿主植物において、転写活性化因子として作用することによって病原性因子として機能している。対照的に、Bs3を持っている植物はAvrBs3タンパク質を認識し、抵抗性遺伝子Bs3を活性化し、これがその植物の抵抗性経路を刺激するのである。(KF)
A Bacterial Effector Acts as a Plant Transcription Factor and Induces a Cell Size Regulator
p. 648-651.
Plant Pathogen Recognition Mediated by Promoter Activation of the Pepper Bs3 Resistance Gene
p. 645-648.

細胞外の致死因子(Extracellular Death Factor)

プログラム細胞死(PCD)は、真核生物の多細胞生物に限定されていると伝統的に考えられてきた。しかしながら、原核生物のいくつかの遺伝的モジュールは、あるタイプのプログラム細胞死を仲介することが知られている。大腸菌においては、mazFが安定な毒素をコードしており、そのMazFの致死的効果を妨げる不安定な抗毒素をmazEがコードしている。Kolodkin-Galたちはこのたび、大腸菌のmazEFによって仲介された細胞死が、クオラム-センシング(quorum-sensing;定数検知)シグナル分子である細胞外致死因子(EDF)を必要とする集団現象であることを明らかにしている(p. 652; またKolterによる展望記事参照のこと)。EDFは、対称性のある直線的ペンタペプチドで、そのアミノ酸配列は、Asn-Asn-Trp-Asn-Asn(アスパラギン-アスパラギン-トリプトファン-アスパラギン-アスパラギン)である。合成ペプチドにおいては、EDFの5つのアミノ酸それぞれのこの対称性配置が、mazEFによって仲介される死滅活性にとって重要であった。(KF)
A Linear Pentapeptide Is a Quorum-Sensing Factor Required for mazEF-Mediated Cell Death in Escherichia coli
p. 652-655.
MICROBIOLOGY: Deadly Priming
p. 578-579.

薬への欲求、倦怠感、そして脳中の島(Drug Craving, Malaise, and the Insula)

中毒になった個人における薬物探索に貢献する重要な要因は、禁断に由来するネガティブな感情である。そうした気分の状態は、内受容性(interoceptive)感覚系、中でも情動性情報を処理することで知られる島皮質(insular cortex)と呼ばれる脳領域によってモニターされる。Contrerasたちは、ラットの後側顆粒状島の不活性化が、リチウム投与によって誘発される倦怠感という行動性の兆候だけでなく、アンフェタミンを繰り返し注射された動物におけるアンフェタミン欲求の可逆的な破壊をももたらすことを観察した(p. 655)。つまり、その島への治療介入が薬物渇望を軽減する助けになったのである。(KF)
Inactivation of the Interoceptive Insula Disrupts Drug Craving and Malaise Induced by Lithium
p. 655-658.

高温の粒子は外側へ(Out They Go)

Stardust mission によって地球に持ち帰られた彗星の試料で明らかなように、太陽系星雲は、太陽系を越えて混り合った高温から低温の領域において誕生した様々な物質を含んでいた。。類似の混合が、若い星のまわりの原始惑星のディスクでも見られる。しかしながら、ディスク理論モデルでは、大多数の力は物質を中心星に向けて引っ張るように作用するため、粒子を内側から外側の領域への移動には疑問があった。Ciesla (p.613) は、2次元モデルを適用することにより、粘性ディスクの中心面においては、外部に向けての輸送がこれまで考えられてきたよりも効果的に行われることを示している。直感に反して、相対的に大きな粒子は中心面に沈殿し、それゆえ、内側へ向けての流れをいっそう受けづらくなるため、さらに外部へ向けて輸送される。高温の粒子は惑星系の端まで輸送され、そこで彗星と合体する。(Wt,KU)
Outward Transport of High-Temperature Materials Around the Midplane of the Solar Nebula
p. 613-615.

農業用土地拡大による影響の解明(Agricultural Resolution)

農業による土地の侵食は炭素サイクルを乱すものと考えられているが、その影響に関する推定は、プラスの影響なのかマイナスの影響なのかと言う点においてすら同意されていない?取り込みと放出における両者の推定値は、年あたりの炭素量おおよそ10億トンの範囲に達する。Van Oostたち(p.626)は、どれほどの炭素が土壌と大気間で移動しているかを調べるために、ヨーロッパと合衆国の広範囲にわたる場所から炭素貯蔵と土壌侵食速度を測定した。彼らは、農業的な侵食は地球規模の上では僅かな量の炭素取り込みを行っており、化石燃料放出量のほぼ2%の量を隔離していることを見出した。(KU)
The Impact of Agricultural Soil Erosion on the Global Carbon Cycle
p. 626-629.

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