AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 2, 2007, Vol.318


問題の根っ子(The Root of a Problem)

シロイヌナズナの根には15の細胞型があるが、生命体の器官としては比較的単純である。Brady たち(p. 801)は、根が発生するに従って個々の細胞型を識別し分類しつつ、遺伝子発現全体を記述したが、得られた生物情報解析からは、遺伝子発現の驚くべき複雑さが明らかになった。ある種の発現パターンは周期変動する。また別の発現では、隣接細胞との間で領域を共有する場合があったり、そうした領域において非隣接細胞間で特徴を共有することもあった。(Ej,hE)
A High-Resolution Root Spatiotemporal Map Reveals Dominant Expression Patterns
p. 801-806.

量子スピン効果が確認された(Quantum Spin Hall Effect Confirmed)

磁界中を進行する荷電粒子は、ローレンツ力により試料中の端部に追いやられ起電力を生じることがある。この荷電粒子の移動を2次元に制限すると、量子ホール効果が現れる。一方、磁界ではなく電界によってスピンをコントロールした荷電粒子を2次元に閉じ込めると、量子スピンホール効果が現れることが最近の理論から明らかになっている。Koenigらは(P.766、9月20日のオンライン版にて;永長の展望記事参照)HgTe/(Hg, Cd)Te量子井戸構造の測定を行ない、量子スピンホール効果の証拠を実験的に示した。(NK)
Quantum Spin Hall Insulator State in HgTe Quantum Wells
p. 766-770.

電子で遷移を追跡(Electrons Tracing Transitions)

絶縁体から金属へと変化する2酸化バナジウム(VO2)のような固体中の光誘導遷移現象は、いろいろな分光学的手法で調べられてきた。しかし、この根底にある再編成にはいくつかの異なる座標に沿った運動が関与しており、深く理解するためには、これらすべての動きを同時に観察する手法を用いる必要がある。Baum たち(p. 788;およびCavalleriによる展望記事) は、この目標に向かってVO2試料の遷移の最中の様子を電子回折を利用して実時間で見ることによって、進歩をもたらした。うまく限定した探索深度と高S/N比を達成したことで、局在原子の挙動だけでなく、1から100ピコ秒の間での緩やかで長距離の、格子のせん断運動を解像できたのである。
4D Visualization of Transitional Structures in Phase Transformations by Electron Diffraction
p. 788-792.

速く、そして低い(Fast and Low)

天体物理上の爆発では、電波帯からガンマ線までのさまざまな波長で検出可能な、膨大で爆発的なエネルギーが放出されることがある。パルサーの調査データを探索することにより、Lorimer たち (p.777, 9月27日オンラインで公開された; Bower による展望記事を参照のこと) は、ちょうど5msecの間、非常に強力な電波を放射した新規な突発的バーストを見出した。その事象が低周波数で、反復のなかったことは、その源がわれわれの銀河を越えた遠くにあることを示している。それはわれわれの銀河内で知られている他の電波的な過渡現象よりも、より強力で短寿命な源であることを示唆するものである。この電波的な発光は、超新星か、あるいは、相対論的天体の最終的な合体のような、単一のカタストロフィー的な事象から放射されたものであろうから、それと類似した明るいバーストは、遠隔宇宙についての有用なプローブとなる可能性がある。(Wt)
A Bright Millisecond Radio Burst of Extragalactic Origin
p. 777-780.

スライダに対しての変化率アップ(A Change-Up for Sliders)

スライドする面の間の摩擦は、変換エネルギーを、振動性の励起に変えることができる。しかし振動モードの性質は、表面層の性能を、エネルギーを吸収し摩擦を制御するよう、どの程度まで制御できるのだろうか? Cannaraたち(p. 780)はHあるいはD原子のどちらかで終端されたダイアモンドとシリコン表面の摩擦力を計測するために原子間力顕微鏡(AFM)チップを用いた。HとDによるこれら置換は振動周波数を1.35倍から1.40倍変化させる。そしてD置換においては剪断力がそれぞれの面で1.26倍と1.30倍下がることをAFMによる実験は明らかにした。モデリング研究によると、重水素置換結合による低周波数化は、動力学的エネルギーが振動に変換される率を下げていることが示唆される。(hk,nk)
Nanoscale Friction Varied by Isotopic Shifting of Surface Vibrational Frequencies
p. 780-783.

PiwiとArgonautesタンパク質(Piwi and the Argonautes)

RNA干渉の根源にはArgonaute (Ago)タンパク質があり、これが低分子干渉RNA、つまりミクロRNAを結合して、標的とするメッセンジャーRNAを沈黙または破壊などの運命へと引き渡す。このAgoスーパーファミリーは2つの進化的に関連したグループ、すなわちAgoクレイドとPiwi クレイドのグループから出来ており、Aravin たち(p. 761)は、この後者のグループの機能をレビューした。Piwiタンパク質の進化上の出現は動物の、特殊化した生殖細胞の出現に関連している。実際、Piwiタンパク質は生殖細胞の発生に必須である。これらは最近発見された低分子RNA、すなわちPiwi相互作用性(pi)RNAの集団に見合うものである。 Piwi/piRNA経路は遺伝性の順応性系として機能しており、寄生生物の核酸から生殖系列ゲノムを保護するのである。(Ej,hE)
The Piwi-piRNA Pathway Provides an Adaptive Defense in the Transposon Arms Race
p. 761-764.

生命と手足について(Of Life and Limb)

切断された肢を再生する両生類の能力は、ヒトが大きく失ってしまった発生上の柔軟性の例である。両生類の再生プロセスは神経供給との相互作用に依存している。Kumar たち(p. 772; および、Stocumによる展望記事参照) は、イモリの肢再生中に分泌されるタンパク質成長因子を同定し、それが神経中や表皮中に発現されていること、またそれが神経供給がなくなっても再生を支援し続けられることを確認した。(Ej,hE)
Molecular Basis for the Nerve Dependence of Limb Regeneration in an Adult Vertebrate
p. 772-777.

ダイナミックな発生上の遺伝子制御(Dynamic Developmental Gene Regulation)

遺伝子制御のネットワークは後生動物の発生を制御しており、どの転写制御因子がどの調節遺伝子を制御するかを決定している。しかしながら、発生は動的なプロセスであり、時間と空間における連続した変化によってなされているのである。Smithたち(p.794)はこのたび、ネットワークの部分回路が調節遺伝子の環状パターンを制御することによって、ウニ胚の植物極から外に向かって拡がり、そして中心に近いところでそれ自身の活性を止めることによって、いかにして遺伝子発現の動的な制御パターンを確立しているか、を示している。(KU)
A Gene Regulatory Network Subcircuit Drives a Dynamic Pattern of Gene Expression
p. 794-797.

もつとも身縁で、親密なる哺乳動物(Nearest and Dearest)

ツバイ目(樹幹生棲食虫動物)と皮翼類(ヒヨケザル)の両者は、霊長類と最も近い親類であると提唱されてきた。Janeckaたち(p.792)による大規模なゲノム配列アラインメントから、ヒヨケザルが生存している霊長類の最も近い親類であるおとを示唆している。さらに、ツバイの起源が白亜紀-第三紀の境界にあることから、多くの他の哺乳類の系列が多様化したころに霊長類もおそらく進化したであろうことが示されるのである。(KU)
Molecular and Genomic Data Identify the Closest Living Relative of Primates
p. 792-794.

それ自身の終わり(An End in Itself)

テロメアは、真核生物の染色体の末端に蓋をしているものであって、「末端の複製(end replication)」問題を解決し、DAN損傷の際に細胞が末端を間違えないよう防いでくれるものである。テロメアは一般に、転写的に不活性であると考えられてきた。Azzalinたちはこのたび、ヒトおよびげっ歯類の細胞の範囲では、テロメアが実は、テロメアの異質染色質に関連しているRNAを含むテロメア性反復に転写されることを示している(10月4日オンライン発行されたp. 798)。この関連は、テロメア関連タンパク質によって調節されるが、これはまたナンセンス変異依存の分解RNA監視経路(the nonsense-mediated decay RNA surveillance pathway)と結びついている。(KF)
Telomeric Repeat–Containing RNA and RNA Surveillance Factors at Mammalian Chromosome Ends
p. 798-801.

妊娠性糖尿病の犯人分子(Molecular Culprit in Gestational Diabetes)

妊娠中に、母親の膵島のβ細胞は拡大することによって、成長する胎児から母親に課される生理的な要求に対応している。母における「妊娠糖尿病」の発生を防ぐのを助けるこの生理応答を制御している分子機構は不明であった。マウスモデルを研究することで、Karnikたちはこのたび、これまで内分泌腺腫瘍抑制因子また転写制御因子として同定されていたタンパク質メニン(menin)が、妊娠中の島β細胞の成長を抑制することを示している(p. 806; またCouzinによるニュース記事参照のこと)。母系性β細胞においてメニンを遺伝子導入発現させると、島の拡大は妨げられ、妊娠糖尿病のいくつかの特徴的な特色が発生した。メニンは、実際には島において、妊娠に付随するホルモンであるプロラクチンの作用を介してずっと低レベルに維持されているらしい。(KF)
Menin Controls Growth of Pancreatic ß-Cells in Pregnant Mice and Promotes Gestational Diabetes Mellitus
p. 806-809.

耐性のための遺伝的変動(Genetic Variation for Tolerance)

動物では、感染症に対する抵抗性(病原性の制限)と耐性(ダメージの制限)とはめったに区別されないし、動物とその病原体の進化と生態学についての耐性の影響は、ほとんど理解されていない。Raabergたちは、マウスにおけるマラリア寄生虫への耐性を探求した(p. 812)。感染の際の寄生虫の重荷を減少させたものや、元気さが最大だったものなど、いろいろなマウス系統を対象に貧血と体重減少を耐性の尺度にとることで、耐性の遺伝的基礎が明らかにされた。さらに、感染症に対するより攻撃的な免疫調節が付帯的損害を増す場合には、抵抗性と耐性は互いにトレードオフの関係にあった。つまり、動物は、感染性の生物と進化的な「軍備競争」をいつも行っているわけではないので、感染症への耐病性のある家畜を繁殖させることは、抵抗性のある家畜を増やすのと同じくらい生産的なことなのである。(KF)
Disentangling Genetic Variation for Resistance and Tolerance to Infectious Diseases in Animals
p. 812-814.

C-H酸化反応を円滑に行う(Ironing Out C-H Oxidation)

自然界では鉄を基本とした酵素を用いて、炭化水素の酸化的代謝を触媒している。しかしながら、これらの触媒の効率と選択性を合成による分子触媒で複製することは極めて困難であった。ChenとWhite(p.83;Crabtreeによる展望記事参照)は、4個のN原子を通してFeに結合する合成リガンドを注意深く作ることで、複雑な有機分子における電子の豊富な第3級の(tertiary)C-Hセンターの選択的水酸化が可能であることを示している。さらに、立体的な束縛により、選択性に関する第2の相補的なモードが提供される。また、基質におけるカルボン酸基が環化生成物をもたらす第三の反応経路を導き出してくれる。この触媒は過酸化水素の酸化剤の存在下では不安定であるが、反応は十分に速く、触媒と酸化剤の連続的な添加により実用的な収率が得られるのである。(KU)
A Predictably Selective Aliphatic C–H Oxidation Reaction for Complex Molecule Synthesis
p. 783-787.

発振器の仕組みを解明する(Dissecting a Core Oscillator)

ラン藻(Synechococcus elongatus)の核となる概日性発振器は、タンパク質KaiAとKaiB、KaiCを混合することによってKaiCリン酸化の周期的変動がもたらされることによって、試験管内において再構成された。この生化学的発振器の根底にある機構は、これまでよくわかっていなかった。Rustたちはこのたび、2つの残基におけるKaiCのリン酸化が周期的に順序付けられていること、またそれぞれのリン酸化型の存在量によって発振器の相状態が決定されることを示している(10月4日オンライン発行されたp. 809; またPoonとFerrellによる展望記事参照のこと)。こうして順序付けられたKaiCのリン酸化は、リン酸化状態の1つによって引き起こされる負のフィードバックと一緒になることで、安定な周期的変動をじゅうぶん説明することができる。(KF)
Ordered Phosphorylation Governs Oscillation of a Three-Protein Circadian Clock
p. 809-812.

受容体の感受性の変化(Shifting Receptor Sensitivities)

AMPA(alpha-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazoleproponic acid)受容体は、脳やその他中枢神経系のニューロンにおいて、神経伝達物質に対して興奮性反応を仲介している。Menuzたちは、補助的AMPA受容体サブユニットの存在あるいは非存在が、それら受容体の薬理学的性質に劇的効果をもたらすことを報告している(p. 815)。化合物CNQX(6-cyano-7-nitoquinoxaline-2,3-dione)は一般にAMPA受容体の競合的拮抗薬として作用している。しかしながら、TARPS(transmembrane AMPA receptor regulating proteins、すなわち膜貫通AMPA受容体制御タンパク質)として知られる補助的サブユニットの1つが含まれている受容体複合体においては、CNQXは実際に、その受容体の部分アゴニストとして機能している。この余分なサブユニットの存在によって、受容体リガンド結合領域における立体構造変化が受容体イオンチャネルの開口に結び付くことが助けられている可能性がある。(KF)
TARP Auxiliary Subunits Switch AMPA Receptor Antagonists into Partial Agonists
p. 815-817.

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