AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 5, 2007, Vol.315


新原生代後期における深海の酸素と動物の誕生(Late-Neoproterozoic Deep-Ocean Oxygenation and the Rise of Animal Life)

動物にとって酸素は不可欠であるが、地球大気や海洋における酸素に関する証拠はほとんど得られてない。Canfield たち(p. 92, 12月8日オンライン出版参照、および、Kerrによる12月8日号ニュース記事参照)は、新原生代後期(約5億8千万年前)に酸素濃度が増加したことを示し、これが進化の刺激になったのではないかと推察した。深海の堆積岩中の鉄の含有量からは、5億8千万年前のGaskiers氷河期以前および氷河期中は酸素が欠乏して鉄に富んでおり、それ以後は酸化環境になる。このGaskiers氷河期のすぐ後に、最初のEdiacara 動物群が生じたことが知られていることから、動物の進化と酸素処理現象の因果関係が推察される。長期の安定な酸素環境によって2500万年後に両側運動性動物の出現を可能にしたのかもしれない。(Ej,hE)
Late-Neoproterozoic Deep-Ocean Oxygenation and the Rise of Animal Life p. 92-95.
A Shot of Oxygen to Unleash the Evolution of Animals p. 1529.

高感度な側壁(Sensitive Sidewalls)

単層カーボンナノチューブ(SWNT)の側壁(sidewalls)の伝導度は、欠陥や吸着分子の導入により変化し、更にグラファイトと同じく、バルクな試料の側壁を電気化学的酸化反応によって修飾出来る。Goldsmithたち(p. 77)は、サブミクロンのリソグラフィーを使うことなく、伝導率をオン・オフ制御して電子部品にする目的で、個々のSWNTのコンダクタンスGを計測できるように電極上に形成した個々のSWNTに電気化学的酸化と還元を行うことでこの高感度を実現した。強酸中での酸化により段階的なコンダクタンスGの低下を引き起こしたが、著者らはこの強酸の共役塩基に結合するC-O群の形成に起因するとしている。この伝導度の低下は、還元によって全てではないが殆んど回復するが、このことは最初のsp3混成軌道型(単結合)の炭素構造を再形成するというよりはむしろ、その代わりにエーテル結合のような最小の電子散乱をもつsp2(含2重結合)群が形成されていることを示している。(hk,Ej,KU)
Conductance-Controlled Point Functionalization of Single-Walled Carbon Nanotubes p. 77-88.

成層圏の旅を追跡する(Tracing a Stratospheric Journey)

大規模な噴火は成層圏に物質を吹き上げ世界中の気候に影響を与えるが、古代の噴火の観測データが無いため、その影響度合いを決めることは困難であった。せいぜい成層圏の影響を受けた火山灰堆積物として記録される程度である。Baroni たち(p. 84) は、南極の雪に含まれているAgung(1963年3月)とPinatubo(1991年6月)の噴火物の硫酸塩中のイオウの同位体33Sの成分は、硫酸塩濃度のピーク中で質量に依存せず、ある傾向を示すことを報告した。33Sの兆候は、当初のプラスから時間と共にマイナスに変化する。著者たちは、成層圏では光化学反応によって二酸化硫黄から硫酸に変化するのに数ヶ月のかかると考えることでこの現象をうまく説明できるとしている。また、この事実から、火山灰が成層圏に達したかどうかの判定にも使えると考えている。(Ej,hE)
Mass-Independent Sulfur Isotopic Compositions in Stratospheric Volcanic Eruptions p. 84-87.

大質量の干渉(Massive Interference)

ニュートンの重力定数 G は、これまで正確に決定することが難しかった基本定数である。この困難さの理由の一つとして、重力が相対的に弱いことにある。G を測定するための伝統的な方法は、動いている試験質量に応答するねじり秤の回転に注目するという力学的なものとなりがちである。Fixler たち (p.74)は、540kg の鉛の試験質量の位置に応答して、冷たいセシウム原子の de Broglie波の干渉パターンがシフトすることを示している。著者たちは、この手法が力学的測定に付随する系統的な誤差を受けず、究極的にはより正確な G の決定をもたらすものと主張している。(Wt)
Atom Interferometer Measurement of the Newtonian Constant of Gravity p. 74-77.

氷河期初期の温室効果ガス(Greenhouse Gases in an Earlier Ice Age)

新生代の気候に関する多数の研究は、気候と炭素サイクルの関連を示しているが、それよりずっと以前については、関連が良くわかっていない。現在の“冷凍室”(icehouse)が始まる以前、約3500万年前、南極で大きな氷床が形成され始めた。地球が大容量の大陸氷塊を有する最後の時期は、約2億6500万年前から3億500万年前の古生代であった。Montanez たち(p. 87) は、土壌鉱物中の安定な同位体組成の4000万年に渡る記録や、化石植物や、浅水の腕足動物を利用した大陸表面温度と大気中のCO2濃度の関係を、地球が氷河期と完全間氷期の間を行き来している期間について調べた。大陸氷塊容積の変化はCO2の大気中の分圧の変動と強く関連しており、植物化石データは、推察される気候変化に伴なった花の再構成が繰り返されたことを示している。このことは温室効果ガスによる気候変動は、現在同様、遠い過去から生じていたことが推察される。(Ej,hE)
CO2-Forced Climate and Vegetation Instability During Late Paleozoic Deglaciation p. 87-91.

気候で変化する酸素供給量(Altered Aerobics)

野外の観察と実験室データの比較を北海とバルト海のeelpout(海底を住処にするウナギのように頭の長い魚の総称)について、Portner and Knust(p. 95; および WangとOvergaardによる展望記事も参照)は比較した結果、組織への酸素供給量と、温度に依存した酸素要求量の乖離が明らかになったが、これが暑い夏に特定の魚種の欠損を招いていることを明らかにした。温度に依存して海底の酸素供給量が制限されるが、これが魚類の行動、成長、繁殖、他の魚との相互作用にかかわり、長期的には多様な気候における個体数や種の運命に影響を与える。(Ej,hE)
Climate Change Affects Marine Fishes Through the Oxygen Limitation of Thermal Tolerance p. 95-97.
The Heartbreak of Adapting to Global Warming p. 49-50.

マイクロRNAを核へ輸送(Targeting MicroRNAs to the Nucleus)

マイクロRNA(miRNA)は、ほとんどの真核生物で見出されている小さな22ヌクレオチドの非翻訳ノンコーディングRNAであり、ターゲットRNAの翻訳と/或いは安定性を制御している。miRNAは高度に保存された5’の”seed”配列によって関係付けられるファミリーに分類されている。この配列は相補性のターゲットRNAを見極める際に重要となる。その3’の配列は、一般にファミリー内ではさほど保存されておらず、その機能面での重要性に関して疑問が生じていた。そうであっても、3’の配列は個々のmiRNAに関して種を越えて極めて高度に保存されており(同一ですらある)、このことは強力な選択圧を示唆している。Hwangたち(p.97)は、ヒトのmiR-29bが核に局在化していること、更にこの局在化がこの分子の3’halfにおける6ヌクレオチドの配列によってもたらされている事を示している。著者たちは、miR-29bがターゲット転写物の転写か、或いはスプライシングを制御しているという興味深い可能性を提案している。(KU)
A Hexanucleotide Element Directs MicroRNA Nuclear Import p. 97-100.

偏りのある遺伝(Biased Inheritance)

染色体の分配は、一般に娘細胞の遺伝に比べランダムであると考えられているが、マウスの第7番染色体の非ランダムな分離が或る細胞型で報告されている。ArmakolasとKlar(p.100;Sapienzaによる展望記事参照)は、この非ランダムな染色分体の分離に関与する分子成分を調べた。微小管の運動性の左右のダイニン(以前、左右の体軸の決定に影響をもたらす事が示されたタンパク質)をコードしている遺伝子変異により、特殊な細胞型において染色分体の分離に異なった影響をもたらしていた。(KU)
Left-Right Dynein Motor Implicated in Selective Chromatid Segregation in Mouse Cells p. 100-101.
Do Watson and Crick Motor from X to Z? p. 46-47.

ロータスに小結節を付与するロータス属に根粒を付与する(Giving Lotus the Nodule)

マメ科植物の根の結節(根粒)形成は、窒素固定におけるキーとなる因子である。マメ科の植物、ミヤコグサ (Lotus japonica)の研究から、Trichineたち(p.104;11月16日のオンライン出版)とMurrayたち(p.101;11月16日のオンライン出版)は、ホルモンのサイトカイニンがどのようにシグナル伝達のカスケードを調節しているかを同定した。これによりマメ科植物が相利共生細菌に満ちた窒素固定の小結節を形成する(Oldroydによる展望記事参照)。サイトカイニン受容体の機能獲得型の変異体は、細菌のいない小結節を自発的に形成するが、一方機能喪失により活発な細菌感染糸の形成にもかかわらず、非常に少ない小結節の形成に導いた。(Ku,so)
A Gain-of-Function Mutation in a Cytokinin Receptor Triggers Spontaneous Root Nodule Organogenesis p. 104-107.
A Cytokinin Perception Mutant Colonized by Rhizobium in the Absence of Nodule Organogenesis p. 101-104.
Nodules and Hormones p. 52-53.

正しい経路を選択する(Choosing the Right Path)

免疫系の樹状細胞は、主要組織適合複合体(MHC)のクラスI分子あるいはクラスII分子のコンテクスト中にあるT細胞に対して、抗原を提示する。クラスIに制限されるCD8+ T細胞応答と、CD4+ T細胞による助けという、T細胞免疫における2つの異なった武器を生み出す手段としてである。Dudziakたちは、それぞれの経路が樹状細胞の別のサブセットで支配されている証拠を提示している(p. 107)。樹状細胞のそれぞれの特異的サブタイプ上にある細胞表面マーカーに特異的なキメラ抗体を用いて、クラスIあるいはクラスIIのMHC経路への抗原を標的にし、それによってCD8またはCD4応答を誘発することが可能であった。(KF)
Structure of Dual Function Iron Regulatory Protein 1 Complexed with Ferritin IRE-RNA p. 1903-1908.
BIOCHEMISTRY: If the RNA Fits, Use It p. 1886-1887.

生きた色で見る酵素の動力学(Enzyme Kinetics in Living Color)

生きている細胞の内部における酵素活性の空間的制御を研究するには、革新的方法が必要となる。Yudushkinたちは、蛍光寿命イメージング顕微鏡観察法(fluorescence lifetime imaging microscopy)による酵素基質複合体の検出に基づいた或る方法について記述している(p. 115)。基質と相互作用する酵素の検出は最大の特異性を保証し、特定の酵素種の局在化した活性の評価を可能にする。この技法は、チロシンホスファターゼPTP1Bによる成長因子シグナル伝達の空間的制御の研究に用いられ、PTP1Bが細胞の内部において、動力学的には別の、空間的に分離された亜集団として存在していることを明らかにした。(KF)
Live-Cell Imaging of Enzyme-Substrate Interaction Reveals Spatial Regulation of PTP1B p. 115-119.

細胞での勘定(Cellular Accounting)

蛍光標識は単細胞中のタンパク質の数量化を可能にしたが、レポーター分子自身の間の干渉や細胞内の他の分子との相互作用との干渉によって、潜在的な問題が現れてきている。Huangたちは、細胞内の蛍光性タンパク質を数えるための微少流体チップを発明した(p. 81)。単細胞が捕獲、溶解され、そしてその中身が電気泳動法で分離され、単一分子の蛍光検出によって数量化される。この方法は、元来蛍光化合物(窒素を制限された条件下で成長した個々のラン藻細胞中のフィコビリンタンパク質部分複合体)と、小さいコピー数で存在する蛍光抗体2アドレナリン受容体で標識されたタンパク質とに対して適用された。(KF)
Counting Low-Copy Number Proteins in a Single Cell p. 81-84.

すぐそばにある私的な細胞の機構(Cellular Mechanics Up Close and Personal)

脊椎動物の細胞は、移動する際に、自身の内側から外へ、また逆向きにと機構についての情報を伝達する。このための主要な経路は、アクチン細胞骨格と細胞外基質の間でのインテグリンに仲介された接着性相互作用である。Huたちは、洗練された、生細胞についての顕微鏡解析を用いて、インテグリンに基づく接着斑の部分をなす、細胞骨格と細胞外基質の間の相互作用を仲介するタンパク質界面の定義に注力している(p. 111)。アクチン細胞骨格の運動は接着斑を介して差動的に伝達されるが、その伝達の効率はアクチン結合タンパク質からインテグリンへ向けて漸減していて、これは、接着斑が階層的な分子性クラッチであることをはっきりさせるものである。接着斑の内部的分子動力学は、つまり、遊走の際の細胞形態形成力学における鍵となる要素なのである。(KF)
Differential Transmission of Actin Motion Within Focal Adhesions p. 111-115.

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