AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 22, 2006, Vol.314


将来に備えて(Be Prepared)

生殖と集団の成長は資源が確保できるかどうかにかかっている。Boutin たち(p. 1928)は、リスの2つの種類において、餌となる果実の現在の生産量とか過去の生産量に単純に追随しているのではなく、将来の生産量に合致するよう仔の増加量を調整している証拠を示した。このように果実を食べる動物の生殖への投資は将来の果実の量に対応することが可能で、果実を消費する動物と木の間の繁殖戦略は興味深い類似性を保っている。(E,hE)
Anticipatory Reproduction and Population Growth in Seed Predators p. 1928-1930.

漸新世の気候を詳しく調べる(Looking Closely at Oligocene Climate)

地球の軌道運動が原因の太陽放射強制力の変化は、気候に直接影響を与えるだけでなく、CO2のような温室効果ガスにも間接的影響も与えている。Paelike たち(p. 1894) は、漸新世全体に及ぶ1300万年間の詳細な酸素と炭素同位体の記録を集めた。この期間は、高緯度にも実質的には氷床の無い温暖な気候から、南極での永久氷河が出来る気候に至るまでの地球が転換した重要な期間である。炭素サイクルのボックスモデルを使って、著者たちは、地球の炭素サイクルが、主に炭素が海洋中に滞在する時間による効果で、太陽放射強制力を長期的には増幅する一方、短期的には太陽放射強制力をならして減衰させることを示した。(Ej,hE,nk,og)
The Heartbeat of the Oligocene Climate System p. 1894-1898.

太陽系の死(Death of a Solar System)

太陽のような恒星の一生の最後で、恒星はその外層のすべてを吹き飛ばし、白色矮星へと圧縮される。Gaensicke たち (p.1908) は、白色矮星を周回する惑星系や小惑星系からの残存物を突き止めた。残存物質の円盤は重元素(金属)に富み、星の周りの回転軌道にある物質に特徴的な後退速度と接近速度の二つのドップラーシフトのピークを持つ輝線プロファイルを示す。 (Wt,nk)
A Gaseous Metal Disk Around a White Dwarf p. 1908-1910.

穏やかにスピンを測定する(Gently Probing Spins)

光ルミネセンスと電荷注入法は単一電子のスピン状態を決定できるが、その結果スピン状態に影響を与えてしまう。スピン貯蔵とスピン操作に基づく量子情報処理にとって、スピン状態は測定された後も変化して欲しくない。Berezovsky たち(p. 1916, および、オンライン出版2006年11月9日号)は、光Kerr効果によって量子ドット中の単一電子のスピン状態を非破壊的に決定できることを述べている。(Ej,hE)
Nondestructive Optical Measurements of a Single Electron Spin in a Quantum Dot p. 1916-1920.

二つのギャップ間の大きな隔たり(A Gulf Between Two Gaps)

高温超伝導体において、超伝導状態になる前に擬ギャップとして知られている領域が現れるが、これは弱くドープされた試料に顕著である。擬ギャップと超伝導状態の関係は意見が分かれているが、その理由の一つは実験によって矛盾する結果が出ることにある。試料の品質を良くし、最適化した角度分解光電子放出分光分析法を使って、Tanakaたち(p. 1910, オンライン出版11月16日号)は、ドープ依存性の異なる2つのギャップを見つけ、その1つは擬ギャップに対応し、別の一つは超伝導ギャップに対応する。Valla たち(p. 1914,オンライン出版11月16日号)は、光電子放出と走査型トンネル効果電子顕微鏡を使った非超伝導状態であるが、d波が超伝導状態の特徴を示している銅塩(Cuprate)の研究結果を示した。この結果から、擬ギャップは、電子対が上を向いてはいるが、全体が一斉に超伝導状態に揃っているわけではない。これら二つの報告結果から、擬ギャップと超伝導は共存しているが、関連はしていないことを示しており、超伝導メカニズムを理解するためには意味あることである(Millisによる展望記事、Serviceによる11月17日のニュース記事を参照)。(Ej,hE,nk)
Distinct Fermi-Momentum-Dependent Energy Gaps in Deeply Underdoped Bi2212 p. 1910-1913.
The Ground State of the Pseudogap in Cuprate Superconductors p. 1914-1916.
PHYSICS: Gaps and Our Understanding p. 1888-1889.

地震による海底における滲みだし(6.Seismic Seafloor Seep)

地球の地殻の大部分は、溶岩が噴出している中央海嶺で作られる。Tolstoyたち(p.1920,11月23日オンライン公開出版;Chadwickによる展望記事参照)は、2006年1月に6時間の間で、東太平洋海膨(East Pacific Rise)に沿って溶岩脈が表面を破壊して滲みだしているという、岩脈形成現象の地震の特徴を捉えた。この地域に設けた彼らの地震波検知器のアレイは、その現象を遡る数年間地震活動が徐々に上昇したこと、そしてそれ以後の衰退を監視していた。(TO)
A Sea-Floor Spreading Event Captured by Seismometers p. 1920-1922.
EARTH SCIENCE: A Submarine Volcano Is Caught in the Act p. 1887-1888.

新しい種の起源(The Origin of New Species)

二つの異なる種の交雑によって形成される新しい種の起源となる同倍数性(染色体数が変わらない交配)雑種(homoploid hybrid)の種分化は、動物においては比較的稀である。Gompertたち(p. 1923、11月30日にオンライン出版)は、北アメリカの西部に生息するシジミチョウ(Lycaeides butterflies)が極限の高地環境へ適応することで、同倍数性雑種の種分化を促進していることを実証している。交配種は親ゲノムの混合体であるモザイク・ゲノムを持っており、また両方の親の種から生殖的に隔離されている。(hk,so)
Homoploid Hybrid Speciation in an Extreme Habitat p. 1923-1925.

ヨーロッパの巨大恐竜(European Giants)

巨大恐竜は有史以前の多くの光景の中でも一番の見ものであるが、その化石は新世界とアフリカに限られている。Royo-Torresたち(p.1925)は、スペインでジュラ紀前期から白亜紀後期の地層から見出された巨大な恐竜(40〜48トン)の化石について記述している。この化石は進化系統樹の中で竜脚類の新しい枝(クレード)を示しており、他の大陸のジュラ紀や白亜紀の地層で見出された他の巨大竜脚類よりも、明らかにより原始的な肢と骨構造を持っている。このように、この異常な大きさは新竜脚類とは別の他のグループの恐竜で生じていた。(KU,nk,og)
A Giant European Dinosaur and a New Sauropod Clade p. 1925-1927.

免疫とインフルエンザ(Immunity and Influenza)

季節性のインフルエンザは世界中で高い罹患率と死亡率を示し、それ故にその系統発生と動態の理解が重要となる。このウイルスの高い変異速度にも拘わらず、見出されたインフルエンザの多様性は限定されており、おそらく一般化されている系統-超越免疫のためであろうが、ヒトにおいて一般化された免疫に関する証拠が無い。しかしながら、抗原性クラスターの証拠はあり、次の季節の間に地球規模でのヒト集団に一気に拡がる。Koelleたち(p.1898;van Nimwegenによる展望記事参照)は系統発生動態モデルを導入して、インフルエンザの遺伝的特質と抗原性の特質の間の差異を明らかにし、インフルエンザに特徴的な系統発生がクラスター特異的な免疫のみに由来していることを示している。(KU)
Epochal Evolution Shapes the Phylodynamics of Interpandemic Influenza A (H3N2) in Humans p. 1898-1903.
EPIDEMIOLOGY: Influenza Escapes Immunity Along Neutral Networks p. 1884-1886.

二つの役割を詳細に描く(Details Define Double Duty)

鉄調節タンパク質1(IRP1)は、二つの機能を持つタンパク質である。鉄-イオウクラスターが結合すると、サイトゾルのアコニターゼ酵素となり、クラスターが無いと、IRP1はメッセンジャーRNA中の鉄-応答エレメント (IRE; iron-responsive element)に結合して、鉄の輸送・貯蔵・利用に関与する遺伝子発現を制御する。Waldenたち(p.1903;Rouaultによる展望記事参照)は、フェリチンH IREに結合したIRP1の2.8オングストローム分解能での構造を記述しており、サイトゾルのアコニターゼに関する既知の構造と比較した。二つの機能間の切り換えは大規模な領域の再配置と関連しており、それによりアコニターゼにおけるコンパクトな構造から、二つの部位でIREと相互作用している伸展した構造に変化する。RNA結合部位と活性化部位は多くのアミノ酸を共有しており、各々の状態での異なる役割を助けている。(KU,hE)
Structure of Dual Function Iron Regulatory Protein 1 Complexed with Ferritin IRE-RNA p. 1903-1908.
BIOCHEMISTRY: If the RNA Fits, Use It p. 1886-1887.

小さいが、見過ごしてはいけない(Small, But Not Overlooked)

酸性の鉱山廃液溝で生存している微生物集団のメタゲノムの研究過程で得られたDNAフラグメントから、Bakerたち(p.1933)はARMANと呼ばれる低存在量の古細菌の系列に関する証拠を得た。このDNAフラグメントはリボソームRNA遺伝子を持っており、他の古細菌グループからの生物学的な大きな差異を持っている。ARMANグループのメンバーは、黄鉄鉱からエネルギーを抽出する際に用いるピロホスファターゼをコードする遺伝子を持っている。蛍光を用いたその場でのハイブリッド形成の可視化により、非常に小さな、リボソームを包んだ、不規則な形状の細胞が明らかになった。(KU,og)
Lineages of Acidophilic Archaea Revealed by Community Genomic Analysis p. 1933-1935.

ワクチンの中には何がある?(What's in a Vaccine?)

ワクチン接種の後で保護的な抗体が産生される効率は、抗体-産生B細胞の活性化を促進する物質であるアジュバンドの存在に依存している。Toll様受容体(TRL)がアジュバンドの効果を仲介する主要な役割を果たしている可能性のあることが予測されている。しかし、Gavinたちがこのたび、既知のTRL経路はB細胞の応答を調節していないので、TRLリガンドを含むアジュバンドは他の特性に依存しているに違いない、ということを発見した(p. 1936; Wickelgrenによるニュース記事参照のこと)。B細胞応答の効果についての考え方のそのような改定は、ワクチン開発についての現行の考え方を見直すことにつながるかもしれない。(KF)
Adjuvant-Enhanced Antibody Responses in the Absence of Toll-Like Receptor Signaling p. 1936-1938.

下垂体中のペースメーカー(The Pacemaker in the Pituitary)

内在性の年間リズムが、長命な脊椎動物の生理と行動における多くの長期間にわたる周期を駆動しているのだが、そうしたリズムの生成に関する解剖学的なまた細胞的な基礎は謎のままである。Lincolnたちは、脳下垂体を外科的に中枢神経系から切り離したヒツジにおける、プロラクチン分泌とそれに関連した生物学的変化を分析した(p. 1941)。松果体によるメラトニン分泌がホルモンの効果を制御していた。下垂体のタイマー細胞がメラトニン受容体をもっており、そのメラトニン受容体がメラトニン信号の持続時間によってそうした制御を可能にしている。こうしたタイマー細胞が次に、それ自身はメラトニン受容体を欠いているプロラクチンの合成及び分泌細胞を駆動する。(KF)
Characterizing a Mammalian Circannual Pacemaker p. 1941-1944.

メッセンジャーを撃て(Shoot the Messenger)

カテコールアミンを代謝する酵素であるカテコールOメチル基転移酵素(COMT)は、認知や気分だけでなく、持続痛の調節にも関与している。COMTによく見られる酵素活性の減少した遺伝的変異体は、疼痛感受性の増加と持続性の筋骨格疼痛症状を発生しやすくなることと関係している。その遺伝子のコード領域によく見られる3つの一塩基多型(SNP)は、うち2つは同義的な変化を導き、1つは非同義の変化をもたらすものだが、3つの主要なハプロタイプを形成し、単一のSNPよりもハプロタイプの方が、疼痛感受性の可変性をよく説明できるのである。Nackleyたちは、その遺伝子のコード領域における変化が、対応するメッセンジャーRNAの二次構造に影響を与え、これによってタンパク質合成の効率が劇的に変わる、ということを示すことによって、そうした知見を明らかにしている(p. 1930)。(KF,hE)
Human Catechol-O-Methyltransferase Haplotypes Modulate Protein Expression by Altering mRNA Secondary Structure p. 1930-1933.

ネットワークについての新情報(News on Networking)

タンパク質相互作用を記述する大きなデータセットは、タンパク質相互作用のネットワークがいかにして細胞機能を制御しているかをはっきりさせるのを助ける。Kimたちは、3次元のタンパク質構造とタンパク質ドメインについての情報を含む改良されたデータセットを解析しているが、これは特定の相互作用ドメイン間の区別を可能にし、たとえば、相手のタンパク質と同じドメインを含む2つのタンパク質間の相互作用は相互に排他的である、と期待できることを明確にするものである(p. 1938;またYeatesとBeebyによる展望記事参照のこと)。この解析は、従来の推定と比較して、推定されるタンパク質パートナー数を最大14個に限ることになる。タンパク質上の相互作用インターフェースの数は、そのタンパク質が細胞機能とその進化速度にとって必須かどうかを決めるキーとなる要因なのである。(KF)
Relating Three-Dimensional Structures to Protein Networks Provides Evolutionary Insights p. 1938-1941.
BIOCHEMISTRY: Proteins in a Small World p. 1882-1883.

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