AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 15, 2006, Vol.314


エルニーニョの統合化(El Nino Integrated)

エルニーニョ南方振動、あるいはENSOとも呼ばれる現象は、人間生活の時間尺度における大規模で準周期的な海洋大気気候の周期的変動の中で、最も活動的な現象である。ENSOは太平洋上に生じる現象であるが、ほとんど全地球規模で気象、生態系、炭素サイクルに影響を及ぼす。McPhaden たち(p. 1740)は、ENSOの物理現象とともに、ENSOの地球科学における統合的な概念として理解するために、環境的、社会経済的な最大の影響因子として見直した。(Ej,hE)
ENSO as an Integrating Concept in Earth Science
p. 1740-1745.

ルビジウムが豊富な星(Rubidium-Rich Stars)

星が年をとると、それらは巨星へと膨張する。それら対流層の底部においては、ルビジウムやストロンチウムのような重元素は、中性子の捕獲を伴うゆっくりした核反応によるsプロセスによって生成される。太陽より数倍も大質量の高温の星では、理論によると、22Ne から 25Mg への元素の変換により生ずる中性子が、長寿命同位体である 87Ru を大量に生成すると予測されているが、この物質はほとんど観測されてこなかった。Garcia-Hernandez たち (p.1751, 11月9日にオンライン出版された; Boothroyd による展望記事を参照のこと) は、我々の銀河内の漸近巨星分岐にある60個の恒星に、見逃されていた Rbを見出した。これらの星の 87Ruは太陽の10倍から100倍も多量な水準にあるが、太陽よりはほんの3倍から8倍重いだけである。この発見は、中間的な質量の星の進化の最終段階における元素合成反応の金属量の相違を示しており、また、隕石中に見出されるある種の太陽系形成以前の粒子中に観察される同位体異常に対する示唆を与えている。(Wt,nk)
Rubidium-Rich Asymptotic Giant Branch Stars
p. 1751-1754.
ASTRONOMY: Heavy Elements in Stars
p. 1690-1691.

量子スピンホール効果の付きまとい(Stalking the Quantum Spin Hall Effect)

量子スピンホール効果(QSHE)において、電子の軌道とスピン角運動量のバルク絶縁状態のエッジにおけるカップリング効果は、電荷の一方向への流れを起こす伝導状態を作り出す。これには外部磁場を要しない(外部磁場は時間逆転の対称性を崩す)し、絶縁エッジ状態がらせん状であれば、エネルギー損失無く伝導可能であることが推測できる。グラファイトはこのような性質を示すが、エネルギーギャップが小さいため、実験的な観察は難しい。Bernevig たち(p. 1757; および、 Kane と Meleによる展望記事参照)は、HgTe/CdTeの量子井戸構造は、従来に比べより頑健なQSHE系であるはずであるとの理論的な成果を示し、これが実験によって検出できるための概要を示した。(Ej,hE)
Quantum Spin Hall Effect and Topological Phase Transition in HgTe Quantum Wells
p. 1757-1761.
PHYSICS: A New Spin on the Insulating State
p. 1692-1693.

同軸性有機光伝導体(Coaxial Organic Photoconductor)

有機光電変換素子において、分離した電子供与性の層と受容性の層は光子吸収によって生成される電荷キャリアを蓄積している。山本ら(p. 1761;Wuerthnerによる展望参照)は、大きな電子供与性の芳香族コア(ヘキサベンゾコロネン)に長くて柔軟なリンカーを通して電子受容性のトリニトロフルオロネン基を付加した分子の自己組織化による同軸ナノチューブを得た。これらのナノワイアは直径16ナノメートル、長さ数マイクロメートルである。電極上にキャスト法で膜形成すると、紫外-可視光の照射により、このナノチューブは導電度において大きな変化を示す(104超えるオンオフ比)。このナノチューブは、同一分子である別のマイクロファイバーの形状で見られたような非導電性の電荷動錯体を形成していない。(hk,Ej)
Photoconductive Coaxial Nanotubes of Molecularly Connected Electron Donor and Acceptor Layers
p. 1761-1764.
CHEMISTRY: Generating a Photocurrent on the Nanometer Scale
p. 1693-1694.

成長させ、スタンプし、積み重ねられ(Grow, Stamp, Stack)

複雑な電子通信回路を作るには何層もの異なる物質を統合し、ウェーファーの接合とか、エピタキシャル成長による薄膜層の蒸着によって複雑な3次元的構造の組み立てが要求される。しかし、カーボンナノチューブとか半導体ナノワイヤなど、あるいは、熱的安定性をある程度有する物質を前もって用意されている場合には、蒸着に対する別の組立て戦略が必要である。Ahn たち(p. 1754)は、ナノスケールの半導体物質を作り、これをスタンププロセスでプリントした。このプリントプロセスは、剛体でも柔軟な基盤の上でもうまく機能し、その結果、高品質で頑健(ロバスト)な電気システムができた。(Ej,hE)
Heterogeneous Three-Dimensional Electronics by Use of Printed Semiconductor Nanomaterials
p. 1754-1757.

人類の移動の足跡をミトコンドリアで追う(Mitochondrial Footprint of Human Migrations)

現代人はアフリカから単一の南部経路--つまりHorn of AfricaからBab-el-Mandeb (the Gate of Tears)を横切りアラビア湾に至り、次にインド洋から東南アジアやオーストラリアへの移動経路をたどったらしく、これはミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝子マーカーの分布と一致する。面白いことに、主にアジア系の遺伝子構成のハプログループのいくつかと関連の深いハプロタイプM1とU6が、北アフリカと東アフリカには特別に見出される。Olivieri たち(p.1767)は、多岐にわたるM1 と U6 のmtDNAを遺伝子配列を決め、これらの配列を持つ集団は南西アジアで発生し、大体40000年から45000年前、北アフリカや東アフリカに戻って行ったに違いないと結論付けた。これは気候変動によってこれらの地方に断片的な砂漠が出来た時代に相当する。M1 と U6の先祖集団はアフリカに戻る際、往路とは異なり地中海沿いにレバント地方を通り、ヨーロッパに入ったに違いない。(Ej,hE,nk)
The mtDNA Legacy of the Levantine Early Upper Palaeolithic in Africa
p. 1767-1770.

酸性の海におけるプランクトンの絶滅(Plankton Extinctions in Acidic Oceans)

暁新世-始新世の温度極大期(5,500万年前)において、体積あたり1000ppmを越える大気中二酸化炭素レベル(今日の約3倍レベル)の急激なる増加により、地球規模での温度は5℃も上昇し、海洋と陸生の生物の絶滅を引き起こした。Gibbsたち(p.1770)は幾つかの高解像の掘削コアを用いて、この現象のプランクトンへの影響を調べ、絶滅に対する生物学的基礎を何等見出す事ができなかった。絶滅した分類群の多くは稀有な分類群であり、この現象の最初の10,000年前後でかなり急激に起こっていた。高い二酸化炭素レベルによる海洋の酸性化への何らかの影響にもかかわらず、炭酸カルシウムの骨格に依存しているプランクトン種の選択的な絶滅も無かった。(KU)
Nannoplankton Extinction and Origination Across the Paleocene-Eocene Thermal Maximum
p. 1770-1773.

P[acman] が形質転換を促進する(P[acman] P[romotes] T[ransformation])

20年ほど前、P要素形質転換を利用する遺伝子導入法の開発によって、キイロショウジョウバエを用いた遺伝子解析が非常に促進された。しかし、この方法は、挿入できるDNA断片のサイズに制約があったため、ゲノムの特定の部位しか標的にすることができなかった。Venkenたちはこのたび、100キロベース以上のDNA断片を部位を特定して挿入することを可能にするP[acman]と呼ばれる新しいツールを開発した(p. 1747,11月30日にオンライン出版)。この方法はショウジョウバエのあらゆる遺伝子の構造および機能の解析を促進し、生体内でのタンパク質の標識付けを可能にする。(KF)
P[acman]: A BAC Transgenic Platform for Targeted Insertion of Large DNA Fragments in D. melanogaster
p. 1747-1751.

注入可能な病原性(Injectable Virulence)

トキソプラズマ原虫やマラリアのような、真核生物である病原体の病原性に関する分子性決定要因についてはほとんどわかっていない。非効率な遺伝的手段やゲノムの大きさ、複雑な生活環によって、進歩が阻害されている。順行遺伝学的解析(forward genetic analysis)を用いて、Taylorたち(p. 1776)およびSaeijたち(p. 1780)は、単一染色体上の少数のクラスター遺伝子が、寄生虫T. gondiiの自然系列間の病原性に見られる劇的な違いを支配していることを示している。これら遺伝子のうちでもっとも重要なものは、宿主細胞に注入される保存されたセリン/スレオニンキナーゼをコードしている。このプロセスは細菌におけるIII型分泌を思い起こさせるが、機構的また進化的には別なものである。(KF,hE)
A Secreted Serine-Threonine Kinase Determines Virulence in the Eukaryotic Pathogen Toxoplasma gondii

p. 1776-1780.
Polymorphic Secreted Kinases Are Key Virulence Factors in Toxoplasmosis
p. 1780-1783.

出生時の脳の沈静化(Quieting the Brain at Birth)

出生には、多数の遷移が必要である。ラットを研究することで、Tyzioたちは、オキシトシン曝露とある種の脳のニューロンの発火の仕方を決めるスイッチとの間の関連をまた1つ同定した(p. 1788)。神経伝達物質GABA(γアミノ絡酸)は通常、胎生の脳において興奮性であるが、ひとたび成熟すると抑制性になる。分娩中にオキシトシンに曝されると、GABAのシグナル伝達において、興奮から抑制に切り換えが生じる。ニューロン活性のこうした沈静化により、出生時の一過性の低酸素状態に対して、脳の保護に役立っている可能性がある。(KF)
Maternal Oxytocin Triggers a Transient Inhibitory Switch in GABA Signaling in the Fetal Brain During Delivery
p. 1788-1792.

勾配を上る(Climbing the Gradient)

化学走性の際には、細胞は化学誘引物質の小さな濃度変化に応答して、その源の方へと移動する。Chenたちは、ヒトの好中球は適切な細胞遊走を促進するために、化学誘引物質ペプチドN-ホルミル-Met-Leu-Phe(fMLP)に対する受容体に加えて、別の2つの受容体系を利用していることを示している(p. 1792; またLindenによる展望記事参照のこと)。fMLPの濃度勾配に曝された好中球は、細胞の先端の縁でアデノシン三リン酸(ATP)を遊離した。遊離したATPは自己分泌様式で作用するらしく、プリン受容体を刺激して細胞が正当な向きになるのに必要なシグナルを供給させた。(KF)
ATP Release Guides Neutrophil Chemotaxis via P2Y2 and A3 Receptors
p. 1792-1795.
CELL BIOLOGY: Purinergic Chemotaxis
p. 1689-1690.

見えないせいで気が散る(Invisible Distraction)

目に見えない閾値下の刺激が、視覚の処理や振る舞いに影響を与えることがある。しかし、脳における閾値下の刺激の処理は、理解されていなかった。Tsushimaたちは、閾値下の刺激が課題に無関係なときは、それは閾値以上の刺激にも増して視覚野を活性化させ、課題の実行成績をひどく悪くすることになる、ということを発見した(p. 1786; またStoerigによる展望記事参照のこと)。(KF)
Greater Disruption Due to Failure of Inhibitory Control on an Ambiguous Distractor
p. 1786-1788.
NEUROSCIENCE: The Impact of Invisible Stimuli
p. 1694-1695.

極寒の間欠泉(Frigid Old Faithful)

土星の衛星エンケラドスの南極には地下にホットスポットがあって、含有物に富んだ水蒸気の噴煙を放出している。可能性としての水柱の源の一つは地下の温かな液体水のプールである。Kiefferたち(p.1764)は、液体水のプールを必要としないもう一つのモデルを記述している。水柱モデルに代わって、熱によって数十キロメートルの厚さのクラスレートの地殻が変形して、ガスを放出しているというものである。このモデルはガス柱の成分と一致しており、南極での今も進行しているテクトニクスの証拠でもある。(KU,nk)
【オールド・フェイスフル(Old Faithful)】アメリカのYellow stone国立公園にある67分毎に噴出する間欠泉
A Clathrate Reservoir Hypothesis for Enceladus' South Polar Plume
p. 1764-1766.

最上位の魚の合計(Totting Up Top Fish)

マグロやサメといった海洋漁場での最上位捕食魚の存在量は多々議論されている。乱獲の結果、バイオマスが90%も減少していると示唆する報告も幾つかある。Sibertたち(p.1773)は、太平洋における8箇所の漁場での大型捕食魚に関するあらゆる利用可能なデータを解析し、かなり異なる結論に到達した。著者たちは、1950年以降捕食魚のバイオマスの減少は9〜64%の間であり、更に集団における捕食魚の平均サイズも栄養状態も変化していないと結論付けている。このような漁獲競争の影響に関する低い推定値にもかかわらず、太平洋の漁場を持続可能に維持し続けるには有効なる管理が必要である。(KU)
Biomass, Size, and Trophic Status of Top Predators in the Pacific Ocean
p. 1773-1776.

深海の、高温下での窒素固定(Deep Hot Nitrogen Fixation)

深海での、高温下で生きる生命体は化学合成無機力源生物系か、或いは海洋表面での光合成によって最初作られた有機物質を二次的に処理する生物に限られている。MehtaとBaross(p.1783;Caponeによる展望記事参照)は、熱水噴出口近くに生きているメタン生成古細菌を単離した。この細菌は92℃で窒素を固定しており、このプロセスに関して今日知られている上限の温度より28℃も高い。この微生物は太古のニトロゲナーゼを保持しており、高温高圧可で機能している。生物工学的な応用と同じく、この発見は生物学的に利用できる窒素によって制限を受ける海洋表面下で生きる生命体の拡がりに関する重要な示唆を与えている。(KU)
【化学合成無機力源生物系(chemolithotrophic system)】:光合成によらずに化学的な暗反応でエネルギーを作る生物
Nitrogen Fixation at 92°C by a Hydrothermal Vent Archaeon
p. 1783-1786.
MICROBIOLOGY: Enhanced: Ramping Up the Heat on Nitrogenase
p. 1691-1692.

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