AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 9, 2004, Vol.305


フォトニック結晶は思いを心に秘めて(Photonic Crystals Keep It In)

3次元(3D)のフォトニック結晶は特定の波長の電磁波を放出したり、捕捉したりし て、光学活性材料の発光特性の制御に用いることができる。しかしながら、光活性 中心を包含した満足すべき特性のフォトニック結晶を成長させることは難しい問題 であることが判ってきた。Ogawa たち (p.227) は、3Dのフォトニック結晶を作成し た。この結晶は、完全な 3D バンドギャップを示すことが知られている構造を有し ており、さらに、内部には発光層も保持している。光活性層からの自然放出は3Dの フォトニック結晶によって囲まれた領域では抑制されたが、フォトニック結晶内に 作りこまれた人工的な欠陥からは発光が見られた。(Wt,KF)
Control of Light Emission by 3D Photonic Crystals
   Shinpei Ogawa, Masahiro Imada, Susumu Yoshimoto, Makoto Okano, and Susumu Noda
p. 227-229.

左右相対性の始まり(Bilateral Beginnings)

多細胞生物の疑う余地のない最も初期の証拠には、中国で約5億8千万年から6億 万 年前に堆積したDoushantuo Formation中に発見された小さな胚(embryos)が含まれ る。これらの“卵”を産んだニワトリはこれまで判らなかった。しかもこれらの化石 が初期の左右相称動物(bilateral animals)を表わしているのかどうかは不明であっ た。多細胞生物が一気に拡がったカンブリア紀(約5億4千万年前)より以前の Edicaran(約5億6千年前)では、ほんの2〜3の左右相称動物しか見られないのであ る。Chenたち(p.218)は、Doushantuo Formationからえられた左右対称性を有する小 さな化石なのかについて述べている。その動物らしいものは直径200マイクロメート ルに足りないが、その中に幾つか内部器官を見分けることができる。(TO,KF)
Small Bilaterian Fossils from 40 to 55 Million Years Before the Cambrian
   Jun-Yuan Chen, David J. Bottjer, Paola Oliveri, Stephen Q. Dornbos, Feng Gao, Seth Ruffins, Huimei Chi, Chia-Wei Li, and Eric H. Davidson
p. 218-222.

反応性のラジカル(Reactionary Radicals)

リボヌクレオチド還元酵素(RNR)は,ラジカルに基づく化学反応によりDNAの構成要素 であるデオキシリボヌクレオチドを合成する。クラスTのRNRにおいては、R2タンパ ク質の二鉄(diiron)の部位で保存されているチロシンに安定な別のラジカルを形成 する。Hoegbomたち(p. 245)は細胞内病原体、クラミジアからのR2タンパク質が異 なるラジカル発生系を用いていることを示している。クラミジアトラコーマ症から のR2の構造では、チロシンがフェニールアラニンに置き換わっており、電子常磁性 共鳴の研究からはチロシンのラジカルが存在していないことを示される。その代わ りに再構成されたタンパク質は鉄-結合のラジカルを作っており、多分これがRNRの メカニズムに関与している。クラミジアからのR2や結核菌を含む他の幾つかの病原 体からの類似のR2は、宿主防御における一酸化窒素の遊離に鈍感となっている可能 性がある。(KU,hE,KF)
The Radical Site in Chlamydial Ribonucleotide Reductase Defines a New R2 Subclass
   Martin Högbom, Pål Stenmark, Nina Voevodskaya, Grant McClarty, Astrid Gräslund, and Pär Nordlund
p. 245-248.

ゴールを得る(Scoring Goals)

われわれの筋肉を活性化し、運動を可能にする皮質の運動性ニューロンの発火パ ターンを記録して、コンピュータ画面上のカーソルや機械の腕などの人工的な状況 下での同様の運動を制御するのに利用することができる。Musallamたちは、サルの 頭頂の皮質にあるゴール・オリエンテッドなニューロンについて記 録し、運動に至 る前のプランニング段階で発火するが運動そのものの間は沈黙している「認知性」 ニューロンの活性もまた、必要な情報を供給できるということを示している(p. 258)。サルたちは、より時間経過に即した空間的に正確な信号を生み出すこと(これ は、意図をより明確に形成することを表す可能性がある)を、ゴール(目標)を正確に 特定することに対する期待される報酬を反映する(これは、意図の動機付けの基礎に 対応する可能性がある)ように、学習したのである。(KF)
Cognitive Control Signals for Neural Prosthetics
   S. Musallam, B. D. Corneil, B. Greger, H. Scherberger, and R. A. Andersen
p. 258-262.

ヒマラヤ山脈から絞り出される謎(Himalayan Squeeze a Puzzle)

インド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかることで、複雑な大陸間衝突によってヒマ ラヤ山脈が作り上げられた。ここでは、Karakoram や Altyn Taghと呼ばれるいくつ かの走向移動断層(strike-slip fault)が、プラトー(高地)を横切って伸びてい る。これら断層は地殻の変形を拡張する働きをしていて、ある有名なモデルによれ ば, 高地は一つの硬い地殻の固まりとして、上の二つの大断層に挟まれて東に押し 出されているのである。Wright たち(p. 236) は、Karakoram断層と西部Altyn Tagh 断層に沿って滑り量を計測し、従来の押し出しモデルに必要な滑り量よりも小さな 滑り率しか得られなかった。その代わり、ジグソーパズルのように、変形量は多く の断層に沿って分散されており、個々の断片は一緒に小さな滑り量で一緒に動いた り、あるいは異なる時期に動いており、このことは弱い地殻の存在を示している。 表面波データはヒマラヤ山脈の下の底部地殻は弱く、しかも、更に薄くなりつつあ ることを示している。Shapiro たち(p. 233) は、彼らの計測結果からは、強い上部 地殻と最下部地殻間を弱い層がチャネルに沿って、上部マントル方向へ移動してい ることを示唆している。(Ej,nk,KF)
Thinning and Flow of Tibetan Crust Constrained by Seismic Anisotropy
   Nikolai M. Shapiro, Michael H. Ritzwoller, Peter Molnar, and Vadim Levin
p. 233-236.
InSAR Observations of Low Slip Rates on the Major Faults of Western Tibet
   Tim J. Wright, Barry Parsons, Philip C. England, and Eric J. Fielding
p. 236-239.

再結晶化を再調査(Recrystallization Revisited)

金属を大きく変形すると、金属に加えられたエネルギによって過剰の回位(ディスク リネーション)や点欠陥が生じる。アニーリングの際には、小さな結晶粒の再結晶化 や結晶粒の成長等数多くのメカニズムによって欠陥密度は減少する。この再結晶化 のプロセスは均質であり、新たな球状の結晶成長に導くものと考えられてい た。Schmidtたち(p. 229)は3次元のX線回折顕微鏡を用いて、変形したサンプルを アニーリングしているその場での再結晶化のプロセスを調べた。彼らはその結晶成 長パターンが、実際にはきわめて不均質であることを見出した。(KU)
Watching the Growth of Bulk Grains During Recrystallization of Deformed Metals
   S. Schmidt, S. F. Nielsen, C. Gundlach, L. Margulies, X. Huang, and D. Juul Jensen
p. 229-232.

エリスロポエチン活性の修飾(Modifying Erythropoietin Activity)

サイトカインであるエリスロポエチンは、典型的なエリスロポエチン受容体に結合 して血球形成をもたらすが、それとは独立して、神経組織-保護的な生物活性も有し ている。Leistたち(p. 239)は、2種類の生物活性を区別するエリスロポエチンの 特徴的なアイソフォームを作製した。カルバモイル化誘導体(CEPOと呼ばれる) は、典型的なエリスロポエチン受容体には結合せず、そのため天然のエリスロポエ チンが持つ血球形成能を失った。しかしながら、その誘導体は、卒中、脊髄損傷、 実験的自己免疫能脊髄炎、および糖尿病性ニューロパシーの様々な動物モデルにお いて、神経組織保護作用を有していた。この物質は、長期神経疾患や長期精神疾患 などの、赤血球細胞形成の刺激が好ましくない疾患を治療するために貴重な存在で ある。(NF)
Derivatives of Erythropoietin That Are Tissue Protective But Not Erythropoietic
   Marcel Leist, Pietro Ghezzi, Giovanni Grasso, Roberto Bianchi, Pia Villa, Maddalena Fratelli, Costanza Savino, Marina Bianchi, Jacob Nielsen, Jens Gerwien, Pekka Kallunki, Anna Kirstine Larsen, Lone Helboe, Søren Christensen, Lars O. Pedersen, Mette Nielsen, Lars Torup, Thomas Sager, Alessandra Sfacteria, Serhat Erbayraktar, Zubeyde Erbayraktar, Necati Gokmen, Osman Yilmaz, Carla Cerami-Hand, Qiao-wen Xie, Thomas Coleman, Anthony Cerami, and Michael Brines
p. 239-242.

フラタキシンによるミトコンドリア保護(Mitochondrial Protection by Frataxin)

フリードライヒ運動失調症は、ミトコンドリアの鉄結合タンパク質であるフラタキ シン(frataxin)の欠損を特徴とする遺伝子疾患である。Bulteauたち(p. 242)は、 フラタキシンが、酸化促進剤に応答してミトコンドリアのアコニターゼ活性が可逆 的に修飾される際に必要とされる、鉄シャペロンタンパク質としてフラタキシンが 果たす機能を同定した。フラタキシンは、クエン酸依存的にアコニターゼと相互作 用し、酸化剤により誘導される不活性化レベルを減少させ、そして不活性 な[3Fe-4S]1+型の酵素を活性な [4Fe-4S]2+型へと変換す る。このようにしてアコニターゼ[4Fe-4S]2+クラスターが分解されない ように保護することにより、フラタキシンは、酵素の再活性化を促進し、鉄の蓄積 を阻害しそして高反応性で毒性のヒドロキシルラジカルの産生を阻害することがで きる。フラタキシンの濃度、その構造、そしてそのシャペロン機能を変化させる と、酸化促進剤濃度の増加やアコニターゼの減少、あるいはミトコンドリア活性の 低下に伴う変質性疾患を進行させる可能性がある。(NF)
Frataxin Acts as an Iron Chaperone Protein to Modulate Mitochondrial Aconitase Activity
   Anne-Laure Bulteau, Heather A. O'Neill, Mary Claire Kennedy, Masao Ikeda-Saito, Grazia Isaya, and Luke I. Szweda
p. 242-245.

源に戻る(Going Back to the Source)

胸腺はT細胞の主要な源として知られているが、肝臓や腸のような他の器官がT細胞 源として重要な代替部位になることを示唆する証拠が多い。特に、腸管粘膜の上皮 細胞の間に存在する大量のT細胞である上皮内リンパ球は粘膜内の特異的発生の島に 主に由来すると思われている。 EberlとLittman(p 248;Guy-GrandとVassalliによ る展望記事参照)は運命予定図アプローチ(fate-mapping approach)を用いて、上 皮内リンパ球が胸腺細胞からの直系の子孫であることを示す明白な証拠を提供して いる。従って、胸腺外発生がT細胞プールに有意に寄与する可能性は少な い。(An.hE)
Thymic Origin of Intestinal αß T Cells Revealed by Fate Mapping of RORγt+ Cells
   Gérard Eberl and Dan R. Littman
p. 248-251.

コンデンシンDNA(Condensin DNA)

細胞分裂時に染色体が正確に分離されるよう、すべての生物体は自分の染色体をコ ンパクトな構造に凝縮する。この凝縮を行なうタンパク質の機構は高度に保存され ているもので、コンデンシンと呼ばれている。コンデンシンは、構造維持染色 体(SMC - Structural Maintenance Chromosomes)タンパク質ファミリのメンバーで あるが、このメンバーは姉妹染色分体の凝縮と遺伝子量補償にも関与する。コンデ ンシンの機能については殆ど知られていない。Caseたち(p 222;2004年6月3日にオ ンラインに出版した;Zhuangによる展望記事参照)は単一分子分析を用いて、細菌性 コンデンシンMukBEFによるDNA凝縮の機構を研究している。MukBEFによりDNA分子が 秩序正しく反復的なやりかたで凝縮されるが、エネルギ源としてヌクレオチド結合 が必要である。DNAとの非常に安定した相互作用は非凝縮状態(伸びた状態)でも維 持されている。コンデンシン分子はDNAに沿ってスライドすることはない。その代わ りに協同的に相互作用してDNAを折りたたむのである。(An,KF)
The Bacterial Condensin MukBEF Compacts DNA into a Repetitive, Stable Structure
   Ryan B. Case, Yun-Pei Chang, Steven B. Smith, Jeff Gore, Nicholas R. Cozzarelli, and Carlos Bustamante
p. 222-227.

魚の脊椎損傷を治す(Fixing Spinal Injury in Fish)

ヒトの脊椎損傷による悲劇は、脊髄ニューロンが再生できればずっと軽減されるこ とになるが、ヒトのニューロンはなかなかそうはなっていない。制約となっている 要因は、損傷を受けたニューロンについての内因性のものと、それを囲む中枢神経 系(CNS)組織についての外因性のものの両方がある。ゼブラ フィッシュでは、CNSが 一般的な抑制性の性質をさほどもっていないようだが、マウスナー・ニューロンは それでも確かには再生できない。Bhattたちはこのたび、cAMP(アデノシン3', 5'一 リン酸)をゼブラフィッシュのマウスナー・ ニューロンの細胞体に適用すると、そ の再生が引き起こされ、マウスナー・ニューロンに依存する行動性応答が復活する ということを見出した(p. 254)。(KF)
Cyclic AMP-Induced Repair of Zebrafish Spinal Circuits
   Dimple H. Bhatt, Stefanie J. Otto, Brett Depoister, and Joseph R. Fetcho
p. 254-258.

無脊椎動物の自己防衛(Self-Defense in the Spineless)

脊椎動物の免疫系の顕著な特徴は、免疫受容体遺伝子セグメントの体細胞性混 合(shuffling)によって、さまざまな抗原受容体からなる非常に大規模なレパートリ を産生する能力のあることである。無脊椎動物もまた免疫グロブリン・スーパー ファミリ(IgSF)のメンバーによってコードされたタンパク質をもっているが、それ らが受容体の多様性を生み出す同様の手段を進化させてきたかどうかは、さほど明 らかではない。ある種のカタツムリの免疫防御を探求することで、Zhangたちは、 フィブリノーゲン関連タンパク質遺伝子、すなわちFREPと名付けられた多様なIgSF 遺伝子を発見した(p. 251)。詳しい精査によって、FREP多様性が、脊椎動物におけ る抗体多様性を生み出すのを助ける2つの仕組み、点変異と遺伝子変換類似のプロセ スとによって生み出されることが明らかになった。(KF)
Diversification of Ig Superfamily Genes in an Invertebrate
   Si-Ming Zhang, Coen M. Adema, Thomas B. Kepler, and Eric S. Loker
p. 251-254.

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