AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 7, 2004, Vol.304


RNAの命令に応じる金属の行進(Metals March to RNA's Orders)

多くの無機物と半導体の成長形態は、核形成を変えたり、あるいは異なる結晶面の 相対的な成長速度に影響を与える小さな有機化合物やペプチドを用いて制御でき る。結晶成長を制御する核酸の例、あるいは金属粒子成長を制御する例はほとんど ない。Gugliottiたち(p. 850)は、修飾RNA分子の大ライブラリーを創り、通常は立 方体であるパラジウム粒子の結晶成長部をマイクロメートルスケールの薄い六方晶 系結晶粒へ変えるRNAを選定した。5つのファミリーにグループ化されるRNAは、室 温において前駆体の希釈水溶液中でこのような効果を発揮した。(hk)
RNA-Mediated Metal-Metal Bond Formation in the Synthesis of Hexagonal Palladium Nanoparticles
   Lina A. Gugliotti, Daniel L. Feldheim, and Bruce E. Eaton
p. 850-852.

表面張力波を起こす(Doing the Capillary Wave)

ある液体とそれの蒸気の間の界面のように、二つの流体間の界面は滑らかなように 見えるが、熱的な揺動により、不可避的に界面が動的な凹凸を持つようになる。こ れらの表面張力波は、短時間スケールで広い範囲にわたる局所運動により引き起こ されるため、ある気液の系に対して、実空間では研究することができない。代わり に、それらは、散乱技術により観察されてきている。Aarts たち (p.847) は、走査 レーザー共焦点顕微鏡を用いて、分子流体に対する一つのモデルとなるようなコロ イド-高分子系における実空間での界面の揺動を追跡した。揺動は単一粒子レベルま で観察された。(Wt)
PHYSICS:
Colloids as Big Atoms

   Wilson Poon
p. 830-831.
Direct Visual Observation of Thermal Capillary Waves
   Dirk G. A. L. Aarts, Matthias Schmidt, and Henk N. W. Lekkerkerker
p. 847-850.

死への出発点(Threshold for Death)

細胞死やアポトーシスに導く信号伝達経路を活性化するプロテアーゼであるイニシ エータ、caspaseの制御は細胞の生死を文字通り決定する。caspase-2の制御が遺伝 毒性のストレスを誘発する抗癌剤への応答という、特に重要な死への応答にかか わっている。TinelとTschopp(p. 843)は、caspase-2がPIDDosomeと呼ばれるタンパ ク質複合体の一部として活性化されることを報告している。PIDDは腫瘍サプレッ サーp53へ応答して発現するタンパク質であり、PAIDDと呼ぶアダプタータンパク質 と相互作用し、続いてPAIDD がcaspase-2に結合する。細胞中に発現する少量のPIDD の増加により、caspase-2の活性化をもたらし、細胞の遺伝毒性薬剤ドキソルビシン への感受性を高める。(KU)
The PIDDosome, a Protein Complex Implicated in Activation of Caspase-2 in Response to Genotoxic Stress
   Antoine Tinel and Jürg Tschopp
p. 843-846.

ダイヤモンドが歴史の手がかり (The Low Down on Old Diamonds)

ダイヤモンド中の不純物から、そのダイヤモンドが存在していた岩石の起源につい て知る事ができる。Cartignyらは(p. 853)カナダのNunavutにあるAkluilakミネッ ト岩脈から採取されたマイクロダイヤモンドには高濃度の窒素原子(unaggregated nitrogen)および窒素同位体が存在している事をつきとめた。これらの結果は、ダ イヤモンドが存在していた岩石がかつて地中深くに沈み込み、高温高圧下にさらさ れた後、18億年前に生じたミネットマグマと共に地表に噴出されたことを示唆して いる。これまで6億年前と考えられていた沈み込み帯活動が18億年前に既に生じてい たことが示された。(NK)
Early Proterozoic Ultrahigh Pressure Metamorphism: Evidence from Microdiamonds
   Pierre Cartigny, Ingrid Chinn, K. S. Viljoen, and Derek Robinson
p. 853-855.

恐怖に関する順応性の記憶(Malleable Memories of Fear)

思い出させるような刺激による記憶の呼び戻しは、その記憶を活性な、かつ不安定 な状態にもたらし、それを経由して不活性な、安定した状態へと再び固定する。こ のような記憶に関する細胞での固定は、単に整理統合に関与する事象の発生反復で あるのか、或いはもっと複雑なプロセスが作用しているのだろうか(Izquierdoと Cammarotaによる展望記事を参照)?Leeたち(p. 839)は、転写制御因子Zif268ではな く、脳-由来の神経栄養性因子(BDNF)が海馬内で文脈的な恐怖の条件づけに関する整 理統合に必要であることを示している。Franklandたち(p. 881)は、恐怖に関する記 憶処理には複数の皮質領域の活性化が関与していることを示している。短期記憶よ りも、長期記憶のテストの後で皮質がより大きく活性化した。この結果は、時を越 えての皮質に関する更なる重要な役割と一致している。文脈的記憶や情動的記憶の 処理に関与する前側帯状皮質は文脈的な恐怖の条件づけに関する長期記憶に決定的 な役割を果たしている。(KU)
The Involvement of the Anterior Cingulate Cortex in Remote Contextual Fear Memory
   Paul W. Frankland, Bruno Bontempi, Lynn E. Talton, Leszek Kaczmarek, and Alcino J. Silva
p. 881-883.
Independent Cellular Processes for Hippocampal Memory Consolidation and Reconsolidation
   Jonathan L. C. Lee, Barry J. Everitt, and Kerrie L. Thomas
p. 839-843.
NEUROSCIENCE:
Zif and the Survival of Memory

   Iv)B疣 Izquierdo and Mart? Cammarota
p. 829-830.

銅を含む酵素の構造(Structure of Copper-Containing Enzymes)

を含む酵素は数多くの生物学的プロセスにおいての役割を果たしている。ペプチド ホルモンや神経ペプチドのアミド化に必須な一つのステップとしてO2の 還元を触媒するpeptidyl-arpha-hydroxylating monoxygenase(PHM)と地球化学的 な窒素循環に関与する亜硝酸還元酵素という二つの例がある。銅に結合した2原子分 子を持つ酵素中間体の原子構造を得ることが難しく、銅を含む酵素のメカニズムの 理解が遅れている。しかしながら、二つの研究が新たな洞察を与えている。Prigge たち(p. 864)は、PHMに関する銅-O-複合体の1.85オングストロームでの構造を報告 し、Tocheveたち(p. 867)は、亜硝酸還元酵素に関して銅に結合した一酸化窒素との 1.3オングストロームでの構造を報告している。(KU,Ej)
Side-On Copper-Nitrosyl Coordination by Nitrite Reductase
   Elitza I. Tocheva, Federico I. Rosell, A. Grant Mauk, and Michael E. P. Murphy
p. 867-870.
Dioxygen Binds End-On to Mononuclear Copper in a Precatalytic Enzyme Complex
   Sean T. Prigge, Betty A. Eipper, Richard E. Mains, and L. Mario Amzel
p. 864-867.
BIOPHYSICS:
Catching Copper in the Act

   Nermeen W. Aboelella, Anne M. Reynolds, and William B. Tolman
p. 836-837.

深いところでの相変化(Deep Phase Transformation)

ペロフスカイトは下部マントルにおける支配的な無機質相であると考えられてい る。Murakamiたち(p. 855)は、マグネシウムペロフスカイトに関するdiamond anvil を使った実験を行い、6配位シリコン構造と、8配位マグネシウム構造への 変化を見出した。その構造はシリカ8面体が稜や頂点を共有し、稜と頂点を共有し ているシート状に積層したチェインを形成している。この相変化は125ギガパスカ ル、及び2500ケルビン以上で起こっており、これは約2700kmの深さに対応するもの である。この深さは下部マントルの底部近傍であり、地震波データによりコアとマ ントル界面における不均一なD"層としてしられている。この新たな変化後のペロフ スカイト相の弾性特性と密度特性はD媒層の地震波特性と一致している。(KU,Ej,tk)
GEOPHYSICS:
A New Paradigm for Earth's Core-Mantle Boundary

   Edward J. Garnero
p. 834-836.
Post-Perovskite Phase Transition in MgSiO3
   Motohiko Murakami, Kei Hirose, Katsuyuki Kawamura, Nagayoshi Sata, and Yasuo Ohishi
p. 855-858.

シグナル伝達三兄弟(A Signaling

神経成長因子(NGF)などのニューロトロフィンは分泌型の成長因子であり、2種類 の受容体、p75ニューロトロフィン受容体およびTrk受容体チロシンキナーゼへの結 合を介して、脊椎動物の神経系の発生と維持に幅広い役割を果たしている。ニュー ロトロフィンは二量体として存在し、そしてTrkのリガンド結合ドメインに対して結 合したNGF(ニューロトロフィンの一種)の結晶構造は、2:2複合体を備えている。 これらのことから、受容体の二量体化が、活性化メカニズムに関与している可能性 が示唆される。HeとGarcia(p. 870)はここで、p75の細胞外ドメインに結合した NGFの構造を、2.4 AAの解像度で決定した。その構造において、NGF二量体は、1分子 のp75単量体に結合し、このアロステリック結合のために、2分子目のp75が結合でき なくなる。このように、シグナル伝達は、p75二量体の分解を介して生じる可能性が あり、このことはNGF-p75複合体が潜在的に、Trk受容体に作用して、そのシグナル 伝達を変調させることができる。(NF)
STRUCTURAL BIOLOGY:
Enhanced: The p75 NGF Receptor Exposed

   Niccol)B.Zampieri and Moses V. Chao
p. 833-834.
Structure of Nerve Growth Factor Complexed with the Shared Neurotrophin Receptor p75
   Xiao-lin He and K. Christopher Garcia
p. 870-875.

炎症性疼痛のプロセッシング(Processing Inflammatory Pain)

痛覚過敏、すなわち痛みに対する過剰な感受性は、もっぱら末梢侵害受容 器(nociceptor)の感受性の増大が原因であると考えられてきた。しかしながら、 疼痛性刺激の中枢性プロセッシングの変化、特に脊髄の後角における変化も、また 重要な役割を果たしている。Harveyたち(p. 884)は、α3受容体サブタイプを含有 するグリシン受容体が、脊髄のプロスタグランジン-誘導性炎症反応の主要な分子標 的であることを示した。さらに、プロスタグランジンによるグリシン作動性神経伝 達の阻害は、より後期の段階の炎症性疼痛に対する感受性の増大の原因であ る。(NF)   
NEUROSCIENCE:
Locating a New Step in Pain's Pathway

   Jean Marx
p. 811.
GlyR alpha 3: An Essential Target for Spinal PGE2 -Mediated Inflammatory Pain Sensitization
   Robert J. Harvey, Ulrike B. Depner, Heinz Wässle, Seifollah Ahmadi, Cornelia Heindl, Heiko Reinold, Trevor G. Smart, Kirsten Harvey, Burkhard Schütz, Osama M. Abo-Salem, Andreas Zimmer, Pierrick Poisbeau, Hans Welzl, David P. Wolfer, Heinrich Betz, Hanns Ulrich Zeilhofer, and Ulrike Müller
p. 884-887.

古い旧世界のハチドリ(Old Old-World Hummingbirds)

ハチドリは新世界にのみ生息し、南アメリカにその起源を発すると考えられてい る。ハチドリの化石の記録がわずかしか存在しないため、我々はハチドリの進化の 歴史を理解することができなかった。Mayr(p. 861)は、漸新世の時期のドイツに 起源を発する、よく保存された一連のハチドリの骨格を発見したことを報告してい る。この新種、Eurotrochilus inexpectusは、長く狭い嘴(くちばし)と特徴的な ハチドリの翼の骨格を持ち、ホバリングして花蜜を吸うことができたようである。 このように、鳥類と花の共進化は、この時期までさかのぼることができた。これら の結果から、ホバリングする鳥類の花粉媒介者に対して適応したと思われる、旧世 界における花の存在を説明することもできる。(NF)
BIRD EVOLUTION:
Surprise Hummingbird Fossil Sets Experts Abuzz

   Erik Stokstad
p. 810-811.
UNDERGRADUATE SCIENCE:
Harvard Joins Reform Movement

   Andrew Lawler
p. 810.
Old World Fossil Record of Modern-Type Hummingbirds
   Gerald Mayr
p. 861-864.

前頭葉前部の皮質中のセロトニン(Serotonin in the Prefrontal Cortex)

前脳のセロトニン(5-HT)系は、いくつかの神経精神医学的変調の病因や治療との関 連が指摘されてきた。それらの中には、強迫性障害、精神分裂病、ある種の薬物乱 用による認知性続発症が含まれている。しかし、局部選択的にセロトニンを枯渇さ せた場合の影響についての研究は今までなかった。Clarkeたち(p. 878)は、前頭葉 前部皮質内で選択的に5-HTを枯渇させた場合の行動について調べた。その結果、マ モセット サルの前頭葉前部の 5-HT 枯渇によって、精神分裂病や強迫性障害患者が 連続的視覚弁別逆転課題において見せる、比較的特異な、柔軟性の欠如した行動が 見られた。(Ej)
Cognitive Inflexibility After Prefrontal Serotonin Depletion
   H. F. Clarke, J. W. Dalley, H. S. Crofts, T. W. Robbins, and A. C. Roberts
p. 878-880.

利子を消費する(Consuming Interest)

河川によって海に運ばれる有機炭素の運命については良くわかってない。研究によ ると陸成の分解有機炭素(tDOC)は、大陸の淵に沿って、それ以上変質しないで、あ まり混合もしない。また、そのまま深海に集積するのでもなく、深海と大陸淵の中 間で無機炭素として再鉱物化されるらしい。この未知の部分は、沿岸流による急速 な物質運送の測定の難しさや、その物質変遷の直接観察の困難さから、充分な理解 がなされていなかった。Hansellたち(p. 858) は、西部北極海のBeaufort Gyre中で 進行するtDOCのゆっくりした変化の計測結果を示した。この海洋の排水処理系は全 地球の土壌有機物炭素収支の過半数を占めると見られている。この海域では表面水 は約20年間もの滞留期間があることを利用して,tDOCの半減期は約7年であると算 出した。その結果、河川によって北極海に供給されるtDOCの1/3以下が、北大西洋に 到着するまで壊れずに存在していること、そして、ほとんどの物質は北極海で鉱物 化されることが解った。(Ej)
Degradation of Terrigenous Dissolved Organic Carbon in the Western Arctic Ocean
   Dennis A. Hansell, David Kadko, and Nicholas R. Bates
p. 858-861.

生物学的振動の生成(Generating Biological Oscillations)

生物学的な振動が自然界には存在する;しかし、この振動現象の根底にある分子的 回路については解明が進んでいない。このような振動の例として見つかったのが発 生中の粘菌Dictyosteliumのサイクリックアデノシン一燐酸(cAMP)の周期的パルスで ある。この振動の成分にはcAMP受容体、アデニリルシクラーゼ、細胞外 ホスホジエ ステラーゼ,、細胞内ホスホジエステラーゼ、cAMP-依存性タンパク質キナーゼ、そ して分裂促進因子-活性化タンパク質(MAP)キナーゼ4などが含まれる。Maeda た ち(p. 875) は更に回路に関する解明を進め、ホスホジエステラーゼ RegAが直接MAP キナーゼERK2のリン酸化活性によって直接制御されていることを示すための、もっ と詳しい実験データを示した。シミュレーションによれば、この回路は振動を保持 するだけの期間、有効であることが示された。(Ej,hE)
Periodic Signaling Controlled by an Oscillatory Circuit That Includes Protein Kinases ERK2 and PKA
   Mineko Maeda, Sijie Lu, Gad Shaulsky, Yuji Miyazaki, Hidekazu Kuwayama, Yoshimasa Tanaka, Adam Kuspa, and William F. Loomis
p. 875-878.

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