AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 14, 2004, Vol.304


アスファルトの上を走る(Running on Asphalt)

生物共同体(群生生物)は、深海の様々な環境で形成され特に中央海嶺の熱水シス テムと最も関わりが深いが、他にも大陸縁辺部における熱水の噴出孔(vents)やしみ 出し(seeps)、そして海洋地殻の海嶺軸からはずれた噴出地域がある。生物共同体 (群生生物)はまた、クジラの死骸のような他の食物供給源とも関連して局所的に 発生する。MacDonaldたち(p.999)は、生物に食物を供給する別のプロセス、深海の アスファルト火山活動を記述する。メキシコ湾南部で流動する固形化したアスファ ルトの広い地域は深海の生物相を支えている。この地域での石油産出に伴うアス ファルトは、冷却に際して明瞭な節理ができるほどの高い温度で海床の上に噴き出 し、海水に触れて固化した。アスファルト火山地帯におけるこうしたプロセスは、 メキシコ湾の深海底で広く起こっており、おそらく大量の石油源を伴う他の地域で も同様であろう。(TO,nk)
Asphalt Volcanism and Chemosynthetic Life in the Campeche Knolls, Gulf of Mexico
   I. R. MacDonald, G. Bohrmann, E. Escobar, F. Abegg, P. Blanchon, V. Blinova, W. Brückmann, M. Drews, A. Eisenhauer, X. Han, K. Heeschen, F. Meier, C. Mortera, T. Naehr, B. Orcutt, B. Bernard, J. Brooks, and M. de Faragó
p. 999-1002.

緩く結合した液体状態の水?(Loosely Connected Liquid Water? )

氷の塊において、その塊の中の水分子は、四面体状に配位しており、ドナーおよび アクセプターの両方の水素結合を形成している。しかし、表面の分子は、ひとつの フリーなO-H 基を有している。Wernet たち (p. 995) は、X線吸収端近傍微細構造 分光法と非共鳴X線ラマン散乱とを用いて液体の水を研究し、多くの分子(80% から 85%) は、氷の表面のものと非常に似ていることを見出した。それらは、ひとつの強 力なドナーとひとつの強力なアクセプターの水素結合を形成している。残りは四面 体状に配位している。これらの発見は、以前のX線および中性子線散乱研究と一致 するものであるが、液体相においては四面体状の結合が広範囲に広がっているとい う最近のシミュレーション研究とは一致しないように見える。(Wt)
CHEMISTRY:
New Insights into the Structure of Water with Ultrafast Probes

   Yan Zubavicus and Michael Grunze
p. 974-976.
The Structure of the First Coordination Shell in Liquid Water
   Ph. Wernet, D. Nordlund, U. Bergmann, M. Cavalleri, M. Odelius, H. Ogasawara, L. Å. Näslund, T. K. Hirsch, L. Ojamäe, P. Glatzel, L. G. M. Pettersson, and A. Nilsson
p. 995-999.

流路の連結した大きな孔を持つゼオライト(Linking Channels in Large-Pore Zeolites)

ゼオライトの孔をより大きくすることができれば、石油中に存在する大きな炭水化 物の処理において、ゼオライトの有用性が高まるであろう。大きな孔を持つゼオラ イトは数多く知られてはいるが、しかしながらお互いに交わることのない一次元の 流路系であり、このことが拡散を規制することになる。Paillaudたち(p. 990)は 有機物鋳型に基づいたゼオライトの合成において、ケイ素と同様にゲルマ ニウムの 取り込みが大きな孔を持つ二次元流路のネットワークを含んだ熱的に安定な物質へ と導くことを報告している。(KU)
Extra-Large-Pore Zeolites with Two-Dimensional Channels Formed by 14 and 12 Rings
   Jean-Louis Paillaud, Bogdan Harbuzaru, Joël Patarin, and Nicolas Bats
p. 990-992.

高級炭化水素への熱水反応経路(Hydrothermal Routes to Higher Hydrocarbons)

工業的にFischer-Tropsch合成法として知られているプロセスは、高温で鉄-コバル ト触媒を用いた液体反応により炭素(石炭)や一酸化炭素から高級炭化水素を作るの に用いられている。地球内部でも、このような反応により高級炭化水素が作られて いる可能性があるのかどうかは(及び、いかなる場所で)不確かであっ た。FoustoukosとSeyfried(p. 1002)は、鉄-クロム無機物(例えば、クロマイト)が 典型的な熱水の液体からプロパンを作る反応の触媒作用をしていることを示してい る。似たような反応が海洋地殻のより深い層の内部でも起こっていることが考えら れ、熱水噴出孔へ高級炭化水素を供給して、そこでの特有の生物群集への食料とし て役立っていた可能性がある。(KU)
GEOCHEMISTRY:
Life's Chemical Kitchen

   Barbara Sherwood Lollar
p. 972-973.
Hydrocarbons in Hydrothermal Vent Fluids: The Role of Chromium-Bearing Catalysts
   Dionysis I. Foustoukos and William E. Seyfried, Jr.
p. 1002-1005.

呼吸するたびに・・(Every Breath You Take)

数十年にわたる集中した研究にも関わらず、人間の健康に最も大きくダメージを与 える都市大気汚染の構成要素はよく判っていない。過去の調査では、近くに大きな ハイウエーがある工業地域の環境大気にマウスを10週間晒したことにより、田園環 境のマウスに比べ2倍の生殖系列(germline)の突然変異が発生したことが示された。 高性能な微粒子エアフィルタを使った研究を繰り返すことで、Somersたち(p.1008) は、空気で運ばれる粒状物質--多環式芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons)のような有毒化学物質が、多くの場合付着した煤や埃の微細で呼吸に より吸い込まれる微粒子が突然変異原の犯人であると突き止めた。微粒子大気汚染 が類似したヒトに対する遺伝子的リスクであると主張しえるかどうかは、まだ明白 ではなく今後の研究に委ねられる。(TO)
BIOMEDICINE:
Do Airborne Particles Induce Heritable Mutations?

   Jonathan M. Samet, David M. DeMarini, and Heinrich V. Malling
p. 971-972.
Reduction of Particulate Air Pollution Lowers the Risk of Heritable Mutations in Mice
   Christopher M. Somers, Brian E. McCarry, Farideh Malek, and James S. Quinn
p. 1008-1010.

食胞成熟の制御(Regulating Phagosome Maturation)

Toll様受容体(TRL: Toll-like receptors)が、病原体の認識において重要な役割を 果たしている。このたびBlanderとMedzhitovは、TRLのそれ以外の役割について示唆 している(p. 1014)。それは、細胞が細菌などの巨大な粒子を包み込むプロセスであ る食作用を制御することである。TRL情報伝達が、空間的に限定された情報伝達経路 を介して、マウスのマクロファージにおける食胞成熟(phagosome maturation)と食 胞リソソームの融合(phagolysosomal fusion)を制御していることが見出された。そ の積荷の性質が食胞の運命を決定しているらしく、病原体とアポトーシス性の細胞 は異なった成熟モードにある別々の食胞へと運ばれるのである。(KF)
IMMUNOLOGY:
The Bell Tolls for Phagosome Maturation

   Colin Watts
p. 976-977.
Regulation of Phagosome Maturation by Signals from Toll-Like Receptors
   J. Magarian Blander and Ruslan Medzhitov
p. 1014-1018.

海岸がCO2 を取り除く(The Coast Is Clearing CO2)

大気中のCO2が吸収される量が、沿岸領域では不釣合いなほど高いこと は以前の研究から示されていたが、これらの研究はすべての季節にわたる計測に基 づいたものではなかった。Thomas たち(p. 1005) は北ヨーロッパ大陸棚地域の北海 での年間にわたる大気から海洋へのCO2の大規模な流量計測実験を実施 した。その結果、北海では、単位面積当たり海洋全体の平均よりも約3倍も多い CO2を吸収しており、この吸収したCO2の95%を北大西洋に 送り出す、驚くほど効率的なポンプであることが分かった。これらのデータの外挿 から、沿岸部の海洋では全世界で、海洋が吸収するCO2の20%を取り除 いていることになる。(Ej,nk)
Enhanced Open Ocean Storage of CO2 from Shelf Sea Pumping
   Helmuth Thomas, Yann Bozec, Khalid Elkalay, and Hein J. W. de Baar
p. 1005-1008.

赤の女王、危うし(Limiting the Red Queen's Domain?)

赤の女王仮説(Red Queen hypothesis)は、ある種が相互作用性の種の進化により 生み出される適応地形のシフトに対応して、より迅速に進化することができるメカ ニズムとして、性の進化を説明する。性が存在することにより、種ができるだけ早 く"走る"ことができるようになり、そして周囲の種に遅れを取らないようにする補 助となりうる。赤の女王仮説は広く人気があるにもかかわらず、その一般的な理論 的基礎は、まだできあがっていない。分析的方法と数値的方法とを組み合わせ て、OttoとNuismer(p. 1018)は、様々な一連の共進化的遺伝システム、生態学的 相互作用のタイプ、およびパラメータ値を横断的に、赤の女王仮説を調べた。彼ら は、ほとんどの場合に、赤の女王だけでは性の進化および組換えを促進することが できないことを見いだした。(NF)
訳注:赤の女王仮説(Red Queen hypothesis) 「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王がアリスに「同じ場所に留まるためには、 力の限り走らねばならぬ」と言ったという一節から命名されたもの。ある種の環境 は、周囲の種が進化し続けているために、絶えず悪化しているため、進化論的な意 味で「その場所」に留まるためには、全速力で走り続けるかのように、持続的に進 化を続けていかなければならず、それがあらゆる生物に同時に起きているという 説。
Species Interactions and the Evolution of Sex
   Sarah P. Otto and Scott L. Nuismer
p. 1018-1020.

サブユニット、シナプスの秘密を暴く(Subunits Solve Synaptic Secret)

神経科学者は、同一の受容体がシナプス伝達効率において、時には長期増強(LTP) を生みだし、そして時には長期抑圧(LTD)を生み出すという相対立する変化を媒介 することができる、という難問に、長い間取り組んできた。Liuたち(p.1021)は、 異なるサブユニット組成を有するN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体のサブ タイプが関与する、機械論的に別個な2種類の可塑性メカニズムが存在することにつ いての証拠を、海馬脳切片において見いだした。LTPには、NR2Aサブユニットを含有 するNMDA受容体が必要とされ、一方LTDにはNR2Bを含有するNMDA受容体が必要とされ る。その結果から、可塑性における局部的な相違についての論理的根拠およびシナ プス変化の極性における発生的変化についての論理的根拠が生み出される。(NF)   
NEUROSCIENCE:
Controlling the Ups and Downs of Synaptic Strength

   Tim Bliss and Ralf Schoepfer
p. 973-974.
Role of NMDA Receptor Subtypes in Governing the Direction of Hippocampal Synaptic Plasticity
   Lidong Liu, Tak Pan Wong, Mario F. Pozza, Kurt Lingenhoehl, Yushan Wang, Morgan Sheng, Yves P. Auberson, and Yu Tian Wang
p. 1021-1024.

ショウジョウバエの記憶(Memory Consolidation in Drosophila)

ショウジョウバエにおける多数の様々な記憶について、最近記載されている。しか しながら、これら記憶間の関連性は、まだ完全には明らかになっていない。ショウ ジョウバエの定着記憶には、短期型の麻酔耐性記憶(ARM)および安定な長期記 憶(LTM)という2種類の型が存在することが明らかになっているが、Isabelた ち(p. 1024)は、長期記憶(LTM)条件付けが、十分に確立されている定着記憶の 一つである麻酔耐性記憶(ARM)の消長を引き起こすことを示した。この知見は、 ショウジョウバエにおける記憶定着の受け入れられているモデルとは相反するもの であり、そしてこのことは、相互に排他的な2種類の型の定着記憶が存在することを 示唆している。(NF)
Exclusive Consolidated Memory Phases in Drosophila
   Guillaume Isabel, Alberto Pascual, and Thomas Preat
p. 1024-1027.

鏡の向こう側(Through the Looking Glass?)

人間の認知の発達にはかなりの長い時間を要するが、しかしながら無限に近い、か つ努力もせずに多様なスキルや柔軟な学習能力が得られる。このレパートリの理解 を可能にしたのは、いくつかのケースで、脳障害や病により引き起こされた欠陥の 研究によるものであった。DeLoacheたち(p. 1027)は、子供における大きさに関する 誤解の観察によって、視覚運動適格性の成熟を評価する方法を採用している。正常 に発育している幼児(18ヶ月から30ヶ月の子供)たちが、時々子供の身体と対象とす る物体との相対的な大きさに極端な差があるため不可能と思える行為を行おうとし ていることが観察された。例えば、その幼児は人形の家の椅子に座ろうとしたり、 或いは人形の着物を着ようとしたりする。このような解離は、認知と行為の基本と なる神経性と機能性の異なる視覚系を持つているという二重プロセス理論と一致す る。(An)
Scale Errors Offer Evidence for a Perception-Action Dissociation Early in Life
   Judy S. DeLoache, David H. Uttal, and Karl S. Rosengren
p. 1027-1029.

細菌の細胞周期の制御(Controlling the Bacterial Cell Cycle)

細胞周期の進行には、多様なタンパク質制御因子の協奏的な作用を必要とす る。Holtzendorffたち(p. 983)は、細菌Caulobacter crescentusにおいてGcrAとい う包括的な細胞周期制御因子を同定した。GcrAは、CtrAという以前に知られたマス ター制御因子との振動性回路を生成する。GcrAとCtrAはお互いに直接的に制御して おり、そこでは細胞周期中のGcrAとCtrAの濃度が,相にかかわらず(out of phase)時 間的、空間的に振動し、細胞周期の進行と極性分化因子の発現をもたらす。(An)
Oscillating Global Regulators Control the Genetic Circuit Driving a Bacterial Cell Cycle
   Julia Holtzendorff, Dean Hung, Peter Brende, Ann Reisenauer, Patrick H. Viollier, Harley H. McAdams, and Lucy Shapiro
p. 983-987.

粒子を流しながら濃縮(Concentrating After a Series of Moves)

サイズ排除(ゲル濾過)クロマトグラフィとか、電気泳動法のような粒子分離手法 のほとんどは、粒子拡散現象による分離限界が存在する。たとえ移動する粒子の経 路長を選択的に変えたとしても、拡散効果によって各粒子は固有の経路長を持 つ。Huang たち(p. 987) は、流路中に柱列を何層か並べ、柱列層毎の間隙の位相を 順次ずらせた、柱列層を形成した。この各柱列層は流れの方向に対してわずかにず れている。流速が早くなると、間隙に比べて小さい粒径の粒子は、柱の間をジグザ グに進み、全体的には流れと同じ方向を保つ。これと対照的に、大きな粒径の粒子 は常に流路の片側に偏っており、柱に衝突する度に流路をずらせて行く。この分離 法は硬い物質にも柔らかい物質にも適用可能で、溶液中の粒子の濃縮にも使え る。(Ej,hE)
Continuous Particle Separation Through Deterministic Lateral Displacement
   Lotien Richard Huang, Edward C. Cox, Robert H. Austin, and James C. Sturm
p. 987-990.

伸縮の重要性(The Importance of Stretching)

分子と表面との反応において、その分子がどれほど速く表面に対して垂直方向に移 動するか(並進動力学的エネルギー)の重要性は、その反応がいかに速やかに遷移状 態から生成物を形成するに至るかに依存している。その関門が「遅い」、つまり遷 移状態が反応物より生成物に似ていれば、並進エネルギーは、エネルギーを振動 モードに注入することに比べてさほど重要でないこともある。Smithたちは、この非 統計学的状況が、メタンとニッケル(111)表面との反応において生じることを示して いる(p. 992)。ν逆対称伸縮状態でエネルギーを注ぎ込むことが、同じ量のエネル ギーを分子の速度を増加させることに注ぎ込むことよりも、メタンを分解するのに 効率的なのである。(KF)
Preference for Vibrational over Translational Energy in a Gas-Surface Reaction
   R. R. Smith, D. R. Killelea, D. F. DelSesto, and A. L. Utz
p. 992-995.

転写、染色質の構造、そして細胞周期(Transcription, Chromatin Structure, and the Cell Cycle)

保存された(conserved)転写制御因子TFIIDは、TATA結合タンパク質(TBP)と複数の TBP-関連因子(TAFs)とからなる多タンパク質複合体である。ショウジョウバエで は、活性化補助因子TAF1が2つのリン酸化酵素領域を含んでいるが、生体内における それらリン酸化酵素活性の基質が何であるかは知られていない。Maileたちはこのた び、TAF1のC末端領域がヒストンH2bをセリン33においてリン酸化することを示して いる(p. 1010)。TAF1の量を減少させるとH2bのリン酸化は消滅し、H2b関連の細胞周 期レギュレータの転写が減ることになり、細胞周期の静止が引き起こされるのであ る。(KF)
TAF1 Activates Transcription by Phosphorylation of Serine 33 in Histone H2B
   Tobias Maile, Simona Kwoczynski, Rebeccah J. Katzenberger, David A. Wassarman, and Frank Sauer
p. 1010-1014.

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