AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 11, 2003, Vol.301


多量の惑星?(A Plethora of Planets?)

天の川中のメシエ4球状星団中にある B1620-26 パルサーは、惑星オーダーの質量 の伴星と、恒星質量の伴星を有している。Sigurdsson たち (p.193; Irion による ニュース記事を参照のこと) は、ハッブル宇宙望遠鏡による観測結果と他のデータ を用いて、恒星質量の伴星が若い白色矮星であることを明らかにした。彼らは、こ の三重星の系の形成モデルを提出しており、このモデルによると、さまざまな相互 作用により惑星質量の伴星が破壊されることはなかったが、その伴星はより広大な 軌道に移されている。彼らの形成シナリオによると、惑星は、非太陽型の環境でも 予想されていた以上に、より一般的である可能性を示唆している。そして、力学的 相互作用により、惑星の残存可能性は実際のところ大きくなっているらしいことを 示している。(Wt)
ASTROPHYSICS:
Ancient Planet Turns Back the Clock

   Robert Irion
p. 151.
A Young White Dwarf Companion to Pulsar B1620-26: Evidence for Early Planet Formation
   Steinn Sigurdsson, Harvey B. Richer, Brad M. Hansen, Ingrid H. Stairs, and Stephen E. Thorsett
p. 193-196.

ニューギニアにおける初期の農業(Nascent Farms in New Guinea)

農業が個々の離れた場所で独立に発展したという明白な証拠は、ほんの少ししか見 つかってない: 肥沃な三日月地帯(The Fertile Crescent)と呼ばれる今日のイラ ンやイラク、或いは、中国であり、これにせいぜい新世界における三箇所を加えた もの程度:であろう。ニューギニアにも、既に別の中心地があったのではないのか? Denhamたち(p.189; Neumannによる展望参照)は、論議の中心である主要な地域の一 つである湿地帯のKuk Swampに関する様々な証拠を集め、その裏づけを取ることによ りこの問題を解決した。初期の居住者は10,000年ほど前にこの湿地帯の景観を変え るほどの改良を始めた。排水を良くするために溝を作ったり、土を盛り上げたりと いった大規模な改良、或いはサトイモやバナナの栽培が、別の人類の到着の遥か 前、少なくとも7,000年前に出現している。(KU)
ANTHROPOLOGY:
Enhanced: New Guinea: A Cradle of Agriculture

   Katharina Neumann
p. 180-181.
Origins of Agriculture at Kuk Swamp in the Highlands of New Guinea
   T. P. Denham, S. G. Haberle, C. Lentfer, R. Fullagar, J. Field, M. Therin, N. Porch, and B. Winsborough
p. 189-193.

静かに動き回る(Moving About Softly)

甲殻動物は固い外骨格と内部静水圧的骨格を交互にとる。カニは脱皮のたびに固い 甲羅を脱ぐが、水で膨らんだ軟らかい身体ですばやく動き回る。新たに脱皮した動 物の柔らかな角質では、動きに必要な力を支えることが出来ない。TaylorとKeir(p. 209;表紙参照)は、カニの脱皮の間に静水圧的骨格に変化することを実験的に示して いる。角質が硬くなると、カニは固い甲羅に戻る。このような骨格のタイプが変化 するという現象が、節足動物においては一般的に推定された以上に広範囲な現象で ある可能性がある。(KU)
Switching Skeletons: Hydrostatic Support in Molting Crabs
   Jennifer R. A. Taylor and William M. Kier
p. 209-210.

遅い光パルスをもたらすこと(Taking the Pulse of Slow Light)

原子アンサンブル(集団)中の光を蓄積しかつ引き出すことができれば、長距離量 子光学と長距離量子通信分野での利用が見つかるかもしれない(ScullyとZubairyに よる展望記事参照)。蓄積媒体の特性、特に帯域幅が情報キャリアつまりフォトン 特性に適合する系は以前から研究されていた。Van der Walたち(p.196)は最近それ らがルビジウム原子のアンサンブル内に光パルスを蓄積でき、その次にその記録さ れた情報を非常に短い再生パルスとして再生できることを示している。記録と再生 パルス間における数マイクロ秒の遅延後でさえ検出信号は相関を保っていた。遅延 線内でできるように、光ネットワークで遅い光を実現するには、現在まで使われて きた極低温での原子蒸気とか固体のような特殊な媒体ではなく、もっと普通に近い 伝送媒体で足りるようになるであろう。Bigelowたち(p. 200)は超遅く超明るい光の 伝播を室温中のアレキサンドル石内で実現できることを示している。さらに、彼ら は励起光の波長を変えるだけで、遅い伝播と早い伝播を切り替えることができ る。(hk)
Superluminal and Slow Light Propagation in a Room-Temperature Solid
   Matthew S. Bigelow, Nick N. Lepeshkin, and Robert W. Boyd
p. 200-202.
PHYSICS:
Playing Tricks with Slow Light

   Marlan O. Scully and M. Suhail Zubairy
p. 181-182.

クロロメタン収支のバランス(Balancing the Chloromethane Budget)

塩素触媒による成層圏のオゾン破壊の20%近くは、大気中最も量の多い含ハロゲン炭 素化合物であるクロロメタンが原因となっている。しかし、最近の大気収 支(atmospheric budgets)は、クロロメタン放出の50%から75%の発生源だけが原因 として特定できた。Hamiltonたち(p.206)は、多様な陸上環境におけるクロロメタン 生成を説明することができる、植物の種にも生態系にも依存しない、容易生じる非 生物的反応(facile abiotic reaction)について報告している。植物で一般的な組織 構成物であるペクチンは直ちに塩化物イオンと反応してクロロメタンを生成し、そ してこの反応は老化し風化した植物材中で、周辺環境温度において非生物的に起き る。著者たちの推定によると、このプロセスは大気収支に近けるに必要なクロロメ タンを、全てとは言わないまでもほとんどを形成する原因足りうること、そして焼 き畑農業の期間でのクロロメタン放出に対するメカニズムを与えることができ た。(TO)
Chloride Methylation by Plant Pectin: An Efficient Environmentally Significant Process
   John T. G. Hamilton, W. Colin McRoberts, Frank Keppler, Robert M. Kalin, and David B. Harper
p. 206-209.

病原体に合わせてチューニング(Tuning into Pathogens)

臨床サンプルや食べ物のような物の中から、迅速に病原体を見つけることに対する 需要は、バイオテロに対する恐怖や、なじみのある感染性疾患やなじみのない感染 性疾患出現によって、検出の緊急性が要求されるようになった。B細胞の病原体認識 に対する精巧な能力を利用してRiderたち(p. 213)はCANARYと称するバイオセンサー を作った。これは様々な形式の試料に対して、低レベルのウイルスや細菌を検出す ることができる。B細胞系列中のエクオリンと称するカルシウム感受性の高い生発光 タンパク質の発現を利用することで、膜抗体との病原体特異なクロスリンクの後、 迅速で特異性の高い発光シグナルが生成される。(Ej,hE)
A B Cell-Based Sensor for Rapid Identification of Pathogens
   Todd H. Rider, Martha S. Petrovick, Frances E. Nargi, James D. Harper, Eric D. Schwoebel, Richard H. Mathews, David J. Blanchard, Laura T. Bortolin, Albert M. Young, Jianzhu Chen, and Mark A. Hollis
p. 213-215.

転写制御因子Fox3aと生殖能力(Too Much, Too Soon)

哺乳動物の雌では、卵巣濾胞成長の開始が、各周期における成熟濾胞の発生を確実 にするようになんらかの形で制御されている。Castrillon たちは(p. 215)、Forkhead転写制御因子Foxo3aの欠乏している雌のマウスが性的成熟以前の卵 巣濾胞の過度の活性化により引き起こされる年齢関連性の生殖能力の喪失を示すこ とを明らかにした。これらの結果より、卵巣濾胞成長の開始を加速することが、女 性の不妊症の共通原因である、未成熟な卵巣の喪失を引き起こす可能性を示してい る。(Na)
Suppression of Ovarian Follicle Activation in Mice by the Transcription Factor Foxo3a
   Diego H. Castrillon, Lili Miao, Ramya Kollipara, James W. Horner, and Ronald A. DePinho
p. 215-218.

ノイズは止められない(Can't Stop the Noise)

電気的ノイズの測定は難しいことがあるが、高周波で生じるときはなおさらであ る。Deblockたちは、本質的には高感度の光子検出器である超伝導体-絶縁体-超伝導 体という構造のトンネル装置をベースにした汎用の雑音検出技法を導入して、それ を用いてメゾスコピック・システムによって生じた高周波ノイズを検出した(p. 203)。彼らは、量子計算で利用されるqubitとして提案されている、人工的な2レベ ルの系であるCooper対ボックスに関わるノイズの大きさを決定した。(KF)
Detection of Quantum Noise from an Electrically Driven Two-Level System
   Richard Deblock, Eugen Onac, Leonid Gurevich, and Leo P. Kouwenhoven
p. 203-206.

粘着性の状況(A Sticky Situation)

トロンビンと血小板の間の異常な相互作用は、血栓症や出血障害を引き起こすこと がある。2つの研究グループ、Celikelたち(p. 218)とDumasたち(p.222)は、トロン ビンに結合した血小板受容体糖タンパク質Ibα(GpIbα)のトロンビン結合領域の結晶 構造を決定した(Sadlerによる展望記事参照)。構造の両方は、GpIbαが2つのトロン ビン分子(ひとつはエキソサイトI(exosite I)によって、もうひとつはエキソサイト IIによって)と相互作用する点で同様であるが、GpIbαとトロンビンエキソサイトIと の相互作用部位が異なることを示している。Dumasたちは、この複合体が血小板接着 を起こすことを示唆する。これは、ひとつのトロンビン分子が2つの血小板表面にお ける受容体と結合することによって生じる。Celikelたちは、トロンビンがGp1b情報 伝達複合体の膜内のクラスタ形成を促進することを示唆している。(An)
MEDICINE:
Modulation of alpha-Thrombin Function by Distinct Interactions with Platelet Glycoprotein Ib-alpha

    Reha Celikel, Richard A. McClintock, James R. Roberts, G. Loredana Mendolicchio, Jerry Ware, Kottayil I. Varughese, Zaverio M. Ruggeri
p 218-221.
5-HT4(a) Crystal Structure of the GpIb-alpha-Thrombin Complex Essential for Platelet Aggregation
    John J. Dumas, Ravindra Kumar, Jasbir Seehra, William S. Somers, Lidia Mosyak
p. 222-226.

疼痛と呼吸(Pain and Breathing)

Pre-Boetzinger複合体(PBC)は、自発性の呼吸運動を生成し、制御する下位脳幹領域 である。Manzkeたち(p. 226; Couzinによるニュース記事参照)は、免疫細胞化学と 単細胞PCR(polymerase chain reaction)分析を用い、セロトニン4(a)[5-HT4(a)]受 容体はPBCにおける呼吸性ニューロンにおいて発現されることを示してい る。5-HT4(a)受容体作動薬を投与すると、オピオイド作動薬フェンタニルによって 誘起された呼吸抑制を減少したが、鎮痛性効果は減少しなかった。この効果は、2つ の異なる受容体システムの拮抗性相互作用が同じ細胞内情報伝達経路に集まるとい う説によって説明することができる。脊髄の後角ニューロンにおいて5-HT4(a)受容 体が存在しないことは、フェンタニルはこの条件下でも痛み止めとして作用するこ とを説明できる。(An)
MEDICINE:
A Sigh of Relief for Painkillers

   Jennifer Couzin
p. 150.
5-HT4(a) Receptors Avert Opioid-Induced Breathing Depression Without Loss of Analgesia
   Till Manzke, Ulf Guenther, Evgeni G. Ponimaskin, Miriam Haller, Mathias Dutschmann, Stephan Schwarzacher, and Diethelm W. Richter
p. 226-229.

決定と目的(Decisions and Goals)

直ちに利用可能な幅広い選択肢の中から、どのような行動を取るべきかを、脳はど のようにして決定しているのだろうか?Matsumotoたち(p. 229;Richmondたちによ る展望記事を参照)は、現時の目的に基づく運動性反応の選択についてトレーニン グされたサルの、内側および外側前頭葉前部皮質における単一ニューロンを記録し た。著者たちは、視覚的刺激、運動性行動反応、および報酬の間での連関を変化さ せた。内側前頭葉前部ニューロンは、外側前頭葉前部ニューロンと比べて、現時の 運動性反応と報酬の状態との組み合わせを反映した行動を示した。さらに、内側前 頭葉前部ニューロンはこれらの効果を、外側前頭葉前部ニューロンよりも早い段階 で示した。著者らは、内側前頭葉前部皮質が、行動-結果連関についての記憶を含有 して、その後意図する目的を達成する行動計画をひき起こすか、あるいは現時のタ スクの偶然性に基づいて試みられた多くの行動の中から一つを選択する、というこ とを示唆している。(NF)
NEUROSCIENCE:
Predicting Future Rewards

   Barry J. Richmond, Zheng Liu, and Munetaka Shidara
p. 179-180.
Neuronal Correlates of Goal-Based Motor Selection in the Prefrontal Cortex
   Kenji Matsumoto, Wataru Suzuki, and Keiji Tanaka
p. 229-232.

作動記憶と前運動皮質(Working Memory and the Premotor Cortex)

ニューロンのメカニズムの何が、一連の運動性行動を順番に並べる能力の背景にあ るのだろうか?Ohbayashiたち(p. 233)は、運動性の系列の記憶およびそのような 系列を行う順番についての指令刺激の記憶を伴う、複雑なパラダイムを実行するサ ル前運動皮質において、ニューロンを研究した。著者らは、そのような系列の感覚 性性状、指令刺激そのもの、指令刺激とそのような系列のとの相互作用、そしてタ スクの記憶力増進性状および動作性状の両方、に関連する活性を記載する。全体と しては、この領域におけるニューロンの反応は、認識-運動性行動の中心的要素を行 うために必要な全ての情報を伝達しているようである。著者らは、前運動皮質は、 作動記憶において保存された情報が任意の運動性出力に変換される部位である、と 結論づけている。(NF)
Conversion of Working Memory to Motor Sequence in the Monkey Premotor Cortex
   Machiko Ohbayashi, Kenichi Ohki, and Yasushi Miyashita
p. 233-236.

トリプトファン制御の二重の役割(A Double Dose of Trp Regulation)

アミノ酸合成は、細菌においては、アミノ酸自身がそれらに対応する転写RNA(tRNA) とともに産生を制御しているシステムによって、きびしく制御されている。たとえ ば、枯草菌(Bacillus subtilis)においては、トリプトファン(Trp)合成を制御する 機構に、TRAPと呼ばれる抗ターミネータータンパク質が含まれているが、これはTrp によって活性化されるものである。しかし、TRAPの活性は抗-TRAP(AT)と呼ばれるタ ンパク質によって弱められる。そこでは、ATの合成は、unchraged tRNATrpによって 誘導されているのである。ChenとYanofskyはこのたび、unchraged tRNATrpがまた、 リーダーペプチドコード配列中のタンデムに並んだTrpコドンを介してATの翻訳を制 御する、Trpオペロンについての別のレベルでの制御を示している(p. 211)。この機 構は、大腸菌における古典的なTrp減弱システムの名残りのようなものである。しか し、枯草菌におけるリーダーペプチドは、その効果を、大腸菌におけるように転写 の終結においてではなく、翻訳のレベルにおいて働かせるのである。著者たちは、 枯草菌システムを「調節性の洗練」と呼んでいるが、これはtRNATrpへの応答として ATの転写と翻訳の制御の双方を示しているためである。(KF)
Tandem Transcription and Translation Regulatory Sensing of Uncharged Tryptophan tRNA
   Guangnan Chen and Charles Yanofsky
p. 211-213.

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