AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science March 28, 2003, Vol.299


搾り出し(The Big Squeeze)

エトナ山の火山活動は、過去10年間網の目のようにめぐらされた計測器によって測定 されてきた。Pataneたち(p.2061)は、精密な地震データや測地データを最新の断層画像モ デルとと併せて、深度3〜5キロメートルにある浅いマグマ溜りの下にあるマグマの動きと 広がりを明らかにした。かれらの研究から、1994年から2001年までに、マグマは6から 15キロメートルの深さにある貫入岩体(dike)や岩脈(sill)の複雑なマグマの通り道 (conduit)を埋めていたことを示している。この複雑な通り道は水平面内のあらゆる方向 から加圧され、その結果マグマを浅い溜りに押し出し2002年11月に始まった激しい活動を 引き起こした。(TO,Og,Nk)
Magma Ascent and the Pressurization of Mount Etna's Volcanic System
   Domenico Patanè, Pasquale De Gori, Claudio Chiarabba, and Alessandro Bonaccorso
p. 2061-2063.

柔らかな光の下で生育する(Thriving Under Soft Light)

植物は、太陽の直接日射よりも散乱日射光(diffuse radiation)の方を効果的に使ってい る。1991年のピナツボ山噴火以降に火山性エアゾールが大気に放出されために散乱日射が 増加したことで、陸上の光合成を促進しただろうか。Guたち(p.2035)は、1992年と1993年 において、大気中の二酸化炭素の増加率が急激な下落が観測された時に北方広葉樹林( northern hardwood forest)の光合成活動を調査した。彼らは、ピナツボ山噴火と、生態 系呼吸量の低下ではなく光合成の増大により大きくなった陸上の炭素吸収量(carbon sink)とを関係付ける証拠を示す。(TO)
Response of a Deciduous Forest to the Mount Pinatubo Eruption: Enhanced Photosynthesis
   Lianhong Gu, Dennis D. Baldocchi, Steve C. Wofsy, J. William Munger, Joseph J. Michalsky, Shawn P. Urbanski, and Thomas A. Boden
p. 2035-2038.

光センサーを鋳型で形成する(Casting Call for Sensors)

特殊目的の光センサーの多くはフィルターを用いて必要な波長を選択する。これらのフィ ルターの一つであるルゲートフィルター(Rugate filter)は屈折率を連続的に変化させ 、好みの光学的干渉が得られるという特長を持つ。ルゲートフィルターは、多孔性シリコ ンを用いてその空隙率を変えることで屈折率の変更を可能にすることが出来る。Liたちは (p. 2045)、多孔性シリコン構造を鋳型にして高分子を形成することでルゲートフィルタ ーが作れることを示している。これらのフィルターは気体センターや自己報告性(self reporting)の薬物送達のための生物分解構造物などに用いることが出来る。(Na)
Polymer Replicas of Photonic Porous Silicon for Sensing and Drug Delivery Applications
   Yang Yang Li, Frédérique Cunin, Jamie R. Link, Ting Gao, Ronald E. Betts, Sarah H. Reiver, Vicki Chin, Sangeeta N. Bhatia, and Michael J. Sailor
p. 2045-2047.

振動するマグマ(Oscillating Magma)

火山の直下の火道やクラックで起きるマグマの活動は特徴的な地震波構造を示している 。つまりそれは、60秒以内で減衰していく0.2秒から2秒周期の調和振動である 。Kumagai(熊谷)たち(p. 2058)は、日本の八丈富士に広帯域の地震計測装置を設置して 、300秒以内で減衰する周期が10秒の調和振動を記録した。これらの大変長い時間周期の 事象の直後、群発地震と火山の頂上における表面変形が生じていた。頂上から下方約 5kmにある4km長の垂直方向のクラックが玄武岩マグマで埋まることをこれらの事象のモデ ルは示唆している。この玄武岩マグマは、火山地殻変動活動によって活性化される調和振 動をする。(hk,Og,Nk)
Magmatic Dike Resonances Inferred from Very-Long-Period Seismic Signals
   Hiroyuki Kumagai, Koji Miyakawa, Hiroaki Negishi, Hiroshi Inoue, Kazushige Obara, and Daisuke Suetsugu
p. 2058-2061.

干渉の積極的効果(Positive Interference)

RNA干渉(RNAi: RNA interference)は、遺伝子発現をさえぎり、その遺伝子の機能に関す る手がかりを与えると期待される表現型を作り出すために、しばしば用いられている 。Lumたちは、特定の情報伝達経路の新たな構成要素を素早くまた系統的に同定するため に、RNAiと培養ショウジョウバエ細胞を用いた高効率のゲノム-スケールのスクリーニン グ法を開発した(p. 2039; またCouzinによるニュース記事参照のこと)。この方法で 、Hedgehog情報伝達経路における新しいいくつかのポジティブあるいはネガティブなレギ ュレーターが同定されたが、そのうちのあるものは、無翅(Wingless)情報伝達経路にだけ 関わるものであった。機能的ゲノム学へのRNAiに基づくこのアプローチは、情報伝達機構 および経路間の調節性クロストークについてのより完全に近い見方を可能にするかもしれ ない。(KF)
RNA INTERFERENCE:
New Screen Nets 'Hedgehog' Genes

   Jennifer Couzin
p. 1961.
Identification of Hedgehog Pathway Components by RNAi in Drosophila Cultured Cells
   Lawrence Lum, Shenqin Yao, Brian Mozer, Alessandra Rovescalli, Doris Von Kessler, Marshall Nirenberg, and Philip A. Beachy
p. 2039-2045.

単離状態のアルミニウム水酸化物(Aluminum Hydride in Isolation)

単離状態のアルミニウム水酸化物(Aluminum Hydride in Isolation) ホウ素水酸化物は、水素の架橋結合により形成されるリング状あるいは籠状の化合物から なる大きな一族で構成されている。アルミニウム水酸化物の結合については、バルク状態 で延伸した高分子か、あるいは、マトリックス中でただ単離した AlH3 群の どちらかを形成する傾向があるため、その理解はいっそう不十分なものである。Andrews と Wang (p.2049) は、水素自体をマトリックスとして用いると、Al2 H 6 は単離可能であることを報告している。振動スペクトルは、Al2 H 6 は、確かに B 2 H 6 と同一構造であり、二重 に架橋した幾何形状を取ることを示している。(Wt)
The Infrared Spectrum of Al2H6 in Solid Hydrogen
   Lester Andrews and Xuefeng Wang
p. 2049-2052.

浮遊液滴から学ぶ(Lessons from Leviated Liquids)

流体理論では液体を連続体として取り扱っているが、一方力学の理論では液体をより短い 原子的レベルの長さで取り扱っている。この二つの理論間の境界における実験的束縛を与 えるために、Sinnたち(p .2047; Kiefferによる展望参照)は、液状酸化アルミニウムの溶 融塩において音波に見られるような集団励起を研究した。彼らは試料を容器に入れること なく空中に浮かし、そして高分解能の非弾性X-線散乱の測定を行なった。液体は流体力学 的には周波数-依存の粘性を持つものとして、他方、力学理論ではより剛体的挙動を持つ ものとして記述することが出来る。(KU,Nk)
MATERIALS SCIENCE:
Not Too Hot to Handle

   John Kieffer
p. 1998-1999.
Microscopic Dynamics of Liquid Aluminum Oxide
   H. Sinn, B. Glorieux, L. Hennet, A. Alatas, M. Hu, E. E. Alp, F. J. Bermejo, D. L. Price, and M.-L. Saboungi
p. 2047-2049.

不確かさを組み合わせると(Compounding Uncertainties)

化石燃料を燃やすことによる将来の地球温暖化についての複数の予測は、さまざまな種類 の大気汚染の影響に対して気候がどの程度の感受性をもっているかがかなり不確定である せいで、非常に大きな幅の値にばらついている。電力生産戦略についてのCaldeiraたちの 分析では、気候の感受性に対するCO2の影響の不確定度が3倍になると、大気 におけるCO2濃度の許容される増加の不確定度は8倍になり、許容できる CO2排出量の不確定度はさらに大きくなる、ということが示されている(p. 2052)。気候の感受性が低く、しかも気候変化の許容量が高くない限り、気候の安定化に は、炭素排出のないエネルギー技術への大幅な移行が必要になるであろう。(KF)
Climate Sensitivity Uncertainty and the Need for Energy Without CO2 Emission
   Ken Caldeira, Atul K. Jain, and Martin I. Hoffert
p. 2052-2054.

除草剤からヒトの薬物療法学へ(From Herbicides to Human Therapeutics)

アセチル-補酵素Aカルボキシラーゼ(ACC)は、脂肪酸生合成経路において重要な酵素であ り、肥満や糖尿病の薬剤のターゲットになっている。除草剤には、植物のACCのカルボキ シルトランスフェラーゼ(CT)領域を阻害するものもいくつかある。このたびZhangたちは 、酵母ACCのCT領域の構造を2.7オングストロームの分解能で決定した(p. 2064)。この領 域は二量体として存在していて、それぞれの単量体は、脂肪酸分解に関与する他の酵素と 同様のバックボーン・フォールドをもつ2つのサブ領域からなっている。その活性部位は 二量体インターフェースのところにある。この構造が、変異原性と動力学的研究とともに 、除草剤がCTのこの活性部位を標的としていることを示し、それによって薬物療法学の発 展を導くことになっているのである。(KF)
Crystal Structure of the Carboxyltransferase Domain of Acetyl-Coenzyme A Carboxylase
   Hailong Zhang, Zhiru Yang, Yang Shen, and Liang Tong
p. 2064-2067.

方向感覚(A Sense of Direction)

ニオイ物質受容体は、哺乳動物の精巣を含む、嗅覚系以外において見いだすことができる 。Spehrたち(p. 2054;Babcockによる展望記事を参照)は、ヒトの精子において、それ まで未知のニオイ物質受容体、hOR17を同定し、その特徴を明らかにした。彼らは 、hOR17のリガンドとアンタゴニストとを同定し、それらがヒトの精子の遊泳速度および 方向性に影響を与えることを明らかにした。走化性因子応答性および生殖能力は関連して いる可能性があることから、この研究は不妊性を理解しそして避妊薬を開発するための研 究に寄与することができるかもしれない。(NF)
DEVELOPMENT:
Smelling the Roses?

   Donner F. Babcock
p. 1993-1994.
Identification of a Testicular Odorant Receptor Mediating Human Sperm Chemotaxis
   Marc Spehr, Günter Gisselmann, Alexandra Poplawski, Jeffrey A. Riffell, Christian H. Wetzel, Richard K. Zimmer, and Hanns Hatt
p. 2054-2058.

自己の中の非自己なゲノム(Genomes We Carry with Us)

2種の胃腸内細菌、すなわち一方はヒト共生細菌であり他方は感染性細菌であるが、それ らのゲノム配列から、それらの細菌がどのようにしてヒトと相互作用することができるか 、あるいはどのようにしてヒトと対抗することができるか、という点についての洞察が示 される(GilmoreとFerrettiによる展望記事を参照)。Bacteroides thetaiotaomicronと いう重要なヒト消化管共生細菌のゲノムは、Xuたち(p. 2074)により配列決定された 。多数の遺伝子産物が、食餌性の植物多糖類を獲得しそして分解することに振り向けられ ており、それらがなければヒトは植物多糖類を消化することができない。Enterococcus faecalis V583は、感染対策の最後のとりで--バンコマイシンに対する耐性を含む、抗生 物質-耐性性の感染を引き起こす。Paulsenたち(p. 2071)は、そのゲノムの配列を決定 し、そして厳しい環境に対処するために適応していることを見いだした。彼らはまた、非 常に高い割合(ゲノムの25%以上)の移動性の要素(例えば移動性のDNAまたは外来性の DNA)が存在することを見いだした。そのうちのあるものはバンコマイシン耐性を他の病 原体への流布に関与している可能性がある。(NF)
Role of Mobile DNA in the Evolution of Vancomycin-Resistant Enterococcus faecalis
   I. T. Paulsen, L. Banerjei, G. S. A. Myers, K. E. Nelson, R. Seshadri, T. D. Read, D. E. Fouts, J. A. Eisen, S. R. Gill, J. F. Heidelberg, H. Tettelin, R. J. Dodson, L. Umayam, L. Brinkac, M. Beanan, S. Daugherty, R. T. DeBoy, S. Durkin, J. Kolonay, R. Madupu, W. Nelson, J. Vamathevan, B. Tran, J. Upton, T. Hansen, J. Shetty, H. Khouri, T. Utterback, D. Radune, K. A. Ketchum, B. A. Dougherty, and C. M. Fraser
p. 2071-2074.
A Genomic View of the Human-Bacteroides thetaiotaomicron Symbiosis
   Jian Xu, Magnus K. Bjursell, Jason Himrod, Su Deng, Lynn K. Carmichael, Herbert C. Chiang, Lora V. Hooper, and Jeffrey I. Gordon
p. 2074-2076.
MICROBIOLOGY:
The Thin Line Between Gut Commensal and Pathogen

   Michael S. Gilmore and Joseph J. Ferretti
p. 1999-2002.

ホスホリル伝達の中間体を掴む(Catching the Intermediates in Phosphoryl Transfer)

酵素系プロセスの多数は、水分子を用い無機リン酸塩をアデノシン二リン酸から開放する ことによって、ATPにおけるβ-γ-ホスホ無水物の結合に含まれているエネルギーを捕獲 する。この反応は、水による求核攻撃と五価リンを中心とする遷移状態によって進行する 。調節性プロセスの多くは、タンパク質キナーゼに依存するが、このキナーゼが同様の三 方両すい型遷移状態を通して末端ホスホリルグループをATPからアミノ酸受容器(セリン 、スレオニン、チロシン)へ伝達する。Lahiriたち(p 2067;Knowlesによる展望記事参照) は、酵素による安定化された五価リンの原子分解能写真を提供している。五価リンは、ホ スホグルコムターゼによって触媒されるホスホリル伝達反応の高エネルギー中間体である 。(An)
The Pentacovalent Phosphorus Intermediate of a Phosphoryl Transfer Reaction
   Sushmita D. Lahiri, Guofeng Zhang, Debra Dunaway-Mariano, and Karen N. Allen
p. 2067-2071.
CHEMISTRY:
Seeing Is Believing

   Jeremy Knowles
p. 2002-2003.

免疫防御の欠陥を解明(Revealing Flaws in Immune Defenses)

生得的炎症性信号に応じて、Toll様な受容体とインターロイキン-1受容体は、IL-1受容体 関与キナーゼ(IRAK (IL-1 receptor-associated kinase))を細胞内Toll-IL-1受容体領域 に補充することによって、NF-Bkとp38-MAPキナーゼの経路を活性化する。IRAK-4欠失のマ ウスは、いくつかの細菌感染とウイルス感染に対する深刻な免疫不全を引き起こす 。Picardたち(p 2076)は、化膿菌の通常種に対して、免疫不全を引き起こすIRAK-4遺伝子 の遺伝性変異をもつ3人の患者について記述している。マウスと異なってヒトのIRAK-4は 、他のウイルス感染、細菌感染と真菌感染に対する対抗は重複しているようである。(An)
Pyogenic Bacterial Infections in Humans with IRAK-4 Deficiency
   Capucine Picard, Anne Puel, Marion Bonnet, Cheng-Lung Ku, Jacinta Bustamante, Kun Yang, Claire Soudais, Stéphanie Dupuis, Jacqueline Feinberg, Claire Fieschi, Carole Elbim, Remi Hitchcock, David Lammas, Graham Davies, Abdulaziz Al-Ghonaium, Hassan Al-Rayes, Sulaiman Al-Jumaah, Sami Al-Hajjar, Ibrahim Zaid Al-Mohsen, Husn H. Frayha, Rajivi Rucker, Thomas R. Hawn, Alan Aderem, Haysam Tufenkeji, Soichi Haraguchi, Noorbibi K. Day, Robert A. Good, Marie-Anne Gougerot-Pocidalo, Adrian Ozinsky, and Jean-Laurent Casanova
p. 2076-2079.

[インデックス] [前の号] [次の号]


リコー
AbstractClub
ご意見ご質問は www-admin@ic.src.ricoh.co.jp までお寄せ下さい。

お問合わせ
アンケート
検  索


Copyright (C) 2003 RICOH Co.,Ltd. All rights reserved.