AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 21, 2003, Vol.299


氷床融解の歴史(Chronicles of a Meltdown)

レドックス反応を行なう酵素は、通常密な分子的接触をつくることにより電子伝達経路を 最適化している。電極上への酵素固定化方法では、しばしば電子伝達における距離の障壁 によって遥かにゆっくりした反応速度となる。最近、フラビンアデニンジヌクレオチド (FAD)のような補助因子を電極へ直接付着させると、反応速度を元に回復出来ることが示 されている。Xiaoたち(p. 1877)は、電子伝達速度が生体内の補助因子(分子状酸素)の場 合の速度が約7倍以上になることを示している。金のナノ粒子がFADで機能化され、導電性 フィルム上に組み込んだ。その結果、裸のFAD補助因子と金のナノ粒子に結合した補助因 子-遊離型のフラビン酵素グルコース酸化酵素が、酸素の代わりに電子受容体として作用 していた。(KU)
"Plugging into Enzymes": Nanowiring of Redox Enzymes by a Gold Nanoparticle
   Yi Xiao, Fernando Patolsky, Eugenii Katz, James F. Hainfeld, and Itamar Willner
p. 1877-1881.

幾何学的な推進力(Geometric Propulsion)

シュヴァルツシルト幾何学は、質量の周りの時空が歪曲することを示す。質量が増加する と、臨界シュヴァルツシルト(Schwarzschild)半径は、すべてものが脱出できないほど重 力が強力になりその結果ブラックホールが形成される領域半径に等しくなる 。Wisdom(p.1865;Seifeによる2月28日ニュース記事参照)に研究によれば、準剛体 (quasi-rigid body)は、シュヴァルツシルト幾何学においてその形状を変化させるだけで 、空間を移動することができる。外部から一切の力を必要とせず、移動量は固有の曲率 (intrinsic curvature)の大きさと関係している。宇宙の中では、こうした幾何学的な推 進力は時空のわずかなゆがみに対してごくわずかである。にもかかわらず、これまでに全 く予見できなかった駆動力が、この結果とともに説明されるかもしれない。(TO)
Swimming in Spacetime: Motion by Cyclic Changes in Body Shape
   Jack Wisdom
p. 1865-1869.

二重に混合する(Make It a Double Blend)

導電性ポリマーの力学的特性は靭性の高い材料とのブレンドにより改良されるが、しかし ながら導電性を維持するためには、導電性ポリマーはパーコレーションのしきい値以上の 濃度で存在する必要がある。粒子が細長い形状をしていると、必要体積分率は減少する 。Mezzengaたち(p. 1872)は、このような最小の体積分率が2重のブレンドプロセスにより 更に減少できることを示している。最初に、導電性ポリマーを第三のポリマー中に分散し 、その後このブレンド物をマトリックス材料に浸透させる。(KU)
Templating Organic Semiconductors via Self-Assembly of Polymer Colloids
   Raffaele Mezzenga, Janne Ruokolainen, Glenn H. Fredrickson, Edward J. Kramer, Daniel Moses, Alan J. Heeger, and Olli Ikkala
p. 1872-1874.

海岸沿いの特性(Beachfront Properties)

海岸の砂は、沿岸を襲う暴風雨がもたらす大きな力を持つ波や海流により沖合いの砂洲に 掃き寄せられ、徐々に規則正しい波により運び戻され、普通は後者のほうが優勢である 。こうした作用を適切にモデル化することは海岸の進展を理解する上で重要であり、そし て海岸を守り修復するための費用のかかる工事作業を助けたり集中させるし、さらに暴風 雨の間に受ける損害を軽減もする。ほとんどのモデルは2〜3日以上の期間にわたるプロセ スを再現することはできなかった。Hoefel とElgar (p. 1885;Stive とReniersによる展 望記事参照)は、数回の暴風雨を含める期間まで延長できる45日間以上の砂の動きを捉え たモデルを作った。彼らのモデルは、特に沖合いの砂洲にぶつかるランダムな波の底 (base)の加速度について説明している。(TO)
Taming Winfree Turbulence of Scroll Waves in Excitable Media
   Sergio Alonso, Francesc Sagués, and Alexander S. Mikhailov
p. 1722-1725.

シュレーディンガーのネコの振る舞いを制御する(Controlling the Behavior of a Schrodinger's Cat)

ある巨視的物体は、それらが適切に扱われる限りは、量子力学的なシステムとして扱うこ とができる。それらを、量子力学における基本的問題を研究するための実験的なテストベ ッドとして用いることに加え、固体量子コンピュータにおける処理要素(qubits)としての 利用にも実際的な可能性がある。このような qubits には、現在いくつかの提案があるが 、どれが勝ち残りそうかは不明な状態である。潜在的な候補一覧に加えて、Chiorescu た ち (p.1869; Clarke による潜在記事を参照のこと) は、ひとつの超伝導ループに3つのジ ョセフソン接合を直列に並べたものからなる、磁気フラックス ubit を示している。長い 可干渉時間と製造、操作、読み出しが比較的単純であるため、このシステムは実際の応用 上の有力なライバルとなる。(Wt)
PHYSICS:
Flux Qubit Completes the Hat Trick

   John Clarke
p. 1850-1851.
Coherent Quantum Dynamics of a Superconducting Flux Qubit
   I. Chiorescu, Y. Nakamura, C. J. P. M. Harmans, and J. E. Mooij
p. 1869-1871.

非常に小さく、非常に安定なシリコンワイヤ(Very Small, Very Stable Silicon Wires)

シリコンのナノ構造を作る上で決定的な事柄は、表面酸化物の形成である。Ma たち (p.1874; 表紙も参照のこと) は、高温下においてシリコン酸化物を減らしてシリコンナ ノワイヤを作成し、そして、HF 溶液中にそれらを浸すことによりナノワイヤを安定化し た。理論的予測と一致して、もっとも直径の小さなワイヤで量子閉じ込め効果が、走査型 トンネル顕微鏡により観察された。水素で覆われたワイヤ終端は、空気中では類似の処理 がなされたシリコンウエファーよりもはるかに安定であることが示された。(Wt)
Small-Diameter Silicon Nanowire Surfaces
   D. D. D. Ma, C. S. Lee, F. C. K. Au, S. Y. Tong, and S. T. Lee
p. 1874-1877.

海から陸への2度の旅(Twice by Sea to Land)

6脚類(Hexapods)は6本足の節足動物で陸生環境に適応した共通の祖先を持つと考えられて いた。Nardiたちは(p.1887、Thomasによる展望記事も参照)、ミトコンドリアの完全な遺 伝子を比較して、全ての昆虫の基礎であると従来理解されていた無翅グループは、甲殻類 や昆虫の多くが分離したよりはるか以前に独立して分離した陸生の異なる進化系列である ことを示している。これらの結果は、6脚類の水生から陸生への経過が少なくとも2度起き たことを示している。この節足動物系統発生学の根本的な改訂は節足動物進化全体の体制 進化の新たな解釈方法を与えた。(Na)
EVOLUTION:
Wingless Insects and Plucked Chickens

   Richard H. Thomas
p. 1854-1855.
Hexapod Origins: Monophyletic or Paraphyletic?
   Francesco Nardi, Giacomo Spinsanti, Jeffrey L. Boore, Antonio Carapelli, Romano Dallai, and Francesco Frati
p. 1887-1889.

切って、作る(Cut and Make)

フレキシブル・プラスチック・基板上にトランジスタ回路を製作するためには、サブミ クロン・スケールで特性が出せるように複数の層は整列されなければならない。このレベ ルでの位置合わせを実現することは伝統的な技術であるリソグラフィでは困難である。リ ソグラフィにおいて、各層の形成はマスク露光とエッチング工程を必要とする。面内と面 に垂直方向に整列した薄膜有機トランジスタを作るために、エンボス技術を用いて複数の 層を切り抜くことができることをStutzmannたち(p. 1881)は示している。(hk)
Self-Aligned, Vertical-Channel, Polymer Field-Effect Transistors
   Natalie Stutzmann, Richard H. Friend, and Henning Sirringhaus
p. 1881-1884.

行進中の分子(Molecules on the March)

歩行中の左右の手足の交互運動は脊髄の神経回路で制御されており、中央パターン発生器 (CPG)と呼ばれているが、ここでの分子成分はブラックボックスのままであった 。Kullanderたち(p. 1889)は、CPG特異的な興奮性ニューロンの集団としてEphA4受容体発 現細胞を同定することに成功した。EphA4の機能を決死津した遺伝子改変マウスの、異常 な同期性を示す手足の動きは、脊髄中線の特定領域に異常に軸索が伸長するのと関連して おり、そして、これによってCPGの過剰興奮が生じる。このようなニューロンの存在が明 らかになったことによって哺乳類のCPGの機構探索が可能になり、さらに、脊髄損傷を治 療方法探索への期待が持たれる。(Ej,hE)
Role of EphA4 and EphrinB3 in Local Neuronal Circuits That Control Walking
   Klas Kullander, Simon J. B. Butt, James M. Lebret, Line Lundfald, Carlos E. Restrepo, Anna Rydström, Rüdiger Klein, and Ole Kiehn
p. 1889-1892.

RNA力学(RNA Mechanics)

翻訳のような細胞プロセスは、RNAを機械的に変形し変性する。機械的力に対するRNAの分 子応答を明らかにするために、Onoaたち(p 1892)は、テトラヒメナ・サーモフィラ (Tetrahymena thermophila)リボザイムの単一分子の機械的変性過程を解明した。RNAの再 折りたたみはスムーズに進んだが、変性は動力学的関門で一時的に静止され、ついには突 然伸長してしまった。著者は、この関門をMg2+依存性の三次接触によるものとする。この 三次接触が壊されるのにつれて、二次構造が徐々に変性した。(An)
Identifying Kinetic Barriers to Mechanical Unfolding of the T. thermophila Ribozyme
   Bibiana Onoa, Sophie Dumont, Jan Liphardt, Steven B. Smith, Ignacio Tinoco Jr., and Carlos Bustamante
p. 1892-1895.

反対側を分解(Degrading the Opposition)

植物の成長と発生は、内因性と外因性の信号に応答して精密に制御され、そのひとつはジ ベレリン酸というホルモンである。Sasakiたち(p 1896;Harberdによる展望記事参照)は 、ジベレリン情報伝達に対して対立するポジティブコントロールとネガティブコントロ ールを解明している。米から新しく同定したGID2というたんぱく質は、逆作用をするネガ ティブな制御因子SLR1をプロテオソームに渡して、そこでSLR1が分解されるように、ポジ ティブな制御因子として機能する。(An)
BOTANY:
Relieving DELLA Restraint

   Nicholas P. Harberd
p. 1853-1854.
Accumulation of Phosphorylated Repressor for Gibberellin Signaling in an F-box Mutant
   Akie Sasaki, Hironori Itoh, Kenji Gomi, Miyako Ueguchi-Tanaka, Kanako Ishiyama, Masatomo Kobayashi, Dong-Hoon Jeong, Gynheung An, Hidemi Kitano, Motoyuki Ashikari, and Makoto Matsuoka
p. 1896-1898.

不確実性を決めるニューロン(Neurons That Code for Uncertainty)

古典的なパブロフの実験では、イヌにベルが鳴るのを聞かせて、その後に食べ物を見せる 。それ以来、腹側中脳におけるドーパミン作動性ニューロンが、その後に現われる報酬を 予想させる刺激に対して(スパイクすることにより)反応することが、示されてきた。報 酬が現われない試行では、これらのニューロンの活性が対応して低下する。これらの知見 から、これらのニューロンにより暗号化される情報は、予想の錯誤か、または実際の報酬 と予想される報酬との間の差異のいずれかであるという提案が導かれる。Fiorilloたち (p. 1898;ShizgalとArvanitogiannisによる展望記事を参照)はここで、報酬の不確実 性を暗号化すると思われる、ドーパミン作動性ニューロンの新しい集団を見出した;報酬 の受け渡しの確実性が低くなればそれだけ、これらのニューロンの活性は増大す。(NF)
NEUROSCIENCE:
Gambling on Dopamine

   Peter Shizgal and Andreas Arvanitogiannis
p. 1856-1858.
Discrete Coding of Reward Probability and Uncertainty by Dopamine Neurons
   Christopher D. Fiorillo, Philippe N. Tobler, and Wolfram Schultz
p. 1898-1902.

脳内での遅速性阻害の具体的な起源(The Specific Origin of Slow Inhibition in the Brain)

阻害性のプロセスは、大脳皮質での情報のプロセッシングにおいて重要な役割を果たして いる。これらのプロセスの特定のサブタイプ、すなわち、GABAB受容体により媒介される 遅速性皮質性シナプス現象、の起源は明らかにはされていない。それらは、特定のシナプ ス前細胞により開始されるのか、それともそれらは、ほとんどの介在ニューロンでの高頻 度の活動電位により活性化されうるのか?Tamasたち(p. 1902)は、2/3層でのGABA作動 性ニューログリア型介在ニューロンと錐体細胞との間のシナプスでのGABA放出により 、GABAA受容体およびGABAB受容体の複合型シナプス後活性化が導か れることを示す。この知見から、遅速性GABAB-媒介性阻害性シナプス後電位が、皮質性ネ ットワーク内の一つの供給源から到達することが示される。(NF)
Identified Sources and Targets of Slow Inhibition in the Neocortex
   Gábor Tamás, Andrea L Orincz, Anna Simon, and János Szabadics
p. 1902-1905.

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