AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 5, 2001, Vol.294


実験室の試料リストづくりを迅速にする(Speeding Those Laboratory Checkout Lines)

大量の試料列をラベル付けするための小さな金属バーコードが開発された。 Nicewarner‐Penaたち(p.137)は種々の金属を順に積み重ねて、直径がサブミクロンで 、長さ数ミクロンの金属棒を電気化学的につくった。金や銀や銅、或いはニッケルとい った反射率の異なる金属によって、無数の組み合わせが通常の光学顕微鏡で読み取るこ とが出来る。(三つの金属を用いると、約25万の異なるコードが形成可能である)。貴金 属表面を用いると、螢光生物分析への応用も容易に展開可能である。(KU)

二重らせんのクエーサー(Quasar Double Helix)

活動的銀河の中心核から出ている直線状高温プラズマからなる相対論的ジェットは、これ らの活動的な構造を駆動する物理的、化学的特性に関する情報を与えてくれる。 Lobanov とZensus (p.128) は、日本が打ち上げた「はるか」宇宙電波望遠鏡と地上の電波望遠鏡 群を用いての超基線電波干渉計観測から、クエーサー 3C273からのジェット構造の高分解 能像を生成した。ジェットの見事な二重らせん構造は、ケルビン-ヘルムホルツ不安定性 のさまざまなモードに由来するものであるが、これは観測困難な活動的銀河の中心核のモ デルを改良する上で重要なテストを与えるであろう。(Wt,Nk)

強磁性中に半導体中の核スピンを刷り込み(Ferromagnetic Imprinting of Nuclear Spins in Semiconductors)

外部磁界に応答して、半導体中のキャリア集合体を可干渉的に制御できることは、スピ ン工学にとって基本的な問題である。このスピン工学では、情報処理を目的にキャリア の電荷ではなくスピン状態について開発が進められる。Kawakamiたち (p.131)は、GaAs 上に堆積された強磁性層は、半導体中で励起されたキャリアのスピンダイナミクスに予 想外の強い影響を及ぼしていることを示している。動的な核の分極のフィードバックメ カニズムとして説明されているが、その結果は、隣接する強磁性層に、半導体中の核磁 気モーメントを「刷り込まれている」ことを示唆している。この核磁気モーメントは光 生成キャリアのスピンダイナミクスに影響を与える。(Wt)

好みに合わせて化学波パターンをつくる(Customized Chemical Patterns)

金属表面での反応面や細胞内のカルシウム波といった化学波は、反応物を脈動させたり 、或いは物理的な障壁導入といった沢山の方法で変化させることが出来る。Wolffたち (p.134)は局所的な表面加熱を用いて、白金表面における一酸化炭素の酸化反応で形成 される化学波の発生を制御出来ることを示している。波面はオペレータ制御か、或いは コンピュ-タ制御による最適化フィードバックにより波を形成したり、前進させたり変 形したり、自由に制御することが可能である。(KU)

石筍データで完新世後半以降の気候を再構成する(One Layer at a Time)

完新世後半のアメリカ南西部の文化に対する気候の影響についての我々の理解は地域的 な降水量の詳細な記録を利用することで更に改善される。しかし書物による記録がない 時代においては、水分変動を決定するなんらかの代替情報に頼るほかない。 Polyakと Asmerom(p. 148)は、ニューメキシコにある過去4000年をカバーする、5ヶ所の石筍デ ータを分析し、その地方の文化の発達に関連する降水量変化を再構成した。すなわち、 完新世中頃の乾いた気候に続き、4000年前から3000年前までは現代とほぼ同じ気候で、 その後、完新世中頃には乾いた気候、更に3000年前から800年前は湿度が高く低温の期 間が続き、現代と同じ気候に続く。例外として440年前から290年までは現代よりやや湿 度が高かった。居住地の放棄や人口分布の再構成が気候変動により説明されるかもしれ ない。(Na,Nk,Og)

平衡保持機能を進化させて(Evolving a Balancing Act)

細胞は、タンパク質合成の高い信頼性を保つ機構を進化させてきた。アミノ酸-転移 RNA(aa-tRNA) 複合体をリボゾームに供給する主要な役目は伸長因子Tu (EF-Tu)によっ てなされており、リボゾームにおいて、タンパク質合成に使われている。たった1つの EF-Tuしか存在しないことと、少なくとも20個の異なるaa-tRNAが存在することから、こ れは比較的非特異的な相互作用であろうと考えられてきた。LaRiviereたち (p. 165;お よびIbbaによる展望記事参照)は、これについて詳細に調べ、EF-Tuが異なるaa-tRNAに 結合する結合親和性は、狭い範囲の値であることを見つけた。しかし、強力な結合のア ミノ酸が、弱い結合のtRNAと対を形成する(そして逆に、弱い結合のアミノ酸が強い結 合のtRNAと対を形成する)という代償性調整の結果として、この均一性の高い結果が得 られている。著者たちは、このEF-Tuが動力学的校正の部位ではないかと推測している ;すなわち、正しくマッチングしないaa-tRNA複合体は、リボゾームに到達する前に EF-Tuから解離するか、あるいは、強力に結合して配送不能になるかのどちらかではな いか、と。(Ej,hE,Ok)

植物は気候の変化について行けるか(Can Plants Keep Up with Climate?)

地球の気候変化に生物はどの程度すばやく適応することができるだろうか?アメリカ大 草原に生える野生のlegume(マメ科植物)に関する実験的研究により、Ettersonと Shaw (p.151)は、適応への変化に必要な世代の数を計算し、この推定値と予想された気候変 化の軌跡とを比較した。地球規模の変化に対しての適応的進化は、植物の個体数内にあ る特性(traits)間の相対する遺伝子の相関関係によって制限されている。そのことは 、この種の植物は、想定された環境の変化に充分に早く適応できないことを示唆してい る。(TO)

ゲノムのコピー方法(How to Copy a Genome)

ゲノムDNAの複製は、細胞周期のS期あるいは合成期の間に生じる。いくつかの特異的な 複製起源の動態の知見については詳しく分かっているが、複製がゲノム全体についてど のように生じているかについては、ほとんど知られていない。Raghuramanたち(p. 115 )は、DNAマイクロアレイアッセイを開発し、酵母ゲノム全体の複製を解析できるよう にした。S期の様々な時間点において単離した複製したDNAおよび複製していないDNAを マイクロアレイにハイブリダイゼーションさせることにより、ゲノム全体にわたる何千 もの部位の複製が起こる時間を決定した。16の染色体それぞれの染色体末端の複製は複 製が起こる時間において高度の相関関係を有しており、そして哺乳動物細胞とは異なり 、複製と転写との間には本質的に何の相関関係も存在しない。

 中心体の中心をさがせ(Finding the Heart of the Centromere)

細胞分裂の間に染色体を正常に分けるために不可欠な中心体においては、高頻度で反復 配列が存在することにより、その部分がヒトゲノムの最も難解な領域の一つとなってい る。Schuelerたち(p. 109;Pennisiによるニュース記事を参照)は、X染色体腕から 、中心体サテライトDNAまでのゲノム地図を作成した。X染色体の短腕上の発現した配列 と染色体特異的αサテライトアレイDXZ1との間の移行性の領域は、約450キロベースに 渡り、そしてサテライト-リッチである。ヒト染色体の再構成を使用して、中心体機能 に本質的な領域を論理的に推測し、そしてその定義を人口染色体アッセイにおいて試験 した。その結果、DXZ1 DNAは中心体機能に対して十分なものであることが示された。こ の領域における配列の解析により、中心体の進化および機能的配列についての最近の起 源についての可能性について、解明への糸口を提供している。

トリグリセリド遺伝子のトラッキング (Tracking Triglyceride Genes)

ヒト染色体11におけるアポリポタンパク質の遺伝子集団は、トリグリセリドの量と心血 管の疾病に影響する領域として広範囲に渡って研究されてきた。Pennacchioたち (p. 169;Seydelによる記事参照)は、マウスとヒトの配列の比較ゲノム分析を用い、遺伝子 集団に近いAPOAVという新しいアポリポタンパク質遺伝子を同定した。ヒト遺伝子をマ ウスにおいて導入遺伝子として発現させると、血漿トリグリセリドが減少した。対照的 に、ノックアウトのマウスは、野生型マウスと比較して、血漿トリグリセリドが増加し た。2つの独立しているヒトの集団におけるAPOAV領域の一塩基多形 (SNPs)に関する研 究からも、この遺伝子がヒトのトリグリセリド量に影響することが示された。(An)

細胞増殖の制御(Regulating Cell Proliferation)

サイクリンEとそのタンパク質キナーゼ(リン酸化酵素)パートナーのサイクリン依存 キナーゼ2(CDK2)の増加は、細胞周期のG1期からS期への細胞の進行を促進するが、サイ クリンEの量はタンパク分解によって制御される。Koeppたち(p. 173;Bartekと Lukasに よる展望記事参照)は、Fbw7と呼ぶヒトのユビキチンリガーゼのサブユニットを同定し た。Fbw7は、リン酸化したサイクリンEと結合し、SCF複合体をサイクリンEの標的にす るが、そこでサイクリンEはユビキチン結合した後、分解される。このように、同様な 機構は、酵母、ワーム、蝿と哺乳類において用いられ、サイクリンEの量を制御する。 Fbw7の機能解析によると、腫瘍サプレッサーとして機能することもできることを示唆す る。(An)

有益なトリプレットリピートは繰り返す(A Beneficial Triplet Repeat)

三塩基対の繰り返し数が増加する現象は、いくつかのヒトの遺伝病で生じ、その結果必 ず有害な表現型となって現れ、トリプレットリピート伸長病と呼ばれている。大腸菌の 研究によって、Ritzたち(p. 158)は、三塩基反復の拡大が有益な場合もあることについ て述べている。タンパク質ジスルフィド結合の還元に欠損があることによって成長が不 十分な大腸菌の系統では、ahpC遺伝子中でTCT反復配列の可逆的な拡大があるために 、高い頻度でフェノタイプの逆転が生じる。驚いたことに、この遺伝子的な変化があっ ても細胞の成長は正常である。その理由は、この遺伝子変化のために1つのアミノ酸を AhpCタンパク質中に導入することになり、これによってAhpCタンパク質をペルオキシダ ーゼからジスフィド還元酵素に変換する。この2つの酵素活性が変異によって容易に相 互変換されると、酸化かジスルフィドのストレス状況で細菌生存が可能になっているの であろう。(Ej,hE)

トキソプラズマ中の病原性の進化(Evolution of Virulence in Toxoplasma)

トキソプラズマは有性生殖を行い、系統間で高度な遺伝的混合が生じる可能性があるが 、遺伝的に区別可能なほんの少数の「クローン型」として存在するだけである。 Grigg たち (p. 161) は多形性遺伝子座を解析し、2つの先祖から、希な交雑によって3つの 主要型が生まれたことを見つけた。2つの非病原性系統の交雑によって、マウスで高い 病原性を示す系統が生じたので、このような遺伝子再配列は、病原性の発生には極めて 重要であったと思われる。たった1つの遺伝子ではなく、因子の組合せにとして、病原 性が生じたものであろう。(Ej,hE)

プリオンからの防御(Protection from Prions)

プリオンは、新しいタイプのクロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)、ウシ海綿状脳症 (BSE)だけでなく、スクレイピーの原因物質であろう。プリオン病への実験的ワクチン 接種をマウスで実施したところ、このタンパク質(PrPc)の内在性宿主型 に対する部分的免疫耐性の結果、プリオンタンパク質(PrPSc)の免疫原性が 低く、その効果は無かった。Heppnerたち(p. 178)は、クローンの抗体レパートリーが プリオンの認識に向かわせるよう変異を持つ遺伝子組換えマウスを作った。これら動物 のPrPScによる免疫化によって、内在性PrPcの遺伝子が再度導 入されても、スクレイピーに伴う神経障害性変化を防御することができた。(Ej,hE)

酸素とオイル(Oxygen and Oil)

化石燃料は、地質学的時間のスケールで、堆積岩中の有機物質が圧縮されて作り出され た。石油生成に必要な先駆物質である非たんぱく質のアルキル系炭化水素を作るために は酸素にさらすことが重要であるという論議が展開されてきた。Gelinasたち (p.145) は、酸素にさらす時間は、非たんぱく質アルキル系炭化水素の濃度に対して負の相関関 係があることを示した。今では潜在的石油生産能力に対する堆積岩の酸化還元条件 (redox conditions)の効果を定量化することができる。(TO,Nk,Og)

形状に沿った銅フィルムに至る超臨界経路(Supercritical Route to Conformal Copper Films)

金属フィルム上に金属を析出するには多くの方法があるが、電子デバイスにおいて頑強 な接合を作るためには、トレンチの中あるいはリッジの上に、表面形状に沿ってフィル ムを蒸着させることがしばしば必要になる。Blackburnたちは、超臨界状態の CO2に加溶化した有機金属性の銅とニッケルの化合物が、自然なケイ素酸化 物ないし金属窒化物上に100ナノメートル以下の幅で高アスペクト比の金属線を蒸着さ せる方法を記述している(p. 141)。この一段階の方法は、銅配線を作る際の利点を示し ている可能性がある。(KF,hk)

ばらばらな要素をつなぎ合せて(Putting the Pieces Together)

植物は、光に対して、発生プロセスおよび生理プロセスをさまざまに変化させることで 反応する。しかし、光信号が発生上の変化に変換される正確なプロセスははっきりしな いままである。シロイヌナズナにおける種々のアッセイを用いて、Wangたちは、青色光 の光受容器、cryptochromes、そして26Sプロテアソームによってタンパク質の分解を促 進するユビキチンリガーゼであるCOP1の物理的相互作用を実証した(p. 154)。プロテ アソームによる破壊の標的となるタンパク質の中にHY5があるが、これは光誘導性遺伝 子のプロモータに結合し、制御する転写制御因子である。これら要素の物理的結合の実 証は、青色光が植物の成長と発達に影響を与える情報伝達経路を説明する助けになる。 (KF)

考古学とオーストラリア大型動物相(Archaeology and Australian Megafauna)

オーストラリア全体にわたる年代の明らかになっている大型動物相を調べて、 Roberts たちは、オーストラリア大陸のすべての大型動物は46,400年前に滅亡したと結論付け 、いくつかの地域の遺跡には擾乱があるので注意をもって年代付けしなければならない 、と示唆している(2001年6月8日号)。FieldとFullagarによるコメントは、「ある地点 での地層的統合性は年代測定だけでは評価できない」と述べ、少なくとも1地点につい ての「Robertsたちによる、擾乱があったという議論」には同意できない、とするもの であった。これに応じて、Robertsたちは、「信頼のできる年代は、...直接的年代測定 によってのみ決定できる」という自分たちの主張を再度確認し、FieldとFullagarによ って引かれている光学的年代(注)と自分たちの調査による年代との食い違いの折り合い をつける提案を示している。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/294/5540/7a で読むことができる。 (KF,Og)
注:光学的年代決定法とは、穀物粒などが太陽光を浴びない状態になってからの経過時 間を計測する方法であり、放射性核種の濃度をルミネセンスによって計測・算出する。
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