AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 6, 2001, Vol.293


気候温暖化のメカニズム(Early Warming Systme)

第4氷期を終わらせた気候温暖化は通常、ミランコビッチ理論(太陽日射の変化は地球が 太陽の周りを回る軌道変化により生ずる)により説明されている。しかしながら異なる 地域では必ずしも同期して温暖化が始まるわけではない。Herbertたちは(p. 71、Leaの 展望記事も参照)、過去55万年間のカリフォルニア沿岸の海表面温度記録を示している 。過去5回の氷期の終了期では海表面の温度上昇は世界規模の氷容積変化に1万年から 1.5万年先行して起きている。これらの結果は、ミランコビッチ理論に反対する根拠と なっているネバダ州のDevils Holeの気候記録は、局地的な気候を反映しているとすれ ば、互いに矛盾するものではない。(Na,Nk)

分子をねじってSET(Single Electron Transister)にする(Twisting Molecules into SETs)

単一電子トランジスター(SET Single Electron Transister) は、金属のリード線にトン ネル接合でつながれた不連続なエネルギーレベルを有する小さな島(量子ドットあるいは 分子構造)から成っている。あるSET形状は室温での動作を示しているが、それらは制御が 難しかった。そのため、多くのデバイスは極低温で動作するものである。Postmaたち (p.76) は、二つの接合によって囲まれた島を作るため、走査型プローブを用いて金属性 のカーボンナノチューブの中の二箇所に捩れを形成した。結果として歪んだナノチューブ は、室温のSETとして振舞う。(Wt)

完全共役ポルフィリンテープ(Fully Conjugated Porphyrin Tapes)

ポルフィリングループは、長い鎖に組み上げることができるが、これらのグループは 、電子的には、なお相互に孤立する傾向にある。TsudaとOsuka (p.79) は、Zn(II) ポ ルフィリンオリゴマー(12グループまでを含む)を取り上げ、環状のシステムを一つの大 きな共役分子に融合した。共役化したものは、非常に大きくて、通常、紫外から可視光 の波長にある電子吸収帯が、近赤外領域に押し下げられた。このような分子は、潜在的 には、多くの電子的あるいは光学的な応用を有している。(Wt)

世界を回る輪(Ring Around the World)

気候変動のある大規模パターンである北半球環モード(NAM:Northern Hemisphere annular mode)は、北緯35度と55度付近を中心として反対方向に吹く二つのの帯域風 (zonal winds)の強度差によって特徴付けられる。その帯域風は北緯20度から45の間に おける気候変動を支配している。NAMは、気温、降雨、暴雨風雨のコース、風パターン そして、異常気象の発生頻度に影響を与える。従来は、このパターンと関係している変 動性は、専ら北大西洋やヨーロッパに限定されると考えられてきた。Thompsonと Wallace(p.85)は、NAMは北半球の全周、全ての経度に渡って影響を与え、そしてNAMの2 つのモードは、平均的気候と気象変動との双方の特徴的なパターンを生成することを示 した。(TO,Nk)

より寒冷な白亜紀の古細菌 (Cooler Cretaceous Archaea )

8800万年から1億5500万年前の白亜紀中期の期間に、ひときわ火山活動の活発な時期が あり、多くの二酸化炭素が大気に放出され、そのため恐らくプランクトンが繁殖しすぎ ることによって海洋がしばしば無酸素になった。プランクトンの死骸が海底に降り積も り、深く堆積して特有の黒泥板岩が形成されたが、この黒泥板岩が北大西洋で行われた 海洋掘削プロジェクトにて最近発見された。Kuypersたち(p.92;Smithによる展望記事参 照)は、初期Albian黒泥板岩は、非高温域の環境に適合した化学合成独立栄養細菌 Crenarchaeotaの膜脂質の化学的特徴を持っていることを発見した。この発見によって 、古細菌の拡大が従来考えられたより更に約6000万年前の寒冷な気候の時代にあっ たことになる。(TO,Kj,An)

雪の重みで押し下げる(Snow Weigh)

日本は地球位置同定システム(GPS)のネットワークが密度高く張り巡らされており、沈 み込み帯に起因する地震や火山噴火に関連する地表の変形をモニタリングしている。 Heki (p. 89) は、日本東北部の季節的な地表の変動は、東北部を縦断する山脈に沿っ た西側の積雪がその原因であることを示した。彼らによると、島弧に垂直方向な収縮が 数ミリメートル、最大の沈降量が1-2センチメートル、いずれも3月に生じている。山 脈の西側はこの時期、数メートルの積雪に覆われ、これによる加重負荷の分布とGPSデ ータを比べると、変形量のほとんどは積雪によるものである。日本東北部は、太平洋プ レートの沈み込みによる長年の圧縮歪みが蓄積されているが、この雪の負荷がどれほど 関わって地震発生の季節的変動を生じさせているかどうかはよくわからない。(Ej)

クローン化の結果(Consequences of Cloning)

クローン動物に使用されている核移植技術の安全性については、議論の余地がある。 Humpherysたち(p. 95)は、胚性幹細胞(ES細胞)に由来する核を使用する場合であっ ても、後天的な変化が成功率の低さの原因となりうるのではないかと考えている。代理 母に移植された正常の受精卵とは対照的に、クローンマウスは、メチル化およびインプ リンティングされた遺伝子の発現のレベルが高度に可変であることが示された。このよ うな可変性は、クローニングの間のプログラムの作り直しが不完全であることによって 引き起こされただけでなく、ドナー細胞中のインプリンティングの喪失を反映していた 。しかしながら、明らかなインプリンティングの異常を伴う動物が生き残ることから 、そのような発生途中の制御異常に関して、考えられてきたよりも寛容である可能性が あることが示される。(NF,Kj)

波を立てるな(Don’t Leave a Wake)

水が暗かったり濁っていたりする場合、大型の海棲捕食者たちはどのようにして獲物を 見つけだしているのであろうか?Dehnhardtたち(p. 102;Zimmerによるニュース記事 を参照)は、ゴマフアザラシ(harbor seal)が、逃げる獲物が残した、数分間残存す る乱れた水の痕跡を検出できることを見いだした。アザラシは、プールの中でミニチュ アの潜水艦により残された流体力学的な痕跡を、感受性の高いほおひげを使用すること によって、正確に追跡した。(NF)

尾部の物語(The Tail Tale)

アルツハイマー病に関与すると言われているアミロイド-β前駆体タンパク質(APP)の正 常な機能は不明である。細胞表面タンパク質NotchにAPPが類似する(両方のタンパク質 の細胞質尾部のクリッピングにプレセニリンが必要となることなど)ため、Caoと Sudhof(p 115;Marxによるニュース記事参照)は、APPの細胞質尾部が転写を活性化する かを研究した。結果は、APPの尾部は、2つの核のタンパク質、つまりFe65というアダプ タタンパク質とTip60というヒストンアセチル転移酵素、との多量体の複合体を形成し たのである。非相同的Gal4あるいはLexAのDNA結合領域が含まれているときには、複合 体が遺伝子発現を活性化することができた。(An)

裏と表を分別(Separating Back from Front)

網膜視蓋システムは、中枢神経系における明瞭に定義したニューロン結合をもつ組織分 布地図の発生のモデルとして、よく研究されてきた。網膜視蓋のパターン化のためには 、発生中の網膜の前後軸および背腹軸に沿っている位置決めの合図を得ることが必要で ある。Sakutaたち(p. 111)は、Ventroptinという分子を同定したが、この分子は、網膜 における特異的な発現パターンをもち、2つの異なった機能があるようである。背腹軸 では、腹側の網膜領域における骨形成因子4と拮抗することによって、眼の背方化を防 ぐ。眼の前後軸では、エフリンA2の発現を制御する。(An)

知覚と記憶(Vision and Memory)

前頭葉前部の皮質システムは、通常作業記憶と関連している。多くの知覚プロセス初期 段階に関係する他の領域も、又、作業記憶に関与しているのだろうか?  Superたち (p.120;Helmuthによるニュース記事参照)は、遅延反応付与の期間に、覚醒して動きま わっているサルの一次視覚野(領域Y)における記録を行った。領域Yにおけるニューロ ン活性は、記憶タスクの形成と相互に関連していた。このような作業記憶の神経相関が 、知覚シグナル処理の流れであるらしい。著者たちは一次視覚野における前後関係の調 整が、知覚活性と作業記憶とを橋渡しするプロセスと相関していることを提唱している 。(KU)

肝炎ウイルスがNELF認識を示す(A Hepatitis Virus Shows NELF Awareness)

肝炎δウイルス(HDV)はRNAウイルスで、B型肝炎と関係する病を増加させる。以前の研 究で、ウイルスの宿主RNAポリメラーゼU(RNAPU)によるHDVの複製と転写の両方で肝炎 δ抗原(HDAg)がかかわり合っていることが示されたが、その分子機構は殆んど知られて いない。Yamaguchiたち(p.124)は、HDAgがRNAPUによる転写延長を禁止するヒト因子、 NELF(negative elongation factor)の最少サブユニットに似た配列を持っていることを 示している。HDAgはNELF-依存性とNELF-非依存性の様式において、RNAPUとの直接的な 相互作用によって転写を活性化している。このような発見は、RNAPU経由のHDV-RNA合 成制御に関するHDAgの作用機構を明らかにし、そして薬剤設計への努力に役立つであろ う。(KU)

正しいチャネルにチューニングすること(Tuning into the Right Channel)

高度に整列された複合体における情報伝達タンパク質のクラスター形成は、シグナル伝 達研究においてますます主要なテーマになっている。Davareたち(p. 98; Laporteたち による展望を参照)は、ラット・ニューロン由来のL型Ca2+チャネルはチャ ネル・コンダクタンスをコントロールするβ2アドレナリン受容体(β2ARs)に固く結合 されていることを報告している。著者たちは受容体からチャネルへの情報伝達用全中間 体を含んでいる情報伝達複合体を特徴づけた。すなわち、β2AR自体、ヘテロ三量体の グアニン・ヌクレオチド結合タンパク質Gass、サイクリックアデノシン一リン酸(cAMP) を生成するための、Gタンパク質によって活性化されたアデニル酸シクラーゼ、そして 共有結合性 リン酸化を通してチャネルをコントロールするcAMP-依存性プロテインキナ ーゼである。この密接な会合は、レセプター複合体にあるそれらのチャネルへのβ2AR による情報伝達を制限するようになる。細胞膜の小片からのパッチクランプ・レコーデ ィングは、作用薬(ピペット内)の局所投与はカルシウム・チャネルを活性化すること ができるが、残りの細胞へ同じ刺激を与えてもパッチ内のチャネルを活性化しないこと を示した。(hk)

ごちゃごちゃした磁場における核磁気共鳴のピーク(NMR Peaks in Messy Magnetic Fields)

核磁気共鳴において用いられる巨大なマグネットは、通常、たくさんのより小さな「く さび状の詰め物(shimming)」領域によって補強されることで、静的で均質な場を作り出 している。そこで、ある種のイメージングへの応用においてより小さな移動性のマグネ ットが用いられる場合、それらの場の不均質性によって、得られる有効な情報のタイプ が制約を受けてしまうことがある。たとえば、化学シフトのピークは、広すぎて構造を 決定するのには使えないことがままある。Merilesたちは、ある技法(nutation echoes) を改良して、高周波(RF)励磁場の不均一性が静磁場の不均一性にほぼ対応するようにし た(p. 82)。静磁場におけるスピンの位相ずれは、 RF場における位相合わせによって補 償されるので、化学シフト情報も保存できるようになるのである。このアプローチは 、ここでは多次元分光学に対する応用だが、ex situでのイメージングのための新しい 応用のいくつもの可能性を開くものである。(KF)

はつかねずみと人間(Of Mice and Men)

ヒトDNAにコードされている多様性と複雑さをより深く理解する1つの道は、ヒトの配列 と近縁種のそれとを比較するというところにある。Dehalたちは、ヒト染色体19と関連 するマウスのゲノムの領域の配列を明らかにした(p. 104)。比較を行なうことで、新し いエキソンと調節因子の存在の可能性、そして、単一の遺伝子やクラスターに対する異 なった制御の可能性が明らかになった。遺伝子重複は染色体再編成に関係する部位に存 在しているように見えた。(KF)
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