AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 29, 2001, Vol.292


スポットライトの中の電子のダンス(Electrons Dance in the Spotlight)

磁場を印加することにより、磁場方向に電子のスピンを偏極させることができる。電子 集団の正味のモーメントは、変化する磁場に応じて回転することができる。核磁気共鳴 のような方法は、多くの材料の電子的な環境を探索するためにこの効果を利用している 。しかしながら、半導体では、伝導電子の寿命は最も短い磁場のパルスの時間スケール となるため、他の別の方法が必要である。Gupta たち (p.2458; Service による表紙と ニュース解説記事を参照のこと) は、光学的に切り出したパルスにより、磁気モーメン トの歳差運動の力学を制御可能で可逆なやり方で変更することができるような効果的な 磁場が誘起可能であるを示している。これらの光学的パルスはフェムト秒という短時間 のため、電子がコヒーレントである寿命の間に、数千回プロービングできた。このため 、これは、量子コンピューティングへの応用の可能性がある。(Wt)

炭素の変化(C Changes)

炭素-14(14C)は、約5700年の半減期を持ち、それは宇宙線が引き起こす大気中での核反応 により絶え間なく生成されていることによってのみ、自然状態で地球上に存在する。大気 中の14Cの量は、生成率に変化があるか、あるいは海洋、大気そして陸地との 間でのサイクルに変化があった場合に大きく変動する可能性がある。Beckたち (p.2453;Bardによる展望記事参照)はバハマの石筍(stalagmite)を分析し、大気中の 14Cの量の変化は、生成率の変遷が原因となる変化よりも大きな変化をしたこ とが、過去45000年間に発生したことを示した。この発見は、炭素年代測定にとって重要 なことである。それは正確な年代は14Cの初期量の正確な値に依存しているか らである。さらにこの発見は、海洋循環と炭素隔絶が、その期間にどのように変化したか を理解するためにも重要である。(TO)

スラブの残骸(Slab Remnant)

地球の地殻は、サブダクションゾーン(沈み込み帯)においてマントルの中に巡回して いる。このプロセスは地震を起こすだけでなく、マントルの熱的、化学的そして機械的 な構造にも影響する。ChenとBrudzinski(p.2475;Greenによる展望記事参照)は、フィジ ー近辺の南西太平洋におけるトンガサブダクションゾーンに沿った数千の地震を分析し 、深さ400から600キロメートル間の海洋の地殻のプレートの沈み込みスラブの、ほぼ水 平な残存物の存在を示した。この残存スラブは、太古のサブダクションゾーンからのも のであり、現在のトンガサブダクションゾーンとは切り離されている。この残存スラブ モデルは、地震の奇妙なパターンを説明するし、その結果、トンガスラブが下部マント ルへ沈み込む障壁となり、この地域の上部マントルの熱的そして流動学的な特性をうま く説明する。(TO,Og)

ホウ素によって炭素は更に遠くに届く(Boron Extends Carbon's Reach)

多くの飽和化合物において、炭素は四面体配置で他の四個の原子に束縛されている。不 飽和炭素化合物は、平面状の構造をしており、2または3の配位数を有している。Wang とSchleyer (p.2465) は、hyparenes --- 超配位数の芳香族性あるいは反芳香族性の分 子--- が存在しうることを示す密度汎関数計算を報告している。この構造では、炭素は 他の5個の原子に平面状の配置で束縛されている。これらの分子の安定性の鍵となるも のはホウ素を包含することである。これらの分子の実験的な観察は現在まで報告されて いないが、もし、質量分析装置によって検出されたホウ素炭素(borocarbon) の分子種 が単離同定されれば、hyparenes は発見される可能性がある。(Wt)

混合物の中に投入される( Thrown into the Mix )

ナノスケールでの相分離は豊かな形態を持っている。このような効果は、しばしば二ブ ロック共重合体、個々のポリマーは結合しているがお互い相溶しないポリマー、やホモ ポリマーとナノ粒子の混合体で見い出されている。二ブロック共重合をナノ粒子と混ざ るとどのような事が起きるのだろうか?Thomsonたち(p.2649)は現存する二つの理論を結 びつけて、一つの理論はポリマーの熱力学的挙動を巧みに説明し、もう一つの理論はコ ロイド系におけるナノ粒子の配向を説明するのに用いられているが、二ブロック共重合 体とナノ粒子の混合体のモデルをつくり、そしてどのような種類の形態が作られるかを 予測している。そのモデルは、最近の幾つかの実験とシミュレーションの結果を再現す るだけでなく、沢山の新たな形態をも予言している。ナノ粒子がナノワイヤーやナノシ ートに自己組織化する条件をも見い出されている。(KU)

亜鉛を貯える( Caching Zinc )

大腸菌の細胞は、亜鉛総量でほぼ0.2ミリモル(mM)含んでいる。このような多量な金属 は、細胞内にある数多くの酵素における補助因子として機能しており、Outtenと O'Halloran(p.2488)は、どの程度の量の亜鉛がタンパク質への結合にフリーに用いられ ているのかに関心を持った。彼らは二つの亜鉛センサータンパク質の亜鉛-結合特性を 調べた。このタンパク質は細胞からの亜鉛の取り込みや流出を制御しているタンパク質 合成をコントロールしている。これらのタンパク質は亜鉛に対して非常に狭くて異常に 低い濃度範囲で応答している。結合する亜鉛は10-15Mの濃度で飽和してい る。大腸菌の細胞体積を約2ラ10-15lとすると、細胞あたり1個の原子とは1ラ 10-9Mの濃度で存在していることになる。亜鉛センサーは106も 低い濃度で応答しており、著者たちは細胞質内において持続的なフリーな亜鉛イオンは 存在していないと結論している。彼らはシャペロン、或いは輸送タンパク質が銅イオン に対してと同様に、タンパク質間での金属交換を媒介している可能性を提案している 。(KU)

オスは必要ない!?(No Need for Males)

ほとんどの多細胞動物は、二倍体である(すなわち、それぞれの染色体を対で持つ )。しかしながら、オスが一倍体(すなわち、その体細胞が有する染色体数は、通常の 半分)であるが、メスは二倍体であるという複数の実例が知られている。 Weeksたち( p. 2479;OttoとJarneによる展望記事を参照)は、蛍光顕微鏡および9つのマイクロサ テライト座位を使用して、メスが一倍体であるダニを、ブラジルのコーヒープランテ ーションにおいて発見した。このBrevipalpus phoenicisは、無性生殖により繁殖する ため一見するとオスを必要としないように見えるが、しかしオスを復元することができ る。内部共生的バクテリア--別の昆虫をメス化することが知られているWolbachiaとは 関係がない--により、一倍体オスがメス化していた。メスのダニを抗生物質で処理する と、およそ半分の子孫がオスになる。これらの知見から、B. phoenicisのメスは、非常 に最近になって二倍体の性質を捨て、一倍体の無性生殖を行う種となったことが示唆さ れる。(NF)

ホタルの光にNO(NO to Night Lights)

ホタルが求愛行動中に発光する魅惑的な光のバーストの強化は、腹部の光産生器官で発 生する生化学的反応に依存する。この光発生器官は、適切にもランタンと名付けられて いる。Trimmerたち(p. 2486;Pennisiによるニュース・ストーリーを参照)は、フラ ッシュ産生反応の制御が、酸素とフリーラジカルガスである一酸化窒素(NO)の両方に 依存していることを報告している。NOは、ランタンの内部で産生され、そしてホタルの フラッシュ頻度および移動行動を増加する。NOがミトコンドリアに到達すると、NOは呼 吸を変化させ、酸素濃度の増加を引き起こすことができ、それが光産生のための急速な 分子的トリガーとなることが知られる。この一方で、NOスカベンジャーが、神経伝達分 子であるオクトパミン(octopamine)により誘導される生物発光を阻害する。(NF)

 窒素固定の新しい面(A Twist on Nitrogen Fixation)

大気の窒素を固定することを原核生物がやってくれるのであるが、今度Lilburnたち(p. 2495)は、そのやってくれるもののリストにスピロヘータを新たに加えた。このファミ リは、独立している生物体と寄生虫と相利共生性生物体という多数の遍在的なグループ であるが、この中から新たな代謝能を発見したことで、今まで分からなかった全体的な 窒素収支に関する重要な事柄の理解が深まった。白アリの生物量において、全窒素の 6割が窒素固定に提供されるゆえ、調査は、白アリ中のスピロヘータから始まったが 、どの生物体が固定するのかについての証拠は少なかった。しかも、窒素固定への依存 が可変性であり、少なくとも白アリ宿主においては、酸素の存在や他の利用しやすい栄 養素が相対的に利用できるかどうかによってその依存が制御されるのかもしれない 。(An)

今すぐの満足か、後からのご褒美か(Instant Gratification Versus Delayed Reward)

大きな報酬を得るためには、時には儀牲を払ったり、より小さな報酬をすぐもらうとい う安易な選択肢を拒絶することが必要である。しかし、この関係を認めずに、いつも即 時の満足感を狙っているものもいる。この行動の神経解剖学的基礎を研究するために、 Cardinalたち(p. 2499)は、ラットのいくつかの脳領域に興奮毒の破壊を行った。側坐 核の核を破壊すると、食物の報酬に対する持続的な衝撃選択を引き起こすことを発見し た。しかし、前側帯状皮質または内側前頭葉前部皮質を破壊すると、偽手術を施したコ ントロール群の行動に比べて、ラットの選択は変化しなかった。前側帯状皮質と内側前 頭葉前部皮質は、側坐核の主要な求心性神経の2つである。(An)

LTPを修復する(Restoring LTP)

AMPA受容体サブユニット(グルタミン酸受容体A、すなわちGluR-A)を欠失するノックア ウトマウスによる研究によると、長期増強(LTP)の誘導の後で、AMPA受容体の応答が増 加することで、海馬シナプスにおける伝達の増強が確立したことが示された。このマウ スでは、非シナプス部位におけるAMPA受容体の欠乏がLTPの欠如に結びついている 。Mackたち(p. 2501)は緑色蛍光タンパク質でタグ付けされたAMPA受容体の条件付きノ ックアウトマウスを利用し、GluR-Aサブユニットが成熟海馬シナプスにおいては、対形 成によって誘発されるLTPには不可欠であることを示した。(Ej,hE)

急激に上昇する溶融体(Rapidly Rising Melts)

沈み込み帯境界では、水分の豊富な堆積物と岩石が地殻下部とマントルに引きずりこま れる。これらの岩石がマントルで熱せられると、溶けて表面に上昇し、最終的には火口 にそって噴出する。最近行われた、沈み込み帯溶岩の同位体分析で、これらの溶融体は 深層から表面まで急激に上昇したことを示している。HallとKincaiodは(p. 2472)、沈 み込み帯についての実験室による実験で、溶融体が急激に上昇する理由を確定した。沈 み込み帯におけるせん断流と複数の上昇ダイアピルの組合せで低密度で低粘度の導路が 作られ、溶融体の急激な上昇が可能となる。(Na,Tk,Og)

栄養分によって刺激される(Turning On to Nutrients)

最近まで、栄養分に乏しい外海は、海の中の砂漠に相当するものだと考えられていた 。Kolberたちは、集光のために微生物葉緑素ではなくカロチノイドを用いる条件性の光 合成細菌の特定の型を、多様な海洋のいくつかの場所から集めてきて、分離・培養し 、その量と分布、さらには生態系へのその寄与について評価した(p. 2492; また 、Fenchelによる展望記事参照のこと)。この型の細菌は、通常、有機物に富んだ環境で 見出される。このたびの培養による研究では、こうした遍在性のErythrobacter(赤い細 菌)は、栄養分の供給が不足したときにだけ光合成に頼る、ということが示されている 。著者たちは、条件によって機能を現す細菌性光合成生物と無条件で機能を現す細菌性 光合成生物は、相互依存的な形で共存しうるということ、また条件によって機能を現す 光合成生物は栄養分のレベルに応じて光合成機能の発現を制御しうるということ、を示 唆している。(KF)

花粉タンパク質のプロファイル(Pollen Protein Profiles)

花粉粒子の表面上のタンパク質は、効率的な受粉と自家不和合性を調節するのに関与し ているらしい。Mayfieldたちはこのたび、シロイヌナズナ花粉粒子の表面上で発見され た大きなタンパク質について調べた(p. 2482)。このタンパク質から得られたカットオ フ・サイズより大きな断片となったペプチドは、対応する遺伝子を同定するのにじゅう ぶんな情報をもたらした。花粉被膜タンパク質の多くは、lipase(脂質切開タンパク質) とoleosin(脂質-結合タンパク質)という2つの型のものであった。そのlipaseと oleosinをコードしている遺伝子はシロイヌナズナ・ゲノム内でクラスタを形成してい る。この2つの遺伝子ファミリにおける対立形質の多様性と遺伝子のクラスタリングが 、生殖における種の特異性の維持を促進しているのかもしれない。(KF)
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