AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 16, 2001, Vol.291


煙とオゾン(Smoke and Ozone)

煙霧質(Smoke aerosol)やオゾンは、バイオマス(熱資源としての植物体および動物廃棄 物)の燃焼に より生じる。上昇した対流圏のオゾンとバイオマス燃焼との強い関連は、特 にアフリカ南部に対しては示されてきたが、他の研究では、対流圏のオゾンは大規模な大 気のダイナミクスと稲妻によって引き起こされることが示されてきた。Thompsonたち (p.2128)は、1996年8月から1998年12月にかけて対流圏におけるエアロゾルとオゾンの人 工衛星による日々の計測値を分析し、エルニーニョが関係するインドネシアの大規模な森 林火災が起こるずっと以前に、対流圏のオゾンがかなり増加したことを示した。1980年代 からの初期の記録とこれらのデータの比較結果は、煙とオゾン測定値との相関は一般には 弱く、バイオマス燃焼は熱帯の対流圏オゾン量を決める要因の1つに過ぎないことを示し ている。 (TO,Nk)

水の働き(Water Workings)

イオンは容易に水に溶けることができ、水そのものもH3O+ や OH- のイオンに自己イオン化する。二つの報告書は、これらの見かけは単純 なプロセスに横たわる複雑さに焦点を当てたものである(Klein の展望記事を参照のこと) 。水は、溶解したイオンのまわりに溶媒和の殻を形成するが、取り囲んだバルク水の特徴 からそれらの特徴を分離することは容易ではないため、その構造の中の詳細な知見やこれ らの殻の特性を得ることは困難である。Kropman と Bakker (p.2118) は、非線型中赤外 分光法を用いてこの問題を克服した。そして、溶媒和の殻水分子の水素結合の運動は、バ ルク液体に比べて緩慢であることを見出した。すなわち、水分子を取り去ることはその殻 を破壊することとなり、大きなエネルギーの代償が伴うこととなる。対照的に、バルクで の水素結合は、他の新しいボンドの形成が同時に進むことにより、容易に補償することが できる。他の水の良く知られた性質である、pH 値を支配する水の自己イオン化について は、分子レベルではよりいっそう扱いづらいものであった。水分子のある割合は、液体の 水の中では解離しているが、個々の事象はまれな現象である。Geissler たち (p.2121) は、高精度な無仮定分子動力学計算と、液体の水のポテンシャルエネルギー面の効率的な サンプリング方法とを結合して、長距離に及ぶ静電的相互作用と水素結合のダイナミクス とを結合する自己イオン化のメカニズムを解明した。このようにして生成されたイオンは 、通常はただちに再結合するのであるが、溶解エネルギーの揺らぎが水素結合のつながり の破断と同時に起こると、そのシステムは遷移状態を越えて分離状態へ移るので、迅速な 再結合が阻止される。(Wt,Nk)

コバルトのナノ粒子を制御する(Controlling Cobalt Nanoparticles)

最近、高均一ナノ粒子を得るための戦略が述べられている。それは、サイズ分布の均一 化(size-distribution focusing)と呼ばれ、その核形成と成長過程は、合成期間中に は分離されている。優先的に特定の異なった成長面へ結合する界面活性剤の使用と結合 して、CdSe粒子のサイズと形状を制御することができた。現在、Puntesたち(p. 2115)は、このアプローチが単結晶性のコバルトナノ粒子とナノロッドの合成に適用さ れることを報告している。それらは、サイズと形状依存的磁性特性にとって特に興味深 い。これらの磁気的粒子は二次元と三次元の超格子構造になっている。(hk)

シャトルのスナップ撮影(Shuttle Snapshot)

線状分子の糸を通して環状分子が異なる位置の間を前後に移動するという分子「シャト ル」の例がいくつか報告されている。Brouwerたち(P.2124;Sauvageによる展望記事参 照)は、二つの異なる水素結合の「位置」をパルスレーザー励起により引き起こされる ロタキサン分子の往復運動の挙動について研究した。アセトニトリル溶媒中で、フォト ンー誘導による移動がほぼ1μsで生じていることが光吸収スペクトルの過渡変化により 示された。電荷再結合によりロタキサンは元の位置に戻り、そのプロセスは約100μs要 する。(KU)

双方向貿易(Two-Way Trade)

細胞の発電所とも言えるミトコンドリアは、独自のゲノムを保持している準自律性細胞 小器官である。サイトゾルで産生されたタンパク質をこの細胞小器官に移入するメカニ ズムについてはよく知られている。Youngたち(p. 2135)は、酵母(S.cerevisiae)由来の ミトコンドリアがペプチドを膜ペプチド輸送体によって外に運び出しているという予想 外の観察をしたことを報告している。ペプチドを輸送するという役目については未だに よく分かってないが、ミトコンドリアとその他の部分との通信に寄与している可能性が ある。(Ej,hE)

真昼の太陽を避けて(Avoiding the Noon Day Sun)

シロイヌナズナの葉緑体は、ある強度までは、光を代謝エネルギーに変換する。入射光 が強すぎるとこの葉緑体は細胞側方に移動して隣接する細胞壁の陰の部分に入ろうとす る。中程度の光であれば、葉緑体は細胞表面全体に広がり精一杯光子を捕まえようとす る。Kagawaたち(p. 2138、および表紙)は、このプロセス制御を助けるタンパク質であ るNPL1を同定した。これは既知の青色光光受容体と似ている。このように、この植物は 、光受容体を利用して細胞レベル以下の区分けをすることによって光エネルギーの収集 能力を精密に調節し、保護しているように見える。(Ej,hE)

自分の味方を呼び込む(Calling in Your Allies)

葉食動物に攻撃されたときに、植物のなかにはその葉食動物を捕食する動物を呼び込む ような揮発性の化合物を放つことが知られている。しかしながら、このような間接的な 防御は人為的な実験室と農業用地においてのみ実証されていた。Kesslerと Baldwin(P.2141;Sabelisたちによる展望記事参照)は、自然条件のもとでもこのような システムが作用していることを示している。ユタ州のThe Great Basin砂漠にはえてい るタバコ(Nicotiana Attenuata)を用いて、彼らはガの幼虫の毛虫(Manduca caterpillars)による葉食攻撃の後に遊離される一連の揮発性化合物の個々の成分を直 接操作して調べた。彼らは毛虫を食べる捕食動物の攻撃を飛躍的に増強したり、ガ (Manduca Moth)の産卵の割合をも減少させる化合物を同定した。このようにして、植物 は敵に対して「ボトムアップ」と「トップダウン」の二つの制御を働かすことが出来る 。(KU)

移動することだけじゃない(Doing More Than Locomotion)

主要な精子の細胞骨格タンパク質(MSP)は、移動という重要な役割において機能を果 たしている。Millerたち(p. 2144;VilleneuveによるPerspectiveを参照)は、線虫の C. elegansにおいて、MSPが生殖における重要な別の機能も果たし、メスの卵母細胞を 誘導して静止状態から解放しそして成熟させることを見いだした。これらの結果から 、植物、真菌そしてその他の動物において見いだされたMSP様ドメインを有するその他 のタンパク質もまた、シグナル伝達における役割を有しているだろうということが示唆 される。(NF)

脳に形状を(Brains Take Shape)

いったい何によって、組織または器官の、その決まりきったサイズ、形状そして定位を 決めているのだろうか?ここで、Agarwalaたち(p. 2147)による実験は、様々な脳組 織の形成を引き起こす分子機構を解明する手助けとなる。彼らは、発生途中のニワトリ 脳においてシグナル伝達分子であるSonic Hedgehogモルフォゲンのサイズ、形状そして 定位を変更し、そしてこのシグナル伝達分子が特徴的な脳構造のサイズ、形状そして定 位を調節することができることを示す。(NF)

編集が必須(Editing Is Essential)

RNA編集という過程において、いくつかのメッセンジャRNAは、合成された後であって 、かつタンパク質に翻訳される前に、化学的に修飾される。編集が最初に発見されたの は、トリパノソーマ類のミトコンドリア内RNAであり、その場合には、大きなタンパク 質複合体は、小さなRNA分子によって特定されるウリジン残基の挿入と除去を触媒する 。Schnauferたち(p 2159)は、この複合体の成分のひとつは、寄生虫の生活環の血流相 の間に機能するRNAリガーゼであり、このリガーゼの抑制が寄生虫を死亡させることを 示した。この結果は、複合体の阻害薬は、化学療法剤として有用になるかもしれないこ とを示唆している。(An)

混合の信号(Mixed Signals)

複数の情報伝達経路は、NFκという転写制御因子に集中し、それによって様々な遺伝子 が発現される。NFκBを活性化できる上流キナーゼのひとつは、NFκを誘発するキナ ーゼ(NIK)であるが、この酵素は、細胞表面で受け取る別個の信号に応答する選択的遺 伝子発現に関与することが指摘された。Yinたち(p 2162)は、NIK座位を標的破損したマ ウスにおけるNFκのサイトカイン誘発転写活性を研究し、リンホトキシンαβ受容体 (LTαβ-R)で受け取った信号に応答した選択的な転写損失を観察したが、NFκDNA結合 の損失を観察しなかった。関連のサイトカイン、つまり腫瘍壊死因子とインターロイキ ン1、の応答として起こらなかったこの効果は、既に報告されたLTαβ-R欠失マウスに おけるリンパ組織発生の破損と直接的に相関した。(An)

読書に与える文化的な影響(Cultural Influences on Reading)

失読症は、様々な程度の読書障害を引起す複雑な障害であり、異なる文化で異なる罹患 率を示す。Paulesuたちは(p. 2165、Helmuthのニュース解説も参照)、イタリア、フラ ンス、英国の失読症を持つ患者の行動テストと脳のイメージスキャンによる比較研究を 行った。彼らは、イタリア語のように、浅い綴りを持つ言語(文字が音と1対1で関連つ けられる)の場合には機能障害がそれ程ひどくならない、という従来の研究結果を確認 した。しかしながら、根底にある神経活性化パターンは3カ国の患者すべてにおいて一 環していた。すなわち、左側の側頭皮質の活性が減退していることから、正常な人に比 べ、読書中に、脳の部位間の類型化した接続がより少ないらしいことを示唆している 。(Na)

今や渾然一体となって?(All Together Now?)

気候が突然変遷する期間の局地的変化は、すべてが同時に起きているわけではない。例 えば、南極の亜間氷期や退氷期の温暖化は、北極に先だって、2000から3000年前に始ま る。しかし、局地的な気候の変化が、どのようにしてその他全世界に波及するかについ ては未だによく分かっていない。その中でも中心的な疑問は、熱帯地方の温暖化は高緯 度地方の温暖化に先立つのか、それとも同時であるのか、ということだが、これは気候 の記録が異なれば答も異なっている。Kienastたち(p. 2132)は熱帯南シナ海のデータか ら、14,600年前のBolling遷移期においては、海表温度の温暖化と、グリーンランドの 大気温度の上昇は同期していることを示した。これらの結果から、大気と海洋の両者は 一体となって複雑な"気候変化"のプロセスに重要な役割を演じているという、現在有力 に成りつつある説を支持しているように見える。(Ej,hE)

テンプレートに従う(Follow the Template)

サイトカインはgp130受容体に結合して種々の細胞内応答を活性化する。Chowたち(p. 2150)は、カポジ肉腫付随ヘルペスウイルスインターロイキン-6 (IL-6)に結合する gp130のリガンド結合と活性化領域の構造を2.4Åの解像度で決定した。四量体情報伝達 複合体はウイルス性IL-6とヒトgp130の活性化領域との相互作用によって形成される 。この構造から、反応性を有する情報伝達複合体を形成するために、なぜ活性化領域が 必要であるかが明らかになった。ヒトのIL-6(多くの親水性塩基が使われている)と異 なり、ウイルス性サイトカインは疎水性アミノ酸によってgp130に結合されており、そ れによってウイルス性IL-6-gp130結合界面の相補性を補強している。gp130の交差反応 性が存在することは、明らかに両親媒性gp130のサイトカイン結合部位における化学的 可塑性の証拠となっている。(Ej,hE)

2つの機能をもつ酵素(Dual Function Enzyme)

DNAポリメラーゼι (pol iota)は、真核生物ポリメラーゼという増えつづけているス ーパーファミリに属している。このスーパーファミリのメンバーの多くは、低いフィデ リティを示しているが、その正確な細胞の機能はまだ明確になっていない。精製したタ ンパク質を使った実験で、Bebenekたちは、ヒトのpol ιが、ポリメラーゼ活性をもつ だけでなく、通常は塩基除去修復(BER)に関係する機能的特徴である5'デオキシリボ ースリン酸脱離酵素活性を有していることを示している(p. 2156)。実際、他のBER酵素 との再構成反応において、pol ιは、G-UおよびA-U塩基対の修復に関与していた。こう したデータは、pol ιが生体内でのBERの特別な形態で役割を果たしている可能性を提 起している。(KF)

結びつきを作る(Making Connections)

シミュレートした火星の条件下で行なった実験結果の報告で、Yenたちは、スーパーオ キシド・ラジカルの形成が、火星の土壌の異常な反応性について、また火星表面上には 明らかに有機分子が存在していないことについての「もっとも単刀直入な説明」である 、と論じた(Reports, 2000年9月15日号の報告; p. 1909)。Levinは、Vikingによる標識 付けられた遊離(RL)による生命検出実験で得られたコントロール・データの方は、火星 の試料を熱すると温度に依存した不活性を示す点で、彼らの結果とは「はっきり異なっ ている」、またYenたちの言及していない別のLRデータは、火星の土壌においてスーパ ーオキシドが反応性エージェントを構成しているという考えに対立するものである、と コメントし、「生きている微小生命体がLR実験で検出された」可能性は少しも損なわれ ない。Yenたちは、Viking実験における加熱された土壌からは、「重さで0.2%の水分(活 性酸素を除去するのにはじゅうぶんなほどである)が放出された」と応じ、Levinによっ て引用されたもう一つのデータに対して別の説明を提案している。これらコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/291/5511/2041a で読むことができる。(KF,Nk)
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